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PSI 構想への参加決定

ドキュメント内 PSI 参加をめぐる日本の対応 (ページ 93-102)

第 2 章 参加過程: PSI への参加決定

1. PSI 構想への参加決定

外務省から開示された記録には、同構想がブッシュ大統領個人の着想にかかるものであ った旨が記されている。発想段階におけるPSIがある種の属人的性格を帯びていたことは、

日本の参加の経緯を検証する際にひとつの手掛かりとなろう。以下、詳しく検証する。

(1) ブッシュ大統領の構想

2003年5月31日、ブッシュ大統領は訪問中のポーランド・クラコフにおいて、「大量破 壊兵器拡散阻止イニシアティヴ」を突然に発表し、世界を驚かせた。外務省の記録には、

この演説の後、ある米政府某高官が、この構想の背景について記者たちに説明をした内容 が残されている1。それによれば、このイニシアティヴは、過去2~3週間(the last couple of

1 外務省情報公開開示文書(以下、外務省開示文書と略す)、外務省、2003年6月3日、

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weeks)で発案されたという相当に新しい話であるが、この時点ですでに、米国側から、英、

スペイン、ポーランド、オーストラリア及びその他幾つかの国にアプローチがなされてい た。そして、ポーランドでの演説であったため、演説の中ではポーランドの名前だけが挙 げられたが、事前に米国が得ていた英、スペイン、ポーランド等からの反応は、参加を熱 望するという極めて前向きなものであったという。

同高官はまた、構想の実施に際して何をする必要があるかを検討するため、2週間以内に 最初の会合が持たれることもあわせて説明している。ホスト国はスペイン、会合場所はマ ドリードである。同高官は、想定される参加国として「緊密な同盟諸国や、国名に言及し た諸国等」を挙げたが、それらがいずれもイラク戦争での有志連合諸国であることを記者 に指摘されると「イラク問題についての立場を利用するつもりもない2」と断言し、新しい 構想を普遍的な広がりをもった枠組みにする意欲を表した。事実、国名こそ挙げないもの の、いわゆる「有志連合」以外の他の国々とも接触中であることを認めている。

この資料はまた、ブッシュ大統領がこの構想を着想するに至った背景には、北朝鮮及び イランという具体的な「拡散懸念国」の存在があったと伝えている3。同高官はまた、構想 の直接のきっかけになったのは、ソ・サン号事件4であったことを認めた。2002年12月、

北朝鮮のスカッド・ミサイルを運んでいた船舶ソ・サン号をスペイン海軍が停船させたも のの、当時の法的枠組では積み荷を検査、押収する法的権限がないことが判明し、釈放せ ざるを得なかったという事件である。公海上を航行する船舶を、旗国の同意なく臨検、押 収する行為は国際法上禁止されており、あえてそれを行うとすればそれは「武力の行使」

に他ならず、当該国との間の国際紛争を意味する。したがって、米国らは大量破壊兵器及 び関連物資と思われる資材が、「拡散懸念国」である北朝鮮から第3国にわたるのを、手を こまねいて見ているしかできなかったという苦い記憶である。この反省を受けて、ブッシ ュ政権は拡散活動を防止する手段の策定と、これに賛同する諸国のグループ化を考え始め た5。いずれにせよ、ブッシュ大統領が構想した内容が、北朝鮮やイランなど特定の「拡散 懸念国家」を念頭に置いた上で、当時において「武力の行使」にあたる共同オペレーショ ンを含んでいたことは間違いなく、少なくともクラコフでのブッシュ演説直後の時点まで には、日本政府もこうした事情あるいは懸念を認識していたことをこの資料は示している。

いずれにせよ、同資料において同高官がはっきりと「ブッシュ大統領のイニシアティヴ

FAX公信第5670号「拡散防止イニシアティヴ(米政府高官によるバックグラウンド・ブ リーフィング)」。

2 同上

3 同上。なお、「拡散懸念国」あるいは「拡散懸念主体」という用語は、後に本論文第4章 で扱う「行動阻止宣言:SIP」(及び、その外務省仮抄訳)にも明記されており、今日にお いてもPSI活動の対象を示す重要なキーワードになっているといってよい。阻止活動の対 象が「国」であるか「(非国家)主体」であるかは、国際法及び国内法上、大きな違いが生 じるはずであるが、この点についても本論文で検証する。

4 ソ・サン号事件については序章註(45)を参照。

5 前掲注(1)、外務省「ブリーフィング」。

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である。ブッシュ大統領が宣言した。ライス博士やそのスタッフたるNSCが活発に動いて おり、国務省、国防省とともに効果的なトロイカとして作業している」6と述べているよう に、この新しい構想は、あくまでブッシュ大統領自身による呼びかけであり、大統領とそ の側近によってトップダウンで決定がなされ、迅速に準備されたものである。事実、クラ コフ演説からわずか12日後の6月12日にはマドリッド会合が開催され、コア・メンバー 諸国はPSIを創設することで一致。その後、7月のブリスベン会合、9月のパリ会合という 2つの国際会議を経て、政治文書である「SPI : Statement of Interdiction Principles(阻止原則 宣言)」を採択し、PSIが正式に発足している。ブッシュ大統領によるクラコフ宣言からPSI の創設まではわずか 3 か月である。構想を唱えたブッシュ大統領の強い意気込みとリーダ ーシップなくしては、到底、不可能なスケジューリングであったといえよう。

(2) 米国からの要請

ブッシュ大統領がPSIについての着想を得たのは、「テロとの闘い」及び、イラク戦争と その復興支援等をめぐって、日米の協力が推し進められ、ブッシュ=小泉間の強固な絆を 内外にアピールしていた時期である。しかし、ブッシュ・小泉両首脳の間でPSIについての 議論がなされた記録はない。2003(平成15)年5月22~23日、小泉首相がテキサス州クロ フォードにあるブッシュ大統領の私邸を訪問し、日米同盟を真にグローバルな「世界の中 の日米同盟」に進化させることを確認している7。先にみたように、この時点ですでにブッ シュ大統領及びその周囲はPSIに関する構想を具体化する作業を進めていたはずであるが、

両国による発表の中にはPSIについての直接的な言及はない8。もともと、核及び大量破壊 兵器の不拡散について、日米の連携は緊密であったはずである。2000 年以来、局長級の会 合である「日米軍備管理・軍縮・不拡散・検証委員会」を開催し、この分野で幅広い対話 を行ってきたという実績がある9。また、2002年6月のカナナスキス・サミットにおいては、

G8首脳とともに大量破壊兵器等の拡散に対する G8 グローバル・パートナーシップを立ち

6 同上

7外務省、2006年12月、「ブッシュ政権発足後の主要な動き」、

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/kankei_200612.html#01 (2016年1月1日閲覧 )。

8 小泉総理はこの会談の席上、「我々は、テロや大量破壊兵器との闘いを断固たる決意で進 めていく、役割、方法は違うが、テロ根絶のため、断固たる決意で協力を進めていきたい」

と述べた旨が記されているが、拡散阻止について我が国の従来からの立場を繰り返したも のに過ぎず、この時点で新構想について具体的な話があったかどうかは確認できない。

外務省、2003年5月26日、「日米首脳会談の概要」、

http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_koi/us-me_03/us_gh.html(2016年1月1日閲覧)。

9 前掲註(7)外務省、「ブッシュ政権発足後の主要な動き」。

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上げ、日本も当面 2 億ドル余の貢献を発足当初から表明しており、この際もブッシュ=小 泉間の強固な連携があったことが外務省によって強調されている10。しかしながら、これら 一連の核・不拡散構想の話し合いにおいても、PSIの根幹となる「拡散対抗」という新しい 考え方や、イニシアティヴに直接的につながる行動計画などについて日米間で話題にのぼ ったことは公表された文書には記されていない。

公式記録で確認できる限り、米国から日本政府に対し、外交ルートを通じた打診があっ たのは小泉訪米から4日後の5月27日であった。これは、ブッシュ大統領がポーランドで 行った「クラコフ宣言」の 4 日前である。正式な要請をもたらしたのはベーカー大使であ った。本国からの訓令11に基づいて「大量破壊兵器流出阻止のためのイニシアティヴの提案」

の概要が伝えられ、日本側の協力が要請された。応対した外務省田中均審議官は「大量破 壊兵器関連物資不拡散のための取組強化が重要であるとの認識は貴国と基本的に共有して いる」と述べながらも、すでに「関係当局と連携して厳格な輸出管理を実施」し、「できる ことを全てやっている」と主張した。そして、本提案については、「いずれにせよ、今後我 が国としてどのような協力が可能であるか協議を進める」として回答を留保した12

このイニシアティヴの打診は日本政府の各部署にとっては寝耳に水の提案であった模様 である。この日を境に、外務省から在外公館や各省に対して至急電や至急連絡が次々に打 たれている。本省は、ベーカー大使から6 月 6日にスペインで最初の会議が開かれること を聴取した上で、駐米大使館に対し、「大量破壊兵器流出阻止のためのイニシアティヴの提 案」の概要について米国側からより詳細な情報を聴取するよう指示を出している。聴取す べき内容とは、「本イニシアティヴ策定の背景、議論の過程、目標」であり、このうち「目 標」については、「米政府内でどのような議論が如何なるレベルで行われたのか、昨年 12 月11日に発表された『大量破壊兵器と闘う国家戦略』との関連等」について調査するよう 細かく指定してある。また、6月6日のスペイン会合についても、詳細な情報を調査するよ う指示が出され、その回答期限は翌29日午前中とされた13

翌日の駐米大使館からの回答を読むと、ワシントンにおいても本件に関する情報を掌握 していなかった様子が伺える。「(構想の)詳細」、「主催国」、「関係国の反応」、「出席者の レベル」等については全く情報がなく、米国政府に対して内容を照会したものの詳細は不

10 同上

11 米国側の要請内容の詳細については現時点で、非開示となっている。その後の政府資料 には、「米より27日付で要請越した大量破壊兵器関連物資・技術流出阻止のためのイニシ アティヴ」といった表現がしばしば出てくるが(たとえば次章で確認する「対処方針」へ の決裁書など)、参加の要請にともなって、米国側は呼びかけ対象国に「進むべき道筋のル

ール(Rules of the Road)」と題するPSI構想のアウトラインが手交されたことが確認され

る。これについては後に詳しく分析する。

12 外務省、2003年5月28日、電信第2318号、(外務省開示文書)。同、2003年5月28 日、FAX公信第1318号、(外務省開示文書)。

13 同上

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