第 6 章 線ノード⾦属 AlB2 の光電⼦分光
的な実験結果は⽰されておらず、いまだ明らかでない[7]。本物質はBの副格⼦対称性に起
因する線形バンドの交差(ディラックコーン)をブリルアンゾーンのK点に持っている。AA
積層多層グラフェンの理論的研究[8]との類推により、このディラックコーンの縮退点は KH 対称軸上でギャップレスであり、ディラック線ノードを構成すると考えられる(図6.2)。
同様の構造はMgB2においても予想されている[10]が、AlB2はMgB2を 2 eV 程度電⼦ドー プした電⼦状態の実現が期待されることから、本物質系のディラック線ノードの分散構造 を広い波数範囲で決定するのに適していると考えられる。
図6.2 AA 積層グラファイトの第⼀原理計算(⿊線)と強束縛模型(⾚)によって予想される電
⼦状態[8].
6.3 実験条件
本実験では東北⼤学⼤学院理学研究科の極低温量⼦物性研究室の⽊村憲彰准教授に作 製して頂いた純良単結晶 AlB2試料を使⽤した。本試料は Al フラックス法によって得た。
ARPES 測定は超⾼真空下で劈開することで(0001)⾯の清浄表⾯を得た後、⾼エネルギー加 速器研究機構 Photon Factory BL-2Aにて、ℎ𝜈 = 260 − 550 eVの直線偏光光源を⽤いて 1 × 10-10 Torr 以下の超⾼真空下で⾏った。全ての測定において、エネルギー分解能を 150 meV 以下、⾓度分解能を0.2 °に設定し、温度 40 Kにて測定を⾏った。第⼀原理計算による電
⼦状態計算は、東北⼤学材料科学⾼等研究所の相⾺清吾准教授に⾏っていただいた。計算に はQUANTUM ESPRESSO コードを⽤いてカットオフエネルギーを 30Ry、波数メッシュ を 24×24×12 に設定した。
6.4 AlB
2の⾯直⽅向のバンド分散構造
AlB2の対称軸上の価電⼦帯のバンド構造を決定するために、価電⼦帯の広い範囲におけ るARPES 測定を⾏った。まず、本物質のAPRESスペクトルにおける⾯直波数と励起光エ ネルギーの関係を明らかにするために、垂直放出法によって得られた各励起光エネルギー におけるEDCスペクトルを図6.3 に⽰す。励起光に依存して明瞭に分散するいくつかのピ ーク構造が観測された。例えば、励起光エネルギーℎ𝜈 = 350 eVにおいて結合エネルギー (𝐸T)5 eV 付近に明瞭なピーク構造と 14 eV 付近に⽐較的弱いピークが存在する。ℎ𝜈 =
350 eVから励起光エネルギーが離れると、5 eV付近の明瞭なピーク構造は⾼結合エネルギ
ー側に⼤きく分散していくのに対して、14 eV付近に⽐較的弱いピークはそれほど分散して いないことが⾒て取れる。この結果は、本物質の⾯直⽅向のバンド分散構造を反映している と考えられ、軟X線光電⼦分光は本物質の 3 次元分散構造を観測するのに適していること がわかった。
図6.3 垂直放出法によって得られたEDCスペクトルの励起光エネルギー依存性
より明確にバンド分散を可視化するために、結合エネルギーと⾯直波数 𝑘7に依存した ARPES 強度プロットを、第⼀原理計算によって予想される AlB2のバンド分散構造ととも に図6.4に⽰す。ARPES 強度においては、Γ点で頂点を持ち 𝐸T ~ 5 eV から 13 eVの範囲 で⼤きく分散するB 2 𝑝 バンドや、𝐸T= 15 eV 付近を弱く分散するσ3が明瞭に観測された。
また、光電⼦励起確率の低さに起因して強度が弱くなっているものの Al 3 𝑠 由来のホール バンドやσ1, 2も観測された。各バンドのエネルギー位置等のズレは存在するもののARPES 実験結果は第⼀原理計算によってよく再現されている。この結果を⽤いることで、適切な励
第 6 章 線ノード⾦属 AlB2 の光電⼦分光
起光エネルギーを選択して本物質の⾯直波数を指定したバンド分散構造を観測できると期 待される。また、図6.5に⽰すように、ΓKM対称軸上におけるARPESスペクトルは第⼀
原理計算によってよく再現されるとともに、K 点付近にディラックバンドの存在を⽰唆す
る線形分散が観測された。これは図6.5(b)に⽰すMgB2のバンドを約2 eV 程度⾼結合エネ ルギー側にシフトさせた結果と類似しており、本物質がディラック線ノードの分散構造を 決定するのに適していることがわかった。
図 6.4 AlB2におけるΓA 対称軸上の(a)ARPES スペクトルの強度プロットと(b)第⼀原理 計算によって予想されるバルクバンド分散構造. ⽩い四⾓内の領域はAl 3s バンド等 の可視化のために⾊調を強調している.
図 6.5 AlB2におけるΓKM 対称軸上の(a)ARPES スペクトルの強度プロットと(b)第⼀原 理計算によって予想されるバルクバンド分散構造. (c)MgB2の第⼀原理計算によって 予想されるバルクバンド分散構造.
6.5 AlB
2の⾯内ディラックコーン構造
𝑘"𝑘#⾯内における 𝐸P 近傍の電⼦構造の詳細を明らかにするために、𝑘#~ 0に相当する
ℎ𝜈 = 340 eVにおける等エネルギー⾯上の⾯内波数に依存したARPES 強度プロットとK点
を通るcut AにおけるARPESスペクトルを、図6.6に⽰す。ℎ𝜈 = 340 eV (𝑘7~ 0)において はK点周りにBのπバンドで構成される三⾓形のフェルミ⾯が観測され、⾼結合エネルギ ー側にいくに従って⼤きくなる様⼦が観測された。この構造は、 𝐸Pから0.5 eV 程度離れた ところで縮退する三⾓錐型のディラックコーン構造を反映していると考えられる。この K 点周りの異⽅的なディラックコーン構造は結晶の 3回対称性を反映していると考えられる。
図6.6 ℎ𝜈 = 340 eVにおける(a)等エネルギー⾯上のARPES 強度プロットと(b)cut Aにおけ るARPES 強度
また、𝑘7~ 0.8π に相当するℎ𝜈 = 290 eVについても同様の実験を⾏った結果を図6.7に⽰す。
𝑘7~ 0⾯における電⼦状態とは⼤きく異なる結果が得られており、本物質が Kš 点周りにおい
ても 𝑘7⽅向に⼤きな分散を持つことが明らかとなった。𝑘7~ 0.8πにおいてディラック点は
𝐸T= 4 eV 付近に位置しており、𝐾š点周りに 3回対称なフェルミ⾯を構成している。
図6.7 ℎ𝜈 = 290 eVにおける(a)等エネルギー⾯上のARPES 強度プロットと(b)cut Bにおけ るARPES 強度
第 6 章 線ノード⾦属 AlB2 の光電⼦分光
これらの結果から、AlB2におけるディラックコーン電⼦状態は、図6.8に⽰すようにK点 近傍においては 𝐸Pよりも低結合エネルギー側に存在し、H 点に近づくに従って𝑘"𝑘#⾯内に おいて三回対称性を保ちながら⾼結合エネルギー側に分散していくと考えられる。
図6.8 AlB2の⾯内ディラックコーン分散の模式図
6.6 KH 対称軸上の線ノード分散
ディラックコーン電⼦状態の𝑘7⽅向への分散構造を明らかにするために様々な⾯直波数𝑘7
におけるKš 点を通る波数でのARPES 強度とEDC⽅向の 2階微分強度プロットを図6.9に
⽰す。全ての⾯直波数 𝑘7において線形分散が観測され、そのディラック点は 𝑘7~0 において
は 𝐸P から~0.5 eV 程度低結合エネルギー側に存在し、𝑘7の増⼤に従い、⾼結合エネルギー
側に分散していることがわかった。また、全ての⾯直波数 𝑘7においてディラック点におけ る明確なエネルギーギャップが存在しないことから、本物質が KH 対称軸上において、図 6.10に⽰すようなディラック線ノードを持つことが明らかとなった。
図6.9 各波数におけるARPES 強度と 2階微分強度プロット. ⽮印はディラック点の位置を
⽰している.
図6.10 実験から明らかとなったAlB2のディラック線ノードの模式図
6.7 まとめ
本研究においては、軽元素のみで構成される線ノード半⾦属候補物質の探索を⾏い、
AlB2がKH 対称軸上に直線型ディラック線ノード分散を持つことを軟X線ARPES実験及 び、第⼀原理計算によって明らかにした。本物質のディラック線ノードは空間反転対称性お よび時間反転対称性、B ハニカム構造のAB副格⼦対称性の存在によって実現していると考 えられる。本物質を起点として弱いスピン軌道相互作⽤を持つ 3 次元物質系における特異 なノード構造の研究の発展が望まれる。本結果について論⽂[9]中で発表した。
第 6 章 線ノード⾦属 AlB2 の光電⼦分光
6.8 参考⽂献
[1] L. M. Schoop, M. N. Ali, C. Straßer, A. Topp, A. Varykhalov, D. Marchenko, V. Duppel, S. S. P. Parkin, B. V. Lotsch, and C. R. Ast, “Dirac cone protected by non-symmorphic symmetry and three-dimensional Dirac line node in ZrSiS”, Nat. Commun. 7, 11696 (2016).
[2] M. Neupane, I. Belopolski, M. M. Hosen, D. S. Sanchez, R. Sankar, M. Szlawska, S.-Y. Xu, K. Dimitri, N. Dhakal, P. Maldonado, P. M. Oppeneer, D. Kaczorowski, F. Chou, M. Z.Hasan, and T. Durakiewicz, “Observation of topological nodal fermion semimetal phase in ZrSiS”, Phys. Rev. B 93, 201104(R) (2016).
[3] D. Takane, Z. Wang, S. Souma, K. Nakayama, C. X. Trang, T. Sato, T. Takahashi, and Y. Ando, “Dirac-node arc in the topological line-node semimetal HfSiS”, Phys. Rev. B 94, 121108(R) (2016).
[4] D. Takane, K. Nakayama, S. Souma, T. Wada, Y. Okamoto, K. Takenaka, Y. Yamakawa, A. Yamakage, T. Mitsuhashi, K. Horiba, H. Kumigashira, T. Takahashi, and T. Sato,
“Observation of Dirac-like energy band and ring-torus Fermi surface associated with the nodal line in topological insulator CaAgAs”, npj Quantum Mater. 3, 1 (2018).
[5] O. de la Pẽna, A. Aguayo, and R. de Coss, “Effects of Al doping on the structural and electronic properties of Mg1−x Alx B2”, Phys. Rev. B 66, 012511 (2002).
[6] J. Kortus, O. V. Dolgov, and R. K. Kremer, “Band Filling and Interband Scattering Effects in MgB2: Carbon versus Aluminum Doping”, Phys. Rev. Lett. 94, 027002 (2005).
[7] S. Souma, T. Sato, T. Takahashi, N. Kimura, and H. Aoki, “Electronic band structure of AlB2 studied by angle-resolved photoemission spectroscopy”, J. Electron Spectrosc.
Relat. Phenom. 144, 545 (2005).
[8] I. Lobato and B. Partoens, “Multiple Dirac particles in AA-stacked graphite and multilayers of graphene”, Phys. Rev. B 83, 165429 (2011).
[9] D.Takane, S. Souma, K. Nakayama, T. Nakamura, H. Oinuma, K. Hori, K.Horiba, H.
Kumigashira, N. Kimura, T. Takahashi, and T. Sato, “Observation of a Dirac nodal line in AlB2”, Phys. Rev. B 98, 041105(R) (2018).
[10] K.-H. Jin, H. Huang, J.-W. Mei, Z. Liu, L.-K. Lim, and F. Liu, “Topological superconducting phase in high-Tc superconductor MgB2 with Dirac‒nodal-line fermions” npj Comput. Mater. 5, 57 (2019).