本章では、キウィバンクとゆうちょ銀行・邦銀等のビジネスモデルの違いが生みだ すリスク・収益構造上の問題を分析し、ゆうちょ銀行の経営課題を解明するものであ る。
第1節 キウィバンクと邦銀等との融資スタイルの違い 1 預貸率の違い
キウィバンクの融資の大きな特徴は 100%を超える預貸率の高さである156。一方邦 銀等は約 20 年間の預貸率を下げ続けている。両者を比較した図 5-1 を見るとその違 いが顕著である。
図5-1 キウィバンクと邦銀等の預貸率の推移
出典:Kiwibank(2002-2012),全国銀行協会「全国銀行財務諸表分析(各年度分)」信金中金地域・中 央研究所『全国信用金庫概況(各年度分)』により作成。
キウィバンクと邦銀等の預貸率に何故このような大きな差があるのだろうか。金融 制度、規制緩和の状況、経済情勢、国民性等の違いにもよるが、預貸率の差の要因は 主に両者の融資スタイルや顧客志向の違いにあると考えられる。
まず、第一に顧客志向の違いである。借り手は「なるべく安い金利で、必要なとき に必要なだけ借りたい」と考える。邦銀等は大口顧客に対しては競争上このような資 金ニーズに対応しているが、小口顧客の同様のニーズに応えようという姿勢は乏しい。
156 キウィバンクは融資資金が不足する場合、債券発行で資金調達している。
40 50 60 70 80 90 100 110 120
19921994199619982000200220042006200820102012
% キウィバンク
全国銀行 信用金庫
一方キウィバンクは小口顧客の資金ニーズに対応することを出発点とし貸出方法、サ ービス内容、サポート体制を構築し、顧客が欲する貸出及び関連サービスを提供して いることである。
第二に、邦銀等は貸倒れを発生させないことを原則とし、安全な貸出先に絞り込ん で融資を行うため貸出の伸びが低迷している。一方キウィバンクはトータルとして信 用コストを回収できる貸出金利を設定し、積極的に顧客の借入ニーズに対応し、同時 に顧客の早期返済に積極的に協力し顧客のコスト削減をサポートすることで、貸倒れ の圧縮や手数料の拡大を図っている。邦銀は預貸率がバブル崩壊後一貫して低下して いる要因を一番に借り手の不在としているが、邦銀自身が信用リスクに過剰反応し、
顧客を必要以上に選別していることがその最大の要因ではないだろうか。
2 邦銀等の収益構造
キウィバンクと我が国の全国銀行、信用金庫の損益構造を示したのが表 5-1である。
表5-1 キウィバンクと邦銀等との収益比較
出典:Kiwibank(2013).全国銀行協会(2012),信金中金地域・中央研究所(2012)
注1:全国銀行の自己資本比率の上段は、国際統一基準採用行(16行)、下段( )は国内基準採用行(101
行)の単純平均である。
注2:自己資本比率は、単体自己資本比率(自己資本額/リスクアセット等)である。
注3:本表は国際財務報告基準に基づき作表した。
損益等 構成比 損益等 構成比 損益等 構成比 損益等 構成比
純金利収入(資金収支) 276,000 61.9% 79,361 77.2% 17,299 96.0% 15,263 94.5%
手数料収支 170,000 38.1% 18,422 17.9% 722 4.0% 881 5.5%
その他収支 0.0% 5,030 4.9% 0.0%
業務総収支 446,000 100% 102,813 100% 18,021 100% 16,144 100%
業務費用 304,000 67,753 13,963 11,008
貸出金及び前払金の減損額 -7,000 -6,583 -2,084 0 その他経常収支等
(その他利益+臨時損益) 5,044 -958 899
税引後当期純利益 97,000 30,311 2,165 3,739 預金残高 12,120,000 6,986,462 1,249,273 1,760,961
貸付金残高 13,202,000 4,786,309 636,876 41,345
預 貸 率 108.9% 68.5% 51.0% 2.3%
自己資本 858,000 396,601 73,805 109,976 自己資本利益率(ROE) 11.3% 7.6% 2.9% 3.6%
自己資本比率 12.50% 11.57%
(11.07%) 13.04% 66.04%
区 別 2012年度損益計算等(単位:千NZ$,億円)
キウィバンク 全国銀行 信用金庫 ゆうちょ銀行
これを見ると、純収入に占める手数料収入の比率がキウィバンクの 38.1%に対し、
全国銀行はその1/2 以下の17.9%で、特に信用金庫は4.0%、ゆうちょ銀行は 5.5%
と極めて低い。キウィバンクの手数料収入は企業買収等の先端的なビジネスフィーで はない。融資関連のサービスメニューの豊富さや顧客満足の高さが手数料収入の拡大 をもたらしたものである。逆に邦銀等の手数料比率の低さは金融サービスがキウィバ ンクより見劣りすることを示唆している。
3 邦銀等の経営の現状とリスク
全国銀行(117行)と信用金庫(270金庫)の収益、費用等の推移を国際財務報告基準に 基づき、キウィバンク(図4-1)と同様に図示したグラフが図 5-2、図5-3である。
全国銀行、信用金庫のグラフはほぼ同じ形状であるが、キウィバンクと比べるとそ の形状は全く異なる。キウィバンクが設立直後からの成長を示しているのに対し、邦 銀等は我が国経済が成熟気を迎え、景気の長期停滞が続いていることを表していると いう側面もある。
一方全国銀行、信用金庫は資金収支、役務取引等収支が逓減している。バブル崩壊 後の一貫した預貸率の低下(図 5-1 参照)を考え合わせると、邦銀等の収益の減少は単 に経済の長期停滞に帰すべき問題ではなく、邦銀自身の取組に原因があると考えられ ないだろうか。
もう一つの特徴は、「当期純利益(税引後)」のグラフと「その他経常収支等」(信用 金庫の場合は「その他損益+臨時損益」)157のグラフがほぼパラレルに推移し、2008 年の世界金融不況時には「その他経常収支等」等で大きな損失を計上していることで ある。これは、世界金融不況時の邦銀等の損失は貸倒れの拡大ではなく株式や債券等 市場運用による損失なのである。
157 「その他経常収支等」(信用金庫の場合は「その他損益+臨時損益」)には、株式、外国為替、債 券等の市場商品による損失が含まれる。
図5-2 全国銀行(117行)の収益、費用等の推移
出典:全国銀行協会「全国銀行財務諸表分析(各年度分)」
図5-3 信用金庫(270行)の収益、費用等の推移
出典:信金中金地域・中央研究所「全国信用金庫概況(各年度分)」
キウィバンクが融資先への信用リスクのみを負い、顧客ニーズに応える貸出やサー ビスで利ざやと手数料を得るビジネスモデルであるのに対し、邦銀等は信用リスクを 厳しく排除して融資先を絞り込み、市場リスクを取って収益を上げるモデルとなって いる。そして邦銀等はその結果、世界金融不況による株式、外国為替等の暴落の影響 を全面的に被ることになったのである。何故このように正反対の銀行モデルになった のだろうか。第 2 節では邦銀等の経営リスクをキウィバンクと比較分析することで、
邦銀等の抱える問題点を検証する。
-80000 -60000 -40000 -20000 0 20000 40000 60000 80000 100000
2,004 2,005 2,006 2,007 2,008 2,009 2010 2,011 2012 億円
資金運用収支 役務取引等収支 貸出金償却等 営業費用
その他経常収支等
(10,000) (5,000) 0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 億円
資金運用収支 役務取引等収支 営業経費
当期純利益(税引後)
貸出金償却等
その他利益+臨時損益
第2節 邦銀等のリスクと融資スタイルのあり方に関する 2つの見解 1 信用リスク管理と杉山(2006)の見解
我が国の銀行等の預貸率が 20 年以上も下がり続けている原因を振り返る。バブル 期までは右肩上がりの経済のなか土地神話が機能し、銀行は「不動産担保」によって 融資を拡大することができた。しかしバブル崩壊後は、貸倒れの顕在化によって状況 は一変する。業務純益ベースで高い業績を上げても不動産価格等の下落で大規模な貸 倒れ損失が現実化し、銀行内部に「貸倒れは悪である、ゼロ円にすべき」という文化 が根付いていったのである158。
1990年代後半、信用コストという管理会計上の新概念が生まれた。統計学の期待値 の概念である信用コスト159という新指標を用いて本部から店舗・顧客まで一貫した収 益管理を行うという信用リスクの管理手法である160。しかし貸倒れの発生を前提とし た信用コストの計量化はこれまでのところあまり定着していない。これは銀行が「貸 倒れという地雷を踏まない」という考え方に固執し、融資先の新規開拓リスクを取ろ うとしないためである161。
我が国の銀行融資には2 つの顕著な傾向がある。一つは個別信用リスクの排除意識 である。邦銀等は住宅ローンの貸出審査において年収や勤務形態による厳しい制限162 を設けている。例えば、住宅支援機構の調査によれば、新規住宅ローン保有者のうち 年収 400 万円以下の世帯は 10%程度に過ぎず163、非正規労働者など住宅ローンの審 査が通らない国民が数多く存在する。また中小企業や個人は短期の資金繰り融資を銀 行から受けることができない。これは銀行等が「当座貸越」サービスを中小企業や個 人に対し提供してないためである164。このため中小企業や個人は一時的な資金不足に 対しサラ金やクレジット会社等から高い金利でキャッシングをせざるを得ない状況と なっている。その結果、キウィバンクのような住宅ローン向け関連サービスや中小企
158 杉山敏啓(2006)『銀行の次世代キエイ管理システム』金融財政事情研究会, 99頁。
159 「与信取引の中に内包されている貸倒れ損失の期待値」を表す。
160 杉山敏啓(2006), 42頁。
161 杉山敏啓(2006), 98頁。
162 多くの金融機関は「形式審査方式」を採っている。「形式審査方式」とは借入人が年収等を証明す る書類を提示し職業、在職年数などの必要事項を記入し、条件を満たせばローンが承認される方式 である。山内直樹・森田隆大(2010), 『信用リスク分析-総論-』, 31頁。
163 住宅金融支援機構(2012)『民間住宅ローン利用者の実態調査』2012年度,における世帯年収400 万円以下の割合:第1回調査11.6%、第2回調査12.8%、第3回調査14.4%。
164 山内直樹・森田隆大(2010), 36頁。