辰巳 憲一
4. J-REITのIPO
IPO研究で注目される主幹事証券会社に は、日興証券が2005年10月以降主幹事証券 から名を消したこと以外特記事柄はなく、
銀行系、外資を含めた大手証券が名を連ね ている。準大手以下の参入が稀であるため、
大手証券は名声がある、あるいは大規模 IPOの引受をしているなどの主幹事証券に 関する様々な仮説はJ-REITでは該当して いない。また、上場前の既存投資主の保 有分売却いわゆる売り出しはケースが少 ない。
(1)初期収益率
公開価格から初値への単純な%変化率で ある初期収益率を図1に掲げた。(平均、
標準偏差)は(2.2251、10.633)で、野村 不動産レジデンシャルを除くと(0.8442、
5.9817)になる。普通株の場合時期にもよ るが、平均が軽く10%を超えているのと比 較すると低い。J-REIT誕生以降IPO銘柄の 15件、3分の1以上で初値が公募価格割れを 起こしている。
(2)BB乖離率
仮条件と 公開価格の 関係を 調べ る た め に 、 B B 乖離率=2 ( 公開価格−仮条件平 均)/仮条件幅を計算してみた。J-REITの BB乖離率は市場創設から2003年12月22日 の10番目のIPOまでの2年3ヶ月の間は多少 ばらつく(仮条件上限に公開価格が決めら れるのは5件で頻度は50%)。しかし、以降
図1 初期収益率の推移
-20 -10 0 10 20 30 40 50 60 70
1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 25 27 29 31 33 35 37 39 41
IPOの順番
初期収益率(%)
は31件のIPOのうち4件の例外を除いて仮条 件上限に張り付く。この頻度は87%にな る。仮条件上限張付頻度はジャスダック取 引所では辰巳・桂山(2003)によると62%、
国際発行では33%であった。J-REITのIPO ではジャスダックIPOより高い。全期間を 通じて4件が仮条件内に収まっているに過 ぎない。
(3)投資口割り当ての効果
辰巳(2007)は米国においてIPO株の割 当を受けるグループ毎に初期収益率に与え る影響を分析した研究を展望している。そ れによると、割当率が高ければ初期収益率 は高くなる。初期収益率は割当をした特定 の投資口保有者に対する報酬かもしれない のである。
図2にはJ-REITでの動きを図示した。初 期収益率が極めて高い、野村不動産レジデ ンシャル、日本ロジスティクスファンド、
森ヒルズリートの3件が例外になるとして も、この仮説は強く成立していない。割り 当てられた投資口はロックアップされると いう要因も影響していよう。
5. IPOと流動性
流動性は発行市場にも様々な影響を及ぼ す。たとえば、流通市場における流動性が 乏しければ望む時に当該証券を購入するこ とはできず、投資家はそれが確実に購入で きる発行時に集中して購入するだけが残さ れた選択になってしまう。
Ellul-Pagano(2006)は、その銘柄が IPO後流動性がないと予想される場合、そ の不利益を補うためにアンダープライシン グ(低公開価格)は起こされるという非流 動性補完仮説(illiquidity compensation hypothesis)を提示し、米国普通株(つま
図2 初期収益率と割当率
-20 -10 0 10 20 30 40 50 60 70
割当率(%)
初期収益率(%)
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18
り同一アセット・クラス内の)データから 複数の流動性指標を使って検証した。
日本の債券IPOでは、米国と同様に初期 収益率がマイナスである。高い公開価格
(オーバープライシング(Matsui(2006)
を参照)、それゆえ流通利回りより低い発 行利回りが観察されるのはもっぱら非流動 性補完要因によると考えられる。
ま た 低流動性の 結果、 債券投資家が 買 い持ちをする傾向が生じ、長期保有であ れば時価評価は取得原価に基づいてよい という会計原則がその投資行動をサポー トしている。
6. J-REITの初期収益率と 流動性〜まとめ
J-REITの初期収益率は数%で、10%超の 普通株と比較して著しく低い。それはマイ ナスの債券、プラスの普通株の間に位置す る(さらにBB乖離率からみても公開価格は 高い)。
これらは流動性と正比例している可能性 が高い。アセット・クラス間には初期収益 率と流動性に比例関係がある。
参考文献
Ellul, A. and Pagano, M., "IPO Underpricing and After-Market Liquidity,"
Review of Financial Studies,
19(2), 2006, pp. 381-421.Jirasakuldech, B., Campbell, R. D. and Emekter, R., "The Predictability of REIT Returns and Volatility: Pre- and Post-1992 Comparison," April 11, 2006.
Matsui, K., "Overpricing of new issues in the Japanese straight bond market,"
Applied Financial Economics Letters,
2006, 2, pp. 323-327.種村知樹、稲村保成、西岡慎一、平田英明、
清水季子「国債市場の流動性に関する考察」
日銀、2003年12月25日。
辰巳憲一・桂山靖代「わが国店頭株式市場 の公開価格決定におけるブックビルディン グ方式」『証券経済研究』15号、2003年3月, pp.143-157。
辰巳憲一「IPO前におけるVCとBOなどファ ンドの行動:日米の研究」『学習院経済論 集』、2007年7月、Vol.44, No.2,pp.161〜
180。
Wang, Y. and Wei, P., "A First Look at the Liquidity of Asian REITs," Paper presented at Eastern Finance Association Annual Meeting, 2007.
(本研究は(財)全国銀行学術研究振興財団 からの研究助成にも基づいている。)
ARES REPORT
学習院大学経済学部教授。
1969年大阪大学経済学部卒業、1975年ペンシルベニ ア大学大学院卒業。ペンシルベニア大学ファイナンス 学部やLondon School of Economics客員研究員など を経て現職。『ストラクチャード・ポートフォリオ・マネジ メント入門』有斐閣、『金融・証券市場分析の理論』中 央経済社、などの著書がある。
たつみ・けんいち
調査対象の投資商品は、「実物不動産」、
「Jリート」、「海外リート」、「不動産プライ ベートファンド等」、「不動産を裏付けとす る債券」である。
質問項目は、投資対象ごとの「投資の有 無」、「対象不動産として関心のあるもの」、
「投資を検討するにあたり重要と思われる もの」、「期待投資収益率(総合収益率)」、
「アセットクラスの位置付け」、「投資の目 的」、「投資期間」、「運用委託形態(年金)」
等である。
(1)調査対象(アンケート送付先)
①年金
平成20年3月末現在で原則として、総資 産額140億円以上の厚生年金基金、基金型 または規約型の確定給付企業年金、適格退 職年金、公的年金、共済組合から抽出した 642機関
②一般機関投資家
生命保険会社、損害保険会社、信託銀行、
地方銀行、都市銀行等、計204社
(2)アンケートにおける投資の区分