第4章 フィンランドの学習理論とカリキュラム
第2節 フィンランドのrナショナル・コア・カリキュラム」
日本では、文部科学省が作成する「学習指導要領」を基にして、カリキュラムが組まれ ている。それと同様に、フィンランドにおいても「ナショナル・コア・カリキュラム」と いうものが存在し、そこでは学校教育の内容及び計画が記載されている。では、このrナ ショナル・コア・カリキュラム」では、どのような学校教育のカリキュラムが組まれてい るのだろうか。
1.フィンランドにおけるナショナル・カリキュラムの歴史
フィンランドのナショナル・カリキュラムの変遷を見ると、フィンランドの教育がどの ように変化してきたのかということを見ることが出来る。
ナショナル・カリキュラムについて約40年間遡ると、1970年のナショナル・カリキュ ラムは、約700ぺ一ジある分厚いものとなっている。教育内容や方法については、ナショ ナル・カリキュラムによって詳細まで規定されており、使用する教科書も国によって規定
されていた。当時のフィンランドの学校教育は、テストの点数が評価として重視され、い わゆる伝統的、訓練的な教育が行われていた。そしてこうした教育状況を受けて、子ども たちそれぞれの個性を重視する教育へ転換が試みられてくるのである79.
1985年になると、ナショナル・カリキュラムは約300ぺ一ジとなり、70年のものと比 べると半分以下まで減らされている。当時、フィンランドは1972年の9カ年総合制学校の 実施、85年の習熟度別授業の廃止、さらに91年の学校管理を国から地方自治体に移す勧告、
92年の教科書検定の廃止など、選別の教育から協同の教育へ、さらに中央集権から地方分 権化へ、大きく転換した時期にあたる。85年のナショナル・カリキュラムにおける大きな 削減は、こうした当時の教育改革がその背景として挙げられる。フィンランドは、ナショ ナル・カリキュラムの内容を大幅に削減することで、現場の教師の裁量権を拡大させ、地 域の教材・地域の課題を使うなど、地域の独自性を生かした授業を編成出来るようにした のである。しかし、実際には教師たちはこうした急な変化に対応出来ず、地域独自のカリ キュラムを作成・実施することが出来た者はほんのわずかであった。このように、ナショ ナル・カリキュラムの大きな削減は現場の混乱を招いたが、一方で、教師が学校を越えて 協力し合うようになったことや、自らの授業を作り出そうという姿勢が生まれたことは、
大きな成果であった80.
1994年のナショナル・カリキュラムは約110ぺ]ジとなり、70年のものと比べると約7 分の1にまで減らされている。この時点でナショナル・カリキュラムは、学年別の記述を なくし、最終学年時点での到達目標及び内容を大まかに示したガイドラインとして捉えら れるようになった。学年配当や選択科目などについては、地方自治体が決定し、教育内容・
方法については、各学校・教師が決定する。しかし、自治体によっては、カリキュラム編
成も学校に委託することも数多くあった。このような申、各学校・教師は、専門家として カリキュラムを編成し、教育方法を考えるようになった81。こうして、フィンランドの教育 は、教えることを重視する教育から学ぶことを重視する教育へと、その教育観は根本的に 転換していったのである82。
そして、現行のナショナル・カリキュラムとなる2004年のものは、約320ぺ一ジとなり、
94年のものと比べると約3倍に増加した。これは、85年からナショナル・カリキュラムの 内容が大幅に削減されたことにより、現場の混乱を招いたことが理由として挙げられる。
2004年ナショナル・カリキュラムでは、94年のものと比べて教育方法等の記述を増やし、
授業時数は複数学年で区切られて示されるようになっている。なお、このような教育方法 についての増加はあるものの、教育内容の増加は成されていない。さらに、各学年におい てどのような内容を学ぶかは地方自治体が決定することとされたが、実際には、地方自治 体と各学校との協議によって具体化された。このように、2004年のナショナル・カリキュ ラムは、94年のものと比べて国のカをやや強めた形とはなっているが、実際には、各学校 の自由裁量権は維持されたままであり、ナショナル・カリキュラムは、大まかな目標・内 容を示したガイドラインとして、その位置づけは変化していない83。
2.ナショナル・カリキュラムの位置付け
このように、フィンランドのナショナル・カリキュラムは、当時の時代背景に対応して 変化してきた。現在、フィンランドのナショナル・カリキュラムは、教育目標や内容、方 法などを大まかに示しただけのガイドラインとして、捉えられている。
地方自治体と学校は、ナショナル・カリキュラムをガイドラインとしながら、地域と学 校にふさわしいものに修正したり、アレンジしたりすることが出来る84.1992年には、教 科書検定が廃止されており、現在では、どのような教科書を使用し、どのような方法で授 業するのかは全て個々の教師に任されている。さらに、どの学年でどのような学習をする のかという、いわば教育課程編成も教師に委ねられている85.70年のナショナル・カリキ ュラムでは、子どもたちの評価はテストの点数を重視されていたが、現在では自己評価を 重視している。教師は、子どもたちの学習状況について、主にレポート等で評価している
86。
このように、フィンランドでは、ナショナル・カリキュラムは絶対的な学校教育におけ る内容・計画なのではなく、各学校や現場の教師たちが指導する上で参考となるガイドラ インとして捉えられている。フィンランドでは、国家ではなく各学校の校長や教師、保護 者たちによるコミュニティーこそが、子どもたちに最高の教育を提供する方法を知ってい
ると考えられている。教師と子どもたちが、画一的に管理され、評価されるのではなく、
当事者たちが共に協力し合い、話し合いながら問題を解決し、授業を作り上げていくこと が、より良い教育に繋がるものだとされている。このように、フィンランドのナショナル・
カリキュラムは、教師や子どもたちにとって自由かつ、柔軟なものとして、捉えられてい
る87。
3.2004年ナショナル・コア・カリキュラム
フィンランドでは、ナショナル・カリキュラムはあくまで教育目標や内容、方法を大ま かに示したガイドラインであり、その決定権はあくまで各学校及び教師たちに委ねている ということがわかった。では、現行のナショナル・カリキュラムとはどのような教育目標 や内容が示されているのだろうか。
現行のものとなる2004年のナショナル・コア・カリキュラムの目次は、図表4・11のよ うになっている88。
<図表4−11 2004年基礎教育におけるナショナル・コア・カリキュラムの目次88>
2004年基礎教育におけるナショナル・コア・カリキュラム
(Nationa1Co舵Cur㎡cu1um For Basic E伽。ation2004)
1 カリキュラム(Curricuhlm)
ユ・工.カリキュラムの編成(Fo正㎜皿1ation of出e㎝r㎡㎝h㎜)
1−2.カリキュラムの内容(Contentsofthecu皿icu1um)
2 教育の出発点(Startingpoints血止provisionofe砒。盆tion)
2−1、 基礎教育における基本的価値(Under1yingva1ues ofbasic eaucation)
2−2. 基礎教育における使命(M王ssi㎝ofbasiceducation)
2−2. 賰b教育の構成(stmcture ofbasiceducation)
3 教授実践(I㎜p1ementati㎝ofinstmction)
3−1.学習概念(The concepti㎝of1eami㎎)
3・2.学習環境(Lea虹ng en由。nment)
3・3.運営上の文化(0peratio皿a1cu1tu船)
3−4.活動的アフ1コーチ(Workingapproackes)
4 学習に対する一般的支援(Gemra1support危r stuホes)
4・1.家庭と学校間の協力(Cooperationbetweenhome anaschoo1)
4・2.学習計画(The1eamingp1an)
4・3.教育対策と職業指導(pエ。visi㎝ofeducati㎝andv㏄ationa1馴idance)
4・4.補習教育(Remedia1teac趾I1g)
4・5.児童福祉(Pupiwe血are)
4・61クラフ活動(C1曲acti㎡ties)
5 特別な支援を必要とする児童への教育(Instmction ofpupi1s nee出ngsp㏄ia1support)
5・1.異なる支援方法(D描erentmoaesofsuppo並)
5・2.非常勤での特別な二一ズヘの教育(Pa汁ti㎜e sp㏄ia1・needs education)
5・3・入学や転校をする児童に対して特別に必要な教授(Instmction ofpupis enro11edin or trans危鵬出n辻。specia1・needseaucation)
5・4.個々の教育計画(Inホ拙ua1educati㎝a1p1an)
5・5.活動場による教育準備物(Pm㎡sionofinstmcti㎝byacti㎡tyarea)
6一文化と言語教育(Instmctionof㎝1tura1andIanguage gm哩s)
6・1.サーミ(Thesami)
6−2.ロマ語(Romanies)
6−3.手話使用者(Sign1anguage users)
6・4.移住民(I蛆mig正ants)
7.学習目標と教育の中核な内容(工eami皿gob畑tives狐dcore c㎝tents ofeducati㎝)
7・1.統合的横断的なカリキュラムテーマ(Integrationandcmss・㎝rri㎝1arthemes)
7・2.母国語と第二国語における学習(Stu伍esinmo砒ertongues an砒he s㏄㎝hationa11anguage)
7・3.母国語と文学(Mo曲ertongues a皿d批erature)
7−4.第二国語(Secondnatiom11anguages)
7−5.外国語(Foreign1anguages)
7−6.数学(Matbe皿atics)
7 7.環境と自然の学習(EI1曲。menta1and natura1studies)
7・8.生物と地理(Bio1o駆ana geography)
7−9.物理と化学(恥ysics anachemis師)
7・10.健康教育(Heaユtheaucati㎝)
7・11.宗教(Re1igion)
7・12.倫理(Ethics)
7−13.歴史(His辻。W)
7・14.社会科(Socia1studie阜)
7・15.音楽(Music)
7 16.美術(Visua1art目)
7 17.工作(Cra免s)
7・18、体育(Pbysica1e伍ucati㎝)
7・工9.家庭科(Home economics)
7−20.選択科目(0ptiona1subjθcts)
7・21.教育的・職業的ガイダンス(瓦aucationa1andvocationa1guidance)
8 児童評価(Pupi1asses目ment)
8−1.学習指導要領での評価(Assessmen縦u㎡ngthe co皿se ofstu曲es)
8・2.最終的評価(Fina1assessment)