第 5 章 Ir 系触媒の溶液系ハーフセル電気化学評価
5.4 OER 評価
各触媒のOER活性を評価した.IR補正後の1600 rpmにおけるOER活性を示すLSV
の結果をFig. 5.3に示す.ポーラスIrのOER活性は市販IrO2より低い結果となった.
一般的に,金属Irと酸化Irを比較すると,酸化Irは金属Irと同等,あるいは高いOER 活性を示している.金属IrもOER開始電位付近では表面が酸化Irに変化していることを 考えると,OER開始電位に大きな差は生じないが,その後の電流密度の増加速度が異なる と考えられる.したがって,ポーラスIrの OER活性が低かった要因として,触媒表面の Irが十分に酸化された状態ではなかったと考察した.
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Figure 5.3 ポーラスIr(赤),および市販IrO2(黒)を作用極(17.3 µg cm-1)として得られた
OERに関するLSV
0.1 M HClO4中,窒素飽和雰囲気下,50 mV s-1,1600 rpm,IR補正で測定
そこで,ポーラスIrに対して電気化学的手法を用いて表面活性化処理をおこなった.電 気化学的手法のほかに,気相での加熱による活性化処理法[5]も考えられるが,触媒粒子の凝 集を防ぐこと,また,表面のみを酸化させて内部の金属Irを保持することが導電性の観点 からも有利であることから,電気化学的手法を採用した.
はじめに,金属Irが酸化されると考えられる高電位において,1.8 VRHEで10 minのク ロノアンペロメトリー法による活性化処理を試みたが,OER活性の向上は確認できなかっ た.
次に,下限電位と上限電位を設定した任意の電位間でサイクリックボルタンメトリーを 繰り返す処理をおこなった.下限電位を0.5 VRHE,上限電位を1.4 VRHEとして,Fig. 5.4 に示すような矩形波を100ステップ印加した結果,1.8 VRHEにおける電流密度が1.1倍向 上した.そこで,上限電位をさらに高電位に設定した1.7 VRHEで処理をおこなった結果,
1.8 VRHEにおける電流密度は1.5倍向上した.
上限電位を高くするにつれてOER活性の向上が確認できたことから,さらに上限電位を
上げて1.8 VRHEに設定し,10,100,1000ステップを段階的に印加した.印加ステップ数
の異なるポーラスIrのOER活性をFig. 5.5に示す.その結果,印加ごとにOER活性が向 上し,1000ステップ印加後には,1.8 VRHEにおける電流密度が2倍に向上し,Fig. 5.6に 示すとおり,市販IrO2と同等の性能を示した.つまり,電気化学的活性化処理により,ポ
85 ーラスIrのOER活性の向上に成功した.
そこで,活性化処理前後のポーラスIrのCVの比較をおこなった.Figure 5.7に示され るとおり,活性化処理後のポーラスIrのCV波形は若干変化し,H吸脱着を示すピークが 消失し,よりブロードなIr(III)/Ir(IV)のレドックスピークが観察され,Fig. 5.1の市販IrO2
のCV波形に近づく傾向がみられた.
さらに,得られた触媒の活性化処理前後の表面化学状態の変化を調べるため,XPS 分析 をおこなった.活性化処理後のポーラスIrのIr4f結合エネルギー[6,7]についてFig. 5.8に示 している.また,ピーク分離から得られた各成分量を活性化処理前後で比較した結果を
Table 5.1に示す.活性化処理前のポーラスIrは表面にも金属Irが少量存在したが,活性
化処理後,消失する結果となった.また,酸化物がより形成された場合,Ir4fピークが高エ ネルギーにシフトすることが報告されている[8].3.3.2項で示したポーラスIrのIr4fのオリ ジナルピークは低エネルギー側から61.1 eV,64.1 eVであった一方で,活性化処理後のポ ーラスIrのIr4fのオリジナルピークは低エネルギー側から62.0 eV,64.9 eVであり,高エ ネルギー側にシフトしていることが確認できたことからも,酸化物が形成されたと考えら れる.
以上のことから,電気化学的な酸化還元を繰り返すことで,ポーラスIr表面に吸着して いた不純物が除去され,活性化されたことで,表面が酸化されやすくなり,酸化物の状態 で反応に寄与できるようになったと考察できる.
Figure 5.4 電気化学的活性化処理の電位印加ステップパターン
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Figure 5.5 活性化処理前後のポーラスIrを作用極(17.3 µg cm-1)として得られたLSV
黒:活性化処理前 紫:10ステップ活性化電位印加後 緑:100ステップ活性化電位印加 後 赤:1000ステップ活性化電位印加後
0.1 M HClO4中,窒素飽和雰囲気下,50 mV s-1,1600 rpm,IR補正で測定
Figure 5.6 活性化処理前後のポーラスIr(赤),および市販IrO2(黒)作用極(17.3 µg cm-1)と して得られたLSV
実線:活性化処理なし 破線:活性化処理後
0.1 M HClO4中,窒素飽和雰囲気下,50 mV s-1,1600 rpm,IR補正で測定
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Figure 5.7 活性化処理前後のポーラスIrを作用極(17.3 µg cm-1)として得られたCV
実線:活性化処理なし 破線:活性化処理後
0.1 M HClO4中,窒素飽和雰囲気下,50 mV s-1で測定
Figure 5.8 XPS分析から得られた活性化処理後のポーラスIrのIr4f結合エネルギースペク
トル(黒)とその構成成分分離(赤・橙:Ir(III),緑・黄緑:Ir(IV))
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Table 5.1 XPS分析から得られた各触媒のIr4f結合エネルギースペクトルの構成成分分離
結果
Porous Ir Activated porous Ir
Peak B.E. Atomic conc. B.E. Atomic conc.
assignment / eV / % / eV / %
Ir4f7/2 Ir(0) 60.9 3.95
Ir4f7/2 Ir(III) 61.1 44.26 61.9 33.74
Ir4f7/2 Ir(IV) 62.4 6.39 62.4 17.73
Ir4f5/2 Ir(0) 63.6 6.8
Ir4f5/2 Ir(III) 64.1 25.51 64.6 18.84
Ir4f5/2 Ir(IV) 65 13.08 65.2 29.69