第 3 章 ネットワーク解析手法を用いた結合度性の強いマネジメント要素の特定法に関す
第 2 節 マネジメント要素を統合して評価する手法
様々なマネジメント要素の連関性の組合せをネットワーク構造と捉え,その構造を解析 する手法がネットワーク解析手法である4).すなわち,マネジメント要素をネットワークの 頂点(node:以下,ノードという)とし,マネジメント要素間の連関を紐帯(link:以下リ ンクという)で表現し,マネジメント要素全体としての特徴を解析する手法である.
例えば,協力会社に効率的に発注するために,複数の工種に共通する作業内容や施工機 械の使用時間を検討したり,また「セールスマンの巡回問題」のように,建設資材を複数 の工事現場に配送する際に,各工事現場を効率良く回る順序を選定したりすることも,ネ ットワーク構造と捉えて解析することができる.特に,複雑な連関性が存在する場合にお いて,有効な解析手法である.
建設プロジェクトは,工種や工程等の変化により,常に同一のマネジメント要素の連関 を有しているとは限らない.建設プロジェクトにおける効果的なマネジメントを実施する ためには,マネジメント要素間の影響の方向や連関性の強いマネジメント要素を的確に把 握する必要がある.
1. M・マトリックスからネットワーク解析手法への展開
M・マトリックスとネットワークのデータは,一対一に対応する.そこで,M・マトリッ クスからネットワークに変換し,ネットワークの構造特性を解析する手法を用いて,マネ ジメント要素間において連関性の強いマネジメント要素の特定法を示す.
(1)ネットワーク解析手法を用いた統合マネジメントの評価・検討手法
ネットワーク解析の本質は,ネットワークのノード同士の連関性を記述し,その位置特 性を解析することである.ノード間のどのような連関性を解析の対象とするのかは,解析 を実施する者が決めることである5).そして,ノード間には様々な種類の連関性が存在する ことが多いが,特定の“連関性”に注目した時点で,その連関性のみを切り離して扱うこ とになる.例えば,ノード間の建設労働者の職種兼務連関性や勤務地域の移動状況連関性,
施工機械や建設資材の転用連関性等である.また,元請や下請け,孫請けのような契約連 関性等も解析の対象になると考えられる.
N
N× の正方マトリックスのデータ構造は,N個のノードと最大
N × ( N − 1 )
のリンクで表現できるネットワークに対応する.例えば,全てのマネジメント要素間に相互に連関性 がある(両方向に影響がある)とした場合,第 1 章の図 1-8 に示したようなネットワーク 構造に表現できる.ここに再掲する.矢印は影響の方向を示す.反対に,ネットワークか ら正方マトリックス(隣接行列ともいう)へ変換することもできる6).
スコープ
コスト
情報
調達
時間 人的
資源 品質
リスク
図 1-7 全マネジメント要素が相互に連関している場合のネットワーク表現(再掲)
マネジメント要素の全体連関性をネットワーク構造に変換し(以下,M・ネットワークと いう),M・ネットワーク構造の特性を解析し,把握することにより,建設プロジェクトに おけるマネジメントの状況や傾向,特徴等の解析が可能となる.すなわち,M・ネットワー クという系において,中心的な役割を演じ,連関性の強いマネジメント要素を特定すると いう解析手法である.ここでは,連関性の方向とその有無を解析対象とする.すなわち,
このネットワーク構造は有向グラフ(トポロジカルネットワーク:topological network)に 分類される.
なお,この考え方を用いた道路網や電力線網等の物理的なネットワーク構造の解析 7), 8) や,人物(テロリスト)の知り合い関係,学術論文の引用関連,たんぱく質の連鎖関係等 の非物理的な関連性の解析手法としての研究成果9), 10), 11)も発表されている.
本研究においては,有向グラフとして構成されている M・ネットワークに対して,グラ フ理論の中心性指標の一つである媒介性指標(Between-ness)を主に用いて,ネットワーク の構造特性,すなわちマネジメント要素間の連関性を考慮した重要なマネジメント要素特 定のための解析を行う.
代表的な中心性指標の種類とその算出式を以下に示す12), 13).それぞれの中心性指標がど のような意味合いを示しているのかも合わせて示す.
a) 入次数指標(In-degree Centrality)
ノードiに入るリンク数を示す指標である.情報や連関性の集中度を表す.
例えば,ある地域の建設廃棄物のリサイクル工場は,工事現場Aのみならず,BやC等 の複数からアスファルトの切削塊が持ち込まれ,再生砕石を製造しているような場合,そ の工場は,建設資材のリサイクルという観点で入次数が高く,重要な役割を果たしている といえる.
In-degree
∑
− =
= N
j
xji
i N 1 1
) 1
( 式 3-1
ここにxjiはノード jからノードiに入るリンク数.
b) 出次数指標(Out-degree Centrality)
ノードiから出るリンク数を示す指標である.情報の発信度合い等の中心性を表す.
例えば,元請業者から複数の協力会社や専門会社,建設資材の提供会社,建設機械のリ ース会社等へ資金が流れる.すなわち,建設プロジェクトにおける資金の流れを考えると,
元請業者の出次数が高く,中心的な役割を果たしているといえる.
Out-degree
∑
− =
= N
j
xij
i N 1 1
) 1
( 式 3-2
ここにxijはノードiからノードjに向かうリンク数.
c) 接近性指標(Closeness Centrality)
ノードiが,ネットワークの中で周囲のノードに到達できる最短径路の逆数で表現される.
物理的な距離ではなく,ネットワークの中でステップ数(経由するリンク数)の少なさに より,他のノードに接近していることを評価する中心性指標である.式 3-3において,δijは ノードiからノード jまでの最短径路である.
例えば,ある地域の建設資材運搬業者が,工事現場 A を経由して工事現場 B,C等へ運 搬するような場合,全体の工事現場に対してどのくらい少ないステップ数で到達できるの かということを評価する指標である.経由する工事現場が多く,荷物の積み下ろしや手待 ち時間の方が,運搬距離(時間)よりも課題になるような場合の評価方法である.
Closeness
∑
== −
N j
ij
i N
1
) 1 (
δ
式 3-3
ここにδijはノードiからノードjまでの最短径路.
d) 媒介性指標(Between-ness Centrality)
ノードiが,ネットワークの中で情報等の媒介や仲介をすることによる中心性を示す指標 である.ノードが他のノードとの関係をどのように媒介(仲介)しているのかに基づいて,
中心性を定義する方法をフリーマン(Freeman)が提唱した14).
媒介性指標は,ネットワークの中でノードAとノードB,ノードC等を仲介する,いわ ゆるブローカー的な存在のノードを抽出することができる.したがって,この指標(媒介
性指標)をBrokerageと呼ぶ研究者もいる.
国立民族学博物館陳天璽ち ん て ん じ准教授は,『虹のメタファーに見る華商ネットワークの本質』15) という著書の中で,華僑と呼ばれ全世界に広く進出している中国人の本質の一つとして,
ブローカー(媒介性)としての能力が突出していると述べている.
建設施工においては,例えば,仮桟橋や仮設道路を設置することにより,複数の場所打 杭や橋脚等の施工が実施できるようになる.すなわち,仮桟橋や仮設道路の設置という作 業が他の複数の作業を結びつける機能を持っているといえる.このように仮設備は,複数 の作業を関連付けたり,作業効率を制約したりすることが多く,建設施工においては仮設 備計画が重視されることが多い.
Between-ness
∑
=
= →
→
= N → k
j j k
k i j
Gpaths Gpaths i
1 , 1
)
( 式 3-4
ここにGpathsj→kはノードjからノードkまでの全ての最短径路数,Gpathsj→i→kはノード jからノードiを含んでノードkまでの最短径路数.
(3)ネットワーク構造と中心性指標の相違:例1
次に,簡単なモデルで中心性指標の相違を示す.ネットワークモデルを図 3-1に,各ノ ードの中心性指標を表 3-1に示す.
モデルは 7 つのノードで構成され,リンクは双方向,すなわち無向グラフとする.ネッ トワーク①は,一般的に“星型”と呼ばれ,ノードCが他の全てのノードと連関性があり,
重要な存在であることが判る.それは,表 3-1からも全ての中心性指標が高いことでも示 されている.
同じ 7 つのノードで構成されるが,リンクのつなぎ方が少し異なったネットワーク②で は,他のノードとの関係の多いノード C はネットワーク①のモデルと同様に全ての指標で 高い数値となっている.注目すべき点は,ノードFとノードGを孤立させないようにつな いでいるノードEの媒介性指標が,ノードCの媒介性指標と同等であることである.すな わち,ネットワーク②の構造の場合,ノードCとノードEが中心的な役割を果たしており,
連関性の強いノードであることがわかる.
② ②
⑤ ⑤
ネットワーク ① ネットワーク ②
C B
A
D
E F
G
C B
A
D
E F
G
図 3-1 7 つのノードで構成されるネットワークモデル
表 3-1 7 つのノードで構成されるネットワークモデルの中心性指標の相違
ノード 入次数 出次数 接近性 媒介性 ノード 入次数 出次数 接近性 媒介性
A 0.14 0.14 0.55 0.0 A 0.43 0.43 0.55 0.0
B 0.14 0.14 0.55 0.0 B 0.43 0.43 0.55 0.0
C 0.86 0.86 1.00 30.0 C 0.57 0.57 0.75 18.0
D 0.14 0.14 0.55 0.0 D 0.43 0.43 0.55 0.0
E 0.14 0.14 0.55 0.0 E 0.43 0.43 0.67 18.0
F 0.14 0.14 0.55 0.0 F 0.14 0.14 0.43 0.0
G 0.14 0.14 0.55 0.0 G 0.14 0.14 0.43 0.0
ネットワーク ① ネットワーク ②
別の見方をすると,ネットワーク①ではノード C が機能不全になるとネットワークは完 全に分解してしまう.しかし,例えば,ノードCとノードEを結ぶ1本のリンクが切断さ れても,ネットワークとしての大半の機能は保持できる構造といえる.反面,ネットワー ク②では,ノードCとノードEの間のリンクが切断されると,ネットワークが2つに分断 され,大半の機能を失う可能性がある.媒介性指標の高いノードを結ぶリンクの重要性,
すなわちノードCとノードEが重要な存在であると判定することができる.
(4)ネットワーク構造と中心性指標の相違:例2
次に,リンクに“重み(weighted)”がある場合を考える.例えば図 3-2のネットワーク
②を友人関係のモデルとし,ノードDとノードGにも友人関係が存在するとする.図 3-2 をトポロジカルネットワークモデルとして媒介性指標を算出すると,ノードEが11で最高 値,次いでノードCが10であり,表 3-1の右(ネットワーク②)と同様にノードCとノ ードEの媒介性指標が高く,他の中心性指標も同様な傾向を示している.表 3-2に図 3-2 のトポロジカルネットワーク構造の場合の中心性指標を示す.