3 発話実験 2 :後続母音の F0
3.2 高さ比較結果
3.2.3 平音の分布と激音・濃音の分布: 3 段階モデルとの一致
平音の分布と激音・濃音の分布する位置に注目すると、平音始まりの語のV1とV2は、激 音・濃音始まりのものと重ならない。また、子音の調音位置、後続母音による例外もない:
F1氏 F2氏
M1氏 M2氏
( semitone ) ( semitone )
( semitone ) ( semitone )
T類:/Ta/
T類:/Ta/
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図 30:4名の被験者による、語頭子音P類、V1=/a/のときのV1とV2のセミトーン値
図 30は、被験者ごとに語頭P類/Pa/のV1とV2の傾きを示したものである。語頭子音が 平音(▲印)と激音(△印)・濃音(■印)の分布境界に実線を引いている。
4つのグラフのうち、3名の被験者(F1氏、F2氏、M1氏)では、平音のV1とV2ともに 激音・濃音のそれとは重ならない。同じ被験者内であれば、V1は平音と激音・濃音で2 セ ミトーン以上の差がある。V2は平音と激音・濃音が近い場合が観察される(F1氏、F2氏)
が、重なることはなく、平音と激音・濃音という 2 グループは分布範囲が異なっている。
特に、M1氏は、子音の調音位置、後続母音に関わらず、V1とV2ともに平音と激音・濃音 には2セミトーン以上の差がある(/Pa/以外はAppendix 2を参照)。これは、一貫して観察 される差であることから、平音とそれ以外(激音・濃音)の対立を保つ音響特徴として、
F0が使用しやすい可能性が高い。
山崎亜希子(2013)は、3段階の高さからなるソウル方言のイントネーションモデルを提 案した。それまで、語頭が平音や母音始まりであれば第1音節と第2音節は「LH」、それ以
F1氏 F2氏
M2氏 M1氏
( semitone )
( semitone )
( semitone ) ( semitone )
P類:/Pa/
P類:/Pa/
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外で始まれば「HH」となると広く言われていたことに対し、「LH」の「H」と、「HH」の「H」 は高さに明瞭な違いがあることを発話実験で示し、それを基にソウル方言の 3 段階イント ネーションモデルを提案した(図 31)。ここで言う「低類単語」とは語頭が平音・鼻音・
母音始まりの単語、「高類単語」とは語頭が激音・濃音・摩擦音で始まる単語を指す:
図 31:ソウル方言の3段階イントネーションモデル(山崎亜希子 2013: 31 図3引用)
このモデルによれば、高類単語である항상/haŋ.saŋ/(いつも)は「HH」で、どちらの音 節も「H」レベルである。低類単語である아까/a.k’a/(さっき)は「LH」で、第2音節は「H」 であるが、実際の高さは低類単語の「H」が高類単語の「H」よりも低いことから、「0」レ ベルを新たに設定したものである。つまり、H を「H」と「0」レベルの2段階に分けるこ とで、全体のイントネーションの実現形が適切に説明できるようになった。
今回の実験データで、M2氏を除く3名では、平音始まりの語と激音・濃音始まりの語で は、互いに分布範囲が重なることはなく異なっており、山崎亜希子(2013)のモデルと一 致する結果となった。
ただしM2氏では、すべてのデータではないが、平音と激音・濃音の分布が重なる発話が あった。これについては、3.2.4.1で扱う。
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