第1章 障害者の労働の権利:国際的な法的文書と
1.15 ILO第159号条約
すでにILOが、1955年の職業更生(身体障害者)勧告(第99号)の改定、あ るいは新たな国際文書の採択を検討することを提案していたこと(前記 1.6を 参照のこと)が思い起こされよう。第99号勧告は条約に結びつかなかったもの の、国内法と国内慣行に影響を及ぼすことにおいて重要な役割を果たした。こ のことを確認したのが、ILO事務局長の1964年報告における見解である。それ によれば、条約は義務を定めるが、その一方で、特定の分野においては「広く 受け入れられ得る基準のほうが、それほど広く引き受けてもらえそうもない義 務よりも、実際にはいっそう効果的であること」(ILO 1998年 4頁)はあり得 るのである。
ILOは、国連障害者年のテーマである「完全参加と平等」と、障害者に関す る世界行動計画の目標とに依拠して、職業リハビリテーション及び雇用(障害 者)条約(第159号)と勧告(第168号)を1983年に採択した。この条約は、国 内事情、国内慣行、国内での実現性に従って、障害者の職業リハビリテーショ ンと雇用に関する国家の政策を策定し、実施し、定期的に再検討することを加 盟国に求めた。完全参加が新たに強調され、それは第1条2項に反映された。
それによれば、職業リハビリテーションの目的は、障害者が適切な雇用を確保 し、維持し、その雇用において向上することを可能にし、「それにより社会へ の障害者の統合又は再統合の促進を図ること」(強調は引用者による)にある。
3 障害についての伝統的なアプローチは、障害を個人の問題とみなすものであった。この場合の政 策的な対応は医学リハビリテーションによって障害の軽減又は除去を試みたり、療養支援や福祉支 援を提供したりする傾向があった。一方で、機会均等化は、社会がすべての成員に対して参加のた めの平等な機会(すべての者が享有する平等の権利を行使する機会)を提供しないときに社会が個 人を障害者にさせることを認めるものである。
この括弧内の強調部分は、第99号勧告につけ加えられたものである。「平等」と いう目標は本条約の第4条に取りこまれた。
「第2条の政策は、障害のある労働者と他の労働者との間の機会均等の原則 に基づくものとする。障害のある男女の労働者の間における機会及び待遇の 平等は、尊重されなければならない。障害のある労働者と他の労働者との間 の機会及び待遇の実効的な平等を目的とする特別な積極的措置(special positive measures)は、他の労働者を差別するものとみなしてはならない。」
ここでの引用部分において、障害のある男性と女性の両者が明瞭に認識され ていることが注目されよう。この条約は、国内で政策を実施するために講ぜら れるべき措置を定めている。この条約はまた、約30年前の第99号勧告がそうで あったように、関連サービスを提供する必要性のみならず、それを継続的に改 善するために、それを評価する必要性をも加盟国に想起させる。平等のテーマ は、たとえば次のように第168号勧告を貫くものである。
障害者は、可能な場合にはいつでも、自ら選択しかつその適性が考慮され た雇用に就き、それを継続し、それにおいて向上することについて、機会 と待遇の平等を享受すべきである(第7条)。
職業リハビリテーションや雇用に関する支援を障害者に提供するに当た っては、男女の労働者の間の機会と待遇の平等の原則を尊重すべきである
(第8条)。
労働者一般に適用される雇用及び賃金の基準に合致する障害者の雇用機 会を促進するための措置を講ずるべきである(第10条)。
この勧告が加盟国に想起させたのは、これらの措置の中には、訓練と雇用を 促進することを目的とする「作業場・職務設計・作業具・機械・作業編成の合 理的調整(reasonable adaptations)」を含めるべきであるということである。国 際的のみならず国内的にも生じつつあった「ケア」から「権利」へのモデルの 転換がすすんできたことから、この勧告は、「雇用分野における障害者の権利及 び機会について」障害者は知らされるべきであることを率直に述べている。
1.15.1 ILO第159号条約の実施の監視
ILOの条約・勧告適用専門家委員会(Committee of Experts on the Application of Conventions and Recommendations)は、加盟国による国際労働基準の関連義務
の遵守を定期的に監視する責任を有する二つの監視機関のうちの一つである。
(もう一つの定期的な監視機関は、基準適用総会委員会。)この委員会の委員は、
ILO理事会により、再任可能な3年の任期で任命される。委員は、世界のあら ゆる地域から、専門的能力を有し、独立した立場にある公平中立な者の中から、
個人の資格で任命される。委員会は、加盟国がその批准した条約の規定を実施 するために講じた措置に関する定期報告を審査する。
第159号条約と第168号勧告の規定の実施に関する一般調査(General Survey)
の報告において(ILO 1998年)、委員会は、地球的規模の競争や労働市場の規 制緩和によって特徴づけられる状況の下で特別な注意が払われるべきは、障害 者の雇用における機会均等と均等待遇の原則である、との見解を示し、この条 約がすべての加盟国で適用され得るものであることを強調した。
「第159号条約は、促進的条約(promotional convention)である。すなわち、
この条約は目標を設定し、それを達成する際に遵守されるべき基本的原則を 定める。この条約の規定はその目標の達成に関して柔軟性を有するゆえに、
各国における支配的な状況を十分に考慮に入れることができる。障害者の職 業リハビリテーションと雇用をめぐる活動がどの段階に達しているにせよ、
この条約の規定はすべての加盟国に適用されうる」。
委員会は、政府とソーシャル・パートナー(社会的パートナー)との協議が 基本的な重要性を有することを想起して、職業リハビリテーション及び雇用の 問題について障害者の代表団体と協議することが協議過程の非常に重要な要素 である、と強調した。さらに委員会は、加盟国に対し、障害者自身の真の代表 団体の結成を促進することを強く求めるとともに、そのような団体と職業リハ ビリテーションに従事する行政機関及び専門機関との間の交流を容易にするこ とも強く求めた。
委員会は、諸政府が農村やへき地で生活している障害者の状況に関する詳し い情報を提供しなかったことに留意して、彼(女)らが障害を有することと、
一般住民や都市部の障害者には利用可能なサービスに手が届かないことによる 二重の影響を被っている旨を指摘した。また委員会は、一部の障害者を地域社 会の経済的・社会的な生活に統合する場合には、地域社会に根ざしたリハビリ テーション計画が重要である、と強調した。
委員会は、一般住民に提供される職業指導、職業訓練、職業紹介、雇用その 他のサービスの障害者による利用に関する国内慣行の一般的な動向に注目して、
障害者を主流化する過程が職業生活及び社会における障害者の地位や役割に対 する否定的な観念や態度を変えるのに相当大きく寄与してきたことに留意した。
委員会は、その総括的な所見において、第159号条約の規定の実施と第168号 勧告が奨励している措置の実施が、必ずしも莫大な資源(resources)を必要と するものではなく、関係主体の関与の度合いに左右されることを強調した。委 員会は、このことと両文書が国内の状況や条件の多様性を考慮に入れていると いう事実とに照らして、本条約を批准していない加盟国に対して批准を求めた。