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第2節 フィンランドの読解指導
1.PISAにおけるフィンランドの読解力
先述の通り、日本において学力低下が叫ばれるようになったのは、2003年に実施された PISAの調査結果が発端となっている。図表1 4,1・5,1−6において示しているように、本 調査の読解力分野において、日本の順位は、8位(2000年)→14位(2003年)→15位(2006 年)と年々低下傾向にあり、ここから日本の子どもたちの読解力の低下が指摘されるよう になった。この日本の子どもたちの読解力低下間題については、単に読解カが低下してい るとは言えず、PISAの問題が特殊であり、日本の子どもたちが慣れ親しんでいないもので あったからであるといった論もある。
しかし、日本の読解力が低下傾向にあること、日本の読解指導はPISAのような問題に対 応することが出来ていないことは明らかであり、日本は、読解力を向上すること、読解指 導の方法を改善することが課題であるといえる。
一方、フィンランドは、PISAの読解カ分野において、1位(2000年)→1位(2003年)
→2位(2006年)と常にトップを維持している。フィンランドは、読解カにおいて世界で 最も高い水準を保つことが出来ているといえる。では、フィンランドはどのようにして子
どもたちに高い読解カを身に付けさせているのか。ここでは、フィンラ!ドにおける読解 指導を考察していく。
2.フィンランドの読解力・母国語低下間題
現在、世界においてトップの読解力を誇っているフィンランドも、ほんの十数年前には 日本のように読解力低下の問題を抱えていた。1995年、学力調査において基礎学校卒業前 の第8学年(14歳)の児童生徒の読解力が劣っているということが明らかにされ、さらに 翌年の1996年には、高等学校卒業試験ともなる大学入学資格試験において、生徒の母国語 の成績が低下しているということが明らかにされている。こうして、フィンランドでは、
読解力及び母国語の低下が問題.とされ、読解カ・母国語向上への取り組みを始めたのであ
る37。
新聞雑誌協会、教職員組合、図書館協会は、1997年を「読解力の年」とし、その向上に 力を注いだ。また、国家教育委員会は、2001年から2004年における最優先プロジェクト
として、rルグ・スオミ(Luku・Suomi;Reading Fin1and)」プロジェクトを掲げ、母国語 教育の推進に取り組んだのである38。
3.「ルグ・スオミ」プロジェクト
フィンランドにおける児童生徒の読解力・母国語の低下を受けて、2001年から2004年 までの4年間、国家教育委員会はrルグ・スオミ」プロジェクトを掲げ、その向上に努め た。では、この「ルグ・スオミ」プロジェクトとは、具体的にどのような取り組みを指す のだろうか。
rルグ・スオミ」プロジェクトとは、国家教育委員会によって、2001年から2004年に かけて展開された母語教育促進運動のことである。国家教育委員会は、基礎学校における 児童生徒のうち18%が読解カ不足であること、さらに読書の喜びが減少してきていること などから、このプロジェクトを開始したのだと表明している。そこで、「ルグ・スオミ」で は、基礎学校及び高等学校における児童生徒の読解力と文章カを高め、文学の知識を増や すことを目標とし、主に、以下11項目について努めることとされた37。
①読解力の弱いと見なされる下位20%の生徒の読解カを改善すること
②男子生徒を引きつける方法を改善すること
③考え、評価する技能を改善すること
④余暇の時間や学校における読み書き能力を改善すること
⑤学校図書館を発展させること
⑥学校と公共図書館の協力関係を改善すること
⑦教師全員で生徒の読解力を発達させること
⑧教師の持っている文学とフィンランド語の教授法を改善すること
⑨児童文学を教師に紹介すること
⑩読み書きに関して家庭と協同するように学校を活動させること
⑪移民を背景とする子どもに、自己の言語とフィンランド語を教える教授法を発展させる こと
これらの改善項目を見ると、「ルグ・スオミ」は、主に読解指導の方法を改善したり、図 書館を充実させたり、家庭と連携したりするなどの取り組みによって、児童生徒の読解力・
母国語の向上に努めたものだということがわかる。
そして、これらの改善項目を受けて、フィンランドの学校では国語を専門とする教科担 当教師や学級担任教師、さらに学校全体、家庭、保育園、自治体などが連携・協力し、さ まざまな取り組みが行われた。その内容については、以下のようなものが挙げられる38。
「ルグ・スオミ」における取り組みの例
・他教科とのコラボレーションー側えば、詩や文学を読んで、美術の時間にそれに関する 絵を描いたり、逆に美術作品や音楽を鑑賞して詩や物語を創作したりする。さらに、理科 の授業での研究発表やインターネット・文献を利用したレポート作成、数学等の記述式問 題などによって、各教科の教師が答えだけではなく、児童生徒の文章力、正しい記述方法 にも配慮していく。
・図書館設備を充実させる。
・読んだ本の冊数の競争や昇級制度を実施する。
・教えることで学ぶ一上級生が下級生に本の読み開かせをしたり、実際の授業で国語を教 えてみたりする。
・発表の場を与える一雑誌や新聞、インターネット上に記事を書いたり、創作した物語や 詩を掲載してもらったりする。また、文学を読み、それを基にして自。分だちで脚本を作成
し、劇を上演する。
・読書週間、イベント週刊一クイズ大会やrハリー・ポッター」rSF」といったテーマを設 けたイベントを開催する。
・読書の訓練一1分間の速読や毎日短い文章を読んで、その内容について両親に説明する。
・感想を語り合い、感想文をまとめる。
・作家との交流一技術的なことから考え方まで話を聞く。
rルグ・スオミ」では、各学校がそれぞれ工夫をして、さまざまなことに取り組んでい る。これらのような取り組みの他にも、学校によっては漫画を自分たちの方言に訳したり、
古典文学を現代版に創作し直したり、さらにパ!コンやメディアを利用したり、科学的な 題材を取り上げたりなどの活動が行われた.39。
そして、こうした取り組みにより、女子生徒だけではなく男子生徒も積極的に活動する ようになったり、児童生徒が興味をもって取り組むようになったりしたというような成果 が多く報告された。また、「ルグ・スオミ」の成果は、児童生徒に対してだけではなく、大 人たちにも良い成果をもたらす結果となっている。学校の枠を超えた教師同士の交流や、
白治体、家庭と連携・協力するといったことにより、大人たちが読書に対して関心を持つ ことにもつながることが出来たのである40。
この「ルグ・スオミ」プロジェクトにおいて注目すべきことは、授業時間を増やさずに 読解力・母国語向上に取り組んだということである。フィンランドは、読解指導の方法を 改善したり、図書館を充実させたり、家庭と連携したりするなどの取り組みによって、児 童生徒に対し、読書をすることの喜びを与え、読解カを向上させることが出来た。
現在、フィンランドは「図書館利用率世界一」として知られている。国民1人当たりの 公共図書館貸し出しについて、日本は年4,1冊とされているのに対して、フィンランドは1 人当たり年21冊を借りている。また、2000年PISA調査によると、「趣味としての読書を
しない」と答えた生徒は、日本が最も多く55%であったのに対して、フィンランドは最も 低く22%であった。さらに、日本における千葉市船橋市には10、大阪府東大阪市には6、
鹿児島市には13の図書館が設置されているのに対して、これらの都市と人口が同規模であ るフィンランドの首都、ヘルシンキ市には38もの図書館が設置されているなど、フィンラ ンドでは、図書館がとても充実されたものとなっている41。
フィンランドの人々は、図書館を日常的に活用し、読書に励んでいるといえる、「ルグ・
スオミ」によって、読解指導法を改善したこと、図書館を充実させたことなどが、PISAの 読解力分野における高得点を生んだのである。
4.フィンランドの読解指導における問題
このように、フィンランドは「ルグ・スオミ」プロジェクトによって、読解力・母国語 の向上を成し遂げることが出来た。現在、フィンランドは読解カ分野において、世界でも 上位に位置している。このようなフィンランドにおける読解指導の在り方については、現 在、読解力低下が問題とされている日本も、参考にすべきところがあるといえる。しかし、
フィンランドの読解指導及び読解力においては、ジェンダーギャップという問題点も指摘
されている。
図表3・7を見てもらいたい。これは「PISAに参加したOECD加盟国の読解力得点の男 女差(2000年、2003年、2006年)」を示したものである42。ここでは、男子の平均得点か
ら女子の平均得点を引き、その差の大きい順に示している。
く図表3−7;PISAに参加した0ECD加盟国における読解力得点の男女差(2000年、2003 年、2006年)瑚>
国名 男女差 20㏄年PISAにおけ
髓j女差の順位 2000年PISA 2003年PISA 2006年PISA
ギリシャ. 一37 一37 一57 1位
フィンランド 一51 一47 一51 2位
アイスランド 一40 一58 一48 3位
ノルウェー 一43 一49 一46 4位
チェコ 一37 一31 一46 4位
オーストリア 一26 一47 一45 6位
トルニ1 X 一33 一44 7位
ドイツ 一35 一42 一42 8位
スロバキア X 一33 一42 8位
イタリア 一38 一39 一41 10位