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第 4 章 SiO 2 薄膜・ SiO 2 /Si 界面系の局所誘電率 分布分布

4.4 Quartz 薄膜

α-、(β-)Quartz(0001)薄膜は膜厚方向が六方晶のc軸と平行になっている。薄膜表面の原子はSi原子と して、表面Si原子に現れるダングリングボンドはH原子で終端した。膜厚は2分子層厚(ML)から7分子 層厚(ML)の薄膜について評価を行った。

β-quartz構造については常温では安定でなく、この結晶相の存在についても共通の見解が得られていな い。しかし、本研究で得られたα相とのエネルギー差は8meVであり、構造も非常によく似ているため、薄 膜化による表面効果によって安定化されるのではないかと考え、β相についてもα相と同様の薄膜モデル を構築した。

2ML α-quartz薄膜

quartz(0001)薄膜のモデルの中で最も薄いモデルは2分子層厚(ML)となる。膜厚が2ML(3.65˚A)の時 のα-quartz(0001)薄膜の構造を図4.17に示した。表面緩和によって、Si-Si層間の距離がどのくらい変化 したかを調べると、Si層間距離dSiSiは1.83˚Aでバルク結晶の[0001]方向の層間距離c/3 = 1.83˚Aと全く 変わらなかった。Si-O結合距離は1.63˚A, 1.64˚Aとなっており、バルクの1.62˚A, 1.63˚Aと比較してもほと んど変化していなかった。Si-O-Si結合角も比較してみると、144, 145.1となっており、結合角はバルク

の146.4から僅かにずれていた。よって、結晶構造はわずか2MLの薄膜でもほとんど歪まないことが分

かった。

図 4.17: 2ML α-quartz (0001)薄膜の結晶構造とスーパーセル.青、赤、黒の球はそれぞれSi, O, H原子 を示している.

次に、エネルギーバンド構造(図4.18)をバルクと比較した。バンドギャップは、直接ギャップで6.07eV(Γ) となっており、バルクの5.72(K-Γ)よりも0.35eVほど大きくなっている。これは、薄膜化による膜厚方向 の量子閉じ込め効果によるものだと考えられる。

この薄膜に外部電界(0.1V/aB)を印加し、本研究で開発した局所誘電率評価手法を用いて得られた2ML 薄膜の局所誘電率分布を図4.19に示した。印加電界の強さは、分極が電界に対して線形性を保っている事 を確認してから決定した(電界強度の決定に関する記述は付録を参照)。膜中心部での誘電率は$= 2.54、

ε0= 4.47となっており、バルクの実験値、ε= 2.383 [12]、ε0= 4.6 [5]に比べわずかに大きくなっている。

光学的誘電率εがバルクの実験値よりも大きくなっているのは、電子の交換相関エネルギーにGGAの表 式を用いた事によるバンドギャップの過小評価に起因していると考えられる。格子分極の寄与(ε0−ε)は 1.9となっており実験値の2.2に比べるとわずかに小さい。

格子分極は有効電荷と原子変位の積で決まるので、分極の大きさを調べるためBorn有効電荷と電界誘起 の原子変位を図4.4に示した。薄膜中心のSi原子は3.49とSiO2中の形式電荷+4に近いのに対し、表面の Si原子は+2.3程度と小さくなっている。これは表面終端の水素が-0.3程度と酸素原子に比べ有効電荷が小 さいためである。よって、α-quartz(0001)薄膜は、2ML(3.65˚A)まで薄くしても中心部はバルクの誘電率を 再現することが分かった。

-10 -8 -6 -4 -2 0 2 4 6 8

Γ M K Γ

E ne rgy [e V ]

図4.18: 2MLα-quartz (0001)薄膜のバンド構造.価電子帯は赤い実線、伝導帯は黒い破線で示した.

1 2 3 4 5 6

-6 -4 -2 0 2 4 6

D ie le ct ri c c ons ta nt

z [Å]

Si Si Si

H O O H

ε

0

ε

図 4.19: 2ML α-quartz (0001)薄膜の局所誘電率分布.黒実線、赤実線、黒破線はそれぞれSi, O, H原子 層を示した.平均操作に使うガウス分布のσは1.32˚Aとした。

図4.20に確率密度を示した。価電子帯端、伝導帯端のどちらの状態も薄膜全体に確率密度をもっている ことが分かる。

2MLα-quartz(0001)薄膜においては、結晶構造とBorn有効電荷はバルクの性質をよく再現していたが、

バンドギャップや確率密度は表面や量子閉じ込め効果の影響を受けている事が分かった。

2ML β-quartz薄膜

α-quartz(0001)薄膜同様にβ-quartz薄膜モデルの中で最も薄いモデルは2分子層厚(ML)となる。

膜厚が2ML(3.75˚A)の時の構造を図4.21に示した。Si-O結合長は1.62˚A、1.63˚A、Si-O-Si結合角は153.1 となっていた。α-quartz薄膜同様、膜厚が2MLの時においても表面の影響による構造の歪みはほとんどな いことが分かった。

表 4.4: 2MLα-quartz (0001)薄膜における各原子のBorn有効電荷、電界による原子変位を示した。

Born Charge Displacement (103˚A/Eext) H -0.29, -0.28 21, -38

Si 2.27 53

O -1.69, -1.80 -21, -34

Si 3.49 40

O -1.79, -1.67 -16, -32

Si 2.29 53

H -0.30, -0.29 -7, -21

図 4.20: 2MLα-quartz (0001)薄膜の価電子帯端(左)、伝導帯端(右)の確率密度.黒実線、赤実線、黒破 線はそれぞれSi, O, H原子層を示した.

図4.22に2MLβ-quartz (0001)薄膜のバンド構造を示した。バンドギャップは5.88eVとなっており、バ

ルクの5.72eVに比べ大きくなっているが、α-quartz薄膜の場合に比べて差は小さくなっている。

図 4.21: 2ML β-quartz (0001)薄膜の結晶構造とスーパーセル.青、赤、黒の球はそれぞれSi, O, H原子 を示している.

-10 -8 -6 -4 -2 0 2 4 6 8

Γ M K Γ

E ne rgy [e V ]

図4.22: 2MLβ-quartz (0001)薄膜のバンド構造.価電子帯は赤い実線、伝導帯は黒い破線で示した.

図4.23に 2ML β-quartz (0001)薄膜の局所誘電率分布を示した。薄膜中心部の誘電率は ε0 = 4.51、

1 2 3 4 5 6

-6 -4 -2 0 2 4 6

D ie le ct ri c c ons ta nt

z [Å]

Si Si Si

H O O H

ε0

ε

図 4.23: 2ML β-quartz (0001)薄膜の局所誘電率分布.黒実線、赤実線、黒破線はそれぞれSi, O, H原子 層を示した.平均操作に使うガウス分布のσは1.32˚Aとした。

ε= 2.45となっており、バルクの誘電率と良く一致している事が分かった[5, 12]。

表4.4に2MLβ-quartz (0001)薄膜のBorn有効電荷と電界誘起の原子変位を示した。α-quartz薄膜同様 表 4.5: 2MLβ-quartz (0001)薄膜における各原子のBorn有効電荷、電界による原子変位を示した。

Born Charge Displacement (103˚A/Eext)

H -0.28 -7

Si 2.29 55

O -1.79 -31

Si 3.57 44

O -1.77 -32

Si 2.31 56

H -0.29 -7

に2MLの薄膜においても中心でバルク的な振る舞いをしている事が分かった。

7ML α-quartz(0001)薄膜

表面緩和効果や量子閉じ込め効果により、2ML程度の極薄の薄膜では電子状態は中心部でもバルクの物 性を再現しない。そこで、薄膜中心部はバルクと見なせる厚い7ML(12.9˚A)の薄膜(図4.24)についても評 価を行った。

最表面のSi-O結合距離は1.64˚Aで、他のSi-O結合距離は全て1.62˚Aから1.63˚Aの範囲に収まっていた。

Si-O-Si結合角も最表面で145.7、他の結合角が146.4から146.9となっていた。このことから、SiO2薄 膜の表面緩和効果はほとんど最表面の1層分しか影響しないことが分かった。

図 4.24: 7ML α-quartz (0001)薄膜の結晶構造とスーパーセル.青、赤、黒の球はそれぞれSi, O, H原子 を示している.

図4.25に7ML薄膜のエネルギーバンド構造を示した。バンドギャップは5.67eV(Γ点)となっており、バ

ルクの5.72eVとほぼ一致する。

図4.27に7MLα-quartz (0001)薄膜の局所誘電率分布を示した。薄膜中心部では、光学的誘電率εが 2.44、静的誘電率ε0が4.98となっていた。光学的誘電率はバルクの実験値、ε = 2.383 [12]に近づいて おり、表面効果や量子閉じ込め効果の影響を受けていないと考えられる。また、DFPTを用いて得られた

値2.57(LDA)よりもバンドギャップの過小評価による影響が少ない事が分かった。

格子分極は有効電荷と原子変位の積で決まるので、分極の大きさを調べるためBorn有効電荷と電界誘起 の原子変位を図4.4に示した。薄膜中心のSi原子は+3.47、表面のSi原子は+2.3となっており、2MLの薄 膜の有効電荷と全く同じであった。また、薄膜中心部は表面の影響を受けていないための有効電荷はバルク の値を持っていると考えられる。

-10 -8 -6 -4 -2 0 2 4 6 8

Γ M K Γ

E ne rgy [e V ]

図 4.25: 7MLα-quartz (0001)薄膜のエネルギーバンド構造.価電子帯は赤い実線、伝導帯は黒い破線で示

した.

図 4.26: 7MLα-quartz (0001)薄膜の価電子帯端(左)、伝導帯端(右)の確率密度.黒実線、赤実線、黒破 線はそれぞれSi, O, H原子層を示した.

7ML SiO2薄膜

表面効果の影響を無視できる程度の膜厚をもった7MLのβ-quartz(0001)薄膜についても評価を行った。

膜厚が7ML(13.06˚A)の時の構造を図4.28に示した。

図4.29に7MLβ-quartz(0001)薄膜の局所誘電率分布を示した。

膜厚依存性

2分子層厚の薄膜では薄膜中心部においても量子閉じ込め効果、表面緩和効果の影響を受けていたが、こ れらの効果がどの程度の膜厚まで影響するのかを調べた。まず、α相、β相のquartz薄膜のバンドギャップ

1 2 3 4 5 6

-10 -5 0 5 10

D ie le ct ri c c ons ta nt

z [Å]

ε0

ε

HSiO Si O Si O Si O Si O Si O Si O Si H

図 4.27: 7MLα-quartz (0001)薄膜の局所誘電率(ε0)分布.黒実線、赤実線、黒破線はそれぞれSi, O, H原子層を示した.

表 4.6: 7MLα-quartz (0001)薄膜における各原子のBorn有効電荷、電界による原子変位を示した。

Born Charge Displacement (10−3˚A/Eext) H -0.28, -0.29 -32, -14

Si 2.29 40

O -1.68, -1.78 0, -75

Si 3.49 42

O -1.75, -1.76 -7, -30

Si 3.48 54

O -1.73, -1.72 -6, -17

Si 3.47 61

O -1.73, -1.73 -12, -7

Si 3.47 61

O -1.72, -1.74 -13, -9

Si 3.48 56

O -1.76, -1.75 -30, -4

Si 3.49 42

O -1.78, -1.68 -81, 1

Si 2.29 36

H -0.29, -0.28 -26, -30

の膜厚依存性を、それぞれ図4.30、図4.31に示した。

α相、β相どちらの場合も3ML以上ではバルクのバンドギャップに近づいているが、2ML薄膜では量子 閉じ込め効果の影響を受けていることが分かる。しかし、α相のほうがギャップの増加が大きい事がわかる。

2MLの薄膜はバルクのバンドギャップから大きくずれている事がわかる。3ML以上の膜厚ではほぼバル クのギャップに等しかった。よって、α-quartz(0001)薄膜においては3ML以上の薄膜で量子閉じ込め効果 がほとんど効かなくなるといえる。

図 4.28: 7ML β-quartz (0001)薄膜の結晶構造とスーパーセル.青、赤、黒の球はそれぞれSi, O, H原子 を示している.

1 2 3 4 5 6

-10 -5 0 5 10

D ie le ct ri c c ons ta nt

z [Å]

ε0

ε

Si Si Si Si Si Si Si Si

図 4.29: 7ML β-quartz (0001)薄膜の局所誘電率分布.黒実線、赤実線、黒破線はそれぞれSi, O, H原子 層を示した.平均操作に使うガウス分布のσは1.32˚Aとした。

5 5.2 5.4 5.6 5.8 6 6.2 6.4

2 3 4 5 6 7

Eg,bulk

Energy gap (eV)

Thickness (ML)

図4.30: α-quartz (0001)薄膜のバンドギャップの膜厚依存性.

次に全エネルギーの比較(図4.32)から、表面緩和による影響を調べてみる。全エネルギーは膜厚に比例 しており、1分子層厚増えるごとにバルクの1分子あたりのエネルギーだけ増加した。これは、3MLの薄 膜における中心の1分子層がバルク領域と見なせることを意味している。

局所誘電率の空間分布についても膜厚によってどのように変化するのかを調べ、図4.34に示した。2ML の薄膜で光学的誘電率がわずかに大きくなっているのは、表面効果の影響が大きいと考えられる。一方、静

5 5.2 5.4 5.6 5.8 6 6.2 6.4

2 3 4 5 6 7

Bulk Eg

E ne rgy ga p(e V )

Thickness

図4.31: β-quartz (0001)薄膜のバンドギャップの膜厚依存性.

-260 -240 -220 -200 -180 -160 -140 -120 -100 -80 -60

2 3 4 5 6 7

Thickness (ML)

Total Energy (Ha)

図 4.32: α-quartz (0001)薄膜の全エネルギーの膜厚依存性.

-260 -240 -220 -200 -180 -160 -140 -120 -100 -80 -60

2 3 4 5 6 7

Thickness

Total Energy (Ha)

図4.33: β-quartz (0001)薄膜の全エネルギーの膜厚依存性.

的誘電率をみてみると、膜厚が増えるに従ってわずかに増加している事が分かる。つぎに、β-quartz(0001) 薄膜の膜厚と局所誘電率分布の関係を図4.35に示した。α-quartz(0001)薄膜同様に膜厚に対する依存性は ほとんど見られないが、2MLの薄膜で光学的誘電率がわずかに大きくなっていることがわかる。

1 2 3 4 5 6

-10 -5 0 5 10

D ie le ct ri c c ons ta nt

z(Å)

2ML 7ML

ε

ε

0

図 4.34: α-quartz (0001)薄膜の局所誘電率分布の膜厚依存性.

1 1.5

2 2.5

3 3.5

4 4.5

5

-10 -5 0 5 10

n = 2

n = 4 n = 5

n = 7

D ie le ct ri c Cons ta nt

z [Å]

図4.35: β-quartz (0001)薄膜の局所誘電率分布の膜厚依存.

MOSデバイスのゲート絶縁膜としてみたときに、実際に薄膜の電気容量を決定するのは、薄膜全体の有 効誘電率である。薄膜の局所誘電率分布から、表面Si層間の有効誘電率を、

εeff= 1

1 N

-N i 1

εi

(4.2) と定義して有効誘電率と薄膜中心部の誘電率を表4.7にまとめた。中心部の光学的誘電率εはバルク時と 同様にα相のほうが大きいことが分かった。2分子層厚の薄膜では薄膜中心部の静的誘電率は4.5程度なの に対し、膜全体での有効誘電率は3.9程度まで小さくなっていることが分かった。

2つのquartz構造は大きな違いがなく、薄い2MLの薄膜から厚い7MLの薄膜でα相とβ相を比べて

も、誘電特性や電子状態がほとんど変わらなかったことから、以降の議論ではβ-quartz薄膜についてのみ 調べた。

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