第1節 NZポストの概要 1 事業規模等
NZポストと日本郵政の事業規模を国の基礎データを下に対比する(表2-1)。
表2-1 NZポストと日本郵政の比較
注:為替レートは1NZ$=85円で試算した。
NZポストの郵便物数、郵便部門収益は、日本郵政の3~4%程度で人口比や GDP 比にほぼ匹敵した比率となっている。郵便局数は、SOE化以前には直営局が約1,200 局あったものを約300局の直営局と約600局の委託局に減少させコスト削減を図って いる。郵便局数が日本の3.9%とやや高めであるのは国土面積の広さから削減に限界が あるためと考えられる。預金残高は我が国の郵便貯金の0.6%とGDP 比等で見て小さ いが、日本の郵便貯金のプレゼンスが大きいことや、キウィバンクは設立後期間が短 いこと、が反映されていると考えられる。銀行部門の収益比は残高比の約4倍であり、
ゆうちょ銀行に比べキウィバンクの収益率の高さが表れている。
2 NZポストグループの組織体制
NZポストは、親会社である NZポスト(郵便局・郵便局会社)の下にキウィホールデ ィングス(金融持株会社)、エクスプレスクーリエズ社(急送便会社)、パーセルダイレク
項 目 ニュージ
ーランド① 日 本 ② ①/② 備 考
面積(平方km) 270,534 377,914 71.6%
人口(万人) 444 12,730 3.5% 日本:2013年10月1日 総務省統計局 NZ:2012年末
名目GDP 181.57 4,898.53 3.7% IMF:World Economic Outlook database(2013年)
単位:10億US$
郵便局数 933 24,230 3.9% 日本郵政:2013年3月末
NZポスト:2010.年6月末、うち配達センターは626局
郵政グループ社員数 11,432 462,481 2.5% 日本郵政:2011年4月末(非正規社員含む)
NZ:2010年6月末
郵便物数(百万通) 694 22,345 3.1% 日本郵政:2012年度
NZ郵政:2012年度(12.7~13.6)
郵便部門収益(億円) 630 17,544 3.6% 日本郵政:2012年度
NZポスト:2012年度(12.7~13.6) 741,475NZ$
預金(貯金)残高 10,302 1,769,901 0.6% ゆうちょ銀行:2013年3月末
キウィバンク:2013年6月末(12,120百万NZ$)
銀行部門収益 379 16,144 2.3% ゆうちょ銀行:2013年3月末
キウィバンク:2013年6月末(446百万NZ$)
ト社(宅配会社)等を擁するグループ企業で、経営体制は図 2-1のとおりである。
NZポストは2008年に、キウィバンクの国際戦略の強化と資本の効率性向上を目的 として、金融各社の株式を保有する持株会社(Kiwibank Group Holdings Limited)
を設立し、キウィバンク、キウィ保険会社とニュージーランド・ホームローン社がそ の傘下に入った。この他に NZ ポストはグループの資金調達のためファイナンシャ ル・カンパニーを保有している。
図2-1 NZポストグル―プの組織図
注:New Zealand Post(2011), New Zealand Post Group Annual Report 2011, p.2に基づき作成
第2節 NZポストの経営の現状 1 NZポストの収益
NZポストの収益を、「キウィバンク」、「郵便その他」に分けて示したのが図 2-2 である。「郵便その他」の収益は減少傾向にあり、キウィバンクの成長が著しくグルー プ全体の成長を支えていることが分かる。なお、2013年度の「郵便その他」収益の増 加は投資資産・保有株式の売却、ECL(急送便会社)の株式の全額取得による特殊要因 である。
NEW ZERLAND POST OPERATIONS CUSUTOMER SOLUTIONS AND New Zealand Post(郵便)
他1社
PostShop
(郵便局)
他2社
KIWI GROUP HOLDINGS LIMITED kiwibank(100%)
Kiwi Insurance Limited(100%) Newzealand HomeLoans(76%)
他4社 EXPRESS COURIERS LIMITED
PERCEL DIRECT GROUPPTY LIMITED
他2社
Localist
NEW ZEALAND POST GROUP FINANCE
NEW ZERLAND POST GROUP
NEW ZERLAND POST OPERATIONS CUSUTOMER SOLUTIONS AND New Zealand Post(郵便)
他1社
PostShop
(郵便局)
他2社
KIWI GROUP HOLDINGS LIMITED kiwibank(100%)
Kiwi Insurance Limited(100%) Newzealand HomeLoans(76%)
他4社 EXPRESS COURIERS LIMITED
PERCEL DIRECT GROUPPTY LIMITED
他2社
Localist
NEW ZEALAND POST GROUP FINANCE
NEW ZERLAND POST GROUP
図2-2 NZポストグループの収益の推移(単位:千NZ$)
出典:New Zealand Post Group Annual Report 2002-2013
Kiwibank Disclosure Statement & Annual Report2008-2013
2 NZポストの利益の推移
NZポストの当期純利益(税引後)の推移を、キウィバンクの設立から 2012年度ま での10 年間、「キウィバンク」と「郵便その他」の別に示したのが図3-3、表3-1で ある。
まず、キウィバンクを見ると2005年度から黒字となりその後は順調に利益を拡大、
2010、2011年度は金融危機に伴う景気後退や2011年2月のカンタベリー地震の影響
で黒字を縮小させたが、2012、2013年度は連続で史上最高益を計上している。
「郵便その他」の損益を見ると2008年度までは順調に利益を計上しているが、2009 年度から郵便物の減少等の影響を受け減益基調が加速、4 度にわたる料金改定にかか わらず2010年6月期から赤字が定着している。2013年度の「郵便その他」は黒字に なっているが、郵便単独の業務損益は郵便物数が前年比 7.5%下落した影響を受け約 166 百万ドルの赤字となっている。郵便その他」の黒字は、投資資産の売却63約 121 百万ドル、法人税額控除(負の法人税)約 40 百万ドル等による利益計上及び ECL(急 送便事業)の業績改善によるもので、郵便部門の赤字基調はより深刻化していること がうかがえる。
NZポストグループ全体の損益をみると、2008年度までは利益は拡大基調にあった が2009年度から郵便物数の減少等で減益に転じ 2011年度に赤字に転落、2012、2013
63 NZポスト社は2013年度に、データコム社への出資株式とNZポストハウスを売却している。
年度はキウィバンクの好業績などで一先ず持ち直している。しかし、2009年度以降 IT化等に伴う郵便物の減少はさらに加速(2013年度は前年比7.5%減)し、子会社であ るキウィバンクの好業績に依存している状況となっている。
図2-3 NZポストの当期純利益(税引後)と郵便物数の推移
表2-2 NZポストの当期純利益(税引後)と郵便物数等の推移
(単位:利益⇒千NZ$,郵便物数⇒百万通)
出典:New Zealand Post Group Annual Report 2003-2013
注1:ニュージーランドにおける会計年度は前年7月から当年6月までの 1 年間。図表の「2003」
は2002年7月1日から2003年6月30日までの1年間。
注2:2005、2008、2011、2012年度に郵便料金の改定が行われた。
注3:図表の「郵便その他」の当期純利益(税引後)は、「NZポスト」から「キウィバンク」を差
し引いた推計値である。
注4:NZポストの2012年度決算の当期純利益は1億6,970千万NZ$の黒字であるが、NZポス トがエクスプレスクーリエズ(ECL)のDHLの保有株式を取得したことに伴う一時的利益(9,620
万NZ$)が含まれるので、短期的影響を除外するため同額を純利益から控除して計上した。
0 200 400 600 800 1,000 1,200
-100,000 -50,000 0 50,000 100,000 150,000
2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
NZポスト キウィバンク 郵便その他 郵便物数
千NZ$ 百万通
2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
NZポスト 27,075 36,525 137,233 68,656 86,787 110,168 71,834 1,279 -35,642 73,496 120,998
キウィバンク -8,035 -480 7,239 15,711 30,852 36,821 63,615 45,848 21,228 79,000 97000
郵便その他 35,110 37,005 129,994 52,945 55,935 73,347 8,219 -44,569 -56,870 -5,504 23,998
郵便物数 1,037 1,011 1,025 992 971 951 886 843 805 751 694 前年度増▲減率 -2.5% 1.4% -3.2% -2.1% -2.1% -6.8% -4.9% -4.5% -6.7% -7.5%
郵便料金(NZ$) 0.40 0.40 0.45 0.45 0.45 0.50 0.50 0.50 0.60 0.70 0.70
第3節 NZポストの経営課題 1 郵便市場縮小の加速
2012年のNZポストの年次報告書の中でNZポストのマイケル・カレン会長とブラ イアン・ローチェCHOは次のような共同メッセージを発表している64。
「NZポストは、1840年以来郵便を事業のコアコンポーネントとしてきた。手紙の 一貫した衰退を改善するため様々な手立てて講じてきたが、NZ ポストはその手段を 使い果たしたと認識している。顧客はビジネスや買い物の際の通信手段を変更してお り、変化は元に戻らない。昨年の郵便物数は過去最大の減少率で、このまま推移する と 5 年以内に 2002 年のほぼ半分に減少する見通しとなっている。利益の面では既に 2008年に金融サービスが郵便サービスを追い抜いており、NZポストの将来は金融サ ービス、小包及びデジタルサービスにかかっている。我々は常に手紙用の物理チャネ ルの必要性を認識し今後の計画にも反映しているが顧客は郵便を NZ ポストのビジネ スのかなり小さい部分とみている。このようなグローバルな "メガトレンド"は、郵便 事業の収益低下を阻止する対策が必要だという強固な証拠を提供している。NZ ポス トの課題は私たちのビジネスの基本を変更することである。単にコストを削減するの ではなく、顧客ニーズや嗜好に応えサービス内容を変更していくことが必要であり、
そのための機会や時間は残されている。」
これは、NZ ポストの経営者が、郵便の構造的縮小傾向は止められないため郵便単 独で採算の維持は困難と判断し、NZ ポストの事業の主力を金融サービス、小包及び デジタルサービスに置くという方針転換を行い、総合力で郵便を維持しようとしてい る様子が伺える。彼らは経営に自信を持っておりまだ余力のあるうちに方針転換しよ うとしているのである。
2 NZポスト会長から国有企業大臣への要望書
NZポストは1987年にSOE化したあと競争力を高め、郵便関係の競合2社は相次 いで倒産したため実質的に郵便部門の独占的事業者となっていた65。しかし、その後
64 New Zealand Post (2012a), New Zealand Post Limited Annual Report, p.5.
65 Rob Laking博士へのインタヴューに対する下記回答(2012年5月11日、別表1,3-1)参照。
「郵便は当時2社競争相手がいたがNZ PostのSOE化で2社は倒産した。現在はクーリエ・カン パニーが2社バルクメールの配達を行っているが、週6日配達の政府合意の規制を受けているのは
もインターネットの普及等で経営状態は悪化したため、キウィバンクを設立し郵便・
金融のネットワークを共有する相乗効果と成長するキウィバンクの利益でグループの 利益を維持してきた。これまで、キウィバンクの利益は一切国に配当せず、金融サー ビスの革新に集中投資し、その結果キウィバンクの成長でNZポスト全体の収益を維 持してきた66のであるが、近年の急速に郵便市場が縮小するなか、マイケル・カレン 会長は、昨年4月、郵便の配達回数の削減(郵便サービスに関する合意証書67の見直し) と成長するキウィバンクへの政府資金の注入を国有企業大臣に申し出たのである。オ ンラインニュース‘stuff.co.nz’(2012 年4月26日付)は、次のような報道を行って いる68。
「26日、NZポスト会長(マイケル・カレン)から国有企業大臣(トリーニアル)への手 紙が公開された。その内容は、①郵便は電子メールへの移行等による大幅な減少(7%
減)が見込まれる。郵便の自律反転は困難で週 6日配達を一日おき(週3日)に減少させ る(合意文書を見直す)というコストカットが必要である。②NZポスト自身の収益 性が低下したため、キウィバンクの資本を準備銀行が求める水準まで引き上げること ができないので、政府による資金注入が必要である。というものであった。」
これは、縮小ビジネスである郵便は配達回数の削減によって損益を改善し、成長分 野であるキウィバンクへの更なる投資によって金融主体に成長を図ることを意図した
NZ Postだけである。」
66 Paul Goodhead氏(COMU)へのインタヴューに対する下記回答(2012年3月13日、別表1,1-1) を参照。
「これまでその所有者との合意により、Kiwibankの配当は事業を成長させるために再投資されてい る。NZポストはそのボードの配当政策(毎年発行されるSCI(企業理念声明)の中で公表)に準拠して クラウンに配当を支払う。歴代の政府はクラウンの負債を償還することまたは他のクラウン内の他 の政策プログラムに資金を供給することのために国有企業からの配当金を使用している。」
67 郵便のユニバーサルサービスは、情報通信技術大臣(Communications and Information Technology
Minister) )とNZポストとの間の合意事項であり、両者は「190万のデリバリーポイントに一週間
に6日の配達を維持し、880以上の店舗のネットワークで業務を行うこと」という合意証書( the Deed of Understanding 1998)を締結している。New Zealand Post (2012b), Statement of Corporate Intent 2012-2015 ,p.2
Rob Laking博士へのインタヴューに対する下記回答(2012年5月11日、別表1,3-1)参照。
「郵便配達に関する政府合意は、政権関係者-大臣-NZ Postの取締役会(ボード)の合意を文書化 したもので法律ではない。」
68 Stuff.co.nz, business day(2012.4.26)〈http://www.stuff.co.nz/business/small-business〉
(関連記事)
The Dominion Post(2012.4.26), Tough to deliver on NZPost.
The New Zealand Herald(2012.4.26), NZPost considers mail cutbacks by Hayden donnel
〈http://www.nzherald.co.nz/nz/news/article.cfm?c_id=1&objectid=10801607〉.