3 発話実験 2 :後続母音の F0
3.2 高さ比較結果
3.2.4 F0 の全体傾向
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以外の被験者のグラフ24と同じように、語頭が平音のときのV1とそれ以外の差は少なくと も2セミトーンほどはある。ところが、/Pa/と/Piでは、平音と激音・濃音のV1の分布は重 ならないものの、その差は 1 セミトーンに満たない。そして、ほかの被験者で観察された ような、平音と激音・濃音の分布範囲の差は観察されない:
図 32:異なるタイプをみせる、M2氏のV1とV2の分布様相(P類/Pa/、/Pi/、/Pu/)
M2氏に観察されるもう1つのタイプは、V1もV2も重なるタイプである。これに該当す るタイプは、/Te/のみである。図 33は、M2氏の/Te/のグラフと、比較のためにV2のみが分 布が重なる/Tɔ/と/Tu/のグラフも示している。/Te/(上段グラフ)では、激音(△印)と平音
24 ここでのM2氏のデータを例外的と捉えるならば、ほかの被験者のデータは「典型的」
と考えられるかもしれない。しかし、本論文の目的は、対立を支える典型的な特徴につ いて主張するものではない。これについては、総合議論で改めて述べることとする。
重複
( semitone ) ( semitone )
M2氏
P類:/Pu/
P類:/Pa/ P類:/Pi/
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(▲印)の分布は重なっていないが25、平音と濃音ではV1もV2も重なっている。「激音」
と「平音・濃音」の境界を補助線(実線、矢印)で示した:
図 33:異なるタイプをみせる、M2氏のV1とV2の分布様相(T類/Te/。参考:/Tɔ/、/Tu/)
この/Te/(上段グラフ)のように、平音と濃音の分布が重なるということは、山崎亜希子
(2013)のイントネーションモデル(図 31)に反する結果である。また、M2 氏以外の被 験者では、V1では「平音」と「激音・濃音」にほぼ 2 セミトーンの差があったのに対し、
M2氏は同様の傾向を見せるデータはあるものの26、図 33の/Tɔ/(下段:左グラフ)や/Tu/
25 参考までに、V1とV2の両方で「激音」とそれ以外「平音・濃音」との分布の重なりは ないデータには、F1氏の/Pi/、F2氏の/Te/、M1氏の/Ka/、/Kɔ/がある。これら3名は元々
「平音」は残り2つと分布の重なりがないので、3系列の高さすべてに重なりがなく、
大きい順に「激音>濃音>平音」となっている。
26 M2氏のデータでは、K類は他の調音位置に比べて、「平音」と「激音・濃音」の差が
激音
平音・濃音 ( semitone )
( semitone ) ( semitone )
T類:/Tɔ/ T類:/Tu/
T類:/Te/
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(下段:右グラフ)のようにV1における「平音」と「激音・濃音」の差が小さいものや、
/Te/(上段グラフ)のように、高いことが予測される濃音と、低いことが予測される平音の データの分布が重なっているものがある。
また、平音と激音においても、データ数は少ないが、M2氏では平音/pi/と激音/pʰi/の分布 範囲が重複している。よって、ほかの話者に比べて、M2氏のF0特徴は、平音と濃音の対 立を保つ手がかりになりにくいと考えられる。
激音と濃音の高さの意味の違い
激音と濃音の高さを比較すると、濃音よりも激音のほうが高い傾向が観察された(脚注 25参照)。そして、3系列の高さは「平音<濃音<激音」の順で高くなっていた。上述した
「平音」と「激音・濃音」が重複するM2氏では、平音と濃音が重なるデータ数(6データ)
に比べて、激音との重なる数(2 データ)は少ない。同じ「HH」と考えられている激音と 濃音であっても、濃音のほうが平音と重なりやすいということは、激音と濃音の現れ方の 傾向が異なるということを示している。
これは、平音と激音の差を広げる作用をしていると考えられる。つまり、語頭の子音が 激音と濃音のとき、どちらも平音よりもV1は高くなるが、激音は平音との対立を保つため に、話者自身の声域の上限ほどまで高くして、平音と激音の高さに関する知覚の距離を広 げて対立特徴として使用している可能性が指摘できる。声域の上限ほどまで高くするため に、激音ではV1からV2で下降型をとることが多かった(3.2.2参照)と考えられ、V1が高 いことが音韻化している可能性がある。これと対照的に、濃音もV1が高い傾向はあるもの の、平音との重複は濃音のほうがよく起きることから、濃音のV1が高いのは音韻的なもの ではない、ということである。