第 2 章 DSM 手法を用いたマネジメント要素の検討順序に関する研究
第 3 節 DSM 手法を用いた効果的な検討順序
1. DSM
のパーティショニングとティアリングのアルゴリズムDSMは,スチュワード(Steward)によって提唱1)され,各作業工種間の相互の連関性に 注目したマトリックス手法である.したがって,作業工種が多くなっても作業順序全体を 一覧することが容易であり,かつ,明確に判読することができる.
1990年代に入りマサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology)が設計 過程の領域まで研究を拡大し,実用されるようになった.また,イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)においても研究が進められ,米国の軍事・宇宙産業,航空機,
自動車等の分野でDSMの適用成功例が報告されている2).特に,複雑な作業順序の設定に 有効であり,設計や作業順序の最適・効率的な順序立てに利用されている3), 4).
プロジェクトの進捗は,時間軸によって表現される.一般的には,横線式工程表(バー チャート)やPERT(Program Evaluation and Review Technique)等の手法を用いて工程計画 を検討,監視してきた.横線式工程表は,縦軸に作業内容を並べ,横軸にタイムスケール を表現する.このことにより,作業の計画日数の把握は可能であるが,作業間の連関性が 表現されないため,全体工期の遅延等を監視することが困難な場合がある.特に,様々な 工種が複雑に連関する場合は,進捗の監視と判断は困難である.PERTは,作業順序と各作 業に必要な時間,そして,作業間の連関の仕方を数値表で表現する手法である.各作業の 遅延等を更新すると全体工期の変動も随時計算できる.また,作業工種間の連関性や必要 な時間を検討することにより,全体工期のシミュレーションを行うことも可能である.PERT をネットワーク工程表に表示することにより,視覚的にプロジェクトの進捗を把握するこ とができる.しかし,これらの工程表と管理手法では,手戻りや繰返し作業,後に実施す る作業工種から前に実施すべき作業工種へ繰返すという影響を表現することはできない.
プロジェクトマネジメントでは後で検討した結果から前に検討したマネジメント要素を 繰返して検討することがある.例えば,時間の短縮を検討したらコストが上昇し,品質が 低下してしまうことが明確になった場合,再度時間の短縮方法について見直す等の繰返し 検討である.
正方マトリックスであるM・マトリックスは,作業間の連関性を表現できる.すなわち,
今までの工程作成・管理手法では表現できなかった繰返しの関係や影響,繰り返しの可能 性を表現することが可能である.ただし,M・マトリックスには時間軸を持たないため,工 程表としての表現は不可能である.作業間の連関性に基づいた繰り返しや手戻りの可能性
が表現でき,他の工程管理手法と併用することにより,効果的な時間管理が可能となる.
図 2-3は,作業工種A と作業工種B の連関性を上段のグラフ表示(工程表)と下段の DSMで表記している.図 2-3の左に示したように作業工種Aと作業工種Bには連関性が 無く,並行作業になる.その場合は,DSMではセルに印が付かない.作業工種Aの終了後 に作業工種Bが開始される場合はAからBへのセルに“×”等の印が付く.さらに,作業 工種Bの後に作業工種Aに,また作業工種Aの後に作業工種Bにそれぞれ繰返しがあるよ うな場合,すなわち作業工種AとBが相互に連関している場合は,それぞれのセルに“×”
等の印が入る.(対角線上の網掛けしたセルには印が入らない.)このようにDSMでは,後 の作業からの前の作業への繰返しの連関性を表現できるという特徴がある5).
関連
A A
A B
B B
A B A B A B
A A A ×
B B × B ×
DSM表示
並行 連続 相互依存
作業工種AとBの 関連性
図 2-3 逆戻りを表現できるDSM
ま た ,DSM に は 検 討 手 順 の 最 適 化 ・ 効 率 化 検 討 手 法 と し て パ ー テ ィ シ ョ ニ ン グ
(Partitioning:仕切り分け)とティアリング(Tearing :削除)のアルゴリズムがある.こ れらのアルゴリズムは,行および列の中の順序を入れ替えることにより,繰返し作業を消 滅させるか,または小さな繰返し順路にするアルゴリズムである.このアルゴリズムをM・
マトリックスに適用することで,繰返し検討の連関性を少なくした,すなわち効果的なマ ネジメント要素の検討順序の設定が可能になる.
例えば,図 2-4に示すような4つの作業工種(A,B,C,D)で構成される作業順序を 考える.上段がパーティショニング前の作業順序とする.セルの“×”印は,作業間に連 関性が有ることを示す.A,B,C,Dの順序で作業を行うと,作業工種 Cから作業工種B へ,そして作業工種Dから作業工種Bへの繰返しが存在する.そこで,下段のように作業 工種Bを最後に実施することとし,作業工種Cと作業工種Dを1順序前に実施する計画と すると,繰返しが無くなる.すなわち,パーティショニング後の検討順序の方が効果的と いえる.図 2-5には,ティアリングによる検討順序の最適化を例示する.
A B C D A B C D
A A
B x x x B x x
C x C x x
D x x D x x
A C D B A B C D
A A
C x B x
D x x C x x
B x x x D x x
DSM表示 ネットワーク(グラフ)表示
DSM表示 ネットワーク(グラフ)表示
A B
C D
A C
D B DSMパーティショニング 繰り返しを無くす(少なくする)こ
とによるプロセスの最適化
A B
C D
A B
C D DSMティアリング 大きな繰り返しを無くすことによ
るプロセスの最適化
図 2-4 パーティショニングの例 図 2-5 ティアリングの例
図 2-5(上段)において,セル「D→B」に印があり,繰返し作業の連関性を示している.
DからBへの連関性を切断することが可能であれば,作業工種AからDへの繰返しが存在 しなくなり,作業は効率化する.しかし,ティアリングは全ての場合に適用可能であると は限らない.大きな繰返し作業があるような場合にティアリングを検討することが有効と なる.
現在のところ,ティアリングには最適な方法や判定法等は存在しないが,ティアリング の実施を決定する際には,以下に示す2つの基準を考慮することが推奨されている6).
ティアリングの数を最小限にする:その理由は,セルに記入されている 印は当初計画の概略手順や推測を表現しているためである.
セルの印は対角線に沿った最小のブロックに限定する:その理由は,繰 返し作業の中に,さらに繰返しが存在すると(ブロックの中に更にブロ ックが存在する場合),内側の繰り返し頻度が多く実行されるからである.
このため,内側の繰返しは少数の作業工種に限定するのが適切である.
なお,パーティショニングとティアリングのアルゴリズムを本章の【付録】に詳述する.
2. DSM を用いた効果的なマネジメント要素の検討順序
前項で詳述したDSMをアンケート調査結果から得られたM・マトリックスに適用し,効 果的なマネジメント要素の検討順序を設定する.
(1) 総合建設のDSM解析
表2-2に示した総合建設のM・マトリックスを,パーティショニングおよびティアリング 処理して,マネジメント要素の効果的な検討順序を検討する.
表2-6はパーティショニング後のM・マトリックスである.情報からリスクまでの,スコ ープを除いた7つのマネジメント要素を含む大きな繰返し検討が点線で囲んだ部分に存在 していることが判る.ここでスコープを除いた7×7のマトリックスとして考える.この中 でリスクから繰返される影響を仮定して,情報からマネジメント要素の検討を開始すると 考えると,表2-7の点線で囲った四角のような小さな繰返し検討の集合となる.表2-6の 行c×列hセルの「1」を削除したことに相当する.これがティアリングアルゴリズムによる マネジメント検討順序の効率化である.
小さな繰返し検討は,定常的・恒常的な繰返し作業であるため,検討効率の改善が対応 策となる.それに反し大きな繰返し検討は,予期できない繰返しに相当する.したがって 大きな繰返し検討が存在する場合,予期できない繰返し検討が生じないようにマネジメン トすることが対応策となる.
(2) コンサルタントと海外企業のDSM解析
表2-8にコンサルタントのパーティショニング後のM・マトリックス,および表2-9には 海外企業のパーティショニング後のM・マトリックスを示す.
表2-8のM・マトリックスと表2-9のM・マトリックスには,最小のセルを取り除くよう な効果的なティアリング処理はできないので,パーティショニング後を最も効果的な検討 順序となる.
表2-6 総合建設M・マトリックスのパーティショニング後
スコープ 情報 調達 人的資源 時間 コスト 品質 リスク
g c e f b a d h
スコープ g
情報 c 1 1
調達 e 1 1 1
人的資源 f 1 1 1 1 1
時間 b 1 1 1 1
コスト a 1 1 1 1 1
品質 d 1 1 1 1
リスク h 1 1 1 1
表2-7 総合建設M・マトリックスのティアリング後
スコープ 情報 調達 人的資源 時間 コスト 品質 リスク
g c e f b a d h
スコープ g
情報 c 1 1
調達 e 1 1 1
人的資源 f 1 1 1 1 1
時間 b 1 1 1 1
コスト a 1 1 1 1 1
品質 d 1 1 1 1
リスク h 1 1 1 1