要 約
11 Jonathan (2006) では連邦制国家について政治的な救済ゲームを検討している。
は国が十分高い補填率で、元利償還の ×
( < < )を地方交付税で補助するものと期待し ているものとする。
債務を返済しないという戦略を採ると、当面、地 方政府は新たな借り入れが難しくなる。また、地域 の金融機関に損失が発生して地域の経済が混乱す るなど、債務を返済しないという地方政府の戦略で 引き起こされる損失の大きさは、時と場合や地域に よって様々である。そこで地方政府が債務を返済し ないという戦略を採った場合に、地域住民全体が被 る損失を として、この損失が債務を下回る地方政 府を強硬な地方政府と呼び、また、この損失が債務 を上回る地方政府を弱腰の地方政府と呼ぶ。すると 強硬な地方政府は債務を返済しないことで、地域の 住民満足を増加させることができることになる。
2 − 3.救済ゲーム
国は地方交付税で手厚く地方債の元利償還を補 助しているので、地方債の起債を許可された場合に 全ての地方政府は国からの救済を得て、債務を返済 して事業から撤退するようになるものとして、この ため地域住民全体が被る損失 が起債を許可され た場合の地方政府の返済額(( − )×債務)を上 回るものとする。そして損失 の大きさは時と場合 によって様々な値を採り得るので、各期、独立に確 率的に変動するものとする。また、国からの救済が 得られない場合には、地方政府は債務を返済しない という戦略を採る不確実性が有るものとして、この ため確率 で地域住民全体が被る損失 が債務を 下回るものとすると、強硬な地方政府になって、債 務を返済しないことで地域の住民満足を増加でき るようになる確率は になる。そして地域の事情に 精通している地方政府は今期の期首に損失 の大 きさを把握できるが、地域の事情に疎い国は、地域 住民全体が被る損失 の大きさを個別には把握で きないという情報の非対称性があるものとする。
もっとも、地方債については起債を厳しく国が監 視・監督しており、また、その元利償還を地方交付 税で手厚く補助しているので、これまで地方政府が 債務を返済しないという戦略を採った事例は皆無 である。しかし、この確率 は現行の地方制度の下 での債務不履行の発生確率とは異なり、国が地方債
の元利償還を手厚く補助しないで、また、地方債の 起債や元利償還の履行などを、地方政府の自治に全 面的に委ねた場合の債務不履行の発生確率なので、
このため現状では地方債について債務不履行が発 生していないからといって、この確率 が 0 である と言うことはできない。この確率は Michael(2007)
氏の国際金融市場で形成される期待と同様、これま での国と地方政府の交渉の経緯や実際に起こった 様々の事件への対応などに基づいて、国や地方政府 が形成してきた確率の期待値なので、この期待値の 大きさを推測するためには、これまで様々の事件へ 対応する過程で形成されてきた、地方制度や政策の 内容を詳細に吟味する必要がある。
そこで地方財政法 5 条の 4 地方債についての関与 の特例を見ると、「次に掲げる地方公共団体は、地 方債を起こし、又は記載の方法、利率若しくは償還 の方法を変更しようとする場合は、…総務大臣…の 許可をうけなければならない。」として、「3. 地方債 の元利償還金の支払いを遅延している地方公共団 体」、また、「4. 過去において地方債の元利償還金の 支払いを遅延したことがある地方公共団体のうち、
将来において地方債の元利償還金の支払いを遅延 するおそれのあるもの」と明記している。このため、
少なくとも、国は、この確率 が 0 ではないという 期待を形成していることが分かる。そこで国が形成 した確率 の期待値は正の値を採る( )ものと して、これまでの国との交渉経緯や様々の出来事な どから、この期待値は全ての地方政府に周知の事実 であるものとする。
また、地方政府が債務を返済しないという戦略を 採ると、全国的に金融が混乱して、他の地方政府の 信用も損なわれて資金繰りが困難になり、経済も全 国的に混乱して地域格差が拡大するなど、国民全体 も大きな損失を被ることになる。そこで、こうして 国民全体が被る損失を と表す。しかし地方政府が 債務を返済しないという戦略を採った事例が皆無 なので、確率 と同様、この損失の大きさも直接把 握することはできない。というより、この損失 も、
これまでの国と地方政府の交渉の経緯や実際に起 こった様々の事件への対応などに基づいて、国や地 方政府が形成してきた損失の期待値なので、この期 待値の大きさを推測するためには、これまで様々の
事件へ対応する過程で形成されてきた、地方制度や 政策の内容を詳細に吟味する必要がある。そして、
例えば、これまで財政困難に陥った地方政府を安易 に国が救済してきたという政策は、損失 が極めて 大きいという期待が国により形成されているとい う事実を顕示することになる。
この点、連邦制を採る米国では建国当初の混乱な どで、多くの州政府が過剰債務を抱えて深刻な経 済・社会的混乱が発生したが、連邦政府は断固とし て救済せず、こうして国が形成した損失 の期待値 は極めて小さいという事実を地方政府に顕示した 後は、国からの救済が期待できないことを確信した 州政府は、率先して、自ら、財政規律の維持に努め るようになったと Jonathan(2006)氏は紹介してい る。しかし日本では後述するように、地方政府が債 務を保証して実施した多くの事業が失敗すると、地 方政府は保証した債務の返済と失敗した事業から の撤退を引き延ばす威嚇戦略を採った。すると国は 保証債務を返済するための地方債の起債を認め、元 利償還を交付税で手厚く補助して地方政府を救済 する特別措置を創設したので、地方政府が債務を返 済しないという戦略を採った場合に、引き起こされ る深刻な混乱を国は看過できないことが明らかに なった。
そこで地方政府が債務を返済しないという戦略 を採った場合に、国民全体が被る損失 の期待値は 大きい( >債務)ものとして、この損失の期待値 も全ての地方政府に周知の事実であるものとする。
ここで失敗した事業から撤退するために、独自に借 り入れた債務を返済しなければならなくなった地 方政府が、債務を返済するために地方債の起債を許 可して欲しいと国に申し出るものとすると、先ず、
国は、地方政府からの救済の申し出に応じた場合に 国民が負担することになる元利償還金の補填額(
×債務)と、救済の申し出を断り、このため強硬な 地方政府が債務を返済しないという戦略を採った 場合に国民全体が被ることになる損失( × )を 比べて、( × )>( ×債務)の場合には、国民負 担を軽減するため救済の申し出に応じて、今期の期 首に、債務を返済するための地方債の起債を全ての 地方政府に許可するものとする。
しかし( × )<( ×債務)の場合、 ×
存在する筈の強硬な地方政府が、債務を返済しない という戦略を採った場合に国民全体が被る損失が、
国民が負担する地方政府を救済するための元利償 還金の補填額を下回るので、国民負担を軽減するた めに国は、先ず、救済の申し出を断ってみて地方政 府の出方を探る。そこで救済を断られた全ての弱腰 の地方政府は、今期の末に自力で債務を返済して事 業から撤退するものとすると、残り × の全 ての強硬な地方政府は、次期の期首にも再び国から の救済が得られない場合には、次期の期末に確実に 債務を返済しないという戦略を採ることになる。こ のため次期の期首に再び国が救済の申し出を断っ た場合に国民全体が被る損失は( × )になる。一 方、次期の期首に残った全ての地方政府の救済の申 し出に応じて、債務を返済するための地方債の起債 を許可した場合に、国民が負担する元利償還金の補 填額は( × ×債務)になる。
次期の期首には地方政府を救済するための国民 負担( × ×債務)が、救済の申し出を断った場合 に国民全体が被る損失( × )を下回るので、国民 負担を軽減するために国は、次期の期首には残った 全ての地方政府を救済することになる。しかし地域 の事情に疎い国は地域住民全体が被る損失 の大 きさを、個別には把握できないという情報の非対称 性がある。このため今期の末に債務の返済と事業か らの撤退を引き延ばせば、残った全ての地方政府の 救済の申し出に国が応じることが明らかであれば、
全ての弱腰の地方政府は強硬な地方政府のふりを して、今期の末には、債務の返済と事業からの撤退 を引き延ばすという威嚇戦略を採る。このため今期 の期首に国が救済を断り、今期の末に全ての弱腰の 地方政府が自力で債務を返済して事業から撤退し、
来期の期首には残った全ての地方政府を国が救済 するという戦略の組み合わせは救済ゲームの解に ならない。( × )<( ×債務)の場合の救済ゲー ムの解は、弱腰の地方政府が強硬な地方政府のふり をして、今期の末に一定の確率で債務の返済と事業 からの撤退を引き延ばす威嚇戦略を採り、国も次期 の期首に一定の確率で地方政府を救済するという 戦略の組み合わせになる。
つまり > と地方政府が債務を返済しないと いう戦略を採り得る不確実性が有り、また、地方政