第3章 就業及び雇用を促進する方策
3.3 雇用に向けての訓練
雇用に向けた障害者の訓練は、多くの点で、特別の施設でのプログラムから 一般の求職者対象のプログラムへと移行しているようにみえる。この移行が初 期段階にあり、ほとんどの場合訓練はまだ特別の施設で行われている国もあれ ば、大多数の成人障害者は一般のプログラムで訓練を受けている国(たとえば 英国)もある。スウェーデンでは、障害者雇用政策は全て一般の労働市場政策 の一部である。しかし、大多数の国では、様々な困難を経験しているようであ る。失業率の高さが状況を悪化させることもあり、特に障害者の場合はこれが 顕著で、訓練修了後であっても適切な職を見つけることが困難となっている。
一般の訓練への障害者の統合が初期段階にある国では、特別のクラス、学校 及び訓練施設がまだ一般的である。公共、民間機関を問わず、これらの特別サー ビス提供機関の多くにおいて、カリキュラムは伝統的に障害者に適すると見な される仕事に関連したものになりがちである。訓練と、労働市場で要求される 技能の間のミスマッチは、就職の可能性を妨げ、多くの障害者の持つ潜在能力 に対する使用者の否定的な認識を助長しかねない。
障害者が一般の訓練を受けることが奨励されている場合でも、それを選択す る者は相対的に少ない、という報告が、いくつかの国から出されている。その 理由として、訓練センターの物理的なアクセスが悪い、訓練の実施場所が遠隔 あるいは不便である、訓練コースが適切でない、交通の便が悪い、託児施設の 不備及び/又はコストが高い、コース内容あるいは教授法が柔軟性に欠けてい る、等があげられている。
一般の訓練への統合を推進している国ではこれらが認識されており、問題解 決に向けた取り組みを開始、又は計画している。オランダでは、障害者が基本 的な資格を取得する機会を増やすために、職業・成人教育における物理的なア クセスが改良されつつあり、より柔軟な単位(モジュール)制徒弟訓練コース が計画されている。フランスでは、「フレッシュ・スタート」の取り組みと、徒 弟訓練の一層の発展による障害者の個別支援、訓練と企業での仕事を交互に行 う「サンドイッチコース」、及び通常の労働環境における職業生活への準備があ わせて進行中である。英国では、障害者は一般プログラムへの優先権を持ち、
障害者の就職及び雇用の継続を支援するため、専門家チームが公共職業安定所
(ジョブセンター)で活動している。ドイツでは特別の準備訓練プログラムが 導入され、この中には学校から職業生活への移行にあたってのアドバイスや支 援も含まれる。また、より効果的に労働市場の要求に応えることができるよう、
職業訓練センターのコースも手直しされている。オーストラリアでは、個人の ニーズに合わせた短期コースが地方レベルで開発されてきた。通常12ヵ月間の コースは、障害者の場合、必要に応じて延長が可能である。スウェーデンでは、
学校と職業紹介サービスの協力が推進されてきた。
障害が重度の場合、就業のための訓練は特別の施設内で、あるいは保護雇用・
援助付き雇用プログラムとして実施されることが多いが、オーストラリアでは 通常の賃金補助プログラムに参加できない者のために、全額を補助して労働経 験(通常は民間部門での)を提供するプログラムを実施している。
また、訓練及び雇用機会の提供に対して使用者の関与をより直接的なものに
するために、財政面その他の奨励策を通した努力が払われている。ベルギーに は、使用者主導の障害者職場訓練契約制度がある。使用者には、訓練契約終了 後に訓練生を雇用する義務はないが、雇用に進むケースが多い。また、使用者 団体、労働者団体、政府及び障害関係非政府組織の代表者からなる訓練・雇用 諮問委員会が、政策や実践綱領の策定を支援し、利害関係がある各部門間の協 力や調整を図るという重要な役目を担っている。
3.3.1 重要課題
障害のある労働者は、特に全体の失業者数が増大している場合、他の求職者 より不利になりがちである。こうした状況の原因の一部は無知と偏見であろう が、重要な問題は、多くの場合、関連した技能あるいは資格の点で競争力に欠 けていることである。使用者が新規採用を考える場合、最初の、そして最も重 要な要素は、(必要な場合には、合理的配慮をして)職務を遂行する能力である。
必要な能力を持っていること、あるいは適当な訓練を受ければそれを獲得でき る能力があることを示すことができる求職者は、それができない求職者より有 利である。訓練は技能、知識及び態度を包括したものであるべきで、これはき わめて多くの場合、うまく仕事を見つけるためのかぎとなる。障害者にとって、
資格を有する指導員のもとで、可能なら何らかの認定資格を取得できるような 専門的訓練を受けることは、雇用への重要なパスポートである。ILO第159号条 約が要求している、障害者の職業リハビリテーション及び雇用に関する国の政 策が非常に重要なのは、このためである。障害者には働く権利があるが、その 権利を行使できるようにする手段が提供されなければならない。特に失業率が 高い時期における職業訓練政策及び措置の優先順位は、もしそうしなければ労 働市場でさらに不利となる最弱者に与えられなければならない。
かつては障害者訓練の対象となっていた仕事の多くは、特に工業国では、す でに存在していない。常に全てのプログラムをニーズに合ったものにするため に、訓練プログラムが現在の、そして将来予測される労働市場の要求に合って いるか、厳密に検討する必要がある。
仕事あるいは訓練を求める多くの障害者にとって、物理的なアクセスはまだ 主要な障壁である。これは、訓練施設あるいは職場だけではなく、一般の従業 員が多かれ少なかれ利用している公共交通、住居、店舗、レストラン、レクリ エーション施設等の地域の建物環境にも当てはまる。多くの場所がかなり改善 されてはきたが、全般的には進展は遅く、結果として、多くの障害者が排除さ
れている。
政府内の省庁・局間の調整が不備なことも、多くの障害者の働く権利を妨げ る要因である。政治的意志がある場合には、これが効果的に解決された事例が 多い。
多くの国が、障害者の訓練・雇用サービスにおける「メインストリーム(一 般のサービスへの統合)」の原則を採用している。しかし、単に原則の受け入れ、
あるいは省庁間での責任の移管だけで、進展がみられないケースもある。障害 者が他の人びとと平等に参加するには、物理的なアクセス、職務・訓練の内容、
訓練装置・材料、指示の方法等において、必要であれば、合理的配慮が提供さ れねばならない。また、このシステムの管理・運営に責任を持つ職員は、必要 な知識・技能だけでなく、態度に関しても、十分な訓練を受け、習得していな ければならない。
訓練プログラムの統合化は、上述したもののほかにも多くの問題を内包する。
例えば、訓練の成果を評価する際の基準を考えることが重要となる。ある失業 労働者グループの訓練プログラムを評価するのに使われる、就職率のような指 標は、他の場合には必ずしも最適とはいえない。職業訓練プログラムの就職見 込みを高めるために、「クリーミング(最も出来の良いものをとる)」あるいは、
最も成功しそうな者を選ぶという現象が(必ずしもいつも認められるわけでは ないが)見られる(より詳細な議論は、たとえばOECD 1986年)。