4 発話実験 3 :子音区間の高周波数帯域のパワー
4.4 パワー比較結果
4.4.1 平音と激音の高周波数帯域パワー比較: 「平音<激音」
図 35は、F1氏による平音/pa/(実線)と激音/pʰa/(点線)の子音区間の高周波数帯域の パワーを比較したグラフであり、各 3 回分の発話データをすべて示している。縦軸はパワ ー(強さ)(単位:dB)、横軸は子音区間の長さ(単位:ms)、つまりVOT区間である。子
音区間0-10msの値がグラフの横軸「10ms」にプロットされるため、「0ms」はグラフ上には
ない。また、子音区間の最後の部分は10msより短い端数は、その次の 10の倍数の長さの ところに繰り上げてプロットしてある。たとえば、子音区間(VOT)が87msであった場合、
80-87ms区間のパワー値は、90ms時点にプロットされる。
78
図 35 を見ると、破裂時の0-10ms から終了時まで、途中 50ms時点では平音(実線)が
-56.43dB、激音(点線)-55.85dBと差はわずかであるが、激音と平音で重なることなく、常
に「平音<激音」を保っている。
図 35:F1氏による、/pa/と/pʰa/の子音区間パワー比較(6000-7000Hz)
図 36は、F1氏のP類/Pa/のVOTグラフである。F1氏は、平音/pa/と激音/pʰa/の各3回の 発話データのうち、平音の2回は激音よりも長かった(丸印囲み)。これは図 35のグラフ における、激音/pʰa/(点線)より長く現れている平音/pa/(実線)2データに一致する。VOT
が激音/pʰa/よりも長くても(丸印囲み)、平音/pa/のパワーは激音/pʰa/と比べて小さい。つま
り、高周波数帯域のパワーは、VOTとの相関はなく、系列(平音・激音)の特徴と言える。
F1氏 ( dB )
P類:/Pa/
79
図 36:F1氏による、P類のVOT比較
ほかの被験者F2氏、M1氏、M2氏をデータも見ても、一貫して平音よりも激音のほうが 高周波数帯域のパワーが強い傾向を示している。しかし、一見すると、例外のようであっ ても、激音のほうがパワーの大きさを維持しようとするかのような様相が観察される:
F1氏
/u/ /e/ /ɔ/
/a/ /i/
( ms ) VOT
80
図 37: /pa/と/pʰa/の子音区間パワー比較(6000-7000Hz)(上:F2氏、下左:M1氏、下右:M2氏)
図 37は、F2氏(上段)、M1氏(下段左)、M2氏(下段右)の/pa/(実線)と/pʰa/(点線)
の高周波数帯域パワーのグラフである。
F2氏(上段グラフ)では、平音/pa/の3データのうち1データ(①:下向き矢印)が、最
終時点(50ms)で激音/pʰa/の2データとほぼ重なる。また、激音/pʰa/の3データのうち1デ
ータ(②:上向き矢印)は、開始時点から上昇し、30msまでは上昇していたが、その後は ゆっくり下降し、平音の/pa/の2データと重なる。しかし、10ms時点(丸囲み)から30ms に注目すると、激音/pʰa/と平音/pa/のデータが重なることはなく、激音のほうが大きい。
また、M1氏(下段:左グラフ)では、10ms時点(丸囲み)では激音/pʰa/と平音/pa/のデ ータが重なっているが、20ms 以降は両系列のデータが重なることはなく、激音/pʰa/は平音
M1氏
F2氏
M2氏
①
②
③
⑤
④
( dB )
( dB ) ( dB )
P類:/Pa/
P類:/Pa/
81
/pa/より高いパワーを子音区間終わりまで維持している(③:矢印)。
M2氏(下段:右グラフ)は、F2氏と類似して、平音/pa/の3データのうち1データ(④:
下向き矢印)が最終時点(50ms)では激音/pʰa/の 1 データとほぼ重なるものの、激音/pʰa/
の3データのうち2データは、平音/pa/よりも開始時点(丸囲み)でのパワーが大きい。