• 検索結果がありません。

/Graphen

ドキュメント内 表紙 (ページ 85-88)

電極二相界面の ナノ領域シミュレーション

Pt 10 /Graphen

2005.Vol.3

82 2005.Vol.3 83

 白金 (Pt) /カーボン (C) の基本的な相互作用を 明らかにするため、グラファイトの一層に相当す るグラフェンシートと、(1)  Pt(111)  単層膜、(2)Pt 原子、(3)Pt10クラスター、の各々との間の相互作 用を、第一原理計算により検討した。その結果、

Pt(111)  一層との相互作用はきわめて弱いが(平衡 界面間隔 3.48 Å、結合エネルギー 0.09eV/atom)、

白金原子では一定の相互作用があること(平衡 Pt-C 距離 2.31 Å、結合エネルギー 2.82eV/atom)、

白金クラスターでは両者の中間であること(最短 の Pt-C 距離 3.02 Å)が判明した。クラスターの 底部の原子は炭素原子に接近して沈んでいる。し かし界面の電子移動や軌道混成は顕著ではない( )。実際の系ではグラフェン上の炭素原子空孔や ステップ、エッジとの相互作用が重要と考えられ る。現在その計算を推進中である。

c) 白金の合金化効果の第一原理計算

 Pt(111) 原子層の積層モデルに、ルテニウムなど 合金成分を挿入し、表面の電子状態変化を第一原 理計算で検討している。ルテニウムについては、

表面よりも第二層に存在した方が安定であること が判明した。表面電子状態では、第二層のルテニ ウムの存在が、フェルミレベル付近に特徴的な空 の準位を生むことが見出された。今後の分子吸着 計算への展開が期待される。

(4)  電極反応をミクロに理解するための計算手法開 発(杉野修 東京大学物性研究所)

 電極表面では電位差効果により電荷が誘起され、

それが水溶液により遮蔽されるため強い電場が発 生する。この特殊な状況では表面と溶質分子の間 の電子移動が起こり、それが引き金になって他の 状況では不可能なような酸化還元反応も容易に起 こる。この電気化学反応をミクロに理解するため には、電子移動過程も加味した計算をする必要が ある。第一原理計算をどのように改良すればそれ が可能になるか、その答えを探るのが当グループ の課題の一つであり、二つの方向からのアプロー チを試みてきた。

 第一の方法は、図5の様な金属 / 水溶液界面モ デルにおいて、金属が電極と接し水溶液との電位 差が一定に保たれることを取り入れた新しい第一 原理分子動力学法である。もし反応が進んで例え ば金属から溶質分子に電子が移動し始めると電位 差にずれが生じるので、これを一定に保つには電 極から電子が供給されなければならない。本手法 では仮想電極から電子が供給されるという統計力 学的モデルを採用している。その場合水溶液は無 限遠まで取り入れる必要が生じるため、それをま ともに計算することは不可能である。しかしこの 問題は水溶液を表面付近とそれ以遠の領域に分け て後者を遮蔽体モデルとして取り扱うことにより 回避することができる。このため本手法を有効遮 蔽体法 (Effective  Screening  Medium:  ESM) とよ ぶ [2]。この独自の方法の完成により電位差一定と いう条件を満足する第一原理計算が初めて可能に

図7 グラフェン上の白金クラスターの第一原理電子状態計算

2005.Vol.3

84 2005.Vol.3 85

なった。実際、上記「4.-(2)  電極表面の水の構造と 電極反応」で示したシミュレーションではこれを 用いた大規模計算が行われている。

 第二の方法は、電子が移動する動的過程まで取 り入れたより高度な計算である。電子が実際に移 動するかどうかは、厳密には上記の断熱的な取り 扱いだけでは不十分であり、非断熱的結合まで計 算に取り入れる必要がある。そのために第一原理 から動的電子過程を計算する理論(TDDFT とよ ばれる)が利用できるが、金属中の広がった状態 から溶質の局在した状態への遷移を扱おうとする と十分な精度がでないことが知られている。これ を克服するために新たなアルゴリズムを開発し、

少なくとも二原子分子内の遷移に関しては、かな り改善が見られることがわかった。

 電極触媒反応の計算はこれまであまり手をつ けられてこなかったが、計算手法の開発によりい よいよ本格的な第一原理計算が開始できる段階と なった。これからの大規模計算からそのミクロな 姿が明らかになるものと考えられる。

[2] M. Otani and O. Sugino, to be published in Phys.

Rev. B (2006)

(5) 電気化学系シミュレーション (池庄司民夫 産 業技術総合研究所計算科学研究部門)

 当グループでは、電気化学系全体の中でのシミュ レーションがどのように活用されるかを考えつつ、

他のグループと協力してシミュレーションの実行 および手法開発を実施している。

 燃料電池は、2個の電極とそれを結ぶイオン伝 導体からなっている。イオン伝導体としては、簡 単には水溶液でも発電できるが、効率を考えると イオン選択透過膜が必要であり、室温から 100℃

程度の温度では Dupond 社のナフィオンに代表さ れるフッ素系の高分子電解質膜が使われる。これ は、プロトン選択透過膜であり、水クラスターを スルフォン基が取り囲むようなメゾ構造を有して いる。ところで、プロトンは水溶液中で、Gröthuss 機構と言われる特異的なプロトンジャンプで通常 の拡散の 10 倍程度の早さで移動することが知ら れている。このような機構が電解質膜内でも期待 されているが、スルフォン基や周りの高分子にど のように影響されるかはわかっていない。そこで、

第一原理分子動力学によるシミュエーションを開 始した。シミュレーションに必要な各原子の初期 座標は、兵頭グループが彼らが得意としてマルチ

スケールシミュレーションを活用して、DPD(散 逸動力学)でメゾ構造を作り、それから MD(分 子動力学)で原子位置を作った。ナフィオンと水 分子の合計 400 原子程度の系の計算が、現在、大 規模な PC クラスタコンピュータ上で進行してい るが、図5の電極反応のシミュレーションで見え たのと同様なGröthuss機構によるプロトンの早い 拡散が得られている。電極反応での電場のかけ方 とは異なる均一電場を印可する方法も適用して、

ナフィオン中のプロトン伝導を求める予定である。

 本シミュレーションは、最終的には電極反応の ミクロなシミュレーションおよび電気化学系の巨 視的なシミュレーションに活用される。

(6)  電極を中心とした総合システムとしての見方 

(兵頭志明 ( 株 ) 豊田中央研究所)

 池庄司チームの研究テーマは、その課題名が示 す通り電極表面と表面近傍の電解液とが形成する 二相界面のダイナミックスをナノスケールで計算 予測する方法の開発である。計算の対象としては、

主に高分子電解質形燃料電池を想定している。電 極表面近傍での構造変化、状態変化を問題とする ために中心となる方法は電子状態計算になる。ど のようなアプローチをしているか、については本 項以前に他の研究グループの責任者による解説が あるが、それぞれが関係を持ちながら、新たな計 算理論、計算方法の開発を進めていることがお分 かりいただけると思う。ここで問題となるのは、

これらの新計算法がどのように関連し、どのよう な役割を受け持って総合的な電気化学系である電 池の特性につながる情報を与えるようになってい くのか、という点である。電極は電池にとっては 極めて重要な構成要素であり、その上で起こって いる電気化学的過程を信頼性を持って予測できる 理論的方法が提案できることは、基礎研究として も応用研究への発展性としても極めて魅力的な内 容を有している。しかしながら、図8に模式的に 示したように、高分子電解質形燃料電池の電池特 性には電解質膜層でのプロトン導電性やセルの両 側からの燃料ガス、酸素ガスの供給のされ方、ま た生成水の排出のされ方といった、電極近傍での 分子過程とは異なる時空間スケールを持った現象 が関連しており、これらを総合的に捉える道筋を 作ることによって、電極二相界面における電子・

分子過程のシミュレーションが電池特性の予測へ とつながる情報を与えられるものになっていくと 考えられる。

池庄司チーム 池庄司チーム

2005.Vol.3

84 2005.Vol.3 85

 豊田中央研究所では、いわゆる粗視化動力学計 算法を用いたナノメートルからマイクロメートル スケールでのシミュレーションをバックグラウン ドとして有しており、電解質高分子と水からなる 系のナノメートルスケールでの共連続構造の計算 予測や金属触媒微粒子構造によって規定される静 電的境界条件の下での吸着分子系の階層的電子状 態計算、排ガス浄化触媒系での多孔質構造体内で の気体分子拡散と触媒表面での反応速度式をカッ プルさせた巨視的シミュレーションなどの実績が ある。また、粗視化に伴う分子スケールでの自由 度の平均化の過程についての詳細な解析を行うこ とにより、平均化される分子スケールでの情報 が粗視化動力学計算にどのように反映されるかと いった基礎的な検討も進めている。さらに、燃料 電池の開発そのものに伴う、電気化学特性のシミュ レーション法の検討も進めており、第一原理計算 では事実上実行不可能なスケールでの動力学を含

めたシミュレーションを行う素地が準備されてい ると言える状況にある。

 現状では、第一原理計算の守備範囲を超えるナ ノメートルスケールでのシミュレーションの計算 コードの開発(金属表面吸着系への金属微粒子の サイズ・形状依存性を含めた階層的電子状態計算、

金属微粒子の形態変化に関わるナノメールスケー ルでのシミュレーション、電気化学系での多孔質 構造体内での気体分子拡散と触媒表面での反応速 度式をカップルさせた巨視的シミュレーションな ど)を進めつつ、総合的なシステムとしての燃料 電池の性能予測を、電極二相界面における第一原 理計算の結果との階層的なつながりを想定しなが ら、検討しているところである。池庄司チームに おける他の研究グループとの連携は欠かせないも のであるが、本年度終了に近づいてきて、なんと か具体的な議論ができる段階になってきたのでは ないかと考えている。

図8.  総合システムとしての燃料電池セル

燃料電池における電気化学反応に関わる時間・空間スケール が異なる要素と特徴を模式的に示した。

多様な相が接触して配置

運動の時間・空間スケールが大幅に異なる

池庄司チーム 池庄司チーム

ドキュメント内 表紙 (ページ 85-88)