第 4 章 SiO 2 薄膜・ SiO 2 /Si 界面系の局所誘電率 分布分布
4.6 O 欠損薄膜
酸素欠損が局所誘電率にどのような影響を与えるのかを調べるために、理想薄膜から酸素原子を1つ取 り除いた薄膜の誘電率を評価した。図4.42に酸素欠損を5MLβ-quartz (0001)薄膜の中心に導入した薄膜 について、原子位置の構造最適化を行った後の構造を示した。β-quartz(0001)薄膜は面内あたりの原子数 がSi原子層で1、O原子層で2個となっているので、中心O層の酸素が1つ失われた構造となっている。
-15 -10 -5 0 5 10 15
α-quartz β-quartz
D ie le ct ri c Cons ta nt
1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5
図 4.41: 4MLα-,β-quartz (0001)薄膜の局所誘電率分布の比較.
図 4.42: 5ML β-quartz (0001)薄膜の結晶構造とスーパーセル.青、赤、黒の球はそれぞれSi, O, H原子 を示している.
酸素欠損の周りのSi-Si原子層間隔は1.37˚Aとなっており、理想薄膜(1.86˚A)に比べ非常に小さくなってい ることが分かった。酸素欠損を挟んだSi-Si間の距離は2.49˚Aとなっており、Siバルク結晶中のSi間距離
2.37˚Aに近づき、Siのダングリングボンド同士が結合していることが分かった。これにより膜厚は4.4˚Aと
理想薄膜の4.7˚Aよりわずかに薄くなることが分かった。この影響により酸素欠損層にあるもう1つの酸素 原子を挟んだSi-O-Si結合角は162◦に広がり、quartzの結合角から大きく離れている事が分かった。
図4.43は薄膜中心に酸素欠損を導入した5MLβ-quartz(0001)薄膜の局所誘電率分布を示している。酸 素欠損近傍では、光学的・静的誘電率共に理想的な薄膜よりも大きくなっており、膜厚中心部、酸素欠損の 存在する位置での光学的誘電率は2.84、静的誘電率は6.92となっていた。また、誘電率の増加領域は局在 しており、酸素欠損の隣のSi原子層ではバルクに相当する局所誘電率を示している。薄膜全体の有効誘電 率を評価したところ、光学的誘電率が2.56、静的誘電率が5.10となっており、理想薄膜に比べてわずかな 増加にとどまっている。
更に酸素欠損の存在する酸素原子層面内の局所誘電率分布も評価し、図4.44に示した。酸素欠損側より も酸素原子の存在する位置の近傍で光学的誘電率はわずかに大きくなっていることが分かった。一方、静的 誘電率は酸素欠損側で非常に大きくなっている事がわかった。
光学的誘電率の増加の理由を調べるため、図4.45にエネルギーバンド構造を示した。価電子帯端はM点 にあり、伝導帯端はΓ-Kの間にあり、間接ギャップは4.32eV、Γ点での直接ギャップは5.99eVとなってい る。価電子帯端と伝導帯端のバンドは、理想薄膜には存在しないので酸素欠損によるものだと考えること
1 2 3 4 5 6 7
-8 -6 -4 -2 0 2 4 6 8
with O vacancy ideal
D ie le ct ri c Cons ta nt
z [Å]
図 4.43: 5MLβ-quartz (0001)薄膜の中心に酸素欠損を導入した薄膜の局所誘電率分布.破線は理想薄膜の
誘電率分布を示している.
図 4.44: 5MLβ-quartz (0001)薄膜の中心に酸素欠損を導入した薄膜の酸素欠損層面内の光学的(左)・静的 (右)局所誘電率分布.
ができる。そこで、バンド端の確率密度分布を図4.46に示した。バンド端の確率密度は共に酸素欠損近傍 に局在しており、酸素欠損に起因する状態がギャップ中に現れていることが分かった。このバンドによりバ ンドギャップが減少したため、光学的誘電率は酸素欠損近傍で増加したと考えられる。
欠陥近傍での格子分極の増加について調べてみるために、Born有効電荷、電界誘起の原子変位を調べた。
表??に5MLβ-quartz(0001)理想薄膜と酸素欠損を導入した薄膜のBorn有効電荷、電界誘起の変位量を示 した。酸素欠損近傍の有効電荷は、理想薄膜の場合に比べ小さくなっている事が分かる。しかし原子変位は 理想薄膜よりも大きくなっているので、酸素欠損層を挟んだSi層間の双極子モーメントはほとんど変わっ ていない。一方、酸素欠損層を挟んだSi原子層間距離は74%程度にまで縮んでいるので、分極の大きさが 単位体積あたりの双極子モーメントで与えられる事から、酸素欠損近傍での格子分極の寄与が理想薄膜に 比べ大きくなったと考えられる。
-8 -6 -4 -2 0 2 4 6 8
Γ M K Γ
E ne rgy [e V ]
図 4.45: 5MLβ-quartz (0001)薄膜の中心に酸素欠損 を導入した薄膜のエネルギーバンド構造.価電子帯は 赤い実線、伝導帯は黒い破線で示した.
0 2 4 6 8 10 12 14 16
-5 0 5
z[Å]
Probability Density [1/Å] CBM
VBM
図4.46: 5MLβ-quartz (0001)薄膜の中心に酸素欠損 を導入した薄膜の価電子帯端・伝導帯端の確率密度.
垂直な青実線、赤破線、黒破線は、それぞれSi、O、
H原子層を示している.
表4.8: 酸素欠損5ML SiO2(0001)薄膜の有効電荷・原子変位.原子の添字は最表面を1とし、中心に向かっ て番号付けを行った.
Born Charge ∆z/Eext[10−3a2B/V] ideal O vacancy ideal O vacancy
Si1 2.40 2.42 147 161
O1 -1.82 -1.81 -5 -24
Si2 3.57 3.61 132 149
O2 -1,77 -1.94 -13 -21
Si3 3.49 2.78 128 166
O3 -1.73 -1.40 -20 -42
Si3’ 3.48 2.80 119 167
O2’ -1.77 -1.97 -23 -21
Si2’ 3.56 3.62 111 151
O1’ -1.82 -1.82 -41 -74
Si1’ 2.47 2.50 112 157