第 6 章 ネットワーク解析手法を用いた工期順守に影響を与える作業工種の抽出法に関す
第 2 節 ネットワーク解析手法を用いた工程順守に影響を与える作業工種の
1. 媒介性指標による重要な作業工種の特定法
本研究では,一般的なネットワーク工程表に作業工種間の連関も含めたネットワークモデ ルを作成し,連関性の解析に用いる.このモデルでは,作業工種をノード(node),作業工 種間の連関をリンク(link)とし,連関の方向を持った有向グラフと捉えることができ,グ ラフ理論の媒介性指標の適用が可能である.これについては第3章,第4章,第5章と同様の 適用法である.
媒介性指標は,影響や情報を仲介する機能を示す.すなわち,当該ネットワーク工程表に おいて,他の作業工種へ影響を与え易く,ひとたび問題が顕在化した場合,連鎖反応を起こ す可能性の高い作業工種として判定することが可能である4).
次に簡単な作業工程で媒介性指標の算出例を示す.
図 6-1に示すような3つの作業(上段,中段,下段)の流れで構成された作業例である.
時間軸で評価するCPMでは,赤い連結線がクリティカルパスとなる.ここで,青い破線で 示した作業工種(上段の型枠工①,中段の型枠工②,下段の型枠工③)に連関が存在する 場合,図 6-1をネットワークモデルと捉え,各作業工種(ノード)の媒介性指標を算出す る.その結果を図 6-1の各作業工種の上に示す.
図 6-1 3 つの作業の流れで構成された工程例
クリティカルパスではない中段の作業に流れにある型枠工②の媒介性指標が高いのが判 る.他の作業工種に影響を与える可能性が高いといえる.また,上段及び下段の作業の流 れにおいても,型枠工の媒介性指標が高く,リスクの連鎖を引き起こす可能性が高いと判 断できる.
CPM では把握することが困難であった,クリティカルパス上の作業工種に影響を与える 可能性が高く,クリティカルパス上にない作業工種の特定が可能である.すなわち,クリ ティカルパス上ではないため工程に余裕時間が存在し,この余裕時間を監視することによ り,事前に追加の作業資源の投入等のマネジメント判断が容易となる.これは,工程遅延 という問題が発現した場合,作業工種間の連関性による媒介性指標の高い作業工種の連鎖
(リスク連鎖)を遮断することであり,効果的な損失拡大防止策となる.
2. 手戻り作業の影響評価手法
海外工事で一般的に実施されているインスペクター制度は,発注者側の監督員が工事現場 に常駐しており,日常的に監督検査を実施している5).我が国で試行が始まったプロセス検 査や段階検査6)のような頻度と比較して,監督検査の実施頻度は格段に多い.
例えば,ボックスカルバートの掘削工が完了し,型枠(側壁)を立てる前の均しコンクリ ートを打設する場合, 掘削面(床均し面)のレベルの検査が必要になる.均しコンクリー トを打設した翌日には,型枠を立ち上げる前に,均しコンクリート面のレベルの検査を受け なければならない.同時に,側壁型枠の墨だし線も発注側の測量監督員が臨場検査をして,
確認後でなければ,型枠組み作業の開始は許可されない.すなわち,監督検査の頻度が多く 手戻りの発生する可能性が高い.加えて監督検査の時間も考慮する必要があり,工程順守へ の影響が大きい.そこで,ある作業工種の手戻りの発生を確率と捉え,モンテカルロシミュ レーション手法を用いて,手戻りによる全体工程への影響を推測する.
次に,検査による手戻りの可能性を推測する簡単な例を示す.一つの作業が30日間かかる 3つの連続する作業工種A,B,Cで構成された工事を考える.作業工種Aの終わりに検査が あり,検査で作業工種Aの完了が確認されてから,作業工種Bが開始される.作業工種BとC の間にも同様の検査が存在する例である(図6-2).各作業工種の平均的な必要日数は,30 日間ではあるが,経験や過去の記録に基づいて最長,最短の場合も考慮し,検討する日数デ ータは最短,平均,最長という三角分布7)と考える.手戻りの発生する確率は,作業工種A は10%,作業工種Bも10%,作業工種Cは検査が無いので0%とする.
手戻りが発生した場合,一部の補修等で済むことが多く,当初の作業日数を必要としない.
これを繰返し作業における習熟度とし,当初計画の必要作業日数に対して,作業工種A,B 共に5%とする.繰返し時の検査は,検査内容が限定される場合が多く,習熟度は50%とす る.なお,ここで仮定したデータを表6-1に整理して示す.
図6-2 3作業工種の連関と検査による手戻り発生イメージ
表6-1 3作業工種の日数データ
作業工種 必要作業日数 習熟度 (%) 最短 平均 最長
A 28 29 30 5
検査 1 1 1 50
B 28 29 30 5
検査 1 1 1 50
C 29 30 31 0
※ 必要作業日数(平均)の総和は90日間である.
この条件のもとに,モンテカルロシミュレーションの試行回数毎に初期値を設定して,手 戻りの影響日数を推測する.
表 6-1の条件で,モンテカルロシミュレーションを100回試行した結果を図 6-3に整 理する.横軸に算出された必要日数,縦軸にモンテカルロシミュレーションの試行回数を 表示してある.
平均値+標準偏差が92~93日,累積確率が80%を超えるのは91日であり,全体で当初 90日間の計画ではあるが,手戻りの発生により1~2日の遅延の可能性が高いと推測できる.
必要日数 試行回数 累積確率
87 1 1%
88 1 2%
89 19 21%
90 42 63%
91 17 80%
92 6 86%
93 4 90%
94 4 94%
95 1 95%
96 3 98%
97 0 98%
98 1 99%
99 1 100%
試行回数計 100
最頻値 90
平均値 90.73 標準偏差 2.00
統計値
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45
87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 必要日数(日)
試行回数(回)
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
累積確率
試行回数 累積確率
図 6-3 モンテカルロシミュレーションの結果
以上のように,本章では,時間短縮を検討する際,個別作業工種間の連関性変化による 工程順守に影響を与える可能性の高い作業工種の抽出法と,連続した作業工種の手戻り影 響度合いを定量的に評価する手法を研究した.