3 理論の枠組み
3.2 BE と HAVE の関係
3.3.3 Burzio の一般化について
2つ目の重要な点は、既に(119)の統語構造に示したように、〈所有〉の概念をもつ動 詞は目的語をとり、統語上は他動詞となることである。これまでは、下位事象しかもたな い動詞は(113b)のような構造をもつと考えられ、外項(x)をもたない動詞が目的語を とりヲ格を付与することはできないと考えられていた。これは生成文法の統語理論で
「Burzioの一般化」と呼ばれるものである。
(120)Burzioの一般化
外項をもつ動詞のみが、目的語に対格を付与することができる69。
ところが、〈所有〉の概念をもつ動詞は下位事象しかもたず、外項を持たないにもかかわ らず、目的語に対格を付与している。これは英語でも日本語でも状態動詞の中で2項述語 になる動詞として存在している。(日本語については第4節で詳しく論じる)
(121)英語70:have, know, resemble, believe, feel, smell, taste, cost, weigh, last
日本語:欠く、要する、含む、有する、など
このような動詞は、これまで非対格動詞であっても、動詞の意味(二者の関係を表すこ と)から主語と目的語をとるというだけで済まされてきた。Burzio の一般化については、
これまで反例が見つかっているという指摘もあるが(影山 1996:115-116)、これによっ て合理的に説明される統語現象も多いことも事実である。英語については、(122)のよう に非能格(自)動詞が疑似的な目的語をとって結果構文が成立するのは、非能格動詞が外 項をもつからだと説明することができる。
(122)影山(1996:212 =(8)) a. Bill talked himself hoarse.
b. He ran his sneakers thredbare.
また、日本語では、(123)のように移動動詞に現れるヲ格が、主語が無生物の場合には
成立しないという現象も、無生物の場合は非対格(自)動詞のため外項がないからだと説 明できるし71、(124)のように漢語名詞がサ変動詞として使われる場合に、ヲ格が入るか どうかの判断にも有効だと言われている。このように Burzio の一般化は、非対格仮説と 組み合わせることで、表層では主語として現れていても、基底構造で目的語相当の内項し かもたない非対格動詞が、外項をもつ非能格動詞と異なり、対格(ヲ格)を取れないこと を説明できるのである72。
(123)a. 太郎が家を出る。
b. 太郎が家から出る。
c. *煙が煙突を出る。
d. 煙が煙突から出る。
(124)影山(1996:212-213 =(9)) a. 非能格VN
居酒屋で酔っ払いが喧嘩をしている。
毎朝、運動をすることは良いことだ。
b. 非対格VN
*社長が突然、死去をした。
*けさ、思いもかけない事件が発生をした。
生成文法の統語論では、Burzioの一般化を修正し、新たな一般化を目指す流れもあるが、
本論文では、Burzio の一般化を一部修正する形で、(125)のような一般化を提案し、下 位事象のみの〈所有〉の概念をもつ動詞が目的語に対格を与えると考える。
(125)目的語への対格付与に関する一般化
外項をもつ動詞のみが、目的語に対格を付与することができる。ただし、外項
がない場合でも、内項が2つあり、一方が擬似的外項.....
になる場合は目的語に 対格を付与することができる。
3.3.4〈所有主体の他動詞文〉の基本型とS型・T型の区別
■S型の所有主体の他動詞文
(119)に示したように、〈存在〉の意味概念から、場所の焦点化によって変換された〈所 有〉の意味概念をもち、擬似的外項にあたる内項(z)が主語に、内項(y)が目的語にな った文が〈所有主体の他動詞文〉の基本型であるが、ここで第1節の図4および(13)で 示した所有主体の他動詞文の2つの生成パターンを考える(図4は一部情報を追加して図 9として再掲)。1つは、自動詞文から[M2]によって直接生成されるもので、これが(119) に示したような生成プロセスに相当する。これを[M2]単独(Single)で生成されるとい う意味で「S型」と呼ぶことにする。したがって(119)はS型であり、「基本S型」とい うことになる。
(126)所有主体の他動詞文:基本S型 (=119)
1)統語構造 2)項構造 3)語彙概念構造 1) 主語 目的語 「zがyを〈もつ〉」
2) ( < z < y >> )
3) [ zi BE [ WITH-[ y BE AT-zi ]]] 〈所有〉
場所の焦点化
[ y BE AT-z ] 〈存在〉
この基本S型に属する〈もつ〉の意味概念をもつ他動詞は多くない。それは日本語では
〈もつ〉の意味概念は「持つ」ではなく、「ある(いる)」で表現されるからである。つま り〈存在〉の「ある」から〈所有〉の「ある」が生まれるのである。この〈所有〉の「あ る」はヲ格をとる他動詞文ではなく「~に~が」構文(与格主語構文)か「~が~が」(二 重主語構文)を作る73。所有主体の他動詞文の「基本S型」としては、日常語では「伴う」
「要する」(含む)74くらいである。英語のʻhaveʼと違って、日本語は基本的に「ある(い る)」で所有を表すため、「持つ」という動詞が担う役割は相対的に小さいと言える。
〈所有〉の「ある」は、「何を」「どのように」という情報に関しては透明であり、その 点で所有を表す基本的な動詞であると言える。それに対して上に挙げた所有他動詞の「伴
う」「要する」「含む」は、〈所有〉の「ある」に随伴関係、所要、包含関係という情報が付 加された所有他動詞である。一方、所有他動詞としての「持つ」は、「ある」と比べてその 使用範囲は限定されている75とはいえ、かなり透明性が高い基本的な動詞の1つだと言え る。所有他動詞としての「持つ(持っている)」は、どのような概念構造から生成されるの だろうか。
それは「位置変化+存在」の概念構造からだと考えられる。「存在(状態)」は位置変化
(状態変化)によって生じた結果であるとみる傾向が強いのが、「ナル型」言語である日本 語の特徴である。これは〈所有〉の意味概念をもつ他動詞の多くが「ル形」だけでなく「テ イル形」で状態の意味を表すことからもわかる。実際に目に見える移動しとして観察され るかどうかにかかわらず、「存在」には“原因として
.....
モノの移動がある”とみる点が重要で ある。このような視点から、〈もつ〉の意味概念を有する「持つ」について考えてみる。
■「持つ」の意味概念:再帰構造
「持つ」という動詞は、語彙的に自分自身が着点としてを指定されている再帰動詞の用 法が基本である。所有他動詞の「持つ」をみる前にこの再帰動詞としての用法を見ておく。
この「持つ」は「xがモノ(y)を手に取り、モノ(y)が自分自身(x)のところに移動し、
それが自分自身(x)のところにある状態を保持する」ことを意味する。その概念構造は
(127a)で示されるが、重要なことは、上位事象(ACT:活動)が具体的な物を「手に取 る」というだけでなく、抽象的なモノにも拡張し、広く「獲得するための働きかけ」とい う活動を意味するようになっていることである。上位事象の活動に焦点が当たると、
(127b)のような主語の意図的な動作を表現することができる。しかし、「テイル形」で は上位事象の活動の進行中という意味を表せない(127c)。つまり「持つ」は使役変化動 詞ではあるが、上位事象は過程のアスペクトを持たず、「テイル形」は下位事象の「変化の 結果・状態(の維持の最中)」を表すと考えられる76。
(127)使役変化動詞「持つ」について a. 語彙概念構造(再帰構造)
[ xi ACT (ON y) ] CAUSE [ y BECOME [ y BE AT-xi ]]
|
使役動作主(x)
b. 1)その箱をちょっと持ってみて。
2)幸せな家庭を持ちたいなあ。
3)もっと自信を持とうよ。
c. 1)# 彼はその箱を持っている。(「持つ」動作の最中の意味)
2)# 彼女は幸せな家庭を持っている。(「持つ」動作の最中の意味)
3)# 田中さんは自信を持っている。(「持つ」動作の最中の意味)
次に、この使役変化動詞としての「持つ」と所有他動詞としての「持つ」のつながりを 考える。
■T型の所有主体の他動詞文
本論文では、所有他動詞の「持つ」は上に示した[M2]単独で生成されるS 型ではな く、[M1]と[M2]の共演によって生成されるタイプに属すると考える。2つの動機付
け(Twin)で生成されるという意味で、これを「T型」と呼ぶ。この2つの動機付けの共
演のあり方については、認知文法のベース(作用域)とプロファイルという概念を用いる。
図 8 ベースとプロファイル(Langacker 1987:184 Fig.5.1より)
Langacker(1987:183-184)では、この2つの概念の相互関係を「弧」の定義の例を
用いて説明している(図8)。弧を定義しようとしたら、必ずそのイメージの中に「円」の 概念があり、この「円」をベースにして、焦点を当てられる、つまりプロファイルされる のが「弧」というわけである。これを語彙概念構造に応用して、S型とT型を(128)の ように規定する。このT型の特徴を示すために図4に「原因イベント」を組み込んだもの が図9である。
(128)S型とT型の定義 S型:
下位事象のみの自動詞の語彙概念構造から「場所の焦点化」(または「所有者
の出来構造化」と「場所の焦点化」77)を受け、項構造を経て統語構造へ投 射される。
T型:
下位事象のみの自動詞の語彙概念構造が、原因を表すイベントを上位事象に
付加することによって使役変化の概念構造となる。これがベースとなり、そ の下位事象がプロファイルされ、「場所の焦点化」(または「所有者の出来構 造化」と「場所の焦点化」)を受け、項構造を経て統語構造へ投射される。
M1
〈他動詞文〉 〈自動詞文〉
〈変化〉・・・・・・・・・・・〈状態〉 M2
〈移動〉・・(発生・消失)・・・〈存在〉
c b a 3 使役状態変化 3 ・ ・ 2 使役発生・生産 2 ・
1 使役位置変化 1 ・ ・ 0★ 0★ 0★
使役動作主 原因イベント
・・・ ・・ ・・・
c' b' a' −− 発生物 モノ
変化過程 Ev 発生・消失 Ev 変化到達 Ev
拡張 〈所有主体の他動詞文〉
M1
図 9 他動詞文を生成する動機付けのM1とM2の相互関係