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有対自動詞の両用動詞化

ドキュメント内 Microsoft Word - 修士論文(完成原稿).doc (ページ 190-200)

4
 動詞と構文の分析

4.2
 B
 自動詞の形態をもつ他動詞文

4.2.2
 有対自動詞の両用動詞化


 有対自動詞の一部には自動詞の形態をもつにもかかわらずヲ格目的語をとる動詞があり、

これらの動詞は他動詞およびガ格をとる自動詞との意味の違いが議論されてきたことは、

第2節の先行研究の紹介の中で示した(2.2.2を参照)。このような振る舞いを見せる有対 自動詞は数が限られていることもあって、個別に意味の分析がされてきたが、本論文では この〈有対自動詞がヲ格をとる他動詞文〉も所有主体の他動詞文の1つのタイプであるこ とを主張する。つまり、「話を終わる」「尻尾を垂れる」「口をあく」などの動詞が自動詞か 他動詞かといったレベルではなく、「終わる」「垂れる」「あく」には(使役変化他動詞とは 異なる)所有他動詞としての用法があると考えることで、意味も正しく把握できることを 示す。

■〈有対自動詞がヲ格をとる他動詞文〉の動詞


 まず須賀(1981)が取り上げたの6つのペア(260)に2つのペアを追加し(261)、所 有他動詞であるかどか検討した上で、「有対自動詞の両用動詞化

.....

」という新しい視点から分 析する。


 
 (260)a. 「(口を)
 あける
 /(口が)
 あく
 
 −(口を)
 あく」


 
 
 b. 「(座席を)かえる
 /(座席が)かわる
 −(座席を)かわる」


 
 
 c. 「(住所を)移す
 
 /(住所が)移る
 
 −(住所を)移る」


 
 
 d. 「(音程を)はずす
 /(音程が)はずれる−(音程を)はずれる」


 
 
 e. 「(尻尾を)垂らす
 /(尻尾が)垂れる
 −(尻尾を)垂れる」


 
 
 f. 「(仕事を)終える
 /(仕事が)終わる
 −(仕事を)終わる」


 
 (261)g. 「(手を)
 つける
 /(手が)
 つく
 
 −(手を)
 つく」


 
 
 h. 「(計算を)間違える/(計算が)間違う
 −(計算を)間違う」


 所有主体の他動詞文における所有者(主語)と所有物(ヲ格目的語)の関係は、高橋(1975) とそれに基づいて整理した稲村(1995)の所属の概念の分類を採用するが(262)、具体的 な例の列挙には限界があり、概念としては(263)に示したような再帰構造をもつ2つの

名詞句の関係とみなせるものを含むと考える。そして(260)と(261)の動詞の主語とヲ 格目的語が(262)の分類のどれに相当するか確認しておく(264)。


 
 (262)所有者(主語)と所有物(ヲ格目的語)の関係 
 
 
 ①
 全体と部分
 
 :太郎−足、花子−目、家−台所


 
 
 ②
 主体とその側面:太郎−体重、台風−勢い、川−水かさ


 
 
 ③
 所有者と所有物:花子−鞄、太郎−子ども、次郎−仕事、三郎−関心


 
 
 ④
 生産者と生産物:花子−声、太郎−息、次郎−作品


 
 (263)所有者(主語:x)と所有物(ヲ格目的語:y)の関係の概念(=143)


 
 
 yはxを特徴づける要素として、xと密接な関係にあり、具体的か抽象的かを

問わず、また直接的か間接的かを問わず、yの変化がxの変化であると認知でき るような一体性をもつ関係にある。通常は、対応する自動詞文の主語において

「xのy」のように表示される関係にある。


 
 (264)①
 全体と部分
 
 :a.(口を)あける、e.(尻尾を)垂らす、


 
 
 g.(手を)つける 
 
 
 ②
 主体とその側面:−−


 
 
 ③
 所有者と所有物:b.(座席を)かえる、c.(住所を)移す、


 
 
 f.(仕事を)終える


 
 
 ④
 生産者と生産物:d.(音程を)はずす、h. (計算を)間違える


 ①「全体と部分」に入るのは、体の部位を示す名詞が目的語になる動詞である。③の「か える」「移す」については、「席」「場所」「家」のような具体的なモノや場所だけでなく、

「住所」「戸籍」「首都機能」などの抽象的なものも所有物とみなす。また、「仕事」「興味」

「夢」「関心」などは「~をもつ」と言えることから、これらも所有物の枠組みに入れるこ とができるだろう。④の「音程」は人が主語の場合は「(生産された)音」と考えることが できる。また「計算」は思考活動の結果物という見方である。

■有対自動詞の両用動詞化という視点


 第3節の理論の枠組みでその基本的な考え方を示したが(3.4.4を参照)、有対自動詞が ヲ格目的語をとる場合に、元々の自動詞と形態が同じ他動詞が存在するという見方に立ち、

そのような他動詞が生まれることを「有対自動詞の両用動詞化」と呼ぶ。これは本論文独 自の視点であり、両用動詞を所有主体の他動詞文のS型だという考え方を有対自動詞がヲ 格をとる他動詞文に応用したものである。つまり、自動詞と同形の他動詞をもつという点 では両用動詞の特徴と同じことから、有対自動詞が形態上、対応する他動詞がありながら、

さらに自動詞と同形の他動詞をもつようになったと考えるわけである。この新しい他動詞 が所有他動詞であり、所有主体の他動詞文が生成されると考える。


 有対自動詞における自他の交替を「-as(u)」による「他動詞化接辞付加タイプ」、「-ar(u)」

による「自動詞化接辞付加タイプ」、「-ru」と「-su」による「両極化接辞付加タイプ」、「-er(u)」

による「活用型による自他交替タイプ」(=「自他顕在化辞タイプ」)の4つに分類する124 と、この有対自動詞の両用動詞化もそれにあわせて(265)のように4つに分類できる。

(265a)のタイプの所有他動詞には「終わる」「かわる」がある。(265b)には「垂れる」

がある125。(265c)には「あく」「つく」「間違う」が、(265d)には「移る」「はずれる」

がある。


 
 (265)有対自動詞の両用動詞化の4つのタイプ 
 
 
 a. 
 
 
 自動詞化


 
 
 使役他動詞
 →
 非対格自動詞
 
 
 ヲ終える
 →
 ガ終わる 
 
 
 ↓両用動詞化
 
 
 ↓ 
 
 
 所有他動詞
 
 
 ヲ終わる


 
 
 b. 
 
 
 他動詞化


 
 
 非対格自動詞
 →
 使役他動詞
 
 
 ガ垂れる
 →
 ヲ垂らす 
 
 
 ↓両用動詞化
 
 
 ↓


 
 
 所有他動詞
 
 
 ヲ垂れる


 
 
 c. 
 
 
 自他顕在化


 
 
 非対格自動詞
 ⇔
 使役他動詞
 
 
 ガあく
 
 ⇔
 ヲあける 
 
 
 ↓両用動詞化
 
 
 ↓


 
 
 所有他動詞
 
 
 ヲあく


 
 
 d. 
 
 
 両極化


 
 
 非対格自動詞
 ⇔
 使役他動詞
 
 
 ガ移る
 
 ⇔
 ヲ移す 
 
 
 ↓両用動詞化
 
 
 ↓


 
 
 所有他動詞
 
 
 ヲ移る

■両用動詞化による所有主体の他動詞文の生成プロセス


 両用動詞化による所有主体の他動詞文の生成プロセスは、S型のそれと同じである。ま たタイプは「変化到達型」で、限界性をもつ変化事象の語彙概念構造をもつ自動詞から生 成され、変化イベント(Ev)を所有することを表す。変化到達型のうち状態変化を表す「状 態変化到達S型」に入るのは「あく」「垂れる」で、位置変化を表す「位置変化到達S型」

に入るのは「つく」である。「間違う」「終わる」「かわる」「移る」はやや複雑な事情があ るので別に扱う126。なお、「はずれる」については、「(人が音/音程を)はずれる」は不 自然で、許容されるとしたら「ヲ格」が離脱の場所を示していると考えられる。したがっ て、「ヲはずれる」は有対自動詞の両用動詞化には含めないことにする127。状態変化到達S 型の「口をあく」の生成プロセスを(266)に、位置変化到達S型の「手をつく」の生成 プロセスを(267)に示す。


 (266)では、ベースとなるLCSにおいて、全体と部分の関係にある「山田さんの口」

が一体となっており、それがどのように状態変化したかを表している。これが所有者の出 来構造化によって「山田さん....

に. おいて...

、口があくという変化が発生した」と把握される。

これが場所の焦点化をへて「山田さんが口をあくという変化Evを所有した」という語彙 概念構造に変換される。最終的には「山田さんが口をあく」という所有主体の他動詞文が 生成される。このプロセスは同じ「状態変化到達 S 型」の「垂れる」「終わる」に共通し ている。(「終わる」は主語名詞とヲ格目的語は所有者と所有物の関係である)


 (266)状態変化到達S型:「口をあく」(両用動詞化)


 
 
 1) 
 
 主語
 目的語
 「xがyを〈変化〉」「山田さんは口をあく」


 
 
 
 
 
 
 2)
 
 
 
 ( < x < y >> )


 
 
 3) 
 [ xi BECOME [ xi BE [ WITH-[ Ev BE AT-xi ]]]]
 〈変化Evの所有〉


 
 
 場所の焦点化


 
 
 
 [ BECOME [ Ev BE AT- x ]]
 Ev =[ y of x BECOME [ y of x BE AT- OPEN]]


 
 
 所有者の出来構造化


 
 
 [ y of x BECOME [ y of x BE AT- OPEN]]
 〈変化〉


 
 
 「山田さん(x)の口(y)があく」


 (267)位置変化到達S型:「手をつく」(両用動詞化)


 
 
 「山田さんは [ zに ] 手をつく」


 
 
 1) 
 
 主語
 目的語
 「xがyを [ zに ]〈移動〉」 
 
 
 



 
 
 2)
 
 
 
 ( < x < y Ploc-z >> )


 
 
 3) 
 [ xi BECOME [ xi BE [ WITH-[ Ev BE AT-xi ]]]]
 〈変化Evの所有〉


 
 
 場所の焦点化


 
 
 
 [ BECOME [ Ev BE AT- x ]]
 Ev =[ y of x BECOME [ y of x BE AT- z]]


 
 
 所有者の出来構造化 
 
 
 [ y of x BECOME [ y of x BE AT- z]]
 〈移動〉


 
 
 「山田さん(x)の手(y)が [ z ] つく」


 (267)では、ベースとなるLCSにおいて、全体の部分の関係にある「山田さんの手」

が一体となっており、それがどのように位置変化したかを表している。これが所有者の出 来構造化によって「山田さん....

に. おいて...

、手がzにつく(着く)という位置変化が発生した」

と把握される。これが場所の焦点化を経て「山田さんが手をzにつく(着く)という変化 Ev を所有した」という語彙概念構造に変換される。最終的には「山田さんがz に手をつ

く(着く)」という所有主体の他動詞文が生成される。


 次に所有他動詞のタイプの決定を保留にしておいた「席をかわる」について考える。そ の生成プロセスを(268)に示すが、これは(266)の「状態変化到達 S 型」の生成プロ セスを基本としながらも、その生成過程で所有者の移動の意味概念を派生させ、結果的に 2つの意味概念が合わさった形になる点でユニークである。


(268)では、ベースとなるLCSにおいて所有者と所有物の関係にある「山田さんの席」

が一体となっており、それが「pからqにかわる」ことを表している(図22①に該当する)。 これが所有者の出来構造化によって「山田さんいおいて........

、席が(pからqに)かわるとい う変化が発生した」と把握される(図22②に該当する)。これが場所の焦点化を経て「山 田さんが席を(pからqに)かわるという変化Evを所有した」という語彙概念構造に変 換される(図22③-aに該当する)。最終的には「山田さんが席を(qからqに)かわる」

という所有主体の他動詞文が生成される。


 (268)状態変化到達S型:「席をかわる」(両用動詞化)


 
 
 「山田さんは席を[ pからq ]かわる」


 
 
 1) 主語
 目的語xyを〈変化〉主語
 前置詞の目的語xyを〈移動〉


 
 
 



 
 
 2)( < x < y >> )
 
 
 ( < x Ploc-y > )


 
 
 +Ev= [xi MOVE Path-y FROM p TO q ] 〈移動〉


 
 
 3) 
 [ xi BECOME [ xi BE [ WITH-[ Ev BE AT-xi ]]]]
 
 〈変化Evの所有〉


 
 
 場所の焦点化
 
 
 



 
 
 
 [ BECOME [ Ev BE AT- x ]]
 Ev =[ y of x BECOME


 
 
 所有者の出来構造化
 
 
 
 [ y of x BE AT- DIFFERENT FROM p TO q]]


 
 
 
 [ y of x BECOME [ y of x BE AT- DIFFERENT-FROM p TO q]]
 〈変化〉


 
 
 「山田さん(x)の席(y)が [ pからq ] かわる」


 ここまでは他の状態変化到達S型と同じだが、「人が席をpからqにかわる」では、対 象(=所有物)の状態変化(=yがpである状態からqである状態に変化すること)から 所有者のpからqへの移動の意味概念が派生する。(268)では、[xi MOVE Path-y FROM

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