第 5 章 HfO 2 薄膜の局所誘電率分布
5.1 HfO 2 バルクの結晶構造
HfO2結晶は4価のHf([Xe] 4f14 5d26s2)と6価の酸素([He] 2s2 2p4)からなるイオン結合性の強い絶縁 体である。結晶構造は単斜晶(monoclinic)、正方晶(tetragonal)、立方晶(cubic)構造をとることが知られ ている。これらの構造は温度によって転移し、温度依存性は以下のようになっている [75]。
Monoclinic
1720◦C
! 1700◦C
tetragonal
2600◦C
! 2600◦C
cubic
2800◦C
! 2800◦C
liquid, (5.1)
従って常温ではmonoclinic構造が最安定であるが、表面や界面近傍では、tetragonal構造が安定に存在す ることが報告されている[72, 39]。また、HfO2結晶はZrO2結晶と類似しており、同様の結晶構造をとる。
各結晶構造での格子定数は以下の通りである.
表5.1: HfO2の結晶構造と構造パラメータ.値は本研究での計算条件(平面波のカットオフエネルギー80Ry,
GGA)での結果である.
monoclinic tetragonal cubic Space group P21/c P42/nmc F3m3
Molecules per cell 2 1
Lattice Constant a= 5.12 a= 5.13 a= 5.12
(˚A) b= 5.17 c= 5.25
c= 5.29 dz= 0.268 Angle β= 99.18(deg.)
Eg(eV) 3.79 3.48
A-Γ Γ(direct)
本研究による全エネルギー計算の結果では、monoclinic、tetragonal、cubicの順に安定となっており、今 までの報告[75, 32] と一致している。
5.1.1 cubic 構造
HfO2結晶の中で最も対称性が高い構造で蛍石(fluorite)構造である。常温常圧では、安定に存在すると いう報告は無いが、tetragonal構造のさらに高温での存在が確認されている。
図 5.1: cubic HfO2の結晶構造.クリーム色、赤はそれぞれHf原子、O原子を示している.
fccユニットセル内にHfO2分子が2分子あり、図5.1に結晶構造を示した。
バンド構造を図5.5に示した。
-10 -5 0 5 10
L Γ X W Γ
E ne rgy [e V ]
図5.2: cubic HfO2のエネルギーバンド構造.占有バンドは赤、非占有バンドは黒破線で示した.
バルク結晶の誘電特性を調べるためにフォノン分散関係を計算し、図5.3に示した。酸素原子がtetragonal 構造へ変位するモードがΓ点でソフト化しており、cubic構造は不安定であることが予測される。
5.1.2 tetragonal 構造
tetragonal構造はcubic構造では等価であった2つの酸素原子が[001]方向に非等価になることにより、
ユニットセルがtetragonalになった構造である。実験的には高温で存在することが確認されている。
また、電子状態を調べるため、図5.5にバンド構造を示した。c-HfO2では直接ギャップだったが、A−Γ 間の間接ギャップとなり、その大きさも3.78eVとc-HfO2よりも大きくなっていた。これは過去の理論計算
(LDA)による結果[9]と良く一致した。
t-HfO2構造についてもフォノン分散関係を計算し図5.6に示した。cubic構造と違い、Γ点でのソフト
モードは現れなかった。このことから、c-HfO2とc-HfO2構造の関係もquartz(SiO2)構造のα-β間の振る
Frequency (cm-1)
0 100 200 300 400 500 600 700
Z A M G X R Z G
図5.3: tetragonal HfO2結晶のフォノン分散関係.
図5.4: tetragonalHfO2の結晶構造.クリーム色、赤はそれぞれHf原子、O原子を示している.
-10 -5 0 5 10
Z A M Γ Z R
E ne rgy [e V ]
図 5.5: tetragonal HfO2のエネルギーバンド構造.占有バンドは赤、非占有バンドは黒破線で示した.
舞い同様に、c-HfO2構造はt-HfO2構造の平均として観測されることが考えられる。フォノンモードの計算 から、tetragonal HfO2結晶の誘電率を計算し、表5.2に示した。cubic-HfO2については、Γ点で負の振動 モードが現れたため、静的誘電率については計算していない。計算された誘電率は、同様の計算手法を用い たRignaneseらの結果とよく一致した[56]。
Frequency (cm-1)
0 100 200 300 400 500 600 700
Z A M Γ X R Z Γ
図5.6: tetragonal HfO2結晶のフォノン分散関係.
表 5.2: HfO2結晶の誘電率.
ε∞ ∆ε Effective Charges
⊥ , ⊥ , Hf O
c-HfO2 5.26 5.26 5.35 -2.68
t-HfO2 5.27 5.08 28.72 19.10 5.36(⊥), 5.12(,) -2.37, -2.99(⊥), -2.56(,)
5.1.3 monoclinic 構造
常温常圧ではmonoclinic構造が安定とされている。また、空間群はP21/cとなっており、各原子の位置 はパラメータuを用いて、
(4e) ±(x, y, z),±(x, y+1 2,1
2−z) と指定され、図5.7のような結晶構造をしている。
図 5.7: monoclinic HfO2の結晶構造.クリーム色、赤はそれぞれHf原子、O原子を示している.
SiやGe結晶はダイヤモンド構造を取るために、基板の対称性を考えた場合にmonoclinic構造の薄膜は cubic構造やtetragonal構造へ戻ってしまうので、monoclinic構造の薄膜モデルは構築しなかった。