(独)物質・材料研究機構物質研究所 ディレクター
佐々木 高義 Takayoshi Sasaki
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研究代表者
図1 研究体制
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2.新規ナノシートの探索
ナノシートとは図2に示すように層状化合物を 1ナノメートル前後の厚みを持った層1枚にまで バラバラにして得られます。代表的な層状化合物 としてはグラファイトや雲母が知られていますが、
これらは強い化学結合で結びついて2次元方向に 拡がった層が残りもう一つの方向に積み重なった 結晶構造を有しています。このような異方性の高 い結合様式を反映して劈開しやすい性質や、層と 層の間に異種物質(ゲスト)を取り込む反応性を 持っています。粘土鉱物などの一部の層状化合物 が剥離する現象は古くから知られていましたが、
最近になりそれまで剥離は不可能と考えられてい た様々な機能性層状化合物が単層剥離できること が我々を含めたいくつかの研究グループにより報 告されるようになってきました。特に我々は 90 年 代後半に層状チタン酸化物を単層剥離することに 成功し、その構造的な特徴からこれを酸化チタン ナノシートと名付けて報告しました。このナノシー トは新しいタイプのナノサイズ酸化チタンとして 様々に応用可能と考えられ、本プロジェクト研究 の中でも中心的な素材に位置づけています。
しかしながら本プロジェクト研究の目標を達成 するためには多彩な特性を持ったナノシートを数 多く取りそろえ、これらを組み合わせて高度な機 能性の実現を目指す必要があります。そのためこ れまでのプロジェクト研究の前半において新しい ナノシートを探索、創製することを最重要課題の 一つとして研究を行ってきました。その結果、表 1に示した数種類のナノシートの合成に成功しま した。その中でも重要な成果として酸化マンガン ナノシートと水酸化物ナノシートを挙げることが できます(図2参照)。前者は K0.45MnO2という組 成を持つ層状マンガン酸化物を酸処理して層間に
水素イオンを導入した後、四級アンモニウムイオ ンを含む水溶液と反応させて単層剥離することで 得られました。厚みは 0.8 nm、横サイズは数百 nm であり、Mn3+/Mn4+のレドックス性を示しま す。エネルギー変換や貯蔵などの機能化を進める 上で非常に重要な素材です。一方水酸化物ナノシー トは組成式 [Mg2/3Al1/3(OH)2][(NO3)1/3 ・0.5H2O] で示 される層状複水酸化物の 10 μ m サイズの板状結 晶をホルムアミド中で単層剥離することによって 得られました。厚みは 0.8 nm、横サイズは数μ m に及びます。これまで報告のあるナノシートのほ とんどすべてが負電荷を帯びているのに対して、
本ナノシートは正に帯電しています。そのためナ ノシートをビルディングブロックに用いるナノ構 造材料の合成の巾が大きく拡がったと言えます。
また層状複水酸化物は上記の Mg と Al の組み合わ せだけでなく、バラエティーに富んでおり様々な 特性を持ったナノシートを合成することにもつな がると期待されます。現在このような観点からの 検討を急ぎ進めています。
表1 ナノシートのラインナップ
赤字が本研究により合成されたナノシート、 青字は横サイズを従来より約 100 倍大きくすることに成功したナノシート。
図2 剥離ナノシート化の概念図と 各種ナノシートの構造図
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酸化チタン系 Ti0.91O2, Ti0.87O2, Ti4O9, Ti5O11
Ti0.8Co0.2O2, Ti0.8Ni0.2O2, Ti0.6Fe0.4O2
酸化マンガン系 MnO2,Mn3O7, Mn1-δCoδO2(δ<0.4),Mn1-δFeδO2(δ<0.2) 層状ペロブスカイト系 Ca2Nb3O10
層状複水酸化物系 Mg2/3Al1/3(OH)2, Co2/3Al1/3(OH)2
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3.層状コバルト酸化物超伝導体の発見
研究には予期せぬ成果が偶然に得られることが しばしばあります。現在世界的に非常にホットな 話題となっているコバルト酸化物超伝導体は新し いナノシートを合成しようとした過程でまさにセ レンディピティーとして生まれました。研究の発 端は酸化コバルトのナノシートが合成できれば高 効率のレドックス特性が期待できると考えて、層 状コバルト酸化物 Na0.7CoO2の剥離を試みたこと です。剥離とは隣接した層同士を無限にまで遠ざ けることであり、その第一歩は層間隔を拡大する、
すなわち膨潤させることです。そのため膨潤が起 こりやすいように層電荷を減少させるため臭素の アセトニトリル溶液で処理した後、水洗しました。
その結果剥離にまでは到らなかったものの層間距 離が反応前の 0.56 nm から 0.98 nm に大きく拡がっ た相が得られました(図3)。このサンプルの磁化 率を測定したところ驚くべきことに絶対温度 4.7K 以下で超伝導を発現することを見いだしました。
1986 年にスイスの IBM 社のBednorzとMüllerが LaSrCuO2という銅酸化物が超伝導体であること を報告して以来、膨大な研究が行われてきており、
数多くの超伝導体が合成、報告されました。しか しこれらは全て銅の酸化物であり、周期律表で銅 の近くに位置するコバルトやニッケルなどの酸化 物では超伝導相の報告はこれまでありませんでし た。そのため非常に大きな反響を呼び、結果を報 告した論文(Nature, 2003)はこれまでに 300 回 を超える被引用回数を得ています。Thomson ISI 社の統計によれば 2003 〜 2004 年に物理分野で発
表された全論文中で第2位にランクされました。
我 々 は こ の 発 見 に 続 い て、 出 発 物 質 で あ る Na0.7CoO2が合成プロセスの中でどのように組成、
構造、酸化状態を変化させて超伝導体化するかを 明らかにし、本化合物の超伝導現象の本質を考え る上で重要な知見を報告するとともに、CoO2層の 積層様式の異なる新しい超伝導相の合成を行うな どこの分野をリードし続けています。また物性物 理を専門とする多くのグループと共同研究を行っ ており、本超伝導体が非従来型であるなどの興味 深い側面が明らかになってきています。
この超伝導体に関する理解が進むにつれ、超伝 導性発現の主な要因は CoO2層の間隔が大きく拡 大し2次元性が高まったこと、すなわち隣接した 層との相互作用がほとんどなくなり孤立状態に近 づいたためであることが分かってきました。この 意味でこの超伝導現象は CoO2ナノシートそのも のが示す性質であるとも考えられます。酸化物超 伝導体だけでなく近年脚光を浴びているマンガン 酸化物での巨大磁気抵抗などの現象は、結晶中に 存在する遷移金属−酸素からなる2次元格子面に 電子、スピンが閉じ込められていることが原因と されています。ナノシートはこのような2次元格 子面を単独の個体として取り出したものとも考え られ、その電子状態、スピンを積極的に制御する ことで超伝導体、磁気抵抗酸化物中で重要な役割 を演じている2次元機能格子面に匹敵する働きを 持たせることができるのではないかと考えて研究 を進めています。まだ予備的な結果ですが、酸化 チタンナノシートにコバルトや鉄などの磁性金属
図3 層状コバルト酸化物超伝導体の結晶構造
左半分はγ -Na0.7CoO2とそれから誘導される超伝導体 (2層周期構造)、
右半分はα -NaCoO2とそれから合成した超伝導体 (3層周期構造)
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元素をドープすることで紫外光に応答して極めて 大きな磁気光学効果を示す強磁性ナノシートが得 られており、ナノシートの新しい側面が拡がりつ つあります。
4.ナノシートの特性の解明
本プロジェクト研究の最終目標はナノシートを パーツに用いて高度な機能性を持つ材料を構築す ることであり、そのためにはナノシートがどのよ うな構造を持つか、またどのような性質を示すか を詳細に把握することが大切です。プロジェクト 開始後、様々な角度からこの問題に取り組み多く の新しい知見を得ることができました。
ナノシートの構造に関してはこれまで電子顕微 鏡などの電子線を用いた定性的な解析にとどまっ ていました。ナノシートの2次元構造を高い精度 で決定するために、つくば市にある高エネルギー 加速器研究機構の放射光研究施設フォトンファク トリーで、放射光X線を用いて XAFS(X線吸収 微細構造解析)と In-plane XRD 法によるナノシー トの高精度構造解析法の開発を行いました。ナノ 物質の常としてサンプル量が少ないため、通常の X線源では上記手法により得られる信号強度が非 常に微弱となってしまうため、放射光の利用が本 目的には必須です。XAFS 測定ではナノシートを シリコンウエハー上に吸着させたサンプルにX線
をすれすれに入射させて全反射させることでバッ クグラウンドを下げ、蛍光強度を高感度に計測す るモードを採用し、単層のナノシートから充分な 強度で信号を得ることができました。さらに放射 光が偏光であるという特性を利用して、サンプル 面を偏光面に対して平行(s配置)および垂直(p 配置)にすることにより、ナノシート平面内の構 造情報のみならず、法線方向の情報を反映したス ペクトルが得られることを見いだし、これを利用 したナノシートの3次元構造解析法を確立するこ とができました。一方 In-plane XRD については放 射光測定に適した専用回折計を本プロジェクト研 究予算により新たに整備しました(図4)。その結 果従来の実験室系での回折計と比較して、約 10 倍 の信号強度が 1/10 以下の測定時間で得られること がわかりました。この2つの測定法を組み合わせ ることにより、単層ナノシートの2次元格子定数、
原子間距離をオングストローム単位で小数点以下 3桁という高い精度で決定できるようになりまし た。現在この技術を用いて様々なナノシートの構 造解析を進めており、層状化合物を剥離ナノシー ト化することによりどのような構造変化が起こる かが、非常に高い精度でミクロなレベルまで明ら かになってきています。このような高精度の構造 情報は、ナノシートの探索と特性解明に不可欠の 情報となっています。さらに酸化チタンナノシー トにおいては紫外光照射により誘起される酸化分 解反応、親水化現象がどのような構造変化に起因 するものかについても研究を行っています。
図4 高エネルギー加速器研究機構放射光施設 に設置した In-plane X 線回折装置
図5 酸化チタンナノシートの電子構造 アナ ターゼ (バルク)との比較
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