第 3 章 CdTe 両面ストリップ検出器応答 のモデル化のモデル化
3.2 CdTe 両面ストリップ検出器の出力計算コードの構築
CdTe両面ストリップ検出器の出力を理論的に計算するため、あるエネルギーを持っ た光子が入射してから、最終的なパルスハイトが出力されるまでの過程を計算するコー ドを構築した。具体的には以下の順に計算を行っていく。
1. 検出器の厚みとストリップピッチから重み付けポテンシャルを計算
2. バイアス電圧、電子の移動度(µe)と寿命(τe)、ホールの移動度(µh)と寿命(τh)か ら誘導電荷を計算
3. フィルター回路の効果の計算
また電子とホールのµτの値は、表3.1の値を用いる。
表3.1: キャリアの移動度と寿命[5][32]
電荷 移動度 寿命
キャリア [mm2·V−1·s−1] [s]
電子 1.0·105 5.0·10−6 ホール 1.0·104 1.2·10−6
3.2.1 重み付けポテンシャル計算
検出器のストリップピッチと厚さから重み付けポテンシャルを決定する。図3.4にあ るストリップ電極型の検出器のジオメトリの場合、ラプラス方程式
φ(x,z)=
∞
&
m=1
Amsin 'mπ
a x (
sinh 'mπ
a z (
(3.1) を解けば良い。ストリップのため、例えば上面を考えた場合、yが変化しても電極は変 わらないのでyには依存しない。また係数Amは、
Am= 2
mπsinh(mπL/a)fm (3.2)
fm =cosmπ(a−U)
2a −cosmπ(a+U)
2a (3.3)
という形となる。
図3.4: ストリップ型検出器のジオメトリ。ストリップピッチはUであり、厚さはLと なている。
図3.5は具体的に計算した重み付けポテンシャルの3次元図である。250µmピッチ、
厚さ0.75 mmだとして計算している。図3.5は異なるストリップ位置での重み付けポ
テンシャルを表しており、重み付けポテンシャルが隣にまで漏れ込んでいる。以上よ り電極分割型にした場合に重み付けポテンシャルの形状は歪み、電子ホール対が発生 した電極に隣接する電極にも誘導電荷が発生する。よって、HXIに向けてCdTe両面ス トリップ検出器の応答を理解するには、単一平面電極の検出器のときとは違い、この 歪みによる影響を考慮しなくてはならない。
図3.5: ストリップ型検出器の重み付けポテ ンシャル。
図3.6:異なる位置でのストリップ型検出器 の重み付けポテンシャル。ピクセル検出器 と同様に隣のストリップにも重み付けポテ ンシャルが漏れる。
3.2.2 誘導電荷の計算
計算した重み付けポテンシャルを用いて、誘導電荷を計算する。ここで必要なのは 検出器に印加されるバイアス電圧と、キャリアとなる電子・ホールそれぞれの移動度 µと寿命τである。式2.4から、キャリアの個数が場所によって変化しなければ誘導電 荷は単純に電荷量にその電荷が感じた重み付けポテンシャルの変化を掛け合わせれば 良い。しかしCdTeの場合はキャリアの移動度µと寿命τが小さく途中でキャリアがト ラップされていく。その影響を考慮するために次のような計算を行った。
検出器を深さ方向にN等分し、CathodeからAnodeまでの各点にz1〜zN−1と名前を 付けておく。znの深さで光子が反応を起こしたとしたとする。計算のステップは
1. 反応した位置から電子・ホールが微笑時間∆tだけ動いたときに各電極に誘導さ れる電荷を計算する。その際にキャリアの減少は無視して、式2.4から誘導電荷 を求める。
2. キャリアの速度から、電子とホールの∆t後の位置ze1とzh1を求める。
3. ∆t後のキャリアの個数をその寿命から計算する。
4. トラップされたキャリアの数をもとのキャリアの数から引き、それぞれのキャリ アがze1とzh1から∆tだけ移動したときに各電極に誘導される電荷を計算し、も ともと計算していた誘導電荷に足し合わせる。
このようなステップでの計算を繰り返すことで、AnodeとCathodeでの最終的な誘導 電荷と誘導電荷のタイムプロファイルが求められる。このステップ計算を式としてま とめたものが式3.4及び式3.5である。ここではCathodeが負の方向、Anodeが正の方 向と仮定している。
QAnode =−e&
n·exp
#
−k·∆t τh
$
·[φ0(zn−(k+1)µhE∆t)−φ0(zn−kµhE∆t)]
+e&
n·exp
#
−k·∆t τe
$
·[φ0(zn+(k+1)µeE∆t)−φ0(zn+kµeE∆t)] (3.4)
QCathode= +e&
n·exp
#
−k·∆t τh
$
·[φ0(zn−(k+1)µhE∆t)−φ0(zn−kµhE∆t)]
−e&
n·exp
#
−k·∆t τe
$
·[φ0(zn+(k+1)µeE∆t)−φ0(zn+kµeE∆t)] (3.5) である。ここでeは素電荷量、nは初めに発生した電子・ホール対の数である。また、
和をとるのは第一項(ホールの寄与)は−1 ! zの間、第二項(電子の寄与)はz ! 1 の間である。さらに誘導電荷を初めに発生した電荷の総量e·nで割ったものを誘導電 荷効率と定義する。誘導電荷効率ηは
ηAnode= −&
exp
#
−k·∆t τh
$
·[φ0(zn−(k+1)µhE∆t)−φ0(zn−kµhE∆t)]
+&
exp
#
−k·∆t τe
$
·[φ0(zn+(k+1)µeE∆t)−φ0(zn+kµeE∆t)] (3.6)
ηCathode= +&
exp
#
−k·∆t τh
$
·[φ0(zn−(k+1)µhE∆t)−φ0(zn−kµhE∆t)]
−&
exp
#
−k·∆t τe
$
·[φ0(zn+(k+1)µeE∆t)−φ0(zn+kµeE∆t)] (3.7) となる。ただし、電荷は正の値も負の値も取りうるので誘導電荷効率は必ずしも正の 値とは限らない。
このようにして計算した誘導電荷効率のタイムプロファイルを図3.7と図3.8に示す。
図3.7は光子が反応を起こしたストリップ上での誘導電荷であり、図3.8はそれに隣接 するストリップ上での誘導電荷となっている。またそれぞれの色は反応位置の深さを 表しており、-0.375がCathode、+0.375がAnodeである。
図3.8から、最終的な誘導電荷効率の値がAnodeではマイナス、Cathodeではプラス になっていることが分かる。これはホールの方が電子よりもµτが小さいことが原因で
ある。一つの電子・ホール対に注目したとする。図3.9に示したような、ホールが途中 で止まり、電子は電極面まで移動しきるケースが起きた場合、式3.4と式3.5から
QAnode =−e·∆φh+e·∆φe (3.8)
QCathode= +e·∆φh−e·∆φe (3.9)
Anode読み出しでは∆φe < 0かつ∆φh <0であるためQAnode< 0となる。Cathode読 み出しでは∆φe <0かつ∆φh > 0であるためQCathode< 0となる。このような出来事が 確率的に起こり易いので、隣接ストリップではAnodeは負の誘導電荷効率、Cathodeは 正の誘導電荷効率となる。
図3.7: 0.75 mmt、HV=300 Vでの光子が反応したストリップでの誘導電荷効率のタイ
ムプロファイル。µτが小さいホールの寄与が大きいCathodeの方が最終的な誘導電荷 効率が低くなる。
図3.8: 0.75 mmt、HV=300 Vでの光子が反応したストリップに隣接するストリップの 誘導電荷効率のタイムプロファイル。Anode、Cathodeともに最終的な誘導電荷効率は 0に近づく。
3.2.3 ASIC 内のフィルター回路効果の計算
キャリアの移動度が小さく、収集されきるまでに時間がかかるCdTeにおいて無限積 分モードで出力値を求めることに問題はないか検証することが必要であり、そのため に計算コードのなかにフィルターを通してピークホールドする過程までを組み込んだ。
式3.4及び式3.5から求まるAnode、Cathodeの誘導電荷のタイムプロファイルから、
ある時刻i·∆tにおける(iは整数)、図3.10に示すような微分回路と積分回路を通った あとの信号の大きさE%%(i·∆t)を求める。ここで、プリアンプから出てきた直後の信号 をE(i·∆t)とすると、
E(i·∆t)∝ η(i·∆t)(誘導電荷効率) (3.10) とすることができる。(Anode、Cathodeの表記は略)次に微分回路を通った後の信号 E%(i·∆t)は
E%(i·∆t)= E(i·∆t)−E([i−1]·∆t)+E%([i−1]·∆t))
1+∆t/τ (3.11)
となる。ただしここでのτとは、回路の抵抗と静電容量の積で与えられる時定数であ り、シェイピングタイムと呼ばれる。また式3.11には初期条件が必要となるが、それ らは
E(0)=0.0 (3.12)
E%(0)=0.0 (3.13)
となる。これからさらに積分回路を通った後の信号E%%(i·∆t)は E%%(i·∆t)= ∆t·E%(i·∆t)+τ·E%%([i−1]·∆t)
∆t+τ (3.14)
図3.9: 隣接ストリップからみたキャリアの動き
となる。τは式3.11でのものと同様、回路の抵抗と静電容量の積で与えられる時定数 でシェイピングタイムとなる。また式3.11と式3.14のτは同じ値である。また初期条 件は
E%%(0)=0.0 (3.15)
となる。
これらの計算を任意のi·∆tについてしていけばE%%のタイムプロファイルを求める ことができる。図3.11と図3.12はそれぞれ、図3.7と図3.8が微分積分回路を通して変 換された後の波形を表している。またここではシェイピングタイムτ=1µsとしている。
図3.10: CR微分回路(上)とRC積分回路(下)。誘導電荷の信号はこれらの回路を順 に介してピーク値を持つ波形へと変換される。
図3.11: Anode(左)とCathode(右)の、光子が反応したストリップでの波形。
図3.12: Anode(左)とCathode(右)の、光子が反応したストリップに隣接するスト リップでの波形。