要 約
24 道路公社と土地開発公社については設立根拠法で地方政府が債務保証できると定めている。その他の第三セクターでは、財政援助制限法(3 条)が地方政府の債務保証を 禁じているため、返済できなくなった場合の損失を補償する損失補償が行われており、本論では両者を債務保証と呼んでいる。なお、実質的には債務保証と同一の損失補
償は、財政援助制限法違反であるとする判決例がある(横浜地裁第一民事部「損害賠償請求権行使請求事件(平成 18 年 11 月 15 日、事件番号 平成 17(行ウ)28)」)。
を独自に債務保証して、即ち、国が元利償還を地方 交付税で補助していない債務を独自に負担して事 業を実施してきた。そして事業に失敗して債務の返 済が困難になると地方政府は保証した債務の返済 を迫られる。しかし第三セクターで実施した事業が 失敗した場合に保証した債務の返済を迫られても、
これまで国は保証債務を返済するための地方債の 起債を認めていなかった。このため債務保証は原則 的に地方政府の自治に全面的に委ねられていたの で、地方政府が債務保証して第三セクターで実施し た事業で2-3. 救済ゲームが実現し、また、2-4. 借り 入れのモラル・ハザードが起こったかどうかを見れ ば、元利償還の手厚い補助を廃止して地方分権を実 現した場合に、地方政府の財政が不健全化するかど うかを高い精度で検証できると考えられる。
3 − 3 − 2.第三セクターの不良債権問題
このため、先ず、比較的国の関与が強いと考えら れている、地方三公社の状況を見てみよう。このう ち地方道路公社は有料道路毎に予め定めた期間内 の料金収入で、投資資金を回収する計画で有料道 路の新設、維持、修繕などを行っている。地方道路 公社では通行料金の設定に当たって割高な費用を 料金に転嫁できるので、経営悪化が顕在化し難い という特徴があり、全体の収支では 2008 年に経常 赤字となった法人は 2 社(全体 42 社の 4.8%、総務 省自治財政局)に止まっている。しかし過大な通行 量予測に基づいて建設し、地方政府からの出資や 借入金などの投資資金の回収が困難になり、予め 定めた料金徴収期間を延長した例も多いと言われ ており、1997 年に広島市、2006 年に岡山県及び愛 媛県の道路公社が解散したが、このうち岡山県と 愛媛県では地方政府に負担が発生している。
次に、公共用地の先行取得や管理、また、住宅・
工業用地の造成などを行っている地方土地開発公
社から、地方政府は取得価格に金利を上乗せして公 社が先行取得した土地を引き取っているが、地方政 府自身の財政難などから引き取りが進まず、公社は バブル直後に先行取得した割高な土地を長期間保 有し続けていた。このため全国の土地開発公社が 10 年以上保有している土地は 2004 年度まで増加し 続け(図表Ⅱ -2)、2005 年度末には 2 兆 47 百億円(全 体の 48.3%)と、バブル直後に高価格で買入れた土 地が長期間塩漬けになって、保有資産の約 5 割を占 めるまで不良資産問題が深刻化した。また、住宅・
工業用地の造成・販売では高額な土地の取得価格 を造成・販売価格に転嫁できないこともあって、
2008 年度には半数(45.3%、同上)の地方土地開発公 社が経常赤字に陥った。
そこで債務保証して公社に買入れさせた土地の 残存簿価を減少させるために、供用済み土地や先行 取得の資金を債務保証した土地を地方政府が買入 れ、又は、地方政府が地方土地開発公社へ無利子貸 付けを行う場合には地方債の起債を許可し、また、
これらの利子支払の一部に特別交付税を措置する、
土地開発公社経営健全化対策が 2005 年度から開始 された。地方土地開発公社の事例では地方政府から 救済を求められた国は、事後的に保証債務の返済を 手厚く補助する特別措置を実施している。
一般消費者からの積立金を受け入れて宅地の造 成・販売及び住宅の建設・販売・賃貸管理を行い、
また、居住者が利用する学校、病院、商店などの宅 地の造成・分譲及び賃貸管理などを行っている地 方住宅供給公社は、バブル直後に買入れた土地の割 高な取得価格を分譲・賃貸価格に転嫁できずに、こ のため 2008 年の赤字法人比率は 40.4% と他の地方 公社に比べても高率になった。また、2003 年 6 月に は北海道、2004 年 1 月に長崎県、同年 2 月に千葉県 の住宅供給公社が、こうして積み上がった不良債権 を処理するための特定調停を申し立てた。これらの
1999 年度 2000 年度 2001 年度 2002 年度 2003 年度 2004 年度 2005 年度 保有金額(億円 ) 11,100 13,200 17,900 19,900 23,600 25,000 24,700 保有土地資産全体に
占める割合 (% ) 13.4% 17.1% 25.5% 29.7% 37.1% 42.6% 48.3%
資料:総務省自治行政局「土地開発公社事業実績調査結果」
図表Ⅱ -2 土地開発公社の長期(10 年以上)保有土地資産
特定調停(図表Ⅱ -3)では金融機関や住宅金融公庫 に債権放棄や返済の繰り延べ・金利の減免を求め る一方、地方政府の債権を金融機関や住宅金融公庫 の債権に劣後させて、また、債務を一括返済する資 金を公社に貸し付けるために、保有土地に対する金 融機関の担保を解除した上で、この土地保有に融資 するための地方債の起債を許可して、返済できなく なった債務を処理するスキームが工夫されており、
地方住宅供給公社の事例でも、国は事後的に保証債 務の返済を手厚く補助する措置を講じている。
地方政府が設立した商法・民法法人等の第三セ クターと、国の関与が強いと考えられている地方三 公社の経営状況を比較すると(図表Ⅱ -4)、先ず、地 方三公社については上述のように地方債の起債許 可や特別措置の実施など国の手厚い支援が得られ
たため、整理・統合が進み法人数は 6 年間で約 3 割 減少して債務保証した負債額も 24.2% 減少してい る。また、赤字法人比率が 2008 年には 43.6% に上昇 したものの国の手厚い支援と足並みを合わせて、地 方政府は出資(15.2% 増)や経常補助金(26.8% 増)
を増加させており、地方三公社については積極的に 経営基盤の強化に努めているようにも見える。一 方、これまで地方政府の自治に全面的に委ねられて いた商法・民法法人については、保証債務を返済す るための地方債の起債が認められていなかったこ となどから、整理・統合が著しく遅れて法人数の減 少は 9.3% に止まっている。
また、債務保証している負債額は 19.8% 減少して いるが、一方で地方政府からの貸付が 19.2% 増加し ており、地方政府からの貸付と債務保証した負債額
図表Ⅱ -3 不良債権処理のための特定調停の内容
資料:「17 条決定検討結果について」平成 16 年 12 月長崎県
北海道 千葉県 長崎県
負債総額 1339 億円 911 億円 315 億円
金融機関への弁済額 510 億円 393 億円 97 億円
弁済率 0.695 0.55 0.603
弁済方法 一括 一括 一括
公庫への弁済額 248 億円 154 億円 50 億円
金利 0.0015 0.0015 0.01
償還期間 30 年間 40 年間 平成 35 年まで
県(道)への弁済額 283 億円 40 億円 24 億円
弁済期間 47 年間 平成 57 年以降 平成 39 年以降
県(道)の損失補償額 228 億円 無し 無し
公社への新規融資 114 億円 300 億円 57 億円
融資条件 金利 0.0015 0.0002 0.01
償還期間 10 年間 30 年間 14 年間
注 1) 商法・民法法人の赤字法人割合及び平成 20 年の補助金、出資、貸付、債務保証は、地方政府の出資割合が 25%以上、
又は、25%未満で地方政府から財政的支援を受けている法人のもの . また、平成 14 年の補助金、貸付、債務保証は 地方政府の出資割合が 25%以上の法人のもの . 平成 14 年の出資割合が 25%以上の商法・民法法人数は 7030、これに 25%未満で財政的支援を受けている法人を加えた法人数は 7074.
注 2) 赤字率は経常赤字法人及び当期正味財産減少法人の比率 . 注 3) 補助金、出資、貸付、債務保証は、それぞれ地方政府からのもの . 資料:第三セクター等の状況に関する調査結果(総務省自治財政局)
図表Ⅱ -4 地方三公社と第三セクターの経営状況
(債務保証 , 出資 , 貸付 , 経常補助金の単位は 10 億円)
組織区分 年月 法人数 債務保証 出資 貸付 経常補助金 赤字率
地方三公社
a. 平成 20 年 3 月 1,175 6,047 1,140 1,832 52 43.6%
b. 平成 14 年 1 月 1,683 7,975 990 1,869 41 40.0%
a/b(%) -30.2 -24.2 15.2 -2 26.8 3.6%
商法・民法法人
a. 平成 20 年 3 月 7,686 1,942 2,195 2,678 308 33.9%
b. 平成 14 年 1 月 8,476 2,422 2,119 2,221 778 34.9%
a/b(%) -9.3 -19.8 3.5 19.2 -60.4 -1.0%
を合わせた、実質的に地方政府が負担している負債 額は 6 年間で 0.5% 減と殆ど減少していない。つまり 債務保証した第三セクターの銀行からの借り入れ が、地方政府からの直接の貸付に置き換えられただ けで、地方政府の自治に全面的に委ねられていた商 法・民法法人では、独自に借入れた債務の返済と失 敗した事業からの撤退などが殆ど進んでいなかっ た可能性が高い。また、商法・民法法人については、
地方政府の出資は 3.5% 増とほぼ横ばいに止まって おり、経常補助金も 60.4% と大幅に減少しているな ど、失敗した事業の撤退などの後ろ向きの処理に加 えて、経営基盤の強化などの前向きの処理も殆ど進 んでいない可能性も高い。このように国の関与が強 いと考えられている地方三公社と比べて、地方政府 の自治に全面的に委ねられてきた商法・民法法人 で事態は一層深刻化していた。
地方政府が債務を保証して事業を実施した第三 セクター全体の赤字法人比率は 3 〜 4 割と極めて高 く、失敗する確率の高い非効率な事業が実施され易 い傾向が顕著で、債務保証で実施した事業で地方政 府は借り入れのモラル・ハザードを起こした可能 性がある。また、商法・民法法人の事業の失敗が明 らかになると、債務の返済と事業からの撤退などが 引き延ばされる傾向も顕著で、国の救済を引き出す ために地方政府は強硬な地方政府のふりをして、債 務の返済と事業からの撤退などを引き延ばす威嚇 戦略を採った可能性がある。このため国は「地方交 付税法の一部を改正する法律(171 通常国会)」で、
2009 年度からの 5 年間に限り、商法・民法法人も含 んだ第三セクターの法的整理を行う場合に、保証債 務の返済に必要となる経費や、地方政府からの貸付 金の整理に要する経費について地方債の起債を許 可することとして、商法・民法法人についても事後 的に、保証債務の元利償還を地方交付税で手厚く補 助する救済措置を創設した。
3 − 4.地域の公共事業投資と地方分権
第三セクターの債務を保証して実施した事業で、
地方政府は借り入れのモラル・ハザード25を起こ
して非効率な事業を実施し、事業が失敗すると救済 ゲームが実現して、国は当初は地方政府からの救済 の申し出を断ってみせたが、地方政府が債務の返済 と事業からの撤退などを引き延す威嚇戦略を採る と、国は地方政府を救済するために、保証債務を返 済するための地方債の起債を認める特別措置を創 設した。このように地方政府が債務保証して第三セ クターで実施した事業では、2-3. 救済ゲームが実現 し、また、地方政府は2-4. 借り入れのモラル・ハザー ドを起した可能性が高い。債務保証で国は保証債務 の元利償還を財源保証していなかったので、仮に、
地方政府が債務を返済しないという戦略を採った 場合に、国民全体が被る損失は比較的小さいものと 考えて、このため( × )<( ×負債額)の場合の 救済ゲームの解が実現したものと考えられる。
こうして財政困難に陥った地方政府は国に救済 されるという神話の存在が再確認された。また、
自治体も破綻という事態に立ち至るという危機感 を持たせることができない現状では、地方政府は 返済しないという戦略を採り得る不確実性が有っ たので、国が元利償還を補助しておらず、地方政 府の自治に全面的に委ねていた債務保証で実施し た事業で救済ゲームが実現し、また、借り入れの モラル・ハザードが起こって地方政府の財政が不 健全化したものと考えられる。このため交付税に よる元利償還の手厚い補助を廃止して、また、地 方債の起債を全面的に地方政府の自治に委ねる こととすると、債務を保証して実施した事業で救 済ゲームが実現したように、地方債を起債して実 施する地域の公共事業投資でも救済ゲームが実現 し、地方政府は借り入れのモラル・ハザードを起 こして、このため非効率な地域の公共事業投資を 大規模に実施するようになる可能性が高い。
また、地方政府は債務の返済について信頼に足 る約束を成すことができなくなるので、地域の公 共事業投資に必要な融資を得られなくなる恐れも ある。このように地方交付税を一括補助金として、
地方分権を実現するだけでは地方政府の財政は健 全化しない。というより、必ずしも、地方分権が地