第 2 章 DSM 手法を用いたマネジメント要素の検討順序に関する研究
第 2 節 マネジメント要素間の連関性の把握
1. マネジメント要素間の相互の連関性を捉える
N×N正方マトリックスの導入
N個のマネジメント要素が相互に連関している状況は,N×Nの正方マトリックスを用 い て 表 現 す る こ と が で き る . 本 研 究 で はN =8 で あ り 全 て の 要 素 間 の 連 関 数 は ,
56 ) 1
( − =
× N
N 存在する.このN×N 正方マトリックスをマネジメントマトリックス(以 下,M・マトリックスという)と呼ぶ.
M・マトリックスは,どのマネジメント要素がどのマネジメント要素に影響を与えるとい う影響の方向を示すことができる.例えば,表 2-1において“☆”印は,品質(列 d)か ら時間(行b)に影響があることを示す.反対に時間が品質に影響を与えている状況は,時
間(列b)から品質(行d)のセル(箱)に印が示される.これは対角線を挟んで対称の位
置(表 2-1中の“○”印)になる.
8つのマネジメント要素を検討対象とした場合,影響の有無による組合せ総数は,数学的 には
2
56通り存在する.非常に多くのマネジメント要素の組み合わせが存在し,様々なプロ ジェクトの執行において適用性は高い.しかし,プロジェクトを担当する技術者は,その 全てのパターンを経験することは不可能であり,効果的なマネジメント要素の検討順序に ついては,今日まで経験者のノウハウや勘に依存してきた.また,N =8から 1 つマネジ メント要素が増えると,2
9×(9−1)通りの組合せに急増する.マネジメントの対象である工事 は同じであっても,問題点やその要因等を詳細に把握するためのマネジメント要素の細分 化は,全体を統合したマネジメントの実施を困難なものとしているといえる.表 2-1 M・マトリックス
コスト 時間 情報 品質 調達 人的資源 スコープ リスク
a b c d e f g h
コスト a
時間 b ☆
情報 c
品質 d ○
調達 e 人的資源 f スコープ g リスク h
影 響 の 方 向
2. マネジメント要素間の連関性に関するアンケート調査と解析結果
PMBOKやAPM,P2M等のプロジェクトマネジメント指導書が提唱する細分化されたマネ
ジメント要素は異なる.しかし,どの指導書に基づいても,マネジメントの対象なるプロ ジェクトは一つである.すなわち,どのように細分化しても,細分化された個別のマネジ メント要素間には,程度の差はあるが連関性は残る.マネジメント要素間の連関性は,影 響を与える方向と影響度合いが考えられる.影響の方向については,相対するマネジメン ト要素間で両方向とは限らない.影響の程度については,経験したプロジェクトの種類や 経験者の個人差等があり,影響の有無という形で評価をすることが多い.このようにして,
マネジメント要素間の連関性を把握することを目的として,表2-1のM・マトリックスを用 いて,マネジメント経験者に対してアンケート調査を実施する.アンケート調査票は【巻 末資料-1】,アンケートの回答票は【巻末資料-2】として添付する.
(1) アンケート調査方法及び調査結果 a) 調査対象者
建設プロジェクトは,発注者と施工者と設計コンサルタントの 3 者体制で実施される.
土木事業では発注者が公的機関であることが多いので,民間が担当する施工者とコンサル タントに着目して調査を行う.建設プロジェクトにかかわる総合建設会社に対して設計管 理を担当するコンサルタントの 2 者間でマネジメントに相違があるか,その相違は何か,
そしてより効果的なマネジメントはどうかを調べる.
また,国内企業(総合建設)に比べて海外企業(総合建設)技術者のマネジメント意識 がどのように相違するかを調べるために,海外企業(総合建設)技術者の意見も聴取する.
調査対象者は,建設プロジェクトに約15年間以上従事し管理者の立場を経験した者であ る.なお,海外企業(総合建設)技術者は,雇用形態がわが国と異なり永続的に同職種に 携わることは少ないが,わが国の調査対象者と同等の経験年数を持ち,かつ,総合建設で プロジェクトマネジメントに携わった経験者とした.
b) 調査対象マネジメント要素
マネジメント要素は,第 1 章で示した「コスト,時間,品質,情報,調達,人的資源,
スコープ,リスク」の8つである.米国PMIが提唱する9つのマネジメント要素の中から
“統合”を除いた 8 要素について,どの要素がどのマネジメント要素に影響を与えている のかを調査する.
c) アンケート調査
調査票にはPMBOKに準拠したマネジメント要素に関する質問であることと,それぞれの マネジメント要素の英語および訳語を併記して,回答者との理解に齟齬が生じないように 留意した.海外企業の調査用には英語版を作成した.
なお,影響の方向性により,回答は必ずしも対角線を挟んで対称とはならない.
【アンケート方法】
・アンケートの記入方法を下記のように定義する.
表2-1において,列のマネジメント要素が行のマネジメント要素に強い影響を与える 場合,そのセルに「1」を記入する.例えば,行b時間マネジメントが列d品質マネジメ ントから強い影響を受けていると考える場合は,マトリックスのb×dの箱(表2-1の☆
印)に「1」を記入する.同様に,全8×(8-1)=56のセルについて連関性を考察する.
・表2-1を用いたアンケート調査を次のように実施する.
〔調査対象者〕
調査対象者は,日本国内の総合建設会社(以下,総合建設という),建設コンサルタ ント(以下,コンサルタントという)の管理業務に携わるマネジャー,および海外企業
(総合建設)のマネジャー(以下,海外企業という)である.
〔記入方法〕
調査方法としては関係者を一堂に招いてアンケート票に記入してもらうことが望ま しいが,対象者が広域に在住する多人数となるので,アンケート用紙を電子メールに添 付して調査対象者に送付しアンケート用紙に記入後,同様に電子メールにて返信しても らう.
(2) アンケート調査結果
a) アンケート回答のマトリックス表示
総合建設42通,コンサルタント39通,海外企業31通の計112通の回答が得られた.その回 答をもとに,総合建設,コンサルタントと海外企業のM・マトリックスを求める.
多数のアンケート回答から全体としての傾向を把握することと,そして次節で詳述する DSMを用いて効果的なマネジメント要素の検討順序を解析する目的で,アンケート回答を
「0-1」のバイナリ・マトリックスに転換する.転換方法は,それぞれの回答毎の各セル を合計し,合計数から平均値を算出して,閾値とする.平均値は,それぞれのセル合計値 の和をセル総数で除したものである.M・マトリックスのそれぞれのセルには平均値以上を
「1」,平均値未満を「0」とした.バイナリ・マトリックスに転換後の総合建設のM・マト リックスは表2-2,コンサルタントのM・マトリックスは表2-3,そして海外企業のM・
マトリックスは表2-4のようにそれぞれなる.列の「入」は影響を受けたマネジメント要 素の総数,行の「出」は影響を与えたマネジメント要素の総数,最右の列「リンク」は各 要素の「入」と「出」の総和である.
表2-2 総合建設のM・マトリックス
コスト 時間 情報 品質 調達 人的資源 スコープ リスク
a b c d e f g h
コスト a 1 0 1 1 1 0 1 5 10
時間 b 1 0 1 1 1 0 0 4 8
情報 c 0 0 0 1 0 0 1 2 5
品質 d 1 1 0 1 1 0 0 4 8
調達 e 1 1 1 0 0 0 0 3 7
人的資源 f 1 1 1 1 0 1 0 5 9
スコープ g 0 0 0 0 0 0 0 0 1
リスク h 1 0 1 1 0 1 0 4 6
5 4 3 4 4 4 1 2
入 リンク
出 54
影 響 の 方 向
表2-3 コンサルタントのM・マトリックス
コスト 時間 情報 品質 調達 人的資源 スコープ リスク
a b c d e f g h
コスト a 1 0 1 1 1 1 1 6 12
時間 b 1 0 1 1 1 1 1 6 11
情報 c 0 0 0 0 1 0 0 1 3
品質 d 1 1 1 0 1 0 0 4 8
調達 e 1 1 0 0 0 0 0 2 4
人的資源 f 1 0 0 1 0 0 0 2 6
スコープ g 1 1 0 0 0 0 0 2 4
リスク h 1 1 1 1 0 0 0 4 6
6 5 2 4 2 4 2 2
入 リンク
出 54
影 響 の 方 向
表2-4 海外企業のM・マトリックス
コスト 時間 情報 品質 調達 人的資源 スコープ リスク
a b c d e f g h
コスト a 1 1 1 1 1 0 1 6 12
時間 b 1 1 1 1 1 1 0 6 10
情報 c 1 0 0 0 1 0 0 2 6
品質 d 1 1 0 1 1 0 0 4 6
調達 e 1 1 1 0 0 1 0 4 7
人的資源 f 1 0 1 0 0 1 0 3 7
スコープ g 0 0 0 0 0 0 0 0 3
リスク h 1 1 0 0 0 0 0 2 3
6 4 4 2 3 4 3 1
入 リンク
出 54
影 響 の 方 向
(3)レーダーチャートによる調査結果の分析
総合建設とコンサルタント,そして,総合建設と海外企業の回答を基に作成したマネジ メント要素間の連関性をレーダーチャートで対比する.図2-1は,8つのマネジメント要素 のうち,「リンク」が最大となっているマネジメント要素を1.00となるように,相対比較し て示したレーダーチャートである.
a) 総合建設とコンサルタントの比較
建設プロジェクトのマネジメントにおける総合建設とコンサルタントのレーダーチャー トの考察を行う.国内の総合建設とコンサルタントのM・マトリックスには,顕著な相違 が見られた.
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
コスト
時間
情報
品質
調達 人的資源
スコープ リスク
総合建設(国内) コンサルタント(国内)
図2-1 総合建設(国内)とコンサルタント(国内)の比較
イ. コストについては,総合建設とコンサルタント共に高い.民間企業への調査であ るため,コストを重視していることが推察できる.
ロ. 時間,品質,リスクについては,それぞれ10ポイントの差であり,総合建設もコ ンサルタントも同様の傾向を示しているといえる.
ハ. 人的資源は,総合建設がコンサルタントよりも40ポイント高い.施工技術の特殊 性や,建設は経験工学とも呼ばれるように暗黙知化された個人の経験値を総合建設 は重視しているからではないかと考えられる.これに対してコンサルタントは,検 討対象毎の特殊性は存在するが,マネジメントとしてのプロセスは類似しているこ とが多く,組織として経験値を共有しやすいものと推察する.
ニ. 情報も総合建設が20ポイント高い.これは,総合建設は協力業者や周辺住民,警 察,施設管理者などとのコミュニケーションを重視していることと思われる.周辺 関係者との合意を得ることが,マネジメントを実施するにあたって重要な要因にな っていると思われる.反対にコンサルタントは,業務に関連する部署や外部組織と の接点が総合建設ほど多くはないため,総合建設と比較して低くなっていると考え られる.
ホ. スコープは,工期や作業範囲,目的などをマネジメントする要素であり,建設プ ロジェクト全体に影響を与える.アンケート調査結果では,総合建設がコンサルタ ントよりも20ポイント低い.本来,総合建設もコンサルタント同様に,重要視され るべきと考える.わが国の建設プロジェクトは総価一式請負契約方式で遂行されて おり,総合建設においては,今日までプロジェクトマネジメント体系やプロジェク