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第4節 DeSeCoが提示するこれからの学力
PISAはTIMSSなどの伝統的な学力調査とは異なるテスト形式を持つものであり、測定 している学力観も大きく異なるものであった。では、0ECDはなぜlPISAを開発したのだ ろうか。また、PISAはどのようにして開発されたのであろうか。このようなPISAという 全く新しい形式を持つ国際学力調査が開発された経緯、「数学的リテラシー」や「科学的リ テラシー」など従来とは異。なる学力観が開発された経緯には、「DeSeCo(コンビテンシ]
の定義と選択;De丘mt1㎝and Se1㏄±1㎝ofCo㎜petences)」計画というものが大きく関与
している。
1.PISA開発の背景
1968年6月、0ECDは、現在及び将来の教育問題を調査、分析、研究する機関として、
教育研究革新センター(CERI)を創設している。90年代に入ると、社会では、従来のよう な知識偏重教育は、子どもたちの創造性や批判的思考力、自己信頼といったものを犠牲に した上で成り立ってしまっているのではないかという批判、さらに、そのような知識や技 能は、変化が著しい現代社会において役に立つのだろうかという批判が高まっていた。こ のような中で、CERIはTIMSSのよう校学校カリキュラムで学んだ各教科についての知識 や漢字の書き取り、足し算や引き算などの技能を測る従来のテストでは、現代の学校教育 における成果を把握するには不十分であると判断し、0ECDは教科の知識の習得ではなく、
現在社会に求められる新たな教育指標を開発することを決めたのである97。
では、「読み、書き、計算する力とは別に、どんな能力(コンビチンシー)が、個人を人 生の成功や責任ある人生へと導き、社会を現在と未来の挑戦に対応できるように関連づけ
られるのか?」「各個人の基礎となる重要な能力の何組かのセットを定義し、選択するため の、規範的、理論的、概念的な基礎は何か?」、このような疑問に応えるために、1997年末、
0ECDはスイス連邦統計局センターの主導のもと、rDeSeCo(コンビチンシーの定義と選 択;DeinitionanaSe1ectionofCompetences)」計画というものを発足している98。
このDeSeCo計画には、教育学者だけではなく、各国の哲学、人類学、心理学、経済学、
社会学の学者、大規模テストの専門家、OECD加盟国の代表者、国際機関労働者(IL0)、
国際人材開発機構(IFTD0)といった国際組織の代表者が参加し、新たな教育指標の開発 に向けて作業が進められた。1999年と2002年の2度に渡ってシンポジウムを開催し、2002 年に新たな教育指標となる「キー・コンビテンシ1の概念化を確立させ、作業を終了し、
2003年に『最終報告書』を刊行している。そして、このrキー・コンビチンシー」という 新たな教育指標を測定可能な形に置き直したものがPISAなのである99。
では、DeSeCoプロジェクトとは、どのようにして進められ、「キー・コンビチンシー」
確立にまで至ったのか。また、「キー・コンビチンシー」とは、どのようなものを指すのだ
ろうか。
2.DeSeCoの作業プログラム
1997年末、DeSeCoプロジェクトが開始されてから、プロジェクトは具体的にどのよう にして進められ、「キー・コンビチンシー」の概念化に成功したのか。DeSeCoは主に以下 4つの手順で進められた1oo。
①研究のレビュー
1っ目は、0ECD諸国で1990年代に実施された教育指標に関するいくつかの先行研究を
分析することである。97年10月には、第1回DeSeCo国際シンポジウムがスイス連邦の
ヌーシャルテルで開催されている。ここでは、約60人もの専門家や学者が参加しており、いくつかの先行研究をもとに教育指標に関する共通理解となる用語の整理などが行われた。
②概念の解明
2つ目は、コンビテンスの予備概念を決定することである。第1回DeSeCo国際シンポジ ウムなどで明らかとされた教育指標に関する共通用語としては、コンビテンスや技能、資 格、標準、リテラシーなどさまざまな概念がみられたが、ここでコンビテンスという概念 に統一し、その概念の解明を行った。
③ 「キ]・コンビチンシー」の決定
3つ目は、コンビテンスという概念の理論領域について検討を行うことである。哲学、人 類学、心理学、経済学、社会学などさまざまな分野の専門家たちの意見を踏まえて、理論 領域を決定し、キー・コンビチンシーと名付けた。
④各国の報告
4つ目は、キー・コンビチンシーの定義と選択に関する各国の経験とコンビテンシ]の開 発と評価に関する課題のレビュ]と各国間の協議を行うことである。0瓦CD内では国別報 告プロセス(CCP;coun卿。ontribution process)が組織され、2001年にはCCPにおけ る12カ国がキー・コンビチンシーと教育指標に関する項目について国別報告書を提出して いる。02年2月には、第2回DeSeCo国際シンポジウムがジュネーヴで開催されている。
ここでは、CCPでの報告書を分析し、キー・コンビチンシーについて合意を確立した。
このように4つの手111貫を経て、キー・コンビチンシーは確立された。このDeSeCoプロ ジェクト活動の経緯をまとめると、図表1・26のようになる10ユ。
<図表1−26;DeSeCoプロジェクト活動の経緯101>
(ア) 教育指標に関する研究のレビュー
…1990年代における教育指標関連の先行研究の分析
<さまざまな分野の専門家>
哲学者、人類学者、心理学者、
経済学者、社会学者、教育学者、
多規模テスト野専門家 など
<国際組織の代表者>
0ECD加盟国の代表者、
ILO,IFTDO など
第1回DeSeCo国際シンポジウム開催
(1997年10月スイス連邦のヌーシャルテル)…教育指標関連の先行研究から共通理解となる用語の整理
[=> ② 予備概念の解明へ
…コンビテンス、技能、資格、標準、リテラシーなど様々 な概念から「コンビテンス」という概念に統一し、「コンビ テンス」という概念について解明
さまざまな分野ρ 専門家たちの意見
③「キー・コンビチンシー」の決定
…「コンビテンス」という概念の理論領域について検討を行い、
「キー・コンビチンシー」と新たに定義づけを行う <CCPによる協議と報告〉
オーストリア、ベルギー(フラン ダース地方)、デンマーク、フィン ランド、フランス、ドイツ、オラ ンダ、ニュージーランド、ノルウ ェーAスウェーデン、スイス、ア メリカ合衆国(日本は参加せず)
<第2回DeSeCo国際シンポジウム>
(2002年2月 ジュネーヴ)
…CCPで提出された報告書の分析を 行い、「キー・コンビチンシー」につ いて合意を確立させる
2002年前半 DeSeCo計画報告書の作成開始
[⇒ 2003年『最終報告書』刊行
3.キー・コンビチンシーにおける学力概念
では、DeSeCoプロジェクトにおいて確立された新しい教育指標となる「キー・コンビチ ンシー」とは、具体的にどのような能力を指すのだろうか。また、「キー・コンビテンシ]」
は具体的にどのようにしてその概念化の確立に至ったのだろうか。
2001年、CCPは12カ国にコンビチンシーと教育指標に関する項目について国別報告書 を提出させている。そして翌年には、DeSeCo国際シンポジウムがスイスのジュネーヴで開 催されており、国別報告書からコンビチンシーの概念について分析を行った。すると、コ ンビチンシーの概念は、その強度の度合いによって図表1−27のようにグループ分けするこ
とが出来たエ02。
<図表1・27;CCP国別報告書によるキー・コンビチンシー領域の言及頻度102>
高い 中間 低い
社会的コンビチンシー/ 自己コンビチンシー/自己 健康/スポーツ/肉体的コ
協同 管理 ンピテンシー
リテラシー/知的で応用的 政治的コンビチンシー/ 文化的コンビチンシー
な知識 民主主義 (美的、創造的、異文化相互
的、メディアのコンビテンシ 学習力/生涯学習 環境コンビチンシー/自然 一)
との関係 コミュニケーション・コンビ
チンシー 価値方向付け
図表1・27を見ると、12カ国から提出された国別報告書では、コンビチンシーは「社会的 コンビチンシー/協同」「リテラシー/知的で応用的な知識」「学習力/生涯学習」「コミュ ニケーション・コンビチンシー」の4つがその概念として主に多く捉えられているという ことがわかる。例えば、「社会的コンビチンシー/協同」する能力は、他人と協同したり、
支援したり、影響を及ぼしたりすることを指している。国際化や価値の多元化などが進展 しつつある現代社会においては、よりいっそう他人と共に働いたり、協力したりしていく ことが求められているからである。また、「リテラシー/知的で応用的な知識」は、読・書・
算などの伝統的なリテラシーに加え、問題解決力や情報処理能力、省察力などのより応用 的、発展的なリテラシーも含めて捉えられている。このような概念の背景としては、近年、
急激に進展しつつあるグローバル化、情報化などが挙げられる。そして、「コミュニケーシ ョン・コンビチンシー」は、r社会的コンビチンシー」におけるコミュニケーションスキル に加え、内面的、情緒的な発達も含めて捉えられている103。
つまり、コンビテンシ]は、学力のみならず、人間力やコミュニケーションカなど幅広 く捉えられていること、また、どの国も読・書・算といった伝統的なリテラシーに加え、
より応用的発展的な能力として捉えている。このように、CCPによって提出された国別報 告書を図表1・27のように分析した後、コンビチンシーの概念として主に捉えられていたも のを取り上げるなどして、「キー・コンビチンシー」は確立された。
では、rキー・コンビチンシー」とは、具体的にどのような能力を示しているのだろうか。
「キー・コンビチンシー」は、以下3つの広域カテゴリーから構成されている能力を示し
ている。
カテゴリー1;相互作用的に道具を用いること
グローバル化、情報化が進みつつある現代においては、コンピュータのような物理的な 道具(too1)だけではなく、言語や情報、知識などの社会文化的な道具も熟達していく必要 がある。これからの社会では、単に文章を読んだりソフトウェアを活用したりする技術的 なスキルを養うだけではなく、知識や技術そのものを自分で創造したり応用したりしてい くような能力が求められている。ここでは、そのような能力としてrA.言語、シンボル、
テクストを相互作用的に用いる」能力、rB.知識や情報を相互作用的に用いる」能力、rC.
技術を相互作用的に用いる」能力といった3つの能力が具体的に挙げられている。「A.言語、
シンボル、テクストを相互作用的に用いる」能力は、話したり書いたりするといった技術 的なスキルや、コンピュータや図表を利用するといった数学的なスキルを、さまざまな状 況に応じて活用したり応用したり出来る能力を示している。また、「召.知識や情報を相互作 用的に用いる」能力は、適切な情報源を選択したり、選択した情報については責任を持っ て管理したりするなど、情報そのものの性質やその社会的文化的な影響についてよく理解 している能力を示している。そして、「C.技術を相互作用的に用いる」能力は、他者との対 話を通して技術を相互作用的に用いることのできる能力を示している104。
カテゴリー2;異質集団内で相互交流すること
現代は、社会における断片化や多様化が進み、社会的な絆が弱まりつつある状況である といえる。このような現代社会においては、他人とともに学び、働き、生活するなど、よ りよい人間関係の構築が求められている。ここでは、そのような能力として「A.他人とい い関係を作る」能力、「B.協力する、チームで働く」能力、「C.争いを処理し、解決する」
能力といった3つの能力が具体的に挙げられている。「A.他人といい関係を作る」能力は、
他人の立場に立って考えたり、他人の価値観や信念を尊敬したりできる能力を示している。
また、「B.協力する、チームで働く」能力は、グループの中で、他人の考えを傾聴したり基 本方針に従ったり出来る能力を示している。そして、「C.争いを処理し、解決する」能力は、
争いの元となっている問題について分析したり、妥協できる部分とその条件を決めたりし ながら、要求と目標の優先順位を決定したりできる能力を示している105。