要 約
25 総務省 (2007) では債務保証は「当該第三セクター等が経営破綻した時には、当初予期しなかった巨額の債務を負うリスクもある。こうしたリスクについて、あらか じめ議会や住民の間で必ずしも十分な議論が行われないまま、損失補償契約が安易に締結されていると考えざるを得ないケースも散見される」としている。
を合わせた、実質的に地方政府が負担している負債 額は 6 年間で 0.5% 減と殆ど減少していない。つまり 債務保証した第三セクターの銀行からの借り入れ が、地方政府からの直接の貸付に置き換えられただ けで、地方政府の自治に全面的に委ねられていた商 法・民法法人では、独自に借入れた債務の返済と失 敗した事業からの撤退などが殆ど進んでいなかっ た可能性が高い。また、商法・民法法人については、
地方政府の出資は 3.5% 増とほぼ横ばいに止まって おり、経常補助金も 60.4% と大幅に減少しているな ど、失敗した事業の撤退などの後ろ向きの処理に加 えて、経営基盤の強化などの前向きの処理も殆ど進 んでいない可能性も高い。このように国の関与が強 いと考えられている地方三公社と比べて、地方政府 の自治に全面的に委ねられてきた商法・民法法人 で事態は一層深刻化していた。
地方政府が債務を保証して事業を実施した第三 セクター全体の赤字法人比率は 3 〜 4 割と極めて高 く、失敗する確率の高い非効率な事業が実施され易 い傾向が顕著で、債務保証で実施した事業で地方政 府は借り入れのモラル・ハザードを起こした可能 性がある。また、商法・民法法人の事業の失敗が明 らかになると、債務の返済と事業からの撤退などが 引き延ばされる傾向も顕著で、国の救済を引き出す ために地方政府は強硬な地方政府のふりをして、債 務の返済と事業からの撤退などを引き延ばす威嚇 戦略を採った可能性がある。このため国は「地方交 付税法の一部を改正する法律(171 通常国会)」で、
2009 年度からの 5 年間に限り、商法・民法法人も含 んだ第三セクターの法的整理を行う場合に、保証債 務の返済に必要となる経費や、地方政府からの貸付 金の整理に要する経費について地方債の起債を許 可することとして、商法・民法法人についても事後 的に、保証債務の元利償還を地方交付税で手厚く補 助する救済措置を創設した。
3 − 4.地域の公共事業投資と地方分権
第三セクターの債務を保証して実施した事業で、
地方政府は借り入れのモラル・ハザード25を起こ
して非効率な事業を実施し、事業が失敗すると救済 ゲームが実現して、国は当初は地方政府からの救済 の申し出を断ってみせたが、地方政府が債務の返済 と事業からの撤退などを引き延す威嚇戦略を採る と、国は地方政府を救済するために、保証債務を返 済するための地方債の起債を認める特別措置を創 設した。このように地方政府が債務保証して第三セ クターで実施した事業では、2-3. 救済ゲームが実現 し、また、地方政府は2-4. 借り入れのモラル・ハザー ドを起した可能性が高い。債務保証で国は保証債務 の元利償還を財源保証していなかったので、仮に、
地方政府が債務を返済しないという戦略を採った 場合に、国民全体が被る損失は比較的小さいものと 考えて、このため( × )<( ×負債額)の場合の 救済ゲームの解が実現したものと考えられる。
こうして財政困難に陥った地方政府は国に救済 されるという神話の存在が再確認された。また、
自治体も破綻という事態に立ち至るという危機感 を持たせることができない現状では、地方政府は 返済しないという戦略を採り得る不確実性が有っ たので、国が元利償還を補助しておらず、地方政 府の自治に全面的に委ねていた債務保証で実施し た事業で救済ゲームが実現し、また、借り入れの モラル・ハザードが起こって地方政府の財政が不 健全化したものと考えられる。このため交付税に よる元利償還の手厚い補助を廃止して、また、地 方債の起債を全面的に地方政府の自治に委ねる こととすると、債務を保証して実施した事業で救 済ゲームが実現したように、地方債を起債して実 施する地域の公共事業投資でも救済ゲームが実現 し、地方政府は借り入れのモラル・ハザードを起 こして、このため非効率な地域の公共事業投資を 大規模に実施するようになる可能性が高い。
また、地方政府は債務の返済について信頼に足 る約束を成すことができなくなるので、地域の公 共事業投資に必要な融資を得られなくなる恐れも ある。このように地方交付税を一括補助金として、
地方分権を実現するだけでは地方政府の財政は健 全化しない。というより、必ずしも、地方分権が地
25 総務省 (2007) では債務保証は「当該第三セクター等が経営破綻した時には、当初予期しなかった巨額の債務を負うリスクもある。こうしたリスクについて、あらか
方政府の財政健全化をもたらすとは限らないので ある。この点、Jonathan(2006)氏は、地方分権の 最も進んだ政治形態である連邦制を採る国々につ いて、本論と類似の救済ゲームなどを用いて地方 政府の財政が不健全化する要因などを検討してお り、例えば、ドイツでは、財政困難に陥った地方 政府を国は救済する責務が有るという憲法判断が 最高裁で下されたために、幾つかの州で深刻な債 務超過問題が発生していることなどを紹介してい る。そして一般的に憲法では国と地方政府の権限 分担が明確に定められていないので、財政困難に 陥った地方政府を国が救済するかもしれないとい う不確実性が生まれ、このため米国やスイスなど の一部の国を除けば、連邦制度を採用している多 くの国々でも、債務超過などの深刻な地方政府の 財政問題が発生しているとしている。
地方分権と地方政府の財政健全化を両立させる ためには、救済ゲームが実現しないように地方制度 を抜本的に改革して、借り入れのモラル・ハザード の発生を未然に防止する必要がある。このためには とするために①自治体も破綻という事態に立 ち至るという危機感を持たせて、地方政府が返済し ないという戦略を採り得る不確実性を取り除くか、
又は、 <( ×負債額)とするために②米国の事例 のように地方政府からの救済の申し出を実際に断 固として断ってみせて、財政困難に陥った地方政府 は国に救済されるという神話を打ち消す必要があ る。この点、例えば、②について米国では直近のカ リフォルニア州の財政問題への対応でも示された ように、連邦政府は州政府の如何なる救済の申し出 にも応じないという厳しい対応を長年積み重ねて きた。そして Jonathan(2006)氏は神話が形成され る連邦制成立時の国の厳しい対応が不可欠と指摘 しており、このため、既に、神話が形成され、また、
今回、その存在が再確認された日本で、神話を打ち 消すためには相当の政治的困難が予想される。
日本で地方分権と地方政府の財政健全化を両立 させるためには、①の不確実性を取り除くために、
国の適切な関与で地方政府が返済しないという戦 略を採れないようにして、現在の住民に自治体も破 綻という事態に立ち至るという危機感を持たせる 必要がある。そこで、再び、ナッシュ氏の 2 人協力
ゲームを用いて考えてみると、先ず、「いわゆる 破 綻 の意味することを明確」にして、これは地方政 府が債務を返済しないという戦略を採って、協力関 係を解消しようとする場合であることを明らかに し、債務を返済しないという戦略を採った場合のデ フォルト・ペイオフを十分引き下げて、地方政府が 意図的に債務を返済しないという戦略を採ること ができないようにしなければならない。このための 一つの手段として 再生型破綻法制 の整備が考え られるが、再生型破綻法制が機能するためには破綻 時の清算価値が存在する必要がある。
このために地方政府は住民へのサービスを継続 するために必要な資産を上回る、差し押さえ可能な 資産を管理していなければならない。しかし、これ はサービスを継続するため必要な収入を上回る徴 税を将来借り入れるために課すことを意味するの で、現在の住民と将来の住民の間の受益と負担の公 平を図る観点から問題がある。もともと再生型破綻 法制は破産制度の存在を前提にしているので、破産 能力のない地方政府に 再生型破綻法制 を整備し ようとすること自体が矛盾している。ナッシュ氏 の 2 人協力ゲームで考えてみれば、要は、意図的に は返済しないという戦略を採ることができないよ うにすれば良いので、例えば、地方政府が返済しな いという戦略を採った場合に何らかの財政的ペナ ルティを課して、返済しないという戦略のデフォル ト・ペイオフを十分引き下げることが考えられる。
このためには、例えば、返済しないという戦略を 採った地方政府への国からの一括補助金の支給を 差し止めるなど様々な手段があるだろう。
現行の地方制度では地方債の元利償還を交付税 で手厚く補助し、一方、地方政府が債務を返済しな いという戦略を採った場合に、手厚い元利償還の補 助を取り上げるという財政的ペナルティを課して、
地方政府のデフォルト・ペイオフを充分引き下げ、
①の不確実性を取り除いていると考えることがで きる。3-2. 地方債の国際比較でも明らかなように元 利償還の手厚い補助自体が極めて特異な地方制度 なので、詳細な国際比較を行えば地方政府の財政を 健全化するための手段を見つけることができるか もしれない。こうした地方制度の詳細設計は、残念 ながら、本論の守備範囲を超えることになるが、い