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第 2 章 光電⼦分光

2.2 光電⼦分光装置

光電⼦分光装置は主に測定槽、試料準備槽、電⼦エネルギー分析器、光源系およびそれ らを超⾼真空に保つ真空排気系からなる。より質の⾼い ARPES 測定を実現するためには、

装置の⾼分解能化、超⾼真空化が必要不可⽋である。以下では装置の各部について詳しく述 べる。

2.2.1 電⼦分析器システム

電⼦の運動エネルギーをその放出⾓ごとに決定するのが電⼦分析器である。電⼦分析器 は⾶⾏時間測定型と静電半球型が存在するが、本項では広く⽤いられている静電半球型電

⼦分析器について概説する。静電半球型電⼦分析器システムの概念図を図2.6に⽰す。静電 半球型電⼦分析器システムは静電半球型電⼦分析器、電⼦レンズ、電⼦検出器で構成され る。真空中に放出された光電⼦は電⼦レンズ部によって集められ、アナライザー⼊射スリッ トに集光される。集光された電⼦は電⼦分析器を通過することで運動エネルギーを振り分 けられ、電⼦検出器に到達する。

静電半球型電⼦分析器システムのエネルギー分解能 ∆𝐸B(Cは電⼦分析器を通過する際の

電⼦のエネルギー(パスエネルギー)を 𝐸D、電⼦分析器の⼊射スリット幅を 𝜔、電⼦分析器 の平均半径を 𝑅 = (𝑅%+ 𝑅!)/2とすると、近似的に

∆𝐸B(C= 𝐸D 𝜔

2𝑅 (2.8)

と表される。𝑅は加⼯精度との兼ね合いから𝑅 = 200 mmのものが広く⽤いられており、本 研究で⽤いた装置についても 𝑅 = 200 mm の静電半球型アナライザーを⽤いている。スリ ット幅 𝜔 、パスエネルギー 𝐸Dについては任意に選択可能であるが、⾼エネルギー分解能化 に伴い検出される光電⼦強度は減少する。測定において𝜔, 𝐸Dは注⽬する電⼦構造を決定す るため必要なエネルギー分解能および、測定時間(表⾯寿命)を加味し設定する。

図2.6 (a)静電半球型電⼦分析器システムの概念図, (b)電⼦分析器の⼊射スリットの模式図.

2.2.2 試料測定槽

試料測定槽においては⾼エネルギー・波数分解能達成のために外部磁場の排除、超⾼真 空化がなされている。外部磁場の排除のために試料測定槽はミューメタルシールドで覆っ ている。通常では500 mG 程度の地磁気があるが、ミューメタルシールドによりこれは数 mG 程度に抑えられる。同時に、試料周囲に⽤いる部材については全てチタンなどの⾮磁 性素材を⽤いている。また、ターボ分⼦ポンプ、イオンポンプ、クライオポンプ等の多様な 排気機構によって測定時は 1× 10-10 Torr 以下の超⾼真空を実現している。

2.2.3 励起光源(シンクロトロン放射光)

ARPES⽤の光源として希ガスランプ、レーザー、シンクロトロン放射光が⽤いられるが、

本研究では主に連続的に励起光エネルギーを変化でき、⾼輝度かつ、エネルギー幅が⼩さい アンジュレータからのシンクロトロン放射光を⽤いた。アンジュレータはシンクロトロン の直線部に設置される磁場の極性が交互に反転する磁⽯列である。この中を⾼速電⼦が⾛

ると、⾼速電⼦は蛇⾏運動(undulating)をする。この⾼速で蛇⾏運動する電⼦が放出する光

第 2 章 光電⼦分光

の位相はアンジュレータの蛇⾏毎に⼀致しており強め合いの⼲渉を起こす。アンジュレー タから放出される光はパルス波ではなく正弦関数に近い時間依存性を⽰す。したがってそ のフーリエ変換によって得られる⾓振動数スペクトルは準単⾊光となる。電⼦の蛇⾏軸と

なす⾓θ (図2.7)の位置において観測するアンジュレータから放出される光の 𝑛 次⾼調波の

⾓振動数ωn

𝜔(= 4𝜋𝑐𝑛𝛾!

𝜆E(1 + 𝐾!/2 + 𝛾!𝜃!) (2.9)

と与えられる。ここでcは光速、γは放出⾓の逆数(図2.7)、𝜆EはN極とS極の繰り返し

図2.7 平⾯型アンジュレータ内の電⼦の軌道と放出される光の座標.

周期を表している。𝐾はアンジュレータの偏向パラメータと呼ばれ、正弦磁場の最⼤値 𝐵$と 電⼦の速度𝑣を⽤いて𝐾 = 𝑒𝜆E𝐵$⁄2𝜋𝑚𝑣と表される。𝑛 = 1の場合は基本波であり、軸上 (𝜃 = 0)での電場は⽔平成分のみをもつためこの放射光は直線偏光である。また、アンジュ レータ磁⽯の周期数が𝑁Eの時軸上での光のスペクトル関数 𝐻((ω/ω%) は

𝐻((ω/ω%) =𝑠𝑖𝑛![𝑁E𝜋{(ω 𝜔⁄ ) − 𝑛}]%

[ 𝜋{(ω 𝜔⁄ ) − 𝑛}]% ! (2.10)

となる。𝐻(はω 𝜔⁄ % = 1の時に最⼤値𝑁E!を取り、スペクトルの半値幅は∆ω 𝜔⁄ ≈ 1 𝑛𝑁⁄ Eであ る。2.2.4 節で⽰すようにARPES 装置においては励起光のエネルギー幅を狭くすることは 装置の⾼分解能化に必要不可⽋である。このため、通常は𝑁E = 35以上のアンジュレータを

⽤いている。以上では電⼦が蛇⾏するような場合を考えたが、磁場強度を縦横交互に変化す る螺旋型磁場を発⽣する磁⽯配置をとったアンジュレータを⽤いればその中で⾼速電⼦は

螺旋運動し、円偏光を持つ放射光を得ることができる[5]。近年は図 2.8 のように磁⽯列の

位置を変化させることによって円偏光、直線偏光どちらも利⽤可能なアンジュレータから の放射光がARPES実験に⽤いられている場合もある。

図2.8 APPLE II 型可変偏光アンジュレータの模式図[6].

2.2.4 分解能

装置のエネルギー分解能ΔEは、前項で⽰した電⼦検出器の理論的な分解能Δ𝐸FGH、励起 光のエネルギー幅Δ𝐸6IJKL、外部磁場等の影響によるエネルギー分解能の悪化要素Δ𝐸MLK4NO

⽤いて、次のように表される。

∆𝐸 = ‘Δ𝐸FGH!+ Δ𝐸6IJKL!+ Δ𝐸MLK4NO! (2.11)

装置の分解能を評価するために標準試料として、明瞭なフェルミ端をもつ蒸着された新鮮 なAuのフェルミ準位近傍のスペクトルが広く⽤いられている。光電⼦スペクトル形状 𝐼(𝜔) は、直線のスペクトル状態密度 𝐴(𝜔)を仮定して、そこに温度の寄与を取り⼊れたフェルミ

−ディラック分布関数 𝑓(𝜔)をかけ、さらに装置の分解能関数であるガウス関数 𝑅(𝜎, 𝜔)をコ ンボリューションした、以下の式で表される。

𝐼(ω) = 𝐼$8 9 𝑑𝜔’𝐴(𝜔?)𝑓(𝜔?)𝑅( 𝜎, 𝜔′) (2.12) ここで、

𝐴(ω) = 𝑎𝜔 + 𝑏 (2.13)

𝑓(ω) = 1

exp (𝜔/𝑘)𝑇) + 1 (2.14) 𝑅(𝜎, ω) =exp(−𝜔!/2𝜎!)

√2𝜋𝜎! (2.15)

である。装置分解能∆𝐸はガウス関数の半値全幅で与えられるため、∆𝐸 = H8(ln2) 𝜎で表さ れる。

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