ナノ組織制御による 高臨界電流超伝導材料の開発
3. 高温超伝導薄膜への APC 導入
我々は薄膜成長にナノ組織制御を施すことに よって、高温超伝導薄膜中に人工的な結晶欠陥を 高密度に導入するボトムアップ的なプロセス開発 を進めている。こうして導入された結晶欠陥は人 工ピンニング点(APC:Artificial Pinning Center)
と呼ばれる。APC 法では最大の Jcが得られるよう に、ナノスケールの結晶欠陥の分布や密度をピン ニング理論に基づいて設計し、薄膜中に導入する ことを可能にする。現在、APC により量子化磁束 をピンニングすることで 77 K の磁場中 Jcが飛躍 的に向上することが明らかになりつつあり、4.2 K での NbTi 線材の磁場中 Jcを凌駕する値が実現可 能であると考えられている。APC として利用でき る結晶欠陥を次元性で分類すると、転位やコラム ナー欠陥のような 1 次元 APC、小傾角粒界(転位列)
や大きな析出物表面などの 2 次元 APC、そしてξ と同等スケールの析出物や異相などの 3 次元 APC などがある。図3にそれらをまとめた。以下にこ れら APC 導入の試みについて簡単に紹介する。
(1) 1 次元 APC の導入
1 次元 APC を高温超伝導薄膜中に導入するた 図 2 典型的 YBCO 薄膜の Jc-B 特性の温度依存性
(B//c)。 B*はアコモデーション磁場。
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め、Y2O3ナノアイランドを用いる基板表面修飾法 の検討を行った。この方法は基板上にあらかじめ Y2O3ナノアイランドを形成し、これらを起点とし て YBa2Cu3O7-d (YBCO) 高温超伝導薄膜中に c 軸平 行な転位を導入し、これらを高密度な 1 次元 APC とするものである。図4に SrTiO3上に、パルスレー ザー蒸着法 (PLD) を用いて形成した Y2O3ナノアイ ランドと、その上に成膜した YBCO 薄膜中の転位 の分布を示した。転位は YBCO 薄膜表面をエッチ ングすることにより観察したものである。アイラ ンドと転位の分布がほぼ一致しており、アイラン ド上に転位が導入されていることが分かる。転位 密度は 90 μ m-2〜 150 μ m-2の間で変化させたが、
この値は自然に導入される転位密度よりかなり大 きなものである。
図5 は 1 次 元 APC を 含 む YBCO 薄 膜 と、
natural pinning center のみを含む純 YBCO 薄膜 の 77 K の磁場中 Jc特性を示したものである。こ の薄膜の Birrは 7 T (77 K,B//c) であるが、ナノ アイランド形成により Jcが 2 〜 5 倍向上した。こ れは超伝導薄膜中に導入された転位が量子化磁束 を有効にピンニングし、その結果として磁場中で の Jc増大を引き起こしたためである。図6は 1 次 元 APC を含む YBCO 薄膜と純 YBCO 薄膜におけ る Jcの磁場印加角度依存性 Jc( θ ) を比較したも のである。APC を導入することでθ = 0 (B//c) 近傍にブロードな Jcピークが現れ、いずれの磁場 下においても上昇している。我々はこの Jc上昇を 転位導入によるものと考えている。なおθ =� 90°�
(B//c) に現れる鋭い Jcピークはイントリンシック 図 3. 薄膜中の各種結晶欠陥と量子化磁束との関係の模式図.
図4. SrTiO3基板上に形成された Y2O3ナノアイランド アイランドのサイズは 20 〜 30 nm で SrTiO3基板
の原子ステップが見える。
図5 1 次元 APC を持つ YBCO 薄膜の Jc-B 特性 Y2O3ドープ量と共に Jcが増大する。
(a)一次元PC
(cx,螺旋転位、刃状転位etc)
磁束量子
(c)三次元PC
(cx,常伝導析出物、
弱超伝導部分 etc)
(b)二次元PC
(cx,結晶粒界、双晶境界 etc)
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ピンニング、あるいは積層欠陥に起因するもので ある。
YBCO 薄膜の磁場中における Jcの異方性の背景 には Bc2の異方性がある。c 軸方向と a/b 軸方向の 電子の有効質量をそれぞれ mc、mabとして異方性 パラメーターをγ =(mc/mab)1/2と定義すると、層 状結晶構造に由来して YBCO でγ =5 〜 7 に達す る。これらの物質の Bc2の磁場印加角度依存性は c 軸からの角度をθとすれば、ε ( θ )=[cos2θ� + γ-2sin2θ ]1/2として Bc2( θ )=Bc2(0)/ ε ( θ ) と 表わされる。Birrの磁場印加角度依存性もこれと ほぼ同じ振る舞いを持つことが知られており、こ のことは多くの YBCO 試料において、磁束液体 状態から磁束固体へと遷移する臨界点近傍で確認 されている。ただし c 軸方向に伸びた転位、つま り c 軸方向に相関のある強いピンニングを有する 試料においては、磁場印加方向が B//c の場合に Birr( θ )依存性にピークが現れてくる。これはボー ズグラス転移の証拠とされる。図6の結果は臨界 点よりも低温・低磁場側であり、より転位の影響 が現れていると考えられる。
しかしこれまでのところ、YBCO 薄膜の Jcの 角度依存性や温度依存性は通常のピンニングのス ケーリング側では説明できていない。これは磁場 や温度ごとに異なるピンニングが優先的になり、
それらのピンニングの磁場依存性や温度依存性が 異なるためと考えられる。完全な解明には優先的 なピンニングを同定し、そのピンニングの密度や
分布を制御して Jcの磁場依存性や温度依存性を詳 しく調べる必要があり、APC によってこれらが実 現できると期待できる。
(2) 2 次元 APC の導入
2 次元 APC として期待されるのは薄膜中の結晶 粒界である。高温超伝導体における結晶粒界は、
隣接する結晶のミスオリエンテーション角度が 10 度以上になるとジョセフソン結合的になって、Jc が急激に低下する弱結合の原因となるものである。
しかしその角度が 10 度以下の小傾角粒界では、粒 界はむしろ転位列とみなせ、強いピンニング点と して作用する可能性がある。これら粒界を有効な ピンニング点として利用するため、基板上に高温 超伝導薄膜を成膜する際に、その成膜条件を変化 させることで、結晶粒径の異なる薄膜を作製する ことを試みた。なお薄膜形成は PLD 法にて行い、
基板温度を 700℃とし、その他の成膜パラメーター を固定して酸素分圧だけを 200 mTorr から 700 mTorr まで変化させて行った。図7は YBCO の Y サイトを Gd で置換した GdBa2Cu3O7-d (GdBCO) に おいて、結晶粒径を変化させた時の表面 SEM 写 真である。GdBCO の粒径が 196 nm から 92 nm まで連続的に変化しているのがわかる。この時の 粒界は (001) チルト粒界である。断面 TEM によ れば、結晶は基板表面からコラムナー成長してお り、酸素分圧を変えることで成長モードが変化し て粒径が連続的に変化したものと考えられる。X
図 6 1 次元 APC を持つ YBCO 薄膜の Jc の磁場印 加角度依存性。B//c の Jcが Y2O3量にしたがっ て増大している。
図 7 成膜条件の調整で制御した GdBCO 薄膜の粒 径変化。
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線回折によれば隣接する結晶粒のなす角度は 1 度 程度であり、これは粒界が数 10 nm 間隔で並んだ 転位列からなる強いピンニング点として作用する ことを示唆する。図8は粒径を変化させた時の、
GdBCO 薄膜の 77 K、B//c における Jc-B 特性を示 したものである。粒径が小さくなるにつれて低磁 場側の Jcがやや低下するが、高磁場側の Jcは逆に 増大する傾向にある。これを巨視的ピンニング力 Fp = Jc× B で示すと粒径の縮小とともに Fpの最 大値が増大し、かつ Fpのピーク位置が高磁場側に シフトしていくことが見て取れる。これは粒界が ピンニング点として作用しており、粒径が小さく なるにつれてピンニング点の密度が増大し、Fpの 増大を引き起こしたものと考えられる。
このように薄膜の結晶粒界を制御することで Jc を制御できることが明らかになってきた。粒界が ピンニング点として作用するのは実用材料である Nb3Sn 線材でよく知られていることで、最近では MgB2材料においても粒界が Jcの決定因子になっ ていることが明らかになってきている。高温超伝 導薄膜でもこの事実が確認されたことで、今後、
高温超伝導薄膜の Jc制御の重要な因子となってい くものと考えられる。
(3) 3 次元 APC の導入 a) ナノ粒子ドーピング
高温超伝導薄膜の超伝導性を破壊しない 3 次元 APC 物質として、高温超伝導体に近い結晶構造を 有するペロブスカイト系ナノ粒子を導入する方法 を検討した。具体的には Y サイトを Er に変えた 高温超伝導体である ErBa2Cu3Od�(ErBCO) 焼結体
に BaZrO3(BZO) を数 % 添加したターゲットを用 いて PLD 薄膜を作製した。作製された薄膜の断面 TEM を図9に示す。予想に反して、BZO 粒子は 数 nm の直径を有する多数のナノロッドに自己整 列し、薄膜の c 軸方向に延びていることが明らか になった。この発見は結晶成長機構解明の観点か らも大変興味深いものである。自己整列したナノ ロッドの形成は 3 次元 APC というより、むしろ 1 次元 APC とみなせるものである。
次に BZO のドープ量を 0.5 から 1.5 wt% まで 変化させたときの超伝導特性の変化について述べ る。Tcはこの範囲では BZO ドープ量にあまり依 存しなかったが、Jcは大きく変化した。図10に異 なる BZO ドープ量をもつ ErBCO 薄膜の 77 K で の Jc-B 特性を示した。比較として、通常の成膜法 で育成した pure の ErBCO の Jc-B 特性も併せて示 した。BZO ドープ量とともに明らかに高磁場での Jcが向上していることがわかる。これは BZO ドー プが ErBCO 薄膜の Jc-B 特性にポジティブな効果 をもたらしていることを示している。この BZO 効果を明らかにするために、これらの 77 K にお ける Jcの角度依存性を図11に示した。なお、縦 軸は Jc (B//ab) で規格化してある。いずれの BZO ドープ試料でも Jcの角度依存性に c 軸ピークが現 れ、BZO ドープによって 3 次元 APC というより c 軸方向に平行な 1 次元 APC が導入されているこ と示唆された。TEM からの組織観察と併せると、
ErBCO 母相に導入されたナノロッドが c 軸相関ピ ンとしての本質的な役割を果たしており、わずか 0.5 wt% (1.4 mol%) でのドープ量でも B//c 方向の Jcの向上に効果的であることがわかった。
図 8 粒径を変化させた時の GdBCO 薄膜の Jc-B 特性。
図 9 ErBCO 薄膜中に形成された自己整列 BZO ナ ノロッド。 図中、 ○、 □に相当する。 △はナ ノドット。
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ターゲット内に BZO を添加する方法は、簡便か つ APC としての効果が大きく、非常に有効な方 法であると考えられる。我々は、BZO 類似のエン ドメンバーに Ba を含むペロブスカイト系材料に ついて調べているが、まだ BZO のようにナノロッ ドを形成するものは発見されておらず、また高い Jc増大効果を示す材料は見つかっていない。なぜ 高温超伝導薄膜中では BZO だけが特殊なのか、今 後詳しく調べていく必要がある。
これ以外にも ErBa2Cu3Odの CuO2面内の Cu と置 換する Zn ドープや、Cu-O1 次元チェーンと CuO2 面の両方の Cu サイトを置換する役割を果たす Co ドープについても検討を行っている。
b) ナノ組成コントロール
Tcや Birrが 高 い REBa2Cu3Oy (REBCO; RE = Nd, Sm, Gd 等 ) 薄膜は磁場中での高特性化が期待 される。我々は、PLD 法を用いた低温成膜 (Low Temperature Growth: LTG) プロセスを開発し、
LTG 法で作製した SmBCO 薄膜が優れた超伝導特 性を持つことを見出した。LTG プロセスを用いた SmBCO 薄膜は、PLD 法で c 軸配向した SmBCO シード層を MgO(100) 基板上に膜厚約 50 nm 成膜 し、その上に低温で Sm/Ba 置換量 x を 0 〜 0.12 と変化させた SmBCO 膜を 0.7 μ m 厚程度作製す ることで得られる。これらの SmBCO 膜は、350℃酸 素気流中でアニール処理を施した。
図12に PLD 法で作製した YBCO 膜、SmBCO 膜、
及び Sm/Ba 置換量 x を変化させて LTG 法を用い て作製した SmBCO 膜の Jc-B 特性 (77K, B//c) を 示す。比較として、4.2 K で報告されている Nb-Ti 線材の特性も併記する。LTG 法を用いた SmBCO 薄膜の磁場中でのJc特性が、通常のPLD法で作製し た膜に比べ飛躍的に向上していることが確認され る。さらに、置換量 x に対しても変化し、SmBCO (x = 0.04) で Jc = 2.8 × 105 A/cm2 (B = 5 T, B//c, 77 K) と最も高い特性を示した。LTG-SmBCO の 77 K における特性は、4.2 K で実用化されている NbTi 線材の特性と比較して B = 5 T 付近の磁場 中の特性が同じレベルまで向上していることが確 認される。薄膜 X 線回折によれば、置換量 x の違 いによる a 軸長、b 軸長の変化から、
LTG-SmBCO(x = 0) に比べ、LTG-SmBCO(x = 0.04) 及び LTG-SmBCO(x = 0.08) の斜方晶性が大 きくなっていることが確認された。一般的に、斜 方晶性と Tcは相関関係があることから考察して、
置換量の変化による斜方晶性及び Tcの向上、さら に不可逆磁場 Birrの向上により磁場中での高い Jc が得られたと推察している。
YBCO 膜において、BZO や Y2O3などのドーピ ングがピンニング向上に効果があることが報告さ れている。ここでは、更なる高磁場中での高 Jc化 を目的として、低 Tc相 (Sm1.2Ba1.8Cu3O7-d) のナノ ドットを作製し、その上に LTG-SmBCO 膜を形成 することを試みた。作製には PLD 法を用いて、c 軸配向した SmBCO シード層を MgO(100) 基板上 図 10 さまざまな BZO ドープ量をもつ ErBCO 薄膜
の Jc-B 特性
図11 さまざまな BZO ドープ量をもつ ErBCO 薄膜 の Jcの角度依存性
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