第 3 章 各種アノード触媒のキャラクタリゼーション
3.2 Pt 系触媒の材料評価
3.2.5 市販 Pt/KB(TEC10E50E)の材料評価
市販Pt/KB(TEC10E50E)は,カーボン担体上にPt微粒子が高分散担持されている構
造を有し,本研究のポーラスPtや市販Pt blackとは大きく構造が異なるが,電気化学評価 において標準触媒として用いられており,本研究でも電気化学評価をおこなうにあたり,
Pt部分に係る材料評価をXPS分析,XRD測定,およびSEM観察を用いておこなった.
XPS分析において得られた広域結合エネルギースペクトルをFig. 3.6に示す.広域結合 エネルギースペクトルより,表面にPt,O,およびC の各元素が存在することが確認でき た[1].検出されたC は担体であるKB,また3.2.2項と同様にカーボンテープ由来であると 考えられ,C1sピークを用いた校正をおこなった.その上で,Pt 4fに着目し,各触媒の68
~78 eV領域のXPS分析結果をFig. 3.7に示す.観察された主なピークは,低エネルギー 側からそれぞれPt4f7/2, Pt4f5/2由来の結合エネルギーピークとして帰属できる.さらに,こ れらのピークを分離解析した結果を,Fig. 3.7に示すとともに,Table 3.3にまとめている
Pt/KBで観察されたピークを分離し,3.2.2項で述べたとおり化学結合状態を検討した結
果,Pt blackと同様にややPtOを含むことがわかった.一方で,ポーラスPtやPt black では,PtOadsよりも金属Pt の割合が大きいことに対して,Pt/KBの触媒表面は,金属 Pt よりもPtOadsが多く形成されていることが示唆された.また,Pt/KBの広域結合エネルギ ースペクトル(Fig. 3.6)と,3.2.2項のポーラスPtやPt blackの広域結合エネルギースペ クトルを比較した結果からも,Pt/KBではO1sのピーク強度が大きいことから,検出され たOの量が多いことが確認できた.
一方,Fig. 3.8に示すXRD測定の結果より,市販Pt/KBのカーボン上のPtは主に金属 Ptで構成されており,Scherrerの式より算出したその結晶子径(Table 3.4)は,どの回折 ピークから求めた結晶子径においても,約2~3 nmであることが確認できた.
さらに,SEM画像(Fig. 3.9)からも,約2~3 nmのPt粒子(画像上の白色の粒子)が カーボン担体上に高分散担持されている構造が確認できた.
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Figure 3.6 XPS分析から得られた市販Pt/KBの広域結合エネルギースぺクトル
Figure 3.7 XPS分析から得られた市販Pt/KBのPt4f結合エネルギースぺクトル(黒)とその
構成成分分離(紫・青:Pt(0),赤・橙:PtOads,緑・黄緑:Pt(II))
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Table 3.3 XPS分析から得られた市販Pt/KBのPt4f結合エネルギースペクトルの構成成分
分離結果
Peak assignment B.E. / eV Atomic conc. / %
Pt4f7/2 Pt(0) 71.5 8.09
Pt4f7/2 PtOads 72.2 27.59
Pt4f7/2 PtO (Pt(II)) 73.3 10.97
Pt4f5/2 Pt(0) 74.8 12.28
Pt4f5/2 PtOads 75.7 33.37
Pt4f5/2 PtO (Pt(II)) 77.9 7.69
Figure 3.8 市販Pt/KBのX線回折パターン
Table 3.4 Scherrerの式をもとに算出した市販Pt/KBのPt結晶子径
XRD peak
Pt (111) Pt (200) Pt (220)
Crystallite size / nm 2.2 2.2 2.9
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Figure 3.9 市販Pt/KBのSEM像 (a)低倍率 (b)高倍率