我が国は人口減少社会の進行に伴い既存住宅が空き家となりその増加が深刻化する と見込まれている184。一方我が国の住宅品質が向上し耐久性、耐震性に優れた既存住 宅185も増加し、若い世代を中心に手頃で良質な既存住宅へのニーズが高まっている。
しかしながら雇用の非正規化の進展に伴い若年層の間や世代間の所得格差が拡大し、
銀行や地域金融機関から住宅ローンが借りられない世帯も拡がっている186。また我が 国の住宅取引は未だに新築が80%以上を占め、品質の分からない既存住宅は買い手の 取引への不安が大きく、売買は低調なままである。この状態が続けば既存住宅がそれ を欲する世帯に提供されないまま空き家として放置される一方、持ち家が無いまま高 齢期を迎える世帯が増加し、社会不安が拡大していく懸念がある。
本章では、既存住宅を活用し、住宅を持てない国民の住宅取得を支援する金融的手 法はどのようなものか、その手法は金融機関の経営の安定化につながるのかという問 題意識の下、既存住宅を活用した住み替えが活発に行われているニュージーランドの 住宅取引、住宅金融サービスを調査・分析し、我が国において手頃で良質な既存住宅 が広く国民に行き届き、併せて銀行等の経営の安定化にも寄与する住宅金融のあり方 について分析検証するものである。
第1節 我が国の住宅市場とニュージーランド調査の対象 1 我が国の住宅市場の現状
我が国の住宅取引はハウスメーカー・銀行ともに新築重視のスタンスを続けており、
既存住宅の流通シェアは 14%とアメリカの 90%、イギリスの 86%やフランスの 64%
に比べ極めて低調で187(図6-1参照)、次のような歪みや問題点が生れている。
① 買い手には既存住宅の情報が殆ど入らず、品質の悪い住宅に当たっても買い手の 責任となる不透明な市場のため、安心して取引できない。
184 米山は現状の新築ペースで行くと日本の空き家率が2008年の13.1%(7軒に1軒)から2028年に
は23.1%(4軒に1軒)に拡大すると予想している。米山秀隆(2012)「空き家率の将来展望と空き家
対策」『研究レポート』No.392(2012年5月号) 富士通総研経済研究所,10~13頁。
〈http://jp.fujitsu.com/group/fri/downloads/report/research/2012/no392.pdf〉
185 本稿では「既存住宅」と「中古住宅」を同義で用いている。原則として「既存住宅」を用いるが、
引用文献の場合は原文どおりに用いている。
186 山内直樹・森田隆大(2010), 31頁。
187 国土交通省(2013)『中古不動産流通市場の活性化に向けた施策の展開について』, 5頁。
② 銀行等は収入の不安定な世帯に対する住宅ローンに消極的であり、非正規雇用の 多い若年世代は割安な既存住宅さえ購入が難しくなっている。
③ 戸建住宅の価格は築年数で査定され 20 年でゼロとなり、住宅の品質が評価され ない。
④ 我が国の住宅は築年数 30 年で取り壊して立て直されリユース・リサイクル型社 の実現に逆行している。
このように、我が国は既存住宅市場の不完全さや銀行等の住宅金融サービスの歪み によって国民のニーズに適う既存住宅取引が進まない現状にある。
図6-1 既存住宅流通シェアの国際比較188
出典:国土交通省(2013), 5頁。
(原典)
日本:総務省(2008)、国土交通省(2009) 米国:Statistical Abstract of the U.S.
英国:コミュニティ・地方政府省 フランス:運輸・設備・観光・海洋省
2 調査対象及び調査方法
2014年4~6 月、ニュージーランドの住宅市場及び住宅金融サービスの実態を把握
188 国土交通省(2013)『中古不動産活性化に向けた施策の展開について』, 5頁。
17.1 515.6
71.1 59.4
109 55.4
11.8 33.4
14%
90%
86%
64%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
0 100 200 300 400 500 600
日本(08) 米国(09) 英国(09) 仏国(09)
新築住宅取引戸数 既存住宅取引戸数 既存取引/全体 万戸
するため現地を訪問しインタヴュー調査を行った。調査対象は住宅仲介業者(以下
Real Estate)、住宅ローンブローカー(以下Mortgage Broker)、キウィバンク、ニュ
ージーランド・ホームローン社(以下NZHL社)、オーストラリア・ニュージーランド 銀行((以下ANZ 銀行)である。
表6-1 ニュージーランドの住宅取引・住宅金融に関する調査(2014年4~6月)
第2節 ニュージーランドの住宅取引と住宅金融サービスの特徴
1 住宅取引市場の特徴189
ニュージーランドの住宅取引市場の構造は図6-2のとおりである。
ニュージーランドの住宅取引は Real Estate Act(2009)に従って行われ、住宅取引仲
介業者はReal Estateと呼ばれる。Real Estateの業務は売り主から不動産の売却を
受注し、売り主と販売方法を協議し、物件をリストアップして顧客への物件情報を準 備し、購入希望者に物件を紹介して販売を行う業務である。Real Estateは一般的に 会社形態を採り、業務は一般に売り物件を受注する社内担当と独立したライセンスを 持ち個人経営者の立場で会社と契約するセールス担当(Independent Real Estateと呼 ばれる) に分かれる。
189 「ニュージーランドの住宅取引・住宅金融に関する調査(2014年4月~6月)」における住宅取引 業者からのヒアリング結果取りまとめたものである(別表2参照:2014年7月現在)。
調査時期 調査方法 調査対象 所 属・役 職 氏 名 調 査 内 容 4月7日 面談
Independent Mortgage Broker
MW Fianncila
22 Kings Cres. Lower Hutt Mike Wong
・住宅ローンブローカー発展の背景事情、
顧客メリット、商品内容、銀行・仲介業者 との関係、独立事業者の特徴 4月8日 面談 Mortgage
Broker
NZ Homeloan社
Owner Manager Steaven Kirk
・住宅ローンブローカー発展の背景事情、
顧客メリット、商品内容、銀行・仲介業者 との関係、収益源
4月8日 面談 Real Estate (会社形態)
Proffessiona Real Estate
Area Manager Christian Casbolt
・顧客への情報提供、消費者保護規制、
値付け基準、市場の公平性・透明性、
仲介手数料等 4月9日 面談 住宅ローン
取扱銀行
ANZ bank
Business Manager Helen McGorugh
・銀行の住宅ローン審査、外部との連携、
住宅ローン関連保険、返済不能時の対応 と債権回収、住宅ローン貸出競争 6月18日 書面 住宅ローン
取扱銀行
Kiwibank
Banking Consultant Megan Watt
・銀行の住宅ローン審査、外部との連携、
住宅ローン関連保険、返済不能時の対応 と債権回収、住宅ローン貸出競争 4月10日 面談 Independent
Real Estate Leaders社 Deborah East
・顧客への情報提供、消費者保護規制、
値付け基準、市場の公平性・透明性、
仲介手数料等
図6-2 ニュージーランドの住宅取引市場の構造
注:現地調査における住宅取引業者へのインタヴューに基づき作成(2014年7月現在)
Real Estateは売り物件を集めて販売する業務が中心であるが、買い手から地域・
価格などの条件指定で買い注文を受けることもある。一人のセールス担当が売り手、
買い手両方の注文を受けるケースもある。売り主は一社だけのソウル・エージェンシ ー(Sole agency)とするか、複数の会社とエージェンシー契約を行うか選択でき、複数 の社と契約した場合は数社で物件情報を共有することになる。顧客への物件情報の提 供はチラシ、新聞、website、売却物件の専門誌への掲載などの方法を採っている。独
立Real Estateの場合は、自分で顔写真入りの物件ニュースを発行し、ニュースやチ
ラシの各戸配布、業界紙への掲載、ウェブサイトの運営などによって顧客への情報提 供やコンタクトを行っている。ニュージーランドの住宅取引は物件の 90%が中古物件 で、立地の良いクラシックで趣のある建物が高い評価を受け消費者の需給(人気)で価 格が決定されるため、築年数による影響は少ない。
ニュージーランドの取引市場は、消費者を保護し公正で効率的な市場とするため次 のような工夫が行われている。
(1)「売り手」と「買い手」間の情報の非対称性の解消
ア 仲介手数料は売り手のみが負担(4%以内)し、買い手は仲介手数料が要らないため 物件の品質や評価のチェックに費用をかけることができる。
イ 買い手は売り物件の品質、評価額、真の所有者を調査し、売り手が提示する価格 に対抗できるため、売り手・買い手間の情報の非対称性が緩和される。
① 買い手はビルダー・インスペクターに建物の品質チェック(証明書類の提出)を依 頼することができる。一回 400~1000$程度である。
② 買い手はバリュアーに物件の価格評価を依頼し、売り手の提示価格に対抗できる。
③ 買い手は自身の事務弁護士(ソリスター)に売り物件の所有者調査(売り手が真の 所有者であるかの確認)を依頼することができる。
ウ 物件のチェックシステムが整備されているため、買い手の自己責任が軽減される。
(2) 消費者保護制度の徹底
ア Real Estate法で業者の営業活動を明確に規定する行動規範「Code of Conduct」
や取引おける消費者保護法制が明確化され、取引での開示事項が定められている。
イ 業者の説明不足等に関する苦情を役所(Real Estate agency Authority)が受理し、
業者を監督指導するシステムが整備されている。
ウ 業者の説明責任等に対する訴訟制度、損害賠償制度が整備されている。
エ 現金の授受や登記は全て事務弁護士(ソリスター)が法的手続きに沿って行うこと で、買い手・売り手のリスク負担が軽減されている。
(3) 公正な住宅取引と価格交渉
ア 一業者が売り手と買い手の仲介を行うケースは多い(仲介手数料は売り手が負担) が、取引の公平性を担保するため、①オークション、②入札(tender) ③negotiation
④fixed price ⑤buyer inquiry(買い手の注文条件)の 5つの方法の一つを選択して 行われる。
イ Real Estateは付近の取引相場等、Capital Value (固定資産評価額)等を参考にマ
ーケット・アプライザー(00~00$)を設定する。
ウ 買い手はバリュアー(不動産鑑定士)からレジスターバリュー(不動産鑑定評価)を 取り、インスペクターによる物件診断をした上で価格交渉を行う。購入予約から売 買契約まで一定の調査期間を設けるのが一般的である。
エ 売り手・買い手に事務弁護士(ソリスター)がつき、それぞれの顧客に法的な正当