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各研究グループの成果

ドキュメント内 表紙 (ページ 82-85)

電極二相界面の ナノ領域シミュレーション

4.  各研究グループの成果

(1)  電極反応はいかにして進むか(岡本穏治 ( 株 ) 日本電気基礎・環境研究所)

 このプロジェクトにおいて、私の役割は固体高 分子型燃料電池の正負両極で起こる化学反応を非 経験的電子状態計算法により解明することである。

これは電気化学の基礎とも言うべき大テーマで、

現時点は全容解明には向けて、ようやく第一歩を 進めたというところである。以下、このプロジェ クトに参加して、これまで私の計算で分かってき たことを負極反応、正極反応の順に述べる。

  H2 → 2H+ + 2e-  負極反応(水素極)

  O2 + 4H+ + 4e- → 2H2O  正極反応(酸素極)

まず負極反応について、水素燃料電池の場合、反 応速度は電極金属 (M) と水素原子 (H) の結合エネ ルギーと高い相関を持つことが以前より知られて いる。今回、遷移金属 (Pt, Au, Ti)、12 族金属 (Zn,  Hg)、典型元素 (Pb) 等の金属表面と水素原子の吸 着状態の波動関数を調べてみると、図3のように 典型元素や 12 族金属の場合、波動関数の M-H の 部分に反結合的成分を含むため結合エネルギーが 小さくなることが分かった。それゆえ反応が進ま ず、電極としては適当ではない。遷移金属の場合

図4 遷移金属 (Pt) 上の水素 (H) 吸着における波動 関数。 anti-bonding には電子は入らない。

図3 典型元素 (Pb) 上の水素 (H) 吸着における波動 関数。 bonding と anti-bonding の両方に電子 が入る。

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は、図4の結合性軌道に電子が入るため、吸着エ ネルギーが大きく、燃料電池の電極として適当で ある(大きすぎる吸着エネルギーはマイナスに作 用する)。他の金属元素についてもさらに、この説 明を一般化できるかは今後の検討課題である。

 また、第一原理分子動力学法を用いて、白金 (Pt) の (111) 表面に吸着している水素原子が Hopdサイト

(白金原子の真上の位置)にあれば、図5のように 容易に溶媒の水分子と反応を起こし、プロトン化 して溶媒中に取り込まれていくことを明らかにし た。

 一方、正極反応では、溶媒和しているプロトン のモデルとして H9O4+イオンを取り上げ、これ を Pt(111) 表面に吸着している酸素分子と反応さ せて、酸素還元反応経路の概要を把握した。この 計算によると、4段階の酸素還元過程の中間状態 において、それぞれの状態でほぼ安定な吸着構造 を取る可能性が高いことが分かってきた。また、

H-O-O- のような過酸の吸着種は、今のシミュレー ションでは溶媒中では不安定で容易に壊れてより 安定な水酸基(-OH)や吸着酸素原子(-O)にな ることが分かった。これは、かなり乱暴なモデル による計算なので、今後より信頼度の高いモデル を構築して計算を行う準備を進めている。

(2) 電極表面の水の構造と電極反応

(森川良忠 大阪大学産業科学研究所産業科学研 究所)

 大阪大学のグループでは、水と金属電極との界 面での化学反応過程、特に、水素発生過程や酸素 還元過程といった基本的な反応過程について、界 面の構造や電場の影響など出来る限り現実の環境 に近い計算モデルを用いて精度の良いシミュレー ションを行うことを目指している。これまで、本 グループでは以下の点について研究を進めてきた。

a)

 大規模な第一原理シミュレーションを行うため に、これまで開発してきた第一原理分子動力学プ ログラム "STATE" のさらなる並列化効率および 計算効率の向上をはかった。STATE は MPI を用 いて並列化されているが、大規模な並列計算を可 能にするためにさらに k 点およびバンドの二重並 列化を取り入れた。k点間の計算はほぼ独立であ るため、金属表面のようにk点を複数取る必要が ある系については並列効率が向上する。さらに電 極電位を制御して金属上での化学反応を追えるよ うに、荷電層モデル (charged  slab  model) および 有効遮蔽体法(杉野グループ後述)を導入した。

現在、地球シミュレータ上で計算を進めている。

b)

 白金 (Pt) やロジウム (Rh) などの遷移金属表面上 の水の構造に関しては最近論争となっており、実

図5  水溶媒中での吸着水素から水素イオンの生成の様子

  水は H2O (H: 白色原子、O: 赤色原子) として、白金 (金色原子) 原子層の上にある。 (1)  白金原子上に水素原子 (やや大きめの白色原子) が吸着している初期状態。 赤線の中で白 金上の水素原子と水分子は離れている。 (2)  左側の列の白金原子上の水素が水 (それぞれ 赤線の中) の攻撃をうけてイオン化する (H5O2+となっている )。 (3, 4) 協奏的移動によりプ ロトンはヒドロニウムイオン (緑色原子 (O) と黄色原子 (H)) として移動するが、 初め吸着 していた水素は、 水分子として大きな移動はない。 図中の縦の線は、 周期境界条件の境界 を示す。

  (1)  (2)  (3)  (4)

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験とシミュレーションの両面から盛んに研究がな されているが、計算と実験が必ずしも一致してい ない。本グループでは Rh や Pt 表面上に吸着した 水の構造を図6の種々に仮定して、上記の第一原 理コードを用いてシミュレーションで調べ、さら に振動モード解析を行い、計算で求めた振動数、

遷移双極子による赤外吸収強度を実験と比較する ことにより、現実の構造を明らかにすることを目 指している。

 以上の研究は博士研究員  濱田幾太郎、M1 学生  平松雅規ら、および、本プロジェクトの他グルー プとも共同で進めている。

(3) 電極構造と電極反応 (香山正憲 産業技術総 合研究所ユビキタスエネルギー研究部門)

a) 香山グループの研究背景とポテンシャル

 香山グループでは、第一原理計算と電子顕微 鏡観察を緊密に組み合わせて、金触媒をはじめ とする金属/酸化物ナノへテロ界面触媒の構造と 性質の解明、コーティングや電子デバイス用の金 属/無機界面の基礎物性の解明、固体高分子形燃 料電池 (PEFC) の電極の構造解析などを進めてき た。例えば、典型的な金触媒である金/酸化チタ ン (TiO2) 触媒について、高分解能電顕観察や電子 線ホログラフィー観察と、第一原理計算とを組み 合わせた基礎解析で、大きな進歩を達成した([1]

の invited review 参照)。実験観察から推定される 酸化チタンと金との間の強い吸着力や相互作用は、

酸化チタン表面の酸素原子或いは Ti-O ペアが失わ れた非化学量論的な酸化チタン表面と金との間で 生じる可能性が第一原理計算から示され、それが 触媒機能に大きく関っていると考えられる。一般 に金属/無機界面では、こうした表面・界面の電 子状態や相互作用が重要な役割を果たす。一方、

PEFC の電極は、炭素材料に白金 (Pt) や白金合金 の微粒子を担持させた構造であり、表面・界面の ミクロ・ナノ構造が、電極の反応効率や耐久性を 大きく支配している。当グループの研究室では、

電極触媒のナノ構造の高分解能電顕観察や、さら に耐久試験後の構造変化を探る研究を行ってきて いる。

[1] K. Okazaki et al., Appl. Catal. A 291 (2005) 45 b) プロジェクトでの役割と概要

 以上のような背景とポテンシャルから、当グ ループでは、これまで用いられてきた密度汎関数 理論の計算技術を使って、PEFC 電極触媒の界面 構造モデルの構築と第一原理計算の適用を行い、

白金/カーボン界面系の基本的な相互作用やナノ 構造の解明、電極の反応効率や劣化機構の検討を 進める。また、白金に合金元素を導入することに より、カソードでの反応効率の向上(Fe,  Co,  Ni 添加)やアノードでの一酸化炭素 (CO) 被毒の防止

(Ru 添加)が実験的に試みられているが、こうし た合金成分添加効果のメカニズムを第一原理計算 から解明する。

1) 白金/カーボン相互作用の第一原理計算

図6 ロジウム原子層上の水分子吸着の異なる構造。

横から見た図

上から見た図

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 白金 (Pt) /カーボン (C) の基本的な相互作用を 明らかにするため、グラファイトの一層に相当す るグラフェンシートと、(1)  Pt(111)  単層膜、(2)Pt 原子、(3)Pt10クラスター、の各々との間の相互作 用を、第一原理計算により検討した。その結果、

Pt(111)  一層との相互作用はきわめて弱いが(平衡 界面間隔 3.48 Å、結合エネルギー 0.09eV/atom)、

白金原子では一定の相互作用があること(平衡 Pt-C 距離 2.31 Å、結合エネルギー 2.82eV/atom)、

白金クラスターでは両者の中間であること(最短 の Pt-C 距離 3.02 Å)が判明した。クラスターの 底部の原子は炭素原子に接近して沈んでいる。し かし界面の電子移動や軌道混成は顕著ではない( )。実際の系ではグラフェン上の炭素原子空孔や ステップ、エッジとの相互作用が重要と考えられ る。現在その計算を推進中である。

c) 白金の合金化効果の第一原理計算

 Pt(111) 原子層の積層モデルに、ルテニウムなど 合金成分を挿入し、表面の電子状態変化を第一原 理計算で検討している。ルテニウムについては、

表面よりも第二層に存在した方が安定であること が判明した。表面電子状態では、第二層のルテニ ウムの存在が、フェルミレベル付近に特徴的な空 の準位を生むことが見出された。今後の分子吸着 計算への展開が期待される。

(4)  電極反応をミクロに理解するための計算手法開 発(杉野修 東京大学物性研究所)

 電極表面では電位差効果により電荷が誘起され、

それが水溶液により遮蔽されるため強い電場が発 生する。この特殊な状況では表面と溶質分子の間 の電子移動が起こり、それが引き金になって他の 状況では不可能なような酸化還元反応も容易に起 こる。この電気化学反応をミクロに理解するため には、電子移動過程も加味した計算をする必要が ある。第一原理計算をどのように改良すればそれ が可能になるか、その答えを探るのが当グループ の課題の一つであり、二つの方向からのアプロー チを試みてきた。

 第一の方法は、図5の様な金属 / 水溶液界面モ デルにおいて、金属が電極と接し水溶液との電位 差が一定に保たれることを取り入れた新しい第一 原理分子動力学法である。もし反応が進んで例え ば金属から溶質分子に電子が移動し始めると電位 差にずれが生じるので、これを一定に保つには電 極から電子が供給されなければならない。本手法 では仮想電極から電子が供給されるという統計力 学的モデルを採用している。その場合水溶液は無 限遠まで取り入れる必要が生じるため、それをま ともに計算することは不可能である。しかしこの 問題は水溶液を表面付近とそれ以遠の領域に分け て後者を遮蔽体モデルとして取り扱うことにより 回避することができる。このため本手法を有効遮 蔽体法 (Effective  Screening  Medium:  ESM) とよ ぶ [2]。この独自の方法の完成により電位差一定と いう条件を満足する第一原理計算が初めて可能に

図7 グラフェン上の白金クラスターの第一原理電子状態計算

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