第 5 章 線ノード半⾦属 CaAgAs の光電⼦分光
5.4 CaAgAs の電⼦状態
本物質のバルク電⼦状態を正確に決定するために、バルク敏感でより⾯直波数の不 確定性を抑制できると考えられる軟 X 線を光源として⽤いた ARPES 測定を⾏った。本 項では軟 X 線 ARPES 実験で決定した CaAgAs の電⼦構造について議論を⾏う。
図 5.5(a)に、垂直放出法で得られた各励起光における EDC スペクトルを⽰す。価電
⼦帯上端がℎ𝜈 = 650 eV前後において頂点を持ち、ℎ𝜈 = 700 eVおよび600 eVにおいて
𝐸!= 1 eV 前後に底をもつ構造が観測されるなど、明瞭なバンド分散が観測された。こ
のことから、軟 X 線を⽤いた ARPES 実験においては⼗分に⾯直波数不確定性を抑制し
た 3 次元バンド分散構造の決定が可能であることがわかった。図5.5(b)に、表⾯垂直⽅
向のARPESスペクトルのEDC⽅向2階微分強度と、第⼀原理計算によって予測されるΓM 対称軸(図5.5(b) cut A)上のバンド分散(⾚実線)を⽰す。実験結果は理論計算によっておお よそ再現されており、劈開⾯が(112¦0)⾯であることがわかる。この試料は Hall伝導度測定 においてキャリア密度が~1.6 × 10!$cmA& と決定されている。これは 𝐸P が価電⼦帯上端か ら0.27eV ⾼結合エネルギー側に位置していることを⽰唆しているが、本実験結果の測定エ
ネルギースケールの範囲においては⼤きな 𝐸9 のシフトを仮定せずとも実験結果と計算結果 が良く⼀致している。この直接的な原因は不明であるが、表⾯バンドベンディングの存在な どが考えられる。
図 5.5 (a)ℎ𝜈 = 530 ~700eV を⽤いた垂直放出法での EDC スペクトル. (b)(a)ΓM 対称
軸上での EDC の 2 階微分強度プロットと第⼀原理計算によって予測されるバン ド分散(⾚実線).
続いて本物質における線ノードの存在と物性に寄与する𝐸P近傍でのバンド構造の詳細
について議論する。図5.6(b)に、第 13ブリルアンゾーンのΓ点を通るℎ𝜈 = 550 eVの励起
光での𝑘"𝑘# (Γ𝐾𝑀)⾯の𝐸P上における ARPES 強度マップを⽰す。第 13Γ点を囲むフェ
ルミ⾯以外に第 13ブリルアンゾーン中にフェルミ⾯が存在しないことがわかった。また、
図5.6(a)に⽰すように、𝑘#𝑘7(ΓAKH)⾯においてもΓK上の点状のフェルミ⾯以外に他のフェ ルミ⾯が存在しないことがわかった。図 5.6(a), (b)に⻩緑⾊の実線で⽰す第⼀原理計算で 予測されるフェルミ⾯と実験結果で強い強度が存在する部分がおおよそ⼀致しており、上 記のようなフェルミ⾯の存在する可能性が⾮常に⾼いと⾔える(第⼀原理計算によるフェル ミ⾯は 𝐸P が価電⼦帯の上端から0.05 eV⾼結合エネルギー側に位置するものを使⽤した)。
さらにフェルミ⾯を構成するバンド構造を精査するために、cut A-CにおけるARPES 強 度プロットと 2階微分強度プロットを、図5.6(c)及び(d)に⽰す。cut AにおいてはAs 4 𝑝
第 5 章 線ノード半⾦属 CaAgAs の光電⼦分光
軌道由来の線形に分散する正孔バンドが観測された。また、本バンドとバンド反転をし、デ
ィラック線ノードを構成するAgの5 𝑠 軌道由来の電⼦バンドについても、図5.6(d)に⽰す 2 階微分強度プロットにおいて電⼦バンドの存在を⽰す強度が観測された。このことから、
本物質のフェルミ⾯はAs 4 𝑝 軌道由来の正孔バンドとAgの5 𝑠 軌道由来の電⼦バンドのバ ンド反転由来のバンドによって構成されていると結論した。さらに、cut Bにおいてはcut A 同様に 𝐸P を横切る電⼦バンドと正孔バンドの存在が確認され、CaAgAsのノード構造が 線状に広がっていることが明らかとなった。⼀⽅、cut C においては 𝐸P から離れた正孔バ ンドが観測された。これは第⼀原理計算によってよく再現され、また、図5.6(a)に⻩緑の点 線で⽰した鏡映⾯に守られた円形の線ノードの分散とも⽭盾しない。
図5.6 (a) 𝑘"𝑘#⾯における𝐸P上でのARPES 実験結果の 2階微分強度マップと第⼀原理計 算によって予測されるフェルミ⾯(⻩緑実線)と第⼀原理計算によって予測される円 環状線ノード(⻩緑点線) (第⼀原理計算によるフェルミ⾯は𝐸Pが価電⼦帯の上端か ら0.05 eV⾼結合エネルギー側に存在する場合のものを使⽤している). (b)(a)と同 様のプロットを𝑘#𝑘7⾯において⾏ったもの. (c)(a)におけるcut AからCのARPES 強度プロットとスピン軌道相互作⽤を考慮に⼊れた場合の第⼀原理計算によって 予測されるバンド分散(⾚実線)とスピン軌道相互作⽤を考慮しない場合の線ノード 近傍のバンド分散(⾚点線), (d)(a)におけるcut AからCの 2 階微分強度プロット とバンド分散のガイドライン(⾚点線).
また、計算によって予測されるCaAgAsの等エネルギー⾯は図5.7(a)に⽰すように価電
⼦帯上端とのエネルギー差 𝐸8T= 0.1 eV 程度の地点においてはトーラス型であるが、⾼結合 エネルギー側にいくに従ってトーラス構造が太っていき、電⼦バンドの下端以下では球形 となる。この振る舞いは、図5.7(b)に⽰すAPRES実験結果においてもよく再現された。以 上の結果から、CaAgAsにおいてはΓKM(𝑘7= 0)⾯において円環型の線ノードが形成されて おり、線ノード以外にフェルミ⾯を構成するバンド構造が存在しないと結論した。
図 5.7 (a)第⼀原理計算によって予測される価電⼦帯上端とのエネルギー差𝐸8T= 0.1, 0.27, 0.6 eVにおける三次元波数空間中における等エネルギー⾯, (b) 𝑘"𝑘#⾯にお ける各等エネルギー⾯でのARPES実験結果の 2階微分強度マップと計算によって 予測される等エネルギー⾯(⻩緑実線).