戦略 4 :
配当成長に着目した銘柄選択戦略
REIT の企業価値向上は何によってもた らされるのだろうか。J-REIT の投資家が REIT に投資する目的は、間接的にせよ有 名なビルを保有する満足感などもあるかも しれないが、突き詰めれば配当金という REIT からのキャッシュフローであろう。
一般的な資産価格評価と同様に、不確実な 将来キャッシュフローをリスク調整された 割引率で割り引けば J-REIT の企業価値や 株価が計算できる注1。つまり、REITの企業 価値は不動産事業が生み出す将来キャッシ ュフローを基に決められ、負債比率や割引 率が時間によらず一定であれば、REIT の 株価は収益の増加によって向上する注2。そ うであるから、配当成長の高い銘柄は高い パフォーマンスを示すことが期待できる。
注1 将来キャッシュフローの見積もりにリスクを
反映させて、それを無リスク金利で割り引い てもよい。
注2 佐々木[2005]「J-REITの価値は、収益の増加 によって向上する」日銀レビュー2005年6月
グロース投資の理論的検証
REIT の株価は収益の増加によって向上 することをゴードンモデルで確認する。繰 り返しになるが、REIT の配当は当期利益 とほぼ同値である。よって、配当成長は利 益成長と同じ意味を持つ。
ゴードンモデル(定率成長型モデル)に おける株価の本質的価値をV0とする。
ここで、D1は翌期の予想配当、k は資本 コスト、g は長期的な配当の平均成長率で ある。ゴードンモデルにおいて、D1を所与 として、k が時間によらず一定であれば、g が増大すれば株価の本質的価値であるV0も 増加する。
以上の理論的背景を踏まえて、ここでは
(第 2 回/最終回)
三井住友アセットマネジメント株式会社 シニアファンドマネージャー 早稲田大学大学院ファイナンス研究科
配当成長の実績値を用いて「配当成長の高 い銘柄は高いリターンをもたらす」という 仮説のもと、配当成長に着目した投資戦略 の有効性を考察する。
分析の枠組み
投資家は将来の利益成長を予測して株価 を形成する。したがって、株価の変化には 将来の利益成長に対する期待の変化が織り 込まれる。しかしながら、市場が織り込ん でいる利益成長の値を観測するのは困難で あり、仮に推計できたとしても、推計値を 分析に用いた場合、結果の信頼性や客観性 が劣る恐れがある。よって、ここでの分析 においては、将来の予想値ではなく、配当 成長の実績値を用いて同期間のリターンを 分析することにする。つまり、配当成長の 実績が株価を説明できるかを調べる。
データセット
2004 年4 月以降のデータを用いて分析を 行った。具体的には、2004 年度上期(2004 年4 月から 10 月まで)に発生した実績配当 額と2005年度上期(2005年4月から10月ま で)に発生した実績配当額の連続複利ベー スの変化率注3と、2004 年4 月から10 月まで の各月末を始点とする 1 年間の投資収益率 との間の順位相関を調べた注4。以降、配当 の変化率は 6 ヶ月毎、リターンは月次でロ ールさせて相関を調べた。同様に、2004 年 度上期と2007 年度上期の配当の騰落率と該 当期間の総合収益率のデータを用いて 3 年 間の順位相関係数を調べた。投資期間1 年 の場合、2004 年度上半期の9 銘柄から2006 年度上半期の 22 銘柄までを、投資期間3 年 の場合2004 年度上期の 9 銘柄を分析対象と した。
図表5 配当成長とパフォーマンスの順位相関 1年,3年 投資期間1年
投資開始 N 順位相関 投資開始 N 順位相関 投資開始 N 順位相関
2004.04.30 9 0.8500 2005.04.28 13 0.5330 2006.04.28 22 0.0051 2004.05.31 9 0.5833 2005.05.31 13 0.7308 2006.05.31 22 0.0638 2004.06.30 9 0.6667 2005.06.30 13 0.7692 2006.06.30 22 0.3202 2004.07.30 9 0.7000 2005.07.29 13 0.6429 2006.07.31 22 0.1903 2004.08.31 9 0.5167 2005.08.31 13 0.6044 2006.08.31 22 -0.0819 2004.09.30 9 0.1500 2005.09.30 13 0.4560 2006.09.30 22 -0.1711 2004.10.29 11 0.3545 2005.10.31 16 0.2324
2004.11.30 11 0.5545 2005.11.30 16 0.4382
2004.12.30 11 0.6818 2005.12.30 16 0.4118 最大値 0.8500 2005.01.31 11 0.5455 2006.01.31 16 0.2676 最小値 -0.1711 2005.02.28 11 0.3273 2006.02.28 16 0.0265 平均値 0.3943 2005.03.31 11 0.4455 2006.03.31 16 0.0147 中央値 0.4418
投資期間3年
投資開始 N 順位相関
2004.04.30 9 0.3167 2004.05.31 9 0.2167
2004.06.30 9 -0.0333 最大値 0.3167
2004.07.30 9 -0.1000 最小値 -0.1667
2004.08.31 9 -0.0667 平均値 0.0278
2004.09.30 9 -0.1667 中央値 -0.0500 N:サンプル数
分析結果
ごとに固定、もう一方の1 年間の投資収益率 は月次でロールさせる。
結果考察
全体を通して見ると、投資期間1 年では 事前の想定どおり、配当成長の高い銘柄が 高いリターンを上げていた。特に、2004 年 度上期から2005 年度上期(2004 年4 月から 2005 年9 月)までに投資した場合の順位相 関は高く、同期間の配当成長の高い銘柄を 選んでおけば良いパフォーマンスを得られ た。REIT の株価は収益の増加によって向 上するということを考えると、理にかなっ た結果である。
相関の高かった 2004 年4 月から 2005 年9 月までの個別銘柄を見ると、分析対象とな った銘柄は主にオフィスビルに投資してい た。2004 年4 月時点では、分析対象9 銘柄 のうち主としてオフィスビルに投資するも のが 3 銘柄、オフィスとその他に複合投資 するものが 3 銘柄、多用途に分散する総合 型が2 銘柄、商業施設に投資するものが1 銘 柄であった注5。用途分散している銘柄があ るとはいえ、主要な投資対象はオフィスビ ルであり、オフィスビルの市況が各REIT の収益に強い影響を持っていたといえる。
そして、分析対象の時期はオフィスビルの 空室率が低下するなどオフィスビルの賃貸 市場が好調であり、賃料上昇期待が高かっ た時期と重なる。賃料上昇の実績が将来の 賃料上昇期待を形成した結果、配当成長と 同時期のリターンの間に高い順位相関が見
2006 年度上期を投資開始とする1年間では 相関が弱まっている。これは2006 年後半か ら 2007 年5 月にかけての REIT 価格の急上 昇とその後の下落の影響を受けたものと考 えられる。それまでは利益成長を重視する 投資家がREIT の価格形成を主導していた が、新たな投資家の参入による一時的な 需給の偏りやREIT 価格のブームが発生し たことによって、それまで説明力の高かっ た 配当成長の 説明力が 低下し た と 考え ら れる。
注5 2005 年9 月時点では、13 銘柄中、オフィス4 銘柄、オフィスその他の複合3 銘柄、多用途 の 総合 3 銘柄、 商業 2 銘柄、 住居 1 銘柄と 2004 年4 月に比べるとやや分散が進んだ。
結論と留意点
全体を通して見ると配当成長とリターン は比較的高い順位相関を有していた。よっ て、配当成長の高い銘柄は高いリターンを もたらすという仮説は支持され、配当成長 に着目した銘柄選択は有効と判断できる。
しかし、注意深く考察すると、今回の結果 は主に不動産市況が良好な時期を分析した 結果であり、あくまでも限定的かつ暫定的 な結果と見るべきかもしれない。不動産市 況が悪化し、利益の減少による減配が生じ る局面で、各REIT がどのような価格形成 を示すかはデータが無いため分析できてい ない。もし、相場下落局面で相対的に減配 の小さい銘柄がアウトパフォーム、減配の 大きな銘柄がアンダーパフォームすること がわかれば、配当成長の説明力がより説得
力を増すことになる。一方、相場下落局面 では配当減少の説明力が低下し、別の要因 が 価格形成に 主導的な 影響を 持つ と す れ ば、配当成長は相場の局面に依存する要因 ということがわかる。ブームとその後の急 落を経て再び配当成長の説明力が回復する か、不動産市況が悪いときにも配当成長が 説明力の高い要因となるか等、状況に応じ た今後の更なる分析を行うことで、この戦 略の頑健性を確認することができる。
実物不動産と証券投資の違いに注目 REIT 投資は証券投資である。実物不動 産への投資と証券投資の違いで特徴的なも のに「流動性」と「分散」がある。REIT の株価には不動産価値(1 口当たり NAV)
との乖離があり、通常は株価が不動産価値 を上回るプレミアムの状態にある注6。これ
は、不動産の集合体を金融商品化し、証券 取引所に上場させたことによる流動性プレ ミアムと不動産ポートフォリオの分散効果 によるスケールメリットに対するプレミア ムが影響していると考えられる。流動性と ポートフォリオの分散が株価形成に影響し ていると仮定し、それがパフォーマンスと どう関係するかを調べる。
注6 P/NAV の分析で多くの銘柄で平均回帰水準 が1を超えていた。
戦略 5 :
流動性に着目した銘柄選択戦略
投資家は流動性の高い銘柄に高い プレミアムを払うか
実物不動産投資と比較した REIT 投資の メリットとして高い流動性がある。実物不 動産は不動産市場で相対で売買相手を探す 必要があるが、REIT であれば証券取引所 で即時に売買が可能である。実物不動産と 第 5 章:証券投資に着目した投資戦略
図表6 流動性とパフォーマンスの順位相関 1年 投資期間1年
投資開始 N 順位相関 投資開始 N 順位相関 投資開始 N 順位相関
2004.04.30 12 -0.1608 2005.04.28 15 0.3071 2006.04.28 30 0.5097 2004.05.31 12 0.2098 2005.05.31 16 0.1176 2006.05.31 30 0.3459 2004.06.30 12 0.3636 2005.06.30 16 0.0588 2006.06.30 31 0.2540 2004.07.30 12 0.3776 2005.07.29 17 0.0833 2006.07.31 34 0.2021 2004.08.31 13 0.0659 2005.08.31 21 0.3857 2006.08.31 34 0.5095 2004.09.30 13 -0.3077 2005.09.30 21 0.5571 2006.09.30 37 0.6292 2004.10.29 13 0.0385 2005.10.31 22 0.6917
2004.11.30 13 -0.0440 2005.11.30 25 0.2692
2004.12.30 14 -0.0462 2005.12.30 26 0.3080 最大値 0.6917 2005.01.31 14 0.2440 2006.01.31 26 0.5323 最小値 -0.3077 2005.02.28 14 0.2879 2006.02.28 26 0.4557 平均値 0.2673 2005.03.31 15 0.2929 2006.03.31 27 0.4792 中央値 0.2904
分析結果
柄によって異なるから、投資家が流動性の 高い銘柄を好み、流動性の乏しい銘柄を敬 遠するとすれば、流動性の高い銘柄はアウ トパフォームし、流動性の低い銘柄はアン ダーパフォームすると予想できる。よって、
「流動性の高い銘柄は高いリターンをもた らす」という仮説を立て、流動性に着目し た投資戦略の有効性を考察する。
データセット
個別銘柄の流動性を日々の出来高に終値 を掛け合わせた取引額で定量化する注7。そ の上で2004 年4 月以降のデータを用いて分 析を行った。具体的には、2004 年4 月から 2006 年9 月までの各月末を始点とする 1 年 間の取引額と投資収益率との順位相関を調 べた。対象銘柄数は2004 年4 月時点で12 銘 柄、2006 年9 月末時点で37 銘柄である。
注7 出来高×終値で1 日の取引額を算出し、それ を1 年間累積させる。
結果考察1
順位相関の平均値は0.2673 であり、流動 性の高い銘柄ほどパフォーマンスが良い傾 向が見られた。流動性の高い銘柄は高いリ ターンをもたらすという仮説は説得力を持 ち、流動性に着目した投資戦略の有効性は 高いと判断できる。流動性の乏しい銘柄は 板において値が飛ぶケースが散見され、マ ーケットインパクトを含めた執行コストが 高くなりがちである注8。そのため、流動性 の低い銘柄はリスクの高い銘柄とみなさ
での3 ヶ月間の日次データで1 日平均の売買 金額を調査したところ、最大は日本ビルフ ァンドの5,138百万、最小は東京グロースの 14 百万円だった。取引金額の大きな上位5 銘柄だけで全体の取引金額の 49.4 %を占 め、上位20 位(半数の銘柄)で86.6 %を占 めた。残り20 銘柄は取引金額の13.4 %しか 関与していない。また、1 日の平均売買金 額が5 億円に満たない銘柄が40 銘柄中24 銘 柄、3 億円に満たない銘柄は 17 銘柄もあっ た。このように、銘柄によって売買の活発 さ(流動性)は大いに異なる結果となった。
[Appendix-A1]
J-REIT は市場規模が小さいこともあり、
大口の資金を動かす機関投資家であれば、
取引が活発で流動性の高い銘柄を好み、流 動性の乏しい銘柄を敬遠するだろう。流動 性の観点からは、流動性の高い一部の銘柄 が機関投資家の資金を多く集めてアウトパ フォームし、流動性の低い銘柄は機関投資 家の資金をあまり集めることができずアン ダーパフォームしたと考えられる。
注8 売買の成立を優先させて成行き執行すると買 い上がり、または売り崩しとなってしまう。
市場への影響を抑えようと指値注文すると売 買不成立、または成立に数日を要することに なる。
結果考察2
投資開始時期が古いときは相関が低く、
投資開始時期が最近なものほど相関が高ま る傾向も見られた。時間経過によって順位