Answer
1.妊娠糖尿病(GDM,gestational diabetes mellitus)スクリーニングを全妊婦に 行う. (B)
2.スクリーニングは以下に示すような二段階法を用いて行う. (B)
1)妊娠初期に随時血糖測定(カットオフ値は各施設で独自に設定する).随時血糖 値≧200mg! dL 時には,75gOGTT は行わず,Answer 4 の①〜③の有無につ いて検討する.
2)妊娠中期(24〜28 週)に 50gGCT(≧140mg ! dL を陽性),あるいは随時血 糖測定(≧100mg! dL を陽性).その対象は妊娠初期随時血糖法で陰性であった 妊婦,ならびに同検査陽性であったが 75gOGTT で非 GDM とされた妊婦.
3.スクリーニング陽性妊婦には診断検査(75gOGTT)を行い,以下の 1 点以上を満 たした場合には GDM と診断する.ただし,2 時間値≧200mg ! dL 時には Answer 4 の①〜③の有無について検討する. (A)
①空腹時血糖値≧92mg! dL(5.1mmol! L)
② 1 時間値≧180mg ! dL(10.0mmol ! L)
③ 2 時間値≧153mg! dL(8.5mmol! L)
4.以下のいずれかを満たした場合には 妊娠時に診断された明らかな糖尿病,overt diabetes in pregnancy と診断する. (A)
①空腹時血糖値≧126mg ! dL
② HbA
1c≧6.5%(HbA
1c(JDS)≧6.1%) (註)
③確実な糖尿病網膜症が存在する場合
④随時血糖値≧200mg ! dL,あるいは 75gOGTT で 2 時間値≧200mg ! dL で上 記①〜③のいずれかがある場合
5.GDM 妊婦には分娩後 6〜12 週の 75gOGTT を勧める.妊娠時に診断された明 らかな糖尿病 妊婦では耐糖能について再評価する. (C)
註.国際標準化を重視する立場から,新しい HbA1c値(%)は,従来わが国で使用していた Japan Diabetes Society(JDS)値に 0.4% を加えた National Glycohemoglobin Standardization Pro-gram(NGSP)値を使用するものとする.
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▷解 説
本 CQ & A は主に GDM 診断についての記述である.耐糖能異常合併妊娠の管理については CQ314 を参照されたい.
(表 1) 新しい妊娠糖尿病診断基準 定義:
妊娠糖尿病 gestationaldiabetes mellitus(GDM)は妊娠中に初めて発見,または発症した糖代謝異常.しかし,
overtdiabetes in pregnancy(妊娠時に診断された明らかな糖尿病)は GDM に含めない.
診断基準:
1)妊娠糖尿病(GDM)
75gOGTTにおいて次の基準の 1点以上を満たした場合に診断する.
①空腹時血糖値≧ 92mg/dL(5.1mmol/L)
② 1時間値≧ 180mg/dL(10.0mmol/L)
③ 2時間値≧ 153mg/dL(8.5mmol/L)
2)妊娠時に診断された明らかな糖尿病(overtdiabetes in pregnancy)
以下のいずれかを満たした場合に診断する.
①空腹時血糖値≧ 126mg/dL
② HbA1c≧ 6.5%(HbA1c(JDS)≧ 6.1%)註 1
③確実な糖尿病網膜症が存在する場合
④随時血糖値≧ 200mg/dL,あるいは 75gOGTTで 2時間値≧ 200mg/dLで上記①~③のいずれかがある 場合
註 1.国際標準化を重視する立場から,新しい HbA1c値(%)は,従来わが国で使用していた Japan Diabetes So ciety(JDS)値に 0.4%を加えた NationalGlycohemoglobin Standardization Program(NGSP)値を使用する ものとする.
註 2.HbA1c< 6.5%(HbA1c(JDS)< 6.1%)で 75gOGTT2時間値≧ 200mg/dLの場合は,妊娠時に診断され た明らかな糖尿病とは判定し難いので,high risk GDM とし,妊娠中は糖尿病に準じた管理を行い,出産後は糖尿病 に移行する可能性が高いので厳重なフォローアップが必要である.
A.GDM,ならびに 妊娠中に診断された明らかな糖尿病 の診断(表 1)
2008 年 の HAPO study1)後,International Association of Diabetes and Pregnancy Study Groups(IADPSG)は慎重な検討後,2009 年 9 月に Recommendations on the Diagnosis and Classification of Hyperglycemia in Pregnancy を発表し2),世界統一妊娠糖尿病診断基準を提唱し た.わが国においても関係学会が協議し,IADPSG 原案をほぼ受け入れ表 1 に示す診断基準が設定され た.今回の改訂の大きな変化は,① 75gOGTT のカットオフ値が変更され,1 ポイント陽性でも GDM と診断されるようになったこと,② 妊娠時に診断された明らかな糖尿病 を新設し,これを GDM 中に含めないこととしたことである.したがって,妊娠中に発見される耐糖能異常 hyperglycemic dis-orders in pregnancy には,GDM と 妊娠時に診断された明らかな糖尿病 の 2 つがある.予備調査 では,診断基準改定により妊娠中期の GDM 頻度は 2.1% から 8.5% 程度に増加する.2.7 倍(2.4%
から 6.6% に)に増加したとの報告もある3). 1)耐糖能異常スクリーニング
IADPSG ではスクリーニング法として,妊娠時の最初の受診時に空腹時血糖,HbA1c,随時血糖のい ずれかの測定を,全妊婦あるいはハイリスク妊婦に対して行う.そして,この初期検査で GDM あるい は 妊娠時に診断された明らかな糖尿病 と診断されなかった全妊婦に対し,妊娠 24〜28 週に 75gOGTT を実施する方法を提案している2).
本邦では,耐糖能異常のスクリーニングは妊娠初期の随時血糖法と,妊娠中期の 50gGCT 法あるいは 随時血糖法を用い,2 段階で行う.妊娠初期随時血糖値がカットオフ値(各施設で独自に設定してよい)
未満の陰性例と陽性(カットオフ値以上)であったが 75gOGTT により GDM あるいは 妊娠時に診断 された明らかな糖尿病 と診断されなかった妊婦に対して,中期(24〜28 週)に 50gGCT 法(≧140 mg!dL を陽性)を行う.ただし,50gGCT が施行困難な場合には随時血糖法(≧100mg!dL を陽性)
でもよい.
2008 年版では高リスク妊婦への直接 75gOGTT 検査(スクリーニングを省略しての)を許容してい
た.しかし,これら妊婦が糖尿病であった場合,高血糖を招きかねないこと,さらに今回の改訂でスク リーニングが推奨レベル B になったことに伴い,2008 年版 Answer 2 を削除した.
2)随時血糖値≧200mg!dL 時の対応
妊娠時に診断された明らかな糖尿病 の疑いがあるため,50gGCT や 75gOGTT は行わず(高血糖 を招き危険である),空腹時血糖値ならびに HbA1cを測定し,眼科受診を促す.空腹時血糖値≧126mg!
dL,HbA1c≧6.5%(HbA1c(JDS)≧6.1%),あるいは糖尿病網膜症のいずれかがある場合には 妊 娠時に診断された明らかな糖尿病 と診断する.いずれもない場合には GDM と診断する.
3)診断検査(75gOGTT)について
スクリーニング検査(随時血糖検査,50gGCT)陽性妊婦に行い,Answer 3 の①〜③の 1 点以上満 たした場合,GDM と診断する.0 時間値(空腹時血糖)<126mg!dL かつ 2 時間値≧200mg!dL 時には,HbA1cを測定し,眼科受診を促し,HbA1c≧6.5%(HbA1c(JDS)≧6.1%),あるいは糖尿 病網膜症のいずれかがある場合には 妊娠時に診断された明らかな糖尿病 と診断する.
ただし,HbA1c6.5% 未満(HbA1c(JDS)6.1% 未満)かつ 75gOGTT2 時間値≧200mg!dL の場合には,high risk GDM とし,妊娠中は糖尿病に準じた管理を行い,出産後は糖尿病に移行する可 能性が高いので厳重なフォローアップが望まれる.
B.GDM 妊婦からの糖尿病発症
GDM 妊婦は将来,糖尿病発症率が高いことが知られている4)〜10).GDM 妊婦 788 例に産後 3〜6 カ月に 75gOGTT を行ったところ,200 名(25.4%)に異常(impaired fasting glucose(IFG)46 名;impaired glucose tolerance(IGT)82 例;IFG+IGT 29 例;糖尿病 43 例)が認められた5). その他の報告を集計すると,産後 1 年以内に IGT+糖尿病が 6.8〜57%,糖尿病が 2.6〜38%6)8)に,
産後 5〜16 年では 17〜63%9)10)に糖尿病が発症している.また,最近報告された 1960〜2009 年の 20 論文(10 論文は 2006 年以降)の 14 カ国,675,455 人の女性,10,859 件の 2 型糖尿病発症 イベントを対象にしたメタアナリシスでは,GDM 既往女性の 2 型糖尿病発症の相対危険率は,妊娠中 の正常血糖女性の 7.43 倍(95% 信頼区間 4.79〜11.51)と報告されている11).このようなことから GDM 妊婦では糖代謝が落ち着いてくる分娩後 6〜12 週の 75 gOGTT が勧められる.妊娠時に診断 された明らかな糖尿病 や high risk GDM に対しても同時期での耐糖能再評価が勧められる.また,妊 娠時に耐糖能評価されていない妊婦で巨大児,肩甲難産を起こした場合,同時期での耐糖能評価が勧め られる.
C.参考
1)GDM 治療は正当化されるか?
本邦の GDM 頻度は旧基準では 2.92%12)と報告されている.GDM では奇形,巨大児,出産時障害,
帝王切開率の上昇など多くの合併症が起こることがよく知られている13).しかし,妊娠中に耐糖能スク リーニング検査を実施し,GDM が発見された場合に血糖を低下させることにより,巨大児や出産時障害 を減少させられるか否かについては知られていなかった14).この問題につきいくつかの RCT が発表され た.Australian Carbohydrate Intolerance Study in Pregnant Women(ACHOIS)15)で は,妊 娠 24〜34 週時に行われた 75gOGTT で負荷前血糖値が≦140mg!dL かつ 2 時間値が 140〜198 mg!dL であった妊婦 1,000 名が対象としている.そして,無作為に 490 名は study 群(GDM であ ることを告知された血糖調節管理群)に,510 名は control 群(GDM ではないと告げられた通常の管 理群)に振り分けられ,重篤な新生児合併症(死亡,肩甲難産,骨折,神経麻痺等)について比較され た.結果は GDM に対する積極的医療介入は児の重篤な合併症を 4%(23!524,うち 5 名は周産期死 亡,16 名は肩甲難産)から 1%(7!506,うち死亡は 0,肩甲難産 7 名)に減少させたというものであっ
た15).この成果は GDM に対する医療介入(血糖調節や分娩誘発)を正当化するものである.また,これ らは GDM 診断の目的はなるべく早い週数より血糖コントロールを行い,巨大児を少なくして分娩時障 害を減少させることにあることを示している.
また,もう 1 つの RCT16)では,24〜31 週の妊婦で mild GDM(100gOGTT で GDM と診断され たが FBS<95mg!dL のもの)を無作為に 2 群に分け,control 群(485 例)では通常の周産期管理 を行い,治療群(473 例)では必要あれば食事療法,自己血糖測定(SMBG),インスリン治療を行っ た.そして,Primary outcome として周産期死亡,児合併症(高ビリルビン血症,低血糖,高インスリ ン血症,分娩時損傷)の比較を行っている.その結果は,両群とも児死亡はなかったが,治療群におい て児体重(3,302g vs 3,408g),LGA(7.1% vs 14.5%),巨大児(5.9% vs 14.3%),帝 切 率
(26.9% vs 33.8%),肩甲難産(1.5% vs 4.0%)が減少し,治療群において登録後の母体体重増加
(2.8kg vs 5.0kg),妊娠高血圧症候群の頻度(2.5% vs 5.5%)の減少がみられている.この結果も,
mild GDM を治療することの意義を示している.
2)妊娠初期高血糖と胎児奇形の関係
妊娠初期の血糖値と胎児奇形の関連が指摘されている.Fuhrmann et al.17)は,妊娠前からの血糖調節 により妊娠初期血糖値が正常化していれば奇形率は非糖尿病群と同じ 0.8% だが,妊娠後に糖尿病管理 を始めた群では 7.5% であったとしている.Kitzmiller et al.18)も,見逃されていた症例では奇形率が高 いことより妊娠前血糖管理の重要性を指摘している.糖尿病婦人では児奇形防止の観点から,HbA1c 7.4% 未満(理想は 6.4% 未満)(JDS 基準ではそれぞれ,7.0% 未満,6.0% 未満)到達後の計画妊娠 が勧められる13).
3)効率よい GDM スクリーニング法は?
以下に一般的に行われている 3 通りの耐糖能異常のスクリーニング法を示す.
・随時血糖法:食後時間は考慮せず血糖値を測定する方法で≧100mg!dL を陽性とする.
・空腹時血糖法:夜間絶食後の血糖値を測定する方法で≧85mg!dL を陽性とする.
・50gGCT(glucose challenge test)法:食事摂取の有無にかかわらずブドウ糖 50g を飲用 1 時間後の血糖値を測定し,≧140mg!dL を陽性とする.
「妊娠糖尿病のスクリーニングに関する多施設共同研究」12)では上記 4 法の GDM スクリーニング特 性ならびに cost performance(1 名の GDM を検出するための費用)について前方視的多施設共同研 究を行った.GDM の有無判定のためにスクリーニング陽性・陰性にかかわらず全例に 75gOGTT を 行った.カットオフ値は ROC により決定した.結果,スクリーニング特性は 50gGCT が初期,中期と もに最も優れていた.Cost performance は初期には随時血糖法が,中期には 50gGCT が最も優れて いた.
仮に初期随時血糖のカットオフ値を≧95mg!dL と設定した場合には,16.2% の妊婦が陽性となり,
75gOGTT 検査にまわることになる.初期のスクリーニングは妊娠成立前からの耐糖能異常の検出にあ る.中期に感度が最も優れた 50gGCT を行う二段階スクリーニング法では初期随時血糖カットオフ 100mg!dL でも効果が十分期待できる可能性がある(初期随時血糖検査単独での感度は落ちるが,陽性 的中率が向上し,1 名の GDM 検出のための cost performance が改善される).しかし,充分なエビ デンスがないので,初期随時血糖のカットオフ値については各施設独自に検討し設定してもよいことと したが,同研究12)のデータをもとに,新 GDM 診断基準への適応について検討したところ,簡便性,コス ト等の点より,初期随時血糖法カットオフ値は 95mg!dL,妊娠中期 50gGCT カットオフ値は 140 mg!dL,妊娠中期随時血糖カットオフ値は 100mg!dL が優れていた(unpublished data).