第 5 章 標本調査 29
5.2 RDD 方式による標本抽出
5.2 RDD 方式による標本抽出
世論調査の方法は従来は主に「個別訪問面接聴取法」であった.これは,調査員が調 査対象者の自宅を直接訪問し面接での聴取を行うか.または事前に回答調査書を配布し て調査対象者に記入してもらい,後日調査書を回収する方式である.
しかし近年は電話による RDD方式(乱数番号法,Random Digit Dialing)が多く採 用されている.これは,コンピュータで乱数計算を基に電話番号を発生させて電話をか け,応答した相手に質問を行う方式で,従来の固定電話を対象として行なわれる.NTT などの電話帳に掲載されていない電話番号も抽出対象となりえる.
以下では,「朝日新聞社の RDD 方式」1 と「日本経済新聞社のRDD 方式」2 におい て,標本を無作為抽出をするため用いられている様々な工夫について紹介する.
5.2.1 朝日新聞社の RDD 方式
「RDD」とは「ランダム・デジット・ダイヤリング」の略で,コンピューターで無作 為に数字を組み合わせて番号を作り,電話をかけて調査する方法です.この方式だと,
電話帳に番号を掲載していない人にも調査をお願いすることができるため,電話帳から 番号を調べる方式より偏りなく調査の対象となる人を選ぶことができます.朝日新聞社 では,選挙情勢を探る調査で,1999 年 11 月の奈良県知事選挙から調査方法を「朝日 RDD」方式に切り替え,選挙結果の予測などが正確にできることを確認しました.その うえで,2001年4月から内閣支持率などを調べる全国世論調査についても「朝日RDD」
方式に切り替えました.
電話番号の作り方
電話番号は[市外局番]-[市内局番]-[家庭用番号]の計 10 桁の数字でできています.
朝日新聞社では,全国の電話帳に記載されている番号を参考にして,実際に使われてい る上8 桁の番号をリストにして保存しています.このリストはあらかじめ,それぞれの 上 8 桁番号がどの地域で多く使われ,電話帳にはどのぐらいの件数が掲載されている か,などの情報をもとに分類してあります.
そして,調査に使う電話番号を実際に作る際,このリストの中から,調査対象地域や 電話帳への掲載度合いなどに偏りが出ないよう工夫したうえで,上8桁の番号を無作為 に選びます.
次に,残りの下2桁を 00∼99の範囲で乱数を発生させて計10桁の番号を作ります.
このようにして作った電話番号の中には,使われていない番号も多く含まれるため,
これを自動判別するコールシステムによってふるいにかけ,残った番号を調査に使いま
1http://www.asahi.com/special/08003/rdd.html
2http://www.nikkei-r.co.jp/service/phone/method.html
34 第5章 標本調査
す.
調査の進め方
調査当日は,これらの番号にオペレーターが次々と電話をかけます.朝日新聞では,
機械による自動音声を使っての調査は実施していません.
世論調査の対象となるのは,一般世帯に居住する有権者です.もし,電話が法人など 一般世帯以外につながった場合は対象外として処理します.
世帯に電話がつながったら,調査の趣旨を説明した後,その世帯に住んでいる有権者 の人数を聞きます.コンピューターでサイコロを振る形で,その中から1人を選んで調 査の対象者になってもらいます.電話に最初に出た人を対象にすると,在宅率の高い主 婦や高齢者の回答が多くなってしまい正確な調査になりません.
選ばれた人が不在でも,一度決めた対象者は変えず,時間を変えて最大6回まで電話 をかけます.また,すぐには応じていただけない場合でも,重ねて協力をお願いしてい ます.これも,回答者の構成を「有権者の縮図」に近づけるためです.
また,調査は原則午後 10時まで(予約ができれば午後 11 時まで)行い,仕事など で帰宅が遅い人からも回答してもらえるようにしています.
集計方法にも工夫
世論調査の対象となる人は,偏りなく等しい確率で選ぶ必要があります.そのため,
集計の際に世帯内に一緒に住んでいる有権者の人数や固定電話の本数に応じて,統計的 に等確率で選ばれた結果になるように以下のような調整をしています.
• 【固定電話の本数に応じた調整】 自宅に2本の固定電話を持っている世帯があり ます.この場合,1本しかない世帯に比べて電話がかかってくる確率は2倍にな るため,得られた回答結果に対して数値を2分の1にする調整をします.
• 【有権者の人数に応じた調整】 電話がつながって調査対象者を選ぶ際,ひとり暮 らしの世帯ではその人が対象者に選ばれるのに対し,同居する有権者が多い世帯 ではそのうちの1人だけが選ばれるため,ひとり暮らしの人は調査に当たる確率 が高いといえます.そのため,世帯内に一緒に住んでいる有権者の人数に応じて 調整をします.
• 【年代など】 上のような調整をしたうえで,さらに,全体として地域別,性別,
年代別の構成比のゆがみをなくす補正をします.回答者の構成比が総務省発表の 実態構成比と同じになるようにします.
5.2.2 日本経済新聞社の RDD 方式
標本抽出法
5.2. RDD 方式による標本抽出 35 調査の母集団は「全国の有権者」,標本の抽出枠は「全国の固定電話加入世帯」,標 本の大きさは約1600 である.詳しくは,
1. 全国で稼動中の固定電話の局番(市外局番+市内局番)に,加入者番号(0000∼ 9999)を付加した番号集合を抽出枠とします.
2. 電話番号局番を小さい順に配列した上で,系統抽出法(等間隔抽出法)で 1万件 の電話番号の属する局番を無作為抽出します.
3. 抽出された局番からそれぞれ 1 個の加入番号を単純無作為抽出します(0000 ∼ 9999 の一様乱数を発生させて、その乱数を4桁の加入番号とします).
4. こうして抽出した電話番号標本のうち,現在使われていない番号を自動判定シス テムで除去します.この結果,平均的に 4 千数百件の稼動番号が得られ,この電 話番号に日経リサーチのオペレーターが電話をします。
5. すべての電話をかけた結果,約 1600 件が世帯であることが経験的に期待できま す. この世帯のうち有権者のいることが確認された世帯が調査対象となります。
6. 調査対象となった世帯のうち,約 900 件以上の協力を得ることを目標とします.
調査実施法
1. 約 4千件に対して電話をかけさせていただきます.
2. 世帯電話でない場合は,調査協力を依頼しません.
3. 世帯電話の場合はオペレーターが調査の趣旨説明をして協力をお願いします.
4. ご協力いただける場合には,世帯内の有権者の人数を確認させていただきます.
5. 有権者の人数以下の整数乱数を発生させ,「年齢が上から○(乱数)番目の人」と いうように,回答していただく方を決めさせていただきます.
6. 回答者が電話に出た方である場合は,そのままアンケートを始めさせていただき ます.
7. 回答者が別の家族である場合は,電話口に交代してもらって質問を始めます.回 答者が不在の場合には帰宅時間を確認した上で,時間をおいて再びお電話させて いただきます.いったん決まった回答者を変更することはできませんのでご了承 ください.
8. 調査期間は通常,週末の3日間です.実施時間帯は原則として 9 : 00∼21 : 30 と します.
36 第5章 標本調査 集計方法
• 「有権者のいる世帯」と確認できた集合を抽出標本とします.そのうち「回答を 得られた有権者」の集合を回収標本とします.
• 回答率は「回収標本÷抽出標本」で定義します.
• 内閣支持率などの比率の算出は,回答を得られた件数(回収標本)を分母とします.
例えば,抽出標本=3000,回収標本=2000で,内閣を「支持する」と回答した人数
=1000の場合は,回答率 = 2000÷3000 = 67%,内閣支持率= 1000÷2000 = 50%
です.
• 集計の際には「世帯内有権者数」n と「世帯の有する電話番号数」t で n/tの重み 調整をします.例えば,世帯内有権者数 n = 1 で電話番号数t = 1の場合の回答 者に与える重みは n/t= 1 です.世帯内有権者数 n = 3 で電話番号数 t= 2 の場 合の重みは n/t= 3/2 = 1.5 となります.
5.2.3 ギャラップ調査
ギャラップ調査は,商業的世論調査機関であるギャラップ社が行う世論調査の総称で,
特に大統領選挙の予想で有名である.3
1936年,大統領選挙において,民主党のフランクリン・ルーズベルトと,共和党のア ルフレッド・ランドンという2人の候補がいた.大手雑誌である『リテラリー・ダイジェ スト』誌は,230万人もの世論調査の末,ルーズベルトの落選を予想した.対して,は るかに少ない調査を行ったギャラップ社は再選を予想した.ルーズベルトは再選し,そ の予想の的中により,ギャラップ社は一躍脚光を浴びた.
『リテラリー・ダイジェスト』誌の予想が外れたのは,当時としては珍しい電話を使っ た世論調査の特性を見落としていたからといわれている.当時は電話の普及率40% で,
早くから電話が普及していた富裕層と,それ以外の層で,普及率に差があった.共和党 支持者は富裕層に多いため,ランドン候補に有利なデータが出てしまったとの分析であ る.それに対し Graham Walden はリ社の調査結果の偏向は調査方法(普及率が 40%
の電話)によるよりも,1,000 万の聞き取りに対し230 万の有効回答しか得られなかっ たこと,またリ社の読者層は保守派である事による回答者層の偏りによるものであると 指摘している.
問 「朝日新聞社のRDD方式」および「日本経済新聞社の RDD方式」において,「標 本を無作為抽出する」目標が達成できていない箇所があるとしたら,それはどの箇所で あるか可能性をできるだけ多くを挙げて論ぜよ.
3ギャラップ(George Horace Gallup)(1901年〜1984年)はアメリカの心理学者,統計学者である.
世論の統計的調査法を創始し,1935年に米国世論調査所を設立した.