第 7 章 点ノード半⾦属 CoSi の光電⼦分光
7.4 CoSi のバルク電⼦状態
CoSi におけるバルク価電⼦帯のバンド構造を決定するために広いエネルギー領域にわ たってARPES 測定を⾏った。図7.4(a),(b)に垂直放出法によって得られた本物質の⾯直⽅
向の ARPES 強度とスピン軌道相互作⽤を取り⼊れない第⼀原理計算によって予測される
バンド構造を⽰す。ARPES スペクトルにおいて結合エネルギー 𝐸T= 0 − 0.5 eV と 0.7 − 1.2 eVの領域において分散する構造が観測され、これらのバンド分散構造は本物質のブリル アンゾーンの対称性を反映している。第 9 ブリルアンゾーンのフェルミ準位(𝐸P)近傍のバ ンド分散の強度が著しく⼩さくなっている点を除いて、第⼀原理計算の結果とも⽭盾なく
⼀致している。この強度の著しい減少は光電⼦放出強度の⾏列要素効果(matrix element effect)によるものであると考えられる。軟 X 線領域において観測されたバンドはバルク由 来のものであると考えられる。また、第6 ブリルアンゾーンのΓ点を通る ℎ𝜈 = 170 eV を⽤
いた際の Γ¦Mš ⽅向のARPES 強度を図7.4(c)に⽰す。ℎ𝜈 = 170 eV は 3 次元ブリルアンゾー ン中において図7.4(d)に⽰すような曲線を描くが、その 𝑘#= 0 付近においてはΓX⽅向の バンド分散構造(図 7.4(b))とよく⼀致することから、ℎ𝜈 = 170 eVを⽤いることで本物質の
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Γ点近傍の電⼦状態を決定することができることを⾒出した。
本物質のΓXM⾯の電⼦状態を観測できる励起光 ℎ𝜈 = 170 eVを⽤いて、本物質のΓ点近傍 の電⼦状態の詳細を議論する。図7.5 に 𝐸P 近傍のARPES スペクトルの強度プロットと第
⼀原理計算によって予想されるフェルミ⾯(⻘線)を⽰す。ARPES 強度はΓ点近傍にフェル ミ⾯が存在していることを⽰しており、直線偏光を⽤いた影響により 2 回対称的な強度分 布をしているものの第⼀原理計算の予測と⼤きく⽭盾しない結果が得られた。
図7.4 (a)垂直放出法によって測定した⾯直⽅向のΓX対称軸上におけるARPES 強度と(b) 第⼀原理計算によって予測される CoSi のΓX 対称軸上のバンド分散構造、(c) ℎ𝜈 = 170 eVを⽤いた際のΓ¦Xš⽅向のARPES 強度, (c)𝑘7𝑘#⾯内でのCoSi のバルクブリルア ンゾーンとℎ𝜈 = 170 eVで測定する波数領域.
図7.5 ℎ𝜈 = 170 eVにおける𝐸P上のARPES 強度プロットと第⼀原理計算によって予測され
るフェルミ⾯(⻘線).後に⽰すcut A-Eの測定波数位置を⾚線で⽰してある.
また、ΓM対称軸上を通るcut AにおけるARPES 強度及び 2階微分強度プロットを図 7.6 に⽰す。ARPES 強度は第⼀原理計算計算によって予測されるバンド構造とよく⼀致し ており、線形分散と平坦な分散を持つ 2 本のホールバンドが 𝐸P 近傍に存在していことが確 認された。線形バンドはΓ点で頂点を持ち、平坦バンドは 𝐸P 近傍に局在しているがΓ点近
傍で 2 本のバンドが交差していることが明らかとなった。理論的には縮退点の位置は 𝐸P か ら 15 meV 程度低結合エネルギー側に離れていると予想さている⼀⽅で、ARPES実験にお いては表⾯元素吸着や結晶⽋陥の影響から 𝐸P からわずかに(~5 meV)⾼結合エネルギー側 であることが観測された。
図 7.6 ℎ𝜈 = 170 eVにおける cut A(ΓM 対称軸上)における(a)ARPES 強度プロットと(b)2 階微分強度プロット
更に詳しく縮退構造を精査するために、図7.7にcut C-Eにおける 𝐸P 近傍のARPES 強 度プロットを⽰す。ΓM対称軸上(cut B)においてはcut A 同様に平坦バンドと線形バンド がΓ点で交差する様⼦が観測された。⼀⽅で、Γ点から離れたcut C, Dにおいては線形バ ンドと平坦バンドの交差が観測されず、2 つのバンドの交差はΓ点のみで起こっているこ とがわかった。このことはΓX対称軸上(cut E)においてもΓ点 1 点での交差が確認されて いることからも確認された。以上の結果より、CoSi においては、図7.8 に⽰すようなチャ ーン数+2 で特徴付けられるスピン 1励起構造と⼀致するバンド分散が実現していることが 実験的に明らかになった。
図7.7 cut C-EにおけるARPES 強度プロット. ⾚い丸はスペクトルのピーク位置、⻘い線 はバンド分散構造のガイドライン. ピーク構造が不明瞭な領域のガイドラインについ ては対称性を考慮して折り返したものを⽰している.
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図7.8 CoSi 中のスピン 1励起構造の模式図
続いて、R点に存在することが予測されている 2重ワイル粒⼦について精査する。図7.9 に、R 点を通るℎ𝜈 = 136 eV を励起光として⽤いた際の 𝐸P 上の ARPES 強度プロットを第
⼀原理計算によって予想されるフェルミ⾯(⻘線)とともに⽰す。実験的に観測されたフェル ミ⾯は理論計算による予測より⼩さい。また、R点を通るcut Aで⾼分解能測定を⾏った際
の ARPES 強度と 2 階微分強度プロットを第⼀原理計算によるバンド分散構造とともに図
7.10に⽰す。ARPES 強度と 2階微分強度プロットにおいてX字の交差構造が観測された。
この分散構造は約0.1 eVのエネルギーシフトを除いて第⼀原理計算によって再現されてお
り、2重ワイル点に起因した縮退構造であると期待される。しかし、この縮退点が 2重ワイ
ル点であれば4本の交差するバンドで構成されると考えられるが、本結果では 2 本のバン ドのみが観測された。これはRMX⾯上では 2重ワイル点を構成する 2組のバンドがそれ ぞれ縮退していることに起因していると考えられる。
図 7.9 ℎ𝜈 = 136 eVを⽤いた際の 𝐸P 上の ARPES 強度プロットと第⼀原理計算によって予
測されるフェルミ⾯(⻘線). 後に⽰すcut Aの測定波数位置を⾚線で⽰してある.
図7.10 cut Aにおける第⼀原理計算によって予測されるバンド分散構造(左), ARPES 強度 プロット(中央), 2階微分強度プロット(右).
次に、2 重ワイル点を構成するバンドの縮退が解けると期待されるΓR対称軸の電⼦状
態を観測することを⽬的として、励起光エネルギーと⾯内波数 (光電⼦放出⾓)の双⽅を変 化させた際のΓR対称軸上のARPESスペクトルとその 2階微分強度プロットを図7.11 に
⽰す。R点で縮退構造の下側から 2 本のバンドが分裂し、𝑘7 ~ 0.5π付近で最⼤ 0.4 eV 程度 の分裂幅を⽰す様⼦が観測された。これらのバンド分散はΓ点に近づくに従い近接し、Γ点 においてスピン 1 励起構造を形成することが明らかとなった。理論計算によると低結合エ ネルギー側の分散についても同様の分裂が存在することが期待されるが、実験結果におい
ては 𝑘7 ⽅向の不確定性と分解能の影響で明確に観測することはできなかった。しかしなが
ら、本結果はCoSi 中の 2重ワイル点の存在を⼗分に⽀持する結果であると⾔える。これら の結果から、図7.12 に⽰すような 2重ワイル分散構造がCoSi 中に存在すると結論した。
図7.11 ΓR対称軸上における 2階微分強度プロット(左)とARPESスペクトル(右)
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図7.12 CoSi 中の 2重ワイル点まわりのバンド分散の模式図
また、本物質のフェルミ⾯を構成するバンドについて精査する。Γ点とR点の縮退構 造以外で最も𝐸Pにバンドが近接するM点を通るRM対称軸上でのARPESスペクトルとそ の強度プロットを図7.13 に⽰す。直線偏光を⽤いていることを加味し、90 度異なる 2 つ の⽅向について精査したところ、M点のホールバンドはフェルミ⾯を構成していないこと がわかった。このことから本物質のフェルミ⾯はΓ点のスピン 1励起とR点の 2重ワイル 点の構成に関わる線形バンドと平坦バンドのみで構成されていることが明らかになった。
図7.13 MR対称軸上における(a)EDCスペクトルと(b)ARPES 強度プロット. (c) (b)と同 様のプロットを90 度異なる位置で⾏った結果. 点線はバンド分散を⽰す補助線.