第1章 障害者の労働の権利:国際的な法的文書と
1.20 障害者の機会均等化に関する国連基準規則
障害者の機会均等化に関する基準規則は、1993年12月20日に国連総会で採択 された(決議48/96)。国連経済社会理事会は、国連総会に対する決議(1993年 10月1日のA/C 3/48/C.3)において、この基準規則を次のように記述した。
「基準規則は強制力を持たないものの、国際法の規則を尊重することを意図 して多くの国家により適用される場合には、国際慣習規則となりうる。基準 規則は、障害者の機会均等化のために措置を講ずる、という諸国の道徳的か つ政治的約束を含意する。基準規則には、責任、行動、協力のための重要な 原則が示されており、また生活の質並びに完全参加と平等の達成のために決 定的に重要な諸分野が指摘されている。基準規則は障害者とその団体に対し、
政策形成及び行動のための手段をもたらす。基準規則は、国家と国連と他の 国際機関との間の技術協力と経済協力の基礎となる。」(6頁)
基準規則には、意識向上から国際協力まで、22の規則がある。雇用は規則7 で扱われている。
「国家は、特に雇用分野において、障害者が人権を行使するために、彼(女)
らに自己決定を可能にする条件を与えなければならない、という原則を認
めるべきである。農村と都市の双方で、障害者は労働市場における生産的 かつ有償の雇用について平等な機会を持たなければならない。
1. 雇用分野における法令と規則は、障害者を差別してはならず、その雇用 を妨げる障壁を生み出してはらない。
2. 国家は、開かれた雇用に障害者を統合することを支援すべきである。こ の積極的な支援は、多様な措置(たとえば、職業訓練、奨励的な割当雇 用制度、留保雇用・指定雇用、中小企業向けの貸付・助成、独占的な契 約・優先的な生産権、税額の控除、契約の順守、又は障害者を雇用する 企業に対する技術的・財政的援助)を通して行うことができる。国家は、
使用者が、障害者に配慮するために合理的調整(reasonable adjustments)
をおこなうことを奨励すべきである。
3. 国家の行動計画には次のものが含まれるべきである。
(a) 作業場や職場内をさまざまな障害者にとってアクセシブルなものと なるように設計し、適合させるための措置。
(b) 新たな技術の活用の支援と、支援機器・支援器具・支援設備の開発と 生産の支援。障害者が雇用に就き、これを維持することを可能とする ために、障害者による当該機器・設備へのアクセスを容易にする措置。
(c) 適切な訓練、職業紹介、継続的支援(たとえば、パーソナル・アシス タンスや通訳サービス)。
4. 国家は、障害のある労働者に対する否定的な態度と偏見を克服すること を意図した公衆啓発活動を開始し、支援すべきである。
5. 国家は、使用者としての資格において、公的部門における障害者の雇用 のために、良好な条件を創出するべきである。
6. 国家、労働者団体及び使用者は、衡平な採用政策・昇進政策、雇用条件、
給与、傷害・機能障害(injuries and impairments)を防止するために労働 環境を改善する措置、そして職務上傷害を受けた従業員のリハビリテー ションに関する措置を確保するために、協働すべきである。
7. 障害者が開かれた労働市場において雇用を得ることを、常に目的とすべ きである。開かれた雇用において自己のニーズを満たすことのできない 障害者にとっては、小規模の保護雇用又は援助付き雇用の制度が、その 代わりになる場合がある。このようなプログラムは障害者が労働市場で 雇用を得る機会を提供するに際して関連的な重要性を持ち、かつ十分な 内容を有するか、という観点から、その質が評価されることが重要であ る。
8. 民間部門とインフォーマル・セクターにおける訓練と雇用計画の中に障 害者を含めるための措置がとられるべきである。
9. 国家、労働者団体、使用者は、訓練機会と雇用機会を創出するために講
ぜられるすべての措置(変形労働時間、短時間勤務、仕事の分担、自営、
障害者の介助サービスを含む)について、障害者団体と協力すべきであ る。」(国連 1994年 25-27頁)
基準規則の実施を監視し、その結果を国連社会開発委員会に報告する特別報 告者の任命について、基準規則は規定している。基準規則の促進、実施、監視 に関する助言又は見解を提示するために、国際的な専門家委員会は、特別報告 者あるいは必要な場合には事務局と協議することができる。
国連総会が障害者の権利条約の策定に関する合意に達し得ず、その代わりに 法的拘束力のない基準規則が採択されたことには、当然のことながら失望感が みられた。たとえばデゲナーとクイン(2000年)は、「代償的な代替文書」とし て基準規則当時の差別防止少数者保護小委員会の特別報告者であったデスポイ は、障害者の人権の尊重を監視するための国際的な機関又は仕組みの設置を、
「非政府団体の最も切望している目的の一つ」であると記した。基準規則の策 定作業が終わりを迎えていた1993年に提出した報告書において、彼は次のよう に述べている。
「国連障害者の十年の間には多くの措置が講ぜられ、障害者にとって多くの 貴重な成果がもたらされたが、わたしは次のように言わなければならない。
すなわち、この十年の終結時において、障害者は、難民や女性、移住労働者 のような他の弱い立場にある集団と比べて、法的に不利な状況に自らが置か れていることを知りつつある。難民や女性、移住労働者は、女性差別撤廃条 約や移住労働者権利条約のように、法的拘束力のある単独の規範文書による 保護を受けている。さらに、これらの条約は、保護のための特別な仕組みと して、条約の遵守を監視する責任を負う女性差別撤廃委員会や移住労働者権 利委員会を設けている。(中略)障害者の人権が尊重されることを監視する 責任を負い、かつ障害者に特定の人権侵害が発生した場合に内密に又は公然 と行動する責任を負う特別の機関は存在しない。一般規範、国際規約、地域 条約等によって、障害者は他の者とひとしく保護されていると言うことがで きる。これは確かに事実であるが、障害者は他の弱い立場にある集団とは異 なり、独特の及び特別の保護を供するための国際的な監督機関を有していな いことも事実なのである。」(Despouy 1993年 40-41頁)