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キウィバンクのビジネスモデルの解明と成功要因の分析

本章では、財務分析や政府関係者・研究者へのインタヴュー結果を下に、キウィバ ンクが地方・個人・中小零細企業というニッチ市場の中でどのようにして、低リスク で利益を上げ得る融資モデルを構築したかを論じる。また、総合的小口金融をユニバ ーサルに提供するというキウィバンクの革新的なビジネスモデルは国有企業改革で構 築されたSOEのガバナンス構造とどのような関係性を持つかについて論じる。

第1節 キウィバンクの経営体制 1 キウィバンクの組織体制

最初に、NZポストのアニュアル・レポート、NZポスト及びキウィバンクのホーム ページなどをもとにキウィバンクの組織体制を概観する。

キウィバンクは、銀行部門のキウィバンク(Kiwibank)、保険部門のキウィ保険会社 (Kiwi Insurance)、住宅ローン専業のニュージーランド・ホームローン社(Newzealand

Home Loans、以下 NZHL 社)及びこれらの金融各社の株式を保有する持株会社であ

る(Kiwibank Group Holdings Limited)で構成されるグループ企業である111

キウィ保険会社は住宅保険、物品保険、災害保険、車両保険などをキウィバンク窓 口で提供する保険会社である。またNZホームローン社はキウィバンクより早い 1996 年に設立されていた住宅ローンプロバイダーであるが、NZ ポストはキウィバンクの 住宅ローンをサポートするため 2005 年に同社の株式の 51%取得、2009 年には株式

保有率を76%に引き上げ、2012年 7 月には同社の株式を全額取得し完全子会社化し

ている112。NZホームローン社は同社の全国約70か所の店舗を通じキウィバンクの資 金を活用した住宅ローンを展開している113

なお、キウィバンクは表 4-1 のとおり 10 社の子会社を保有しており、資産管理業 務、ファンド業務など、銀行業以外の金融業務への進出を進めているが、キウィバン クに占める子会社のウェイトは比較的小さい。また、2011 年に Gareth Morgan

111 New Zealand Post (2011), New Zealand Post Group Annual Report 2011,p.3. .

112 New Zealand Home Loan(2012), Purchase of New Zealand Home Lone Complete Medeia release 9.7.2012

なお、NZホームローン社の株式は、金融グループの持株会社であるKiwibank Group Holdings Limitedが保有している。

113 New Zealand Post HP, History of New Zealand Post

〈https://www.nzpost.co.nz/about-us/who-we-are/history-of-new-zealand-post〉

Investments社を買収し全国で6番目の Kiwisaver業者になっている114

表4-1 キウィバンクの子会社群

出典:Kiwibank(2013),p.33.

注:株式保有率はKiwibank20136月末保有率である。

2 キウィバンクの経営実態と情報開示

ここでは、キウィバンクの経営の経営実態をアニュアル・レポート(ディスクロージ ャー資料)を基に整理する。アニュアル・レポートを見ると、キウィ保険会社とNZホ ームローン社の個別のデータ計上されていない。キウィバンク単独とキウィバンクグ ループの計数の決算値が表示されているが、グループ企業として列挙されているのは 10社の子会社であり、キウィバンク単独とグループ全体の値に差異が少ないことから、

兄弟会社2社の計数は開示せず、キウィバンク決算に合算されていると考えられる115。 ニュージーランドの銀行は保険業務を取り扱うことができるが、準備銀行による規 制(資産の 1%以内)116があるため、銀行の殆ど保険会社の代理店業務として、保険業 務を取扱うのが一般的である117。一方、キウィバンクは自社で保険引受リスクを取っ て住宅保険等を販売しているが、キウィ保険会社の業務に関する決算計数は開示され ていない。キウィバンクはリスク管理や収益管理の必要性からキウィ保険会社を一体 的に運営し、会計的にも一体で計上している可能性が窺われるのである。

114 家森信善(2013), 245

115 Kiwibank(2013),各ページ参照

116 That the Banking Group’s insurance business is not greater than 1% of its total consolidated asset. Kiwibank(2013),p.102.

117 David.Tripe教授(Massay University)へのインタヴュー(2012518日、別表1,2-3)参照。

子会社名 株式保有率

Kiwibank Nominees Limited 100%

New Zealand Homelending Limited 100%

AMP Home Loans Limited 100%

Kiwibank Investmemt Management Limited 100%

KB Custodial Services Limited 100%

Kiwi Asset Financial Limited 70%

Kiwi Capital Securities Limited ・ Kiwi Capital Management Limited ・ Kiwibank Portfolio Entity Unit Trust ・ Kiwibank RMBS Trust Series 2009-1 ・

Kiwibank Covered Bond Trust ・

3 キウィバンクの発展

ここでは、キウィバンクの誕生から今日までの発展の歴史を、キウィバンクのアニ ュアル・レポート118や NZ ポスト・ホームページ119などを下に振り返ることとする。

キウィバンクの損益等の推移を表したグラフが図4-1である。

図4-1 キウィバンクの損益等の推移

出典:Kiwibank Annual Report 2008-2013

注:キウィバンクグループは20077月から国際財務報告基準と同等の[NZ IFRS]を採用。

1) 基礎的金融サービス提供期(2002年~)

キウィバンクは2002年2月、7店舗で業務をスタート、6月末には全国211店舗、その 後2004年には300店舗に拡大している。当時、NZポストはSOE化(株式会社化)に伴い 経営効率化を急速に進め、直営店舗数を1987年当時の1,234店舗から約300店舗(ライ センス取得のフランチャイズ店を含む)に削減しており、2004年にはほぼ全ての店舗 で金融業務を取扱うようになっている。

当初、キウィバンクは送金決済サービスや少額預金などの基礎的金融サービスを地 方住民、中低所得者、小企業などの少額利用者を対象に展開した。その黎明期には低 マージン、リスクの高い顧客だけを惹きつけていたため、利益が上がらないと広く思 われており、2 年間は赤字を余儀なくされた。ビジネス的成功という課題を突きつけ

118 Kiwibank, General Disclosure Statement & Annual Report 2002-2013.

119 New Zealand Post , History of New Zealand Post

〈https://www.nzpost.co.nz/about-us/who-we-are/history-of-new-zealand-post〉

-100,000 -50,000 0 50,000 100,000 150,000 200,000 250,000 300,000 350,000

02/03 03/04 04/05 05/06 06/07 07/08 08/09 09/10 10/11 11/12 12/13

純金利収入 手数料収入

金融商品の損益 業務費用 当期純利益(税引後) 貸倒損失額

られていたキウィバンクは目標達成に失敗すれば売却や廃業の恐れもあったと言われ る120

2) 住宅ローンへの進出期(2004 年~)

キウィバンクは設立 3 年目の 2004 年に住宅ローンに進出している。キウィバンク はローン金利をより安く・多様なサービスをより低料金で提供することで、住宅ロー ンと個人預金の囲い込みを図っている。2005年には住宅ローンのプロバイダーとして 成長していたNZホームローン社の株式を51%取得して実質子会社化し、融資や営業 のノウハウを吸収しながら住宅ローンを急激に拡大しており、2004年以降の純金利収 入と手数料収入の順調な成長がそれを物語っている。

3) 中小企業金融スタートと個人向けサービス拡充期(2005 年~)

キウィバンクは2005年に中小企業金融を開始している。2006年にはモバイルバン キング、2008年にはキウィバンク・Visaデビットカード、iPhoneに対応したインタ ーネットバンキングサービスをスタートしている。2009 年 6 月期はリーマンショッ ク等による世界同時不況の年であったが、住宅ローンが主体のキウィバンクは市場の 影響をほとんど被らず過去最高益を達成している。

4) 金融業務の多角化期(2009年~)

キウィバンクは2009年に企業金融に本格参入している。またこの年キウィバンク は NZ 航空と連携した GO-FLY カードを導入している。2011 年には Kiwi Asset

Finance 社という工場や機械設備資金の融資を行う子会社を設立し、企業向けビジネ

スの強化を目指している。ニュージーランドにはKiwisaverという退職後のための貯 蓄の仕組みがあるが、キウィバンクは 2011 年に投資会社を買収し Kiwisaverの提供 業者になっている。このように銀行業以外の金融業務への多角化を推進している。

2010 年 2 月にクライストチャーチ地方で発生したカンタベリー地震とその後の世 界同時不況がニュージーランド経済に打撃をあたえ不況に陥った。このためキウィバ ンクも中小企業融資で貸倒れによる回収不能が増加し、その結果2010 年6月、2011 年6月期は2期続けて減益となっている121

5) 住宅融資で躍進期(2012年~)

世界不況からの回復で、預金・住宅融資ともに好調に推移し、貸倒損失も減少した

120 家森信善・西垣鳴人(2010),pp65-66.

121 New Zealand Post(2011),pp5-6.

ため、連続で過去最高益を達成している。

4 キウィバンクの市場規模122

キウィバンクの資産残高は急速に拡大し国内系銀行の中では最大となっているが、

キウィバンクのニュージーランドの家計預金残高に占めるシェアは2012年12月末現

在で約10%、登録銀行の資産残高に占めるシェアは2013年12 月末現在で約4%とな

っている。なお資産残高に占める外資系銀行のシェアは93%、国内系銀行のシェアは

7%(いずれも2013年12月末現在)と21世紀初頭に比べると国内系銀行のシェアが回

復している。なお、具体的なマーケットシェアは表 4-2のとおりである。

表4-2:ニュージーランドの銀行の市場規模

出典:家計預金残高はReserve Bank of New Zealand(2014a), Housing Financial Asset 1998 to Current、資産残高シェアはReserve Bank of New Zealand(2014b), Financial Stability Report 2014, p.53をもとに作成した。

第2節 金融サービスの質的向上 1 顧客ニーズに合わせた商品提供

キウィバンクでは個人や中小企業のニーズを下に、住宅取得、教育、就職、退職、

起業などのライフイベントに合わせた貯蓄、貸出、保険のラインアップを進め、郵便 局の窓口で一体的に提供している。

122 Reserve Bank of New Zealand(2014a), Housing Financial Asset 1998 to Current.

Reserve Bank of New Zealand(2014b), Financial Stability Report 2014, p.53

〈http://www.rbnz.govt.nz/financial_stability/financial_stability_report/fsr_nov14.pdf〉.

業  態 金額

(百万NZ$) シェア 銀行名 マーケット

シェア

ANZ 32.2%

Westpac 19.2%

BNZ 18.0%

ASB 17.2%

Rabobank 3.9%

タラナキSB 1.3%

キウィバンク 12,286 9.9% キウィバンク 4.0%

住宅金融組合 436 0.4% 外資系銀行計 93.0%

信用組合 684 0.6% 国内系銀行計 7.0%

ノンバンク等 2,234 1.8%

124,358 合   計

資産残高(2013年12月末)

家計預金残高(2012年12月末)

業態名

登録 銀行

外資系銀行等 108,718 87.4%

ノンバン ク等

顧客はライフイベントに応じて家計の資金計画を立て、いかに有利かつ効率的に金 融サービスを活用するかに関心を持っており、顧客目線でライフイベンドに応じた金 融サービスをワンストップで行えるようにしたのがキウィバンクの金融商品メニュー である。金融サービスの質的向上を図り、一体的に提供することで顧客ニーズに沿っ た提案をできるようにしているのである。このことが営業面では、預金・貸出の増加、

手数料・保険料収入の拡大などの相乗効果をもたらし、同時に業務の効率化にも貢献 していると考えられる。

2 個人向け金融サービス123

1) 日常取引

日常取引では、小切手、各種貯蓄口座と決済口座の連動サービスがあり、ビジネス 口座(後掲図 4-3 参照)とほぼ同様のサービスを受けることができる。決済やカードサ ービスとしては、前述したモバイルバンキング、キウィバンク・Visaデビットカード、

iPhoneに対応したインターネットバンキングサービス、カードとして NZ航空と連携

したGO-FLYカードなどがある。

2) 貯蓄商品

貯蓄商品では年限に応じて金利の異なる長期の定期預金のほか、流動性預金と定期 資金の間を埋める期限付預金やオンライン利用など顧客ニーズに応じた多様な貯蓄商 品を用意している。Notice Saver、Online Call Account、Pie Online Call Fund など であり、資金残高が一定額を超えた場合、有利な預金に自動シフトするというサービ スも行っている。また、退職後のための貯蓄手段として外資系銀行と同様 Kiwisaver を直接提供している。

3) 貸付

貸付には当座貸越、住宅ローン、車両ローン、個人ローン、カードローンなどがあ る。住宅ローンに関しては主要な郵便局にホームローン・スペシャリストを置き、顧 客の早期返済・借換え等をサポートしている。

4) 保険

保険には車両保険、旅行保険、家庭の貸付保険などを自社販売している。例えは大

123 Kiwibank,Personal Banking〈http://www.kiwibank.co.nz/personal-banking/〉.