4 動詞と構文の分析
4.2 B 自動詞の形態をもつ他動詞文
4.2.1 両用動詞の位置づけ
ここで「両用動詞」として扱うのは、第2節の先行研究で、森田(1990 ※1994所収:
239-240)の「自他両文型が同じ表現的意味のグループ」で、後に森田(2000)が格支配 の観点から(「自他同形..
動詞」と区別して)「自他両用動詞」と呼んだものにほぼ対応する。
単に自動詞の用法と他動詞の用法の構文で同じ形態の動詞が使われるだけでなく、自他動 詞の交替における形態上の対応を認定するのと同様に(奥津1967など)、自動詞と他動詞 で主客が交替するものを両用動詞として扱う121。
■両用動詞と所有主体の他動詞文のつながり
第2節では森田(1990)の「自他両文型が同じ表現的意味のグループ」を次のように分 類した。(※ここでは例文に連番を振ってある)
(254)両用動詞の意味による分類
① 所有(2つの名詞の関係)を表す
(1) (仕事が)危険を伴う/(仕事に)危険が伴う ② 発生・消失を表す
(2) (人が)迷いを去る/(人から)迷いが去る
(3) (噴水が)水を噴き上げる/(噴水から)水が噴き上げる
(4) (金属板が)緑青を噴く/(金属板[の表面]に)緑青が噴く
(5) (火山が)火を噴き出す/(火山から)火が噴き出す
(6) (木が)実を結ぶ/(木に)実が結ぶ (7) (人が)眠気を催す/(人に)眠気が催す
③ 非意図的で、再帰的な事象を表す
(8) (人が[地面に])手を着く/([地面に]人の)手が着く (9) (人が)目を閉じる/(人の)目が閉じる
(10) (花が)蕾を開く/(花の)蕾が開く (11) (潮が)渦を巻く/(潮の)渦が巻く (12) (川が)水を増す/(川の)水が増す ④ 授受を表す
(13)「(人が)子供を授かる/(人に)子供が授かる
分析に進む前に、(254)の例文の中で他と事情が異なるものを複数あるので、それを確 認しておく。まず(13)の「~ガ/ヲ授かる」は「~ヲ授ける」という形態的に対応する他 動詞が存在し、物の授受の場合は3項述語の「~ガ~ニ~ヲ授ける」に対して2項述語の
「~ガ~ヲ授かる」が対応している。これは「教える・教わる」「預ける・預かる」と同じ であり、本論文の分類ではB−3〈単他動詞がヲ格をとる他動詞文〉に該当する。ただ、
この「授かる」が特殊なのは、「子供を授かる」という意味では「子供が授かる」のように ガ格も使われる点である。この意味では通常「授ける」という他動詞は使われないので、
この意味の対応のみ考えれば、「授かる」は両用動詞だと言える。しかし、ここでは「ヲ授 ける」対「ヲ授かる」が基本で、「ガ授かる」はその「ヲ授かる」から派生した自動詞の用 法とみて、両用動詞としては扱わないことにする。これについては 4.2.3 で改めて取り上 げる。
(8)の「着く」は、表記の問題があるが、ここでは「付く」も「着く」も併せて「つく」
と考え、「床に手がつく」は「床に手をつける」という使役変化動詞もあると考える。そう すると、「手をつける」「手がつく」「手をつく」の対応関係が認められるので、両用動詞で はなく〈有対自動詞がヲ格をとる他動詞文〉に分類し、4.2.2 で取り上げる。(9)の「閉じ る」も形態的に対応する「閉ざす」という他動詞が存在し「口を閉ざす」「口が閉じる」「口 を閉じる」の対応関係があるように見える。「閉ざす」は「閉じる」の意味に対応する部分 もあるが、元々両用動詞として存在していた「閉じる」にはない意味を表すために近世以 降に使われるようになったと考えられる122。そこで「閉じる」は〈有対自動詞がヲ格をと
る他動詞文〉ではなく両用動詞として扱うことにする。
やや事情が異なる例として、最後に(3)「~ガ/ヲ噴き上げる」と(5)「~ガ/ヲ噴き出す」
を見ておく。この2つは「噴く」だけに注目すれば、通常の両用動詞と同じであるが、後 項動詞の「上げる」「出す」に注目すると、「~ガ噴き上がる」「~ガ噴き出る」という自動 詞が存在する。「噴き上げる」と「噴き出す」にはそれぞれ「ふく」に「吹く」の漢字を当 てる「風が砂を吹き上げる」「太郎が煙草の煙を(口から)吹き出す」のように「何かを吹 いて、それを上げる/出す」のように分解できる使役他動詞の用法がある。ここで両用動 詞として扱う「噴き上げる」「噴き出す」はこれらとは異なり、「中から外へ勢いよく出る」
という自発的な事象を表す場合で、「ふく」は通常「噴く」の漢字が当てられる。(※ただ し「芽をふく」の場合は「吹く」が当てられる) 「出す」についてはすでに4.1.2 で分 析し、使役変化動詞とは別に、所有他動詞(※影山1996の「非対格他動詞」)があること を示したが、「上げる」も同様に考えることができる。そうすると、「噴き上げる」「噴き出 す」は全体で非対格構造をもつ自動詞になっていると見なすことができる。影山(2002b)
でも同類の「湧き出す」「しみ出す」について次のように分析しているが、本論文でもこれ を支持する。
(255)影山(2002b:139)
「しみ出す」などの「出す」は非対格他動詞で、(71)の語彙概念構造(※引
用者注:「芽が出る」の場所項が焦点化されて「芽を出す」となった場合の構 造のことを指している)を持つものの、形態的には自立性を失って、複合動詞 のV2にしか現れない拘束形式になっている。
このように考えた場合、「~ヲ噴き上げる」「~ヲ噴き出す」は「~ヲ噴く」と同様に扱 うことができることになる。つまり、「~ガ噴き上がる」「~ガ噴き出る」を元にして生ま れた複合動詞だとは考えず、「~ガ噴き上げる」「~ガ噴き出す」を元にして生まれたと考 え、両用動詞に分類しておく123。以上、特殊な事情をもつ両用動詞を確認したが、これら を踏まえて、所有主体の他動詞文の分類(型)と両用動詞の他動詞文の対応を(256)に まとめる。(両用動詞はS型にしか現れないので、S型のみ示しておく)
(256)所有主体の他動詞文の分類(S型)と両用動詞の対応 A〈自動詞的な他動詞文〉
⑴ 基本型:〈存在〉の所有主体の他動詞文・・・・・・・・・・(254①)
・基本S型:(1)伴う
⑵ 発生型:〈発生・消失〉の所有主体他動詞文・・・・・・・・(254②)
・発生S型:(2)去る、(3)噴き上げる、(4)(緑青を)噴く、
(5)噴き出す、(6)(実を)結ぶ、(7)(眠気を)催す ⑶ 変化型:〈変化〉の所有主体の他動詞文・・・・・・・・・・(254③)
・変化到達S型:(9)閉じる、(10)(蕾を)開く ※(8)(手を)着く ・変化過程S型:(11)巻く、(12)増す
※(8)「着く」は、B−1〈有対自動詞がヲ格をとる他動詞文〉で分析する。
この分類からわかることは、両用動詞は、所有主体の他動詞文の形態的な分類ではB〈自 動詞の形態をもつ他動詞文〉に入るが、意味的に分類したA〈自動詞的な他動詞〉の観点 から見ると、A⑴~A⑶のすべてにわたって存在するということである。
■両用動詞の位置づけ
両用動詞がこのように所有主体の他動詞文の全般にわたって存在することは何を意味し ているだろうか。自動詞と他動詞が同形で、自他交替に形態の変化が伴わないというのは、
所有主体の他動詞の生成プロセスの基本である。ここで基本というのは、所有主体の他動 詞文の型の二分類、S型とT型のうちS型に現れることを意味している。本論文では、S 型とT型の動詞の形態を次のように規定した。
(257)〈所有主体の他動詞文〉の動詞の形態に関する規則 (=134)
a. S型(=自動詞の概念構造から直接生成される)の場合は、固有の他動詞の
形態をもつ。
ただし、自動詞と同じ形態のまま使われるようになった動詞もある。
(つまり自他同形の「両用動詞」は原則としてS型の場合に現れる。)
b. T 型(=使役変化の概念構造をベースに、下位事象がプロファイルされて
生成される)の場合は、使役変化動詞と同じ形態をもつ。
(257)に示したように、両用動詞はS型に現れている。S型というのは下位事象のみ のLCSで事象の把握を反映した「場所の焦点化」(型によっては「所有者の出来構造化」
も伴う)によって所有主体の他動詞文が生成される型である。つまり、両用動詞は所有主 体の他動詞文の根幹をなす動詞グループだと結論づけられる。
森田(1990)は、自他両用動詞は主に他動詞の意味が自動詞に接近し、自他異形のペア がない場合に生まれると考えているが(同書:237)、本論文が扱う所有他動詞の観点から 見れば、これらの自他動詞は自動詞から他動詞への転換であり、その他動詞は使役変化動 詞ではなく、自動詞の語彙概念構造内での変換によって生成される所有他動詞だと結論づ けられる。
ここで注意しておきたいことは、(254)に上げた動詞リストには「閉じる」「開く」の ように自他の対応が動作主をとる使役変化動詞と非対格自動詞の関係になっている(「人が 扉を閉じる/扉が閉じる」「人が戸を開く/戸が開く」など)ものがあるが、本論文ではこ れらの動詞も(254)に挙げたように、元々は自動詞の用法に対応する所有他動詞(非意 図的な再帰的他動詞)が、意味の拡張(語彙概念構造における拡張)を起こしたと考える。
また、「結ぶ」「催す」「巻く」のよう使役変化動詞または働きかけの他動詞の一部の意味(再 帰的用法)において両用動詞の関係が成立しているものがあるが、これらについても、他 動詞の意味が自動詞に接近したと考えるのではなく、自動詞としての意味(「目が閉じる」
「実が結ぶ」「眠気が催す」「渦が巻く」)に対応して所有主体の他動詞文が生成されたとみ る。このように森田(1990)では「自他異形のペアがない」ことが所与のこととして扱わ れているが、考え方は反対でなければならない。つまりどのような要因で異形のペアを生 むことなく自他が交替しうるのかという疑問に答えなければならないだろう。
■なぜ自他交替に形態の変化が伴わないのか
理論の枠組み(3.4.4)で「事象間の距離」という視点を提示したが、それについてここ で具体的に論じることにする。ここでいう事象とは動詞の語彙概念構造における上位事象 と下位事象のことを指す。そして距離とは認知言語学的な視点からみた事象間の心理的な 距離のことである。
影山(1996、2002b)では、使役変化動詞の語彙概念構造に示された上位事象と下位事
象のあわさった全体が、語彙的に1つの動詞が表し得る最大の意味構造であるとした。