界面ナノ制御による高効率な 太陽光水分解システムの創製
6. 表面修飾 Si 電極によるヨウ化水素
(HI)の太陽光分解
ヨウ化水素 (HI) の水素・ヨウ素への太陽光分解 は、重要な太陽エネルギーの化学エネルギーへの 変換系です。3節で触れましたように、本研究で、
表面メチル化・Pt ナノ粒子担持の n-Si 電極(図3) が高い光起電力を発生するとともに、長期の安定 性も有する優れた電極になることを発見し、これ を踏まえて、この電極によるヨウ化水素の水素と ヨウ素への外部バイアスなしの太陽光分解を行い
(図10)、擬似太陽光 AM1.5, 100 mWcm-2照射下 で 7.4 % という(単一の半導体を用いた)太陽光 エネルギーの化学エネルギーへの変換効率として は既存値をはるか超える世界最高の効率を達成し ました。
その後、同様の研究を、n 型多結晶 Si ウエーハ および n-i 接合微結晶 Si 薄膜電極を用いて行いま した。このような低コスト型 Si 電極を用いるヨウ 化水素の太陽光分解はこれまでに例がなく、世界 的に初めてのものです。
n 型多結晶 Si ウエーハ電極において特筆すべ
図9 n-TiO2 (rutile) 電極上での光酸素発生反応の分子レベルの機構
中戸義禮チーム 中戸義禮チーム
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きことは、前にも述べましたように、本研究によ り新しく金属微粒子利用のテクスチャー化法を開 発したことです。これにより光の反射率を大幅に 低減することができ、ヨウ化水素の太陽光分解で 5.4%という高い太陽エネルギーの化学エネルギー への変換効率の達成に成功しました。
n-i 接合微結晶 Si 薄膜電極については、まず Hot-wire CVD 法で作製した微結晶 Si(μc-Si)薄 膜電極の湿式系への適用の可能性を検討し、特に 透明導電膜 (TCO) を基板に用いたときに起こる 微結晶 Si 薄膜の剥離の問題を、基板と Si との間 に TiO2薄膜を挿入することにより解決できるこ とを明らかにしました。これらの検討を踏まえて、
TCO/TiO2/μc-3C-SiC:H(n)/μc-Si(i)/Pt 電極を用い てヨウ化水素の太陽光分解を行い、太陽エネルギー の化学エネルギーへの変換効率として 2.3 % とい う高い値を得ることに成功しました。また、この ときの光電流は長時間安定でした。
このほか、透明導電膜 (TCO) の代わりに、グラッ シーカーボンを基板に用いた電極についても同様 の効率が得られることが分かり、カーボンという 低コスト基板の利用の可能性が明らかになりまし た。
7.複合電極による太陽光水分解
多結晶シリコン(Si)薄膜と可視光応答性の金 属酸化物 (MOx) 薄膜とからなる複合電極による太 陽光水分解は、本研究の最終目標です。これまで に、いろいろな構造の複合電極を考案・製作して、
太陽光による水の酸化分解特性を調べ、動作原理 を実証して、本研究の方式により太陽光水分解が 実現可能であることを明らかにしてきました。残 る課題は効率と安定性の向上です。
図11は、一例として、メチル化と Pt ナノ粒子 担持を施した単結晶 n-Si 電極の上に、市販の三酸 化タングステン(WO3)微粒子の薄膜をスピンコー ト法で形成して作製した複合電極の 0.1 M HClO4 水溶液中での光電流−電位特性を示しています。
水の酸化によるアノード光電流の立ち上がり電位 は、参照用の WO3電極のものより約 0.2 V 負にシ フトしました。この結果は、図12に示しますよう に、Si/WO3複合電極において二段階励起の機構(Z
‐スキーム)により水の光酸化分解が進行してい ることを示し、本研究の複合電極の原理を実証し ています。
複合電極としては、このほかに、メチル化・Pt ナノ粒子担持 n-Si の上に p-CuI 薄膜を形成し、こ の上に TCO を介して WO3微粒子膜を形成した構 造のものも作製しました。これは、n-Si/p-CuI ヘ テロ p-n 接合が表面準位のない理想的な接合を形 成し、0.62 V という結晶 Si 系としては非常に高 い光起電力を発生することを本研究で新しく発見 したことに基づくものです。この複合電極の場合
図 11 n-Si/WO3複合電極による水の光酸化分解の 光電流‐電位曲線 (実線)。 点線は参照用 WO3電極のもの。
図 10 ヨウ化水素の太陽光分解
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には、まだ予備的な結果ながら、水分解のアノー ド光電流の立ち上がり電位が水素発生電位より約 0.53 V ほど負になり、この型の複合電極によって 外部バイアスなしに太陽光水分解が可能となるこ とが分かりました。
また、単結晶 n-Si の上に Hot-wire CVD 法で微 結晶 p-3C-SiC:H 薄膜を堆積し、この上に TCO を 介して WO3微粒子膜を形成した構造の複合電極も 作製しました。この電極の水酸化のアノード光電 流の立ち上がり電位は参照用 WO3電極のものより 約 0.4 V 負にシフトし、この電極も太陽光水分解 に有効であることが分かりました。
今後は、これらの結果をふまえて、一層の高効 率化をはかっていく予定です。
図 12 n-Si/WO3複合電極と参照用 WO3電極にお ける水の光酸化分解の機構
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1. はじめに
高温超伝導体発見以前の NbTi や Nb3Sn 超伝導 体等は金属であり臨界温度 Tcはおよそ 9 〜 18 K である。これらは液体ヘリウム温度(4.2 K)にお いて、エネルギーロスが極めて小さく、大電流通 電可能な電気抵抗ゼロの材料として利用できる。
コヒーレンス長も長いため結晶粒界における超 伝導電流の低下を考慮する必要がなく、また塑性 加工法によって長尺化することが容易であり、〜
100 km 級の超伝導線材がすでに市販されている。
これより高磁場発生可能な超伝導コイルが作ら れ、医療用診断装置、理化学分析装置、単結晶引 き上げ装置、素粒子加速器、リニアモーターカー、
実験用核融合装置など幅広い分野で利用されてい る。しかし液体ヘリウム冷却による制約は超伝導 技術の本格的な普及においては、これまで大きな 障害となっていた。
このような中で、1986 年以降に続いた高温超伝 導体の発見は衝撃的であった。高温超伝導体の Tc は 90 〜 130 K に達し、液体窒素温度(77 K)を 越えた。ヘリウムは埋蔵量が少なくまたコストも 高いが、窒素は空気中に無尽蔵に存在しており、
その利用コストは安い。77 K で動作する大電流通 電可能な高温超伝導線材が利用できるようになれ ば、低コストで前述の超伝導応用機器の利用が可 能となり、さらにこれまでは不可能であった磁場 応用も実現する。地球上のあらゆる国々でエネル ギー消費が増えつつある 21 世紀においては、エネ ルギーの高効率利用は地球環境保護に直結して不 可欠である。高温超伝導体はこの問題を解決する
大きな可能性を秘めている。
し か し 高 温 超 伝 導 体 は 酸 化 物 で 加 工 性 が な く、また結晶異方性が強くてコヒーレンス長が 短いため結晶粒界の影響が大きい。このため線 材 化 が 大 変 難 し か っ た。 最 初 の 成 功 は Bi2223
((Bi,Pb)2Sr2Ca2Cu3Ox:Tc= 108 K)を用いた Bi 系 銀シーステープ線材である。この物質は劈開性が 強く、銀パイプに入れて圧延加工し、その後熱処 理することによって超伝導層がつながったテープ 線材にすることができる。Bi 系線材は第一世代線 材と呼ばれ、現在では1 km 長テープが市販され ている。しかし Bi2223 は 2 次元性が強く、磁場中 の臨界電流密度 Jcが低いという課題がある。
一 方、Bi2223 よ り も 3 次 元 的 で あ り, 高 温 超 伝 導 体 の 中 で も 磁 場 中 Jc特 性 に 優 れ た YBCO
(YBa2Cu3O7-x:Tc= 92 K)を用いた第二世代線 材の開発が最近急ピッチで進んでいる。その作製 方法としては金属テープ上に高度に 2 軸配向した YBCO 薄膜を成長させるコーテッドコンダクター 方式が有望視されている。しかし YBCO は結晶粒 界の影響が大きく、その特性を最大限に引き出す には結晶粒界角度を 5 度以下にまでそろえる必要 がある。これはいわば 1 km 長の擬単結晶テープ を作製するようなもので多くの課題があるが、現 在、高 Jcを有する YBCO 線材をいかに長く、低 コストで作るかという材料科学的・工学的挑戦が 進んでいる。
しかし YBCO 線材の実現に必要な YBCO 薄膜 の Jcは実用化にはまだ不十分である。図1は 77 K における高温超伝導体の Jcと 4.2 K における金属