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展開(その3) :形態論的に見た所有主体の他動詞文

ドキュメント内 Microsoft Word - 修士論文(完成原稿).doc (ページ 124-131)

3
 理論の枠組み

3.2 
 BE と HAVE の関係

3.4.4 
 展開(その3) :形態論的に見た所有主体の他動詞文

「含む」の分析および4.1.3の「自発変化他動詞構文」の分析を参照)


 
 (157)変化過程T型


 
 
 1) 
 原因 主語
 目的語
 「(原因 、)xがyを〈変化〉」 
 
 
 原因表示は任意


 
 
 2)
 
 
 
 ( < x < y >> )


 
 
 3) 
 [ xi BECOME [ xi BE [ WITH-[ Ev BE AT-xi ]]]]
 〈変化Evの所有〉


 
 
 場所の焦点化


 
 
 [ BECOME [ Ev BE AT- x ]]
 
 
 Ev =[ y of x MOVE (TO- z)] 
 
 
 所有者の出来構造化


 
 
 [ event ] CAUSE 
 [ y of x MOVE (TO- z)]
 
 
 〈変化〉


 
 
 原因イベント
 
 
 下位事象のみがプロファイルされる


 最後に、変化過程型に分類される動詞を(158)に挙げておく。


 
 (158)変化過程型の他動詞


 
 
 a. 変化過程S型:「(水位が)増す」


 
 
 
 b. 変化過程T型98


 
 
 1)有情の主語と目的語が「全体と部分」の関係になっているもの


 
 
 ※発生型と共通点がある


 
 
 「(血・汗・涙を)流す」「(涙・愚痴を)こぼす」


 
 
 2)非情物の主語と目的語が「主体と側面」の関係になっているもの


 
 
 ※「自発変化他動詞構文」の「~める」動詞など


 
 
 「(スピードを)速める」「(勢い)を強める」など 
 
 
 「(相場が値を)上げる」

に、本論文がB〈自動詞の形態をもつ他動詞文〉と呼ぶもののうち、B−1〈有対自動詞 がヲ格をとる他動詞文〉とB−2〈両用動詞がヲ格をとる他動詞文〉はこれまで説明して 来た骨格の中におさまるのだが、B−3〈単他動詞がヲ格をとる他動詞文〉と呼んだもの、

つまり単他動詞と複他動詞の関係をもつものはここにおさまらない。どちらも統語上は他 動詞であるため、対応する非対格(自)動詞がないためである。まず形態論的な視点から B−1とB−2について本論文の理論的な枠組みを示し、次いでB−3と基本型とのつな がりを示す。

■両用動詞と有対自動詞の両用動詞化


 3.3.5の(134)に示したように、ヲ格をとる両用動詞はS型に見られる所有他動詞であ

る。T型には見られず、S型にのみ見られるということは、両用動詞の他動詞文は下位事 象しかもたない自動詞が[M2](場所の焦点化と所有者出来構造化)という動機付けによ って所有主体の他動詞文になったということである。下位事象のみで自他交替する場合は 形態上の対立をもたないことは、影山(1996、2002b)でも指摘されていることだが、認 知言語学的に見て、形態の変換を必要だと判断する要因を「事象間の距離

..

99に求めた場 合、「上位事象+下位事象」対「下位事象」では自他交替は形態の対立を引き起こし、下位 事象のみで自他交替する場合は形態の対立を引き起こさないと考えることができる。


 
 (159)a. 下位事象
 
 
 →
 
 上位事象+下位事象
 [他動詞化]


 
 
 ・燃える
 
 
 ・燃やす 
 
 
 ・続く
 
 
 ・続ける


 
 
 b. 上位事象+下位事象
 →
 
 下位事象
 
 
 [自動詞化]


 
 
 ・決める
 
 
 ・決まる 
 
 
 ・切る
 
 
 ・切れる


 
 
 c. 下位事象
 
 
 →
 
 下位事象
 
 
 [所有他動詞化]


 
 
 ・噴く
 
 
 ・噴く 
 
 
 ・増す
 
 
 ・増す


 両用動詞を(159c)のように位置づけた場合、有対自動詞でヲ格をとる他動詞は「両用 動詞化」と呼ぶべき変化が起きたと考えることができる。有対自動詞が形態上、対になる

他動詞を持っていながら、ヲ格目的語を伴って使われることを、(159)の延長で(160a, b) のような対応にあると考えれば、これを「有対自動詞の両用動詞化」と呼ぶことには十分 根拠のあることだと考える。


 
 (160)a. 下位事象
 
 
 →
 
 上位事象+下位事象
 [他動詞化]100 
 
 
 ・垂れる
 
 
 ・(ヲ)垂らす


 
 
 両用動詞化
 
 
 下位事象
 
 
 [所有他動詞化]


 
 
 ・(ヲ)垂れる
 
 



 
 
 下位事象
 
 
 →
 
 上位事象+下位事象
 [他動詞化]101 
 
 
 ・開く
 
 
 ・(ヲ)開ける


 
 
 両用動詞化
 
 
 下位事象
 
 
 [所有他動詞化]


 
 
 ・(ヲ)開く
 
 
 



 
 
 b. 上位事象+下位事象
 →
 
 下位事象
 
 
 [自動詞化]102 
 
 
 ・(ヲ)終える
 
 
 ・終わる


 
 
 下位事象
 
 
 
 両用動詞化
 
 
 [所有他動詞化]


 
 
 ・(ヲ)終わる
 
 
 



 
 
 c. 下位事象
 
 
 →
 
 下位事象
 
 
 [所有他動詞化]


 
 
 ・噴く
 
 
 ・(ヲ)噴く
 
 
 
 両用動詞


 
 
 ・増す
 
 
 ・(ヲ)増す
 
 
 
 両用動詞

■単他動詞と複他動詞の3つのタイプ


 単他動詞と複他動詞の関係として、最初に(161)に示した「教える」「預ける」のグル ープを見る。これらの3項述語の場合は、抽象的なモノか具体的なモノかの違いはあるが、

「xがyをzにV」で「モノ(y)のzへの移動」と「zにおけるyの存在」という意味概 念をもつ。


 
 (161)a. 木村先生が山田さんに英語を教えた。


 
 
 b. 友達が山田さんに鍵を預けた。


 つまり、「教える」「預ける」という3項述語の語彙概念構造の下位事象は、所有主体の 他動詞文の基本型(162)と同じ〈移動+存在〉の意味構造をもっているのである(163b)。 そうすると、形態的に対となる2項述語「教わる」「預かる」が〈存在〉の所有主体の他動 詞文を作ることが理解できる。


 
 (162)基本型(T型)の「持つ」の語彙概念構造
 (=130) 
 
 
 [ event ] 
 CAUSE
 [ y BECOME [ y BE AT-z ]]



 
 
 |
 
 
 |
 
 
 |


 
 
 yが移動して yが
 
 zに〈ある〉


 
 (163)a. 「教える」「預ける」の語彙概念構造


 
 
 [ x ACT (ON y) ] CAUSE [ y BECOME [ y BE AT-z ]]



 
 
 |
 
 
 |
 
 
 |


 
 
 木村先生が
 
 
 英語を
 山田さんに
 教える 
 
 
 友達が
 
 
 鍵を
 
 山田さん
 
 預ける


 
 
 b. 「教える」「預ける」の下位事象について


 
 
 [ x ACT (ON y) ] CAUSE [ y BECOME [ y BE AT-z ]]



 
 
 |
 
 
 |
 
 
 |


 
 
 yが移動して yが
 
 zに〈ある〉


 このように考えた場合、「教える」「預ける」と「教わる」「預かる」がともにヲ格の目的 語をとるといっても、異なるタイプの他動詞であることがわかる。前者が通常の使役変化 を表す他動詞で、後者は所有他動詞である。


 次に「着る」「かぶる」を考える。この動詞は2項述語の単他動詞で、形態的に対をなす

「着せる」「かぶせる」という3項述語の複他動詞をもつ。「着る」「かぶる」も「持つ」と の共通点がある。それは自分自身を着点として指定してモノが移動する「再帰他動詞」と

いうことである。「持つ」と同じ意味概念をもつのならば、「着る」「かぶる」も使役変化動 詞としての意味概念(164a)と所有他動詞としての意味概念(164b)の両方を持っている と考えるのは十分根拠のあることである。つまり、着点が語彙的に自分自身に指定されて いるだけで、下位事象には〈移動+存在〉の意味概念をもち、そこから所有主体の他動詞 文が生成されるわけである。


 
 (164)a. 山田さんはセーターを着るのに1時間かかった。


 
 
 b. 山田さんは(いま)赤いセーターを着ている。


 
 
 c. 山田さんは自分の家を持つのに10年かかった。


 
 
 d. 山田さんは(いま)立派な家を持っている。


 このように考えれば、「着る」対「着せる」、「かぶる」対「かぶせる」は、「預かる」対

「預ける」と同様に、どちらもヲ格目的語をとるものの、前者は所有他動詞であり、後者 は使役変化を表す他動詞だと見ることができる。


 次に、「含む」と「含める」を取り上げる。従来の研究ではこれを単他動詞と複他動詞と することはなかったようだが、「含む」が下位事象に〈移動+存在〉の意味概念をもち、〈存 在〉の所有主体の他動詞文を作るとなれば、「含む」と「含める」のペアもまた所有他動詞 と使役変化を表す他動詞だと見ることができる。実際にそうであることを「含む」の動詞

分析(4.1.1)で示す。


 以上、大雑把ではあるが、単他動詞と複他動詞の関係が実は所有他動詞と使役変化の他 動詞という対立として捉えることができることを示した。具体的にこれらの3つのタイプ の動詞がどのような原理によって自他の形態の対立を生むのかについては4.2.3 で明らか にする。

■3項述語と所有主体の他動詞文のもう1つのつながり


 「教える」「預ける」はモノの移動先は人であるが、3項述語には移動先が場所の場合も ある。位置変化の使役動詞は多いが、その中で所有主体の他動詞文とのつながりが窺える 動詞がある。(165b)(166b)の構文は、モノの移動先(場所)が主語になっている点が重 要である。もし移動するモノが主語であれば、(165c)(166c)のように自他交替をするか 受身文が用いられることになる。本論文では(165b)(166b)も所有主体の他動詞文であ

ると考え、4.2.3で具体的に論じる。


 
 (165)a. 作業員がトラックに荷物を積んだ/載せた。


 
 
 
 b. (その)トラックは(荷台に)荷物を積んでいる/載せている。


 
 
 c. 荷物がトラック(の荷台)に積まれている。


 
 (166)a. 花子は鞄にかわいいネコのマスコットを付けた/下げた。


 
 
 b. 花子の鞄はかわいいネコのマスコットを付けている/下げている。


 
 
 c. かわいいネコのマスコットが花子の鞄に付いている/下がっている。


 
 
 付けられている/下げられている。


 なお、影山(1996)は、所有をあらわす「た」(形容詞的「た」)に関する記述において、

「~た名詞」は語彙概念構造のBEの主語でもAT-zの部分でも叙述できることを指摘し ている(同書:130-134)。これは所有主体の他動詞文が連体修飾節となる場合、被修飾名 詞が動詞の語彙概念構造にあった「対象」でも「場所」でも成立することを意味している。

影山のあげた例文のうち、ここで取り上げた3項述語と所有主体の他動詞文の関係になっ ていると考えられるものには次のような文がある。


 
 (167)影山(1986:132
 =(87b))より 
 
 
 a. 犯人を載せた護送車


 
 
 b. 花を飾った玄関

3.4.5
 〈所有主体の他動詞文〉の全体像のまとめ


 最後に全体像のまとめとして、第1節で示した3つの疑問とそれを解くカギとなる所有 主体の他動詞文の型とのつながりを示す。Aが所有主体の他動詞文の骨格をなし、それを 形態論的な視点でみた場合にBの切り口が生まれる。CはAの拡張だと位置づけられる。

なお、A~C〈
 〉の名称は所有主体の他動詞文の分類に使う呼称で、【
 】の名称は、所 有主体の他動詞文の各タイプの名称として本論文で使用する呼称である。また、所有主体 の他動詞文を作る他動詞はこれまでどおり「所有他動詞」と呼ぶが、そのタイプを明示す る場合には、「〈存在〉の所有他動詞」のように呼ぶことにする。

ドキュメント内 Microsoft Word - 修士論文(完成原稿).doc (ページ 124-131)