1. 建設プロジェクトにおけるマネジメントに関する既往研究の整理
建設マネジメントが研究分野として確立されてから未だ日が浅い.(社)土木学会がわが 国では最も早く 1985年に建設マネジメント委員会を設立した.教育部門では 1993 年に東 京大学工学部土木学科に建設マネジメント/開発システム研究室が設立されたのが始まり である30)
その後,GATT(関税と貿易に関する一般協定)における政府調達に関する協定の締結と いう国際的な動向等により,建設マネジメントに関する研究が活発に行われてきた.現在 では国土交通省国土技術政策総合研究所(旧土木研究所)の建設マネジメント室等におい て継続的に研究が行われている.本節では,わが国において研究歴史のある(社)土木学 会における建設マネジメントに関する既往の研究を論文集より抽出し,整理する.
(1) 既往の建設プロジェクトにおけるマネジメント研究
a) 建設マネジメントにおける生産性に関する研究31)(馬場敬三「我が国の建設マネジメントにおけ る生産性の重要性とその改善」1994)
建設マネジメントの目的は“経営資源を効率的に使い生産性を高めることにほかならな い”と定義している.生産性の評価法として,分母のコストや価格の変動は少ないため,
分子の価値および付加価値等の向上について品質等との関連を研究している.そして,生 産性改善方策として①生産物の価値の企画(計画,設計)と②その具体化(製造,施工),
そして③それらを総合的に捉える視点が重要としている.従来までは②の施工技術を中心 に議論されてきたが,社会の複雑化に伴って価値の議論が重要性を増しているとしている.
そして,生産性の改善に時間的価値やコンピュータを利用した工程管理の必要性を述べて いる.
生産性の向上に視点を置き,品質等の付加価値要因を検討した研究である.
b) 品質,時間,コストの重要性と共に,コストマネジメントを中心としたマネジメントの体系化に関 する研究32)(草柳俊二「国際建設市場に於けるプロジェクトマネジメントの体系化を目指したコス ト管理技術」1994.01)
コスト管理は競争力の向上,プロジェクト遂行力の源となる様々なデータを定常的かつ 定量的に生み出すものであり,コスト管理をプロジェクトマネジメントの根幹と位置付け て,我が国建設企業の持つコスト管理特性を踏まえたコスト管理,工程管理および契約管 理との統合・連携管理の技術に関しての研究である.建設プロジェクトの管理運営は,「仕
様書に記載された品質の仕事を,定められた時間内に,目標とするコストで完成させるこ と」であり,これをいかに実現するかを目的とすると述べている.主なマネジメント要素 をQCTとし,QCTにはそれぞれに連関性が存在するため,複雑なマネジメントが必要とし ている.その中でもコスト管理をプロジェクトマネジメント体系化の基盤,プロジェクト マネジメント機能の総和として位置付け,工程管理との連携設定によりコストと工程の関 連付けができるとしている.
QCTの連関の重要性を認識し,その中でコストを重視した研究であるが,QCTの連関性 に関しては論理立てて掘り下げてはいない.
c) 国際建設プロジェクトを遂行する観点からマネジメントシステムの構築に関する研究33)(草柳俊 二「国際建設プロジェクトのマネジメントシステム構築のための基礎研究」1996.09)
さらに草柳は,我が国の建設市場の開放に伴う建設関連企業が必要なマネジメントシス テムの構築を目的とした基礎研究を行っている.国際建設プロジェクトに必要な建設技術 を,コスト管理,工程管理,品質管理等を含めて 16 の管理要素で表現している.そして,
日本,アジア,欧州の約30名の国際建設プロジェクトに携わった技術者に対して管理要素 の重要性を調査した.その結果,技術者は工程管理,施工計画,コスト管理,契約管理,
品質管理が重要であると認識していることが判明した,としている.そして,それらは独 立したものではなく互いに関連付けられて捉えなければならず,それぞれを連携し体系化 されたものであることが必要と述べている.
本研究は,多くのマネジメント要素の必要性とその連関性を認識し,重要であるとして いる.しかしながら,それぞれの技術項目や管理要素間の連関性やバランス等に関しては 明確に掘り下げてはいない.
d) ネットワーク工程表の構造特性分析による最適工程計画に関する研究 34)(春名功等「ネットワ ーク工程表の構造特性分析と最適工程計画モデル構築に関する理論研究」1996)
建設プロジェクトの大規模化,複雑化や多様化に伴い,従来から適用されてきた PERT
(Program Evaluation and Review Technique)やCPM(Critical Path Method)等のネットワー ク工程表を建設プロジェクトに適用するための手法を春名等は開発した.現実の工事には 工程とコスト及び品質には明らかに有機的な関係が存在しているとし,ネットワーク工程 表を導入する手法に関しての研究である.直列作業や並列作業が混在する工事における作 業資源の最適配分を目的とした手法の開発を行った.
QCT の相互依存関係の存在とその重要性を認識し,工程と作業資源という 2つの要素に 対象を絞った研究である.
e) マネジメント要素の抽出とマネジメント体系の構築に関する研究 35)(高崎英邦等「建設事業に 対応したプロジェクトマネジメント体系の研究」2002.12)
建設プロジェクトにマネジメントの考え方を導入することにより,全体最適化及び生産 性向上が図れるとし,わが国の社会環境に適した建設マネジメントの体系構築に関する研 究である.その考え方は,プロジェクトの関係体を受注者(受注者プロジェクトマネジメ ント),発注者(発注者プロジェクトマネジメント),地域住民・社会(社会プロジェクト マネジメント)に 3 つに分類し,それぞれの要求事項を整理することにより必要なマネジ メント要素を抽出している.その結果,14 のマネジメント要素と建設マネジメントの構成 体系を示している.そして,統合マネジメントを最上位にして,PDCAマネジメントサイク ル(Plan→Do→Check→Action)を実施するとしている.
本研究の特徴の一つとして,統合マネジメントを最上位と位置付けている点である.そ して,多くのマネジメント要素で建設マネジメントは実施されるべきであるとしているが,
それら要素間の連関性や重要性等に関しては,論理立てた展開はなされていない.
(2) 既往研究の整理と解析手法の問題
いずれの研究者もQCT以外の複数のマネジメント要素を検討対象とすべきであることを 認識し,指摘している.そして,それぞれのマネジメント要素間の連関性に関しても検討 する必要があるとしている.しかしながら,既往の研究は,旧来のQCTや作業資源という 特定のマネジメント要素を対象としてきた.また,QCTの各要素に共通して言える特徴は,
QCT 要素毎の数値情報で結果を評価することが可能であり,他のマネジメント要素との連 関性やそれらを統合して判断する方法に関して焦点を当てた既往の研究はなされていない.
例えば,品質管理では品質確保の考え方が強調された結果,コストとの関係は重要視され ていない.原価管理においては財務会計的な支出管理が中心となり,工程や品質との関係 を含めた全体を大きく捉えるプロジェクトマネジメントへの応用研究はあまり進んでいな い36).これは,QCTはコストや時間,コンクリートの強度統計値で示される品質等の数値 で工事のマネジメント結果(result)を評価する階層であることに対して,他のマネジメン ト要素,例えば,情報やスコープのように結果(result)に影響を与える経過(process)の マネジメント要素を結果(result)のマネジメント要素と同等に考えていることに起因して いると考える.本研究では,結果(result)と経過(process)の階層を区別することにより,
8つのマネジメント要素を統合できるという論理を展開している.