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今後の発展的な研究テーマの考察

ドキュメント内 早稲田大学大学院 創造理工学研究科 (ページ 157-195)

(1) マネジメント要素の階層性に関する研究

PMBOKにマネジメント要素間の階層性の概念はない.しかし,プロジェクトマネジメン

トにおいては主たる管理目標である QCT(結果)を中核要素として,プロジェクト進捗状 況評価や成果の評価項目とすることが多い4).第 1 章の図 1-5で,QCT(結果)階層とQCT

(結果)を支援する経過(process)の階層を示した.さらに,建設プロジェクトのマネジ メントにおいては,経過(process)のマネジメント要素間にも階層性が存在すると考える ことができる.PMBOK,英国 APM,わが国の P2M のマネジメント要素の構成(図 1-2 および図 1-3)にも明確な階層性は示されていない.

田中は,PMBOKの9つのマネジメント要素について,図 7-1に示すような構造的な解 釈を提案している 5).スコープに基づいた三大管理(中核要素)QCT の周りにリスクを配 置し,調達・契約,コミュンケーション,そして組織でQCTを統制し,最外縁の統合で全 体最適を追求していくという,マネジメント要素間の階層構造である.

資金 Fund

要領・手順 Methods

人資源 Manpower

スコープ

コニュニケーション

機械/ツール Machines

技術 Technology

資材 Materials

統合 組織 調達・契約

リスク

時間

品質 コスト

三大管理 Eternal Triangle

図 7-1 田中によるPMBOKのマネジメント要素の構造的解釈2)

さらに,高崎等は,第 3 章の図 3-10 に示すように,統合マネジメントを最上位に位置 づけ,多様な要求事項の充足を図るための各種のマネジメント要素を統合し,プロジェク トの全体最適化と生産性向上をめざす機能を持つとしている.そして,統合マネジメント

には,全体最適化と生産性向上に直接的,かつ,影響力の強いスコープマネジメント,リ スクマネジメント,コミュニケーションマネジメントの3要素を組み込んでいる6)

いずれの研究者もマネジメント効果の評価はQCTを重視し,そして全マネジメント要素 の全体最適化の機能は,統合が担うという位置づけにしている.

池田は,旧来の現場統制を重視した PDSサイクルと計画と評価を含めた近代マネジメン トのPDCAサイクルを示して,コントロールとマネジメントの相違7)(図 7-2)を論じて いる.この考え方を基に,著者の経験からマネジメント要素の階層性について考察する.

旧来より重要なマネジメント要素と認識されてきたQCT(結果)は,“Do”という品質コ ントロール(Quality Control),コストコントロール(Cost Control),時間コントロール

(Schedule Control)を実施することにより,施工状況の評価・判断基準とされてきた.QCT はコントロールの階層を形成していると考える.

それに対し,技術者等の人的資源は配置する際に技能等の検査(check),また建設資材等 の調達は,納品時の検査(check)に基づき適否等の判断が行われる.必要に応じて“者”

や“物”の入れ替えが可能である.人的資源と調達はチェックの階層といえる.そして,

スコープ,情報,リスクは,計画(plan),コントロール(control),検査(check),改善行 動(action)を含めた広い視点での経過(process)を監視するのが一般的であり,計画と行 動の階層を形成していると考える.

旧来の管理(コントロール) マネジメント

Plan Do Action

Check

Plan

Do

See

図 7-2 現場統制を重視したPDSサイクルと計画・評価を含めたPDCAサイクル7)

今後,著者が想定する図 7-3に示すような経過(process)のマネジメント要素間におけ る階層性に関するデータを収集し,ネットワーク解析手法を適用することにより,経過

(process)のマネジメント要素におけるさらに詳細な階層性を示すことが可能となると考 える.そして,その研究成果は,多様性のあるプロジェクトへの適用展開を可能にするも のと考える.

凡例

コスト;

Cost

品質;

Quality

時間;

Time

人的資源;

Human Resource

調達;

Procurement

情報;

Communication

リスク;

Risk スコープ;

Scope

主にコントロール による評価・判断

主に検査(check)

による評価・判断

計画(plan)と改善行 動(action)も含む      階層内の連関性

     階層を超える連関性

図 7-3 著者が想定するマネジメント要素間の階層性とその連関イメージ

(2) 契約図書とプロジェクトマネジメントに関する研究

建設生産システムは,計画調査,設計,積算,入札,契約,施工,精算,維持修繕,更 新のような長い段階を連携したライフサイクルを形成している8), 9).それぞれの段階,また は幾つかの段階を組合せて,様々な契約形態が存在する.その契約図書の解釈の仕方によ り,施工計画およびマネジメントの構成や順序等が異なる.

例えば,国際契約約款として全世界で広く採用されているFIDIC(Federation Internationale des Ingenieurs-Conseils)の第1.5条Priority of Documents(書類の優先順位)では,以下のよ うに記述されている.(a)が最上位となる.

(a) the Contract Agreement (if any)(契約合意書:ある場合), (b) the Letter of Acceptance(入札受諾書),

(c) the Letter of Tender(入札状), (d) the Particular Conditions(特記条件), (e) the General Conditions(一般条件), (f) the Specification(仕様書),

(g) the Drawings(図面), and

(h) the Schedules and any other documents forming part of the Contract

(明細書並びにその他契約を構成する書類)

次に,著者が 20 数年におよぶ実務経験のある香港特別行政区政府(Hong Kong Special Administrative Region of the PRC:以下,HKSARという)における公共工事の標準的な契約 図書を表 7-1に整理して示す.

表 7-1 HKSAR発注工事の契約図書

契約図書名(英文) 契約図書名(和訳)

○ General Conditions of Contract 標準契約約款

○ Particular Conditions of Contract 特別契約約款

○ General Specifications 標準仕様書

○ Particular Specifications 特記仕様書

○ Contract Drawings 契約図面

○ Environmental Permit Conditions 環境保全許可条件

○ Construction Site Safety Manual 建設現場安全指針

○ Standard Method of Measurement (SMM) 標準数量算出指針

○ General & Particular Preamble of SMM (includes Particular Method of Measurement)

標準数量算出指針の標準および特記序文

(含:特記数量算出指針)

○ Bills of Quantity 数量調書(数量総括表)

○ Construction Mediation Rules 建設調停規定

○ Construction Adjudication Rules 建設裁定規定

○ The Hong Kong International Arbitration

Centre Domestic Arbitration Rules 香港国際仲裁裁定規定

○ The Hong Kong Construction Association,

Schedule for Plants used in Daywork 香港建設業協会:日当り機械損料一覧

○ Basic Law 香港基本法

▲ ISO9001 / ISO14000 /ISO18000 国際標準規格(品質,環境,労働安全)

▲ Standard Drawings (DSD, HyD, etc.) 標準図面(下水道局,道路局等)

▲ British Standards or equivalent ASTM / JIS 英国規格または同等の米国試験材料協会 規格/日本工業規格

▲ Excavation Permit from HyD 掘削許可(道路局)

★ Design Manual & Design Checking Procedure 設計指針と設計確認手続き

○ : 契約図書を構成している

▲ : 特記仕様書(他)の中で,当該契約図書として含まれるかどうかの記載がある

★ : 設計施工一括契約の場合に追加される

香港では,General(標準)とParticular(特別)という2段構えの契約図書を構成してい る.Particular は“当該工事契約限り”の取り決めという位置付けである.そして,General に存在する同項目を上書き(supersede)して,Particularが優先される.

次に,表 7-1 に整理したように,工事契約は多くの図書で構成されている.そのため,

図書間の内容に齟齬が生じた場合の優先順位については,以下のように記載されている.

第1位 Conditions of Contract(契約条件)

第2位 Specifications(仕様書)

第3位 Contract Drawings(契約図面)

第4位 Bills of Quantities(数量調書)

FIDICおよびHKSAR,いずれの契約においても,契約図面と数量調書(BoQ,Schedules)

に齟齬が生じた場合は,図面を優先するとしている.

ところが,米国加州交通局(Department of Transport, California State:以下Caltransという)

の標準仕様書(Standard Specifications, July 1999)では,以下のように記述されている.

Section 9 : Measurement and Payment 9-1.015 Final Payment

z In case of discrepancy between the quantity shown in the Engineer’s Estimate for a final pay item and the quantity or summation of quantities for the same item shown on the plans, payment will be based on the quantity shown in the Engineer’s Estimate.

すなわち,契約図面とSchedule(明細書,数量調書)に齟齬がある場合は,契約図面より もエンジニアの積算数量を優先することになる.

このように,発注機関や契約毎,また,数量精算方式(Re-measurement)や一括方式(Lump Sum)等の契約形態によっても,それぞれ異なった要求事項等が示されていることに留意し,

施工計画およびマネジメント計画の立案が重要となる.そして,建設プロジェクトでは契 約条件と異なった事象の発生することが多く,工期の延長(extension of time)や新単価(new rate),工期の延長に伴う追加の諸経費に関する合意等,工事の着手計画(initiation)から完 了(close)まで,全てが契約図書に基づいて遂行しなければならないことを認識してプロ ジェクトマネジメントを実施する必要がある.

次に,表 7-1に示した契約図書の中でも,特に受発注者間にとって最も注視するコスト に関連したものを着色して示す.これらは,数量調書(BoQ)と標準数量算出指針の標準お よび特記序文(General & Particular Preamble of SMM)である.以下に,FIDIC,HKSARお

よびCaltransの契約における費用について,その一部を契約図書より抜粋して考察する.

【FIDIC】

GENERAL CONDITIONS 第12.2条 Method of Measurement (検測方法)

Except as otherwise stated in the Contract and notwithstanding local practice:

(a) measurement shall be made of the net actual quantity of each item of the Permanent Works, and (b) the method of measurement shall be in accordance with the Bill of Quantities or other applicable Schedules.

【HKSAR】

PART IV GENERAL PREAMBLE of SMM(標準数量算出指針の標準序文)

(略)The rates inserted in the Bills of Quantities shall be deemed to be the full inclusive value of the work covered by the respective items, including but not limited to the following, unless expressly stated otherwise:

他に,仮設工等の(i) - (xvi)の16項目を含む(略)と記述されている.

【Caltrans】

62-1.04 PAYMENT(支払い)

The contract price or prices paid per meter(略),shall include full compensation for furnishing all labor, materials, tools, equipment, and incidentals, and for doing all the works involved in furnishing and installing or constructing (略).

重要なポイントに著者が下線を付した.この記述から読み取らなければならないことは,

仮設備工事のような施工業者の任意施工物や,発注者の引取り物ではない構築物に関する 全ての費用を,検収される目的物の単価に含まなければならないという,受発注者間のリ スク分担・責任分担が明示されていることである.

施工図面を含めて,入札・契約図書には当該工事に関する要求仕様,すなわちスコープ が示されており,それを読み解き,発注者の意図するところを理解する技能は,実務経験 に依存するところが大きい.プロジェクトマネジメントのあり方として,スコープから着 手すべきであることを,調査の経験および本研究で確立したネットワーク解析手法を用い て定性的および定量的に示した.

スコープマネジメントを実施し,契約的リスク分担や責任分担の構造を明確にすること により,詳細な施工計画および作業分割構成(WBS)が構築される.そして,施工計画全 体としてのマネジメント計画およびWBS毎のマネジメント計画の関連性を把握し,ネット ワーク解析手法を適用することにより,更なる効果的なプロジェクトマネジメントが可能 になると考える.

(3) 建設施工から公共サービス提供者への展開に関する研究

わが国の建設企業が海外で受注した工事金額の順位は,世界のトップクラスの施工技術 を保持しているにもかかわらず,毎年下降の一途である.

表 7-2で,青字は中国の企業,赤字がわが国の建設企業を示している.企業名(国名)

の上からの並びは,2009 年の順位である.表の縦列には2004年から2009年までの順位を 示し,横に順位を見ると経年を示している.自国内外合計の総売上高合計で順位が決定さ れている.中国およびわが国の建設企業は,自国外の依存率が欧米の企業と比較して低い.

欧米諸国の建設企業が,毎年上位に入る主な理由の一つとして,企業統合や建設業を受 注産業からサービス提供型産業に移行していることがあげられる.2010年5月に国土交通 省が発表した成長戦略 10)にも,わが国建設事業の今後の方向性として示されている.その 方策の中核としてPPP(Public-Private Partnership:官民連携)が取り上げられている.10年 ほど前に導入されたPFI(Private Financial Initiative)よりも広い概念であり,様々な主体と の連携・協働の形態が検討されている.

ドキュメント内 早稲田大学大学院 創造理工学研究科 (ページ 157-195)