3 理論の枠組み
3.2 BE と HAVE の関係
3.4.3 展開(その2) : 〈変化〉の所有他動詞
3.4.2でも少し触れたが、語彙概念構造における変換という点では、「発生1型」は「基
本型」と近く、「発生2型」はイベント(Ev)を所有しているという意味概念を持つ点で、
ここで取り上げる「変化型」に近い。つまり、その生成プロセスの流れは、発生2型で示 したものと同じで、「所有者の出来構造化」と「場所の焦点化」を経て、所有主体の他動詞 文が生成される。この場合の〈所有〉は、変化のイベントなので〈変化Evの所有〉と呼 ぶことにする。最初に発生2型と類似する「変化到達」事象から所有主体の他動詞文が生 成されるプロセスを見てみる。
■変化到達型(T型)
変化到達型のT型を(154)に示す。生成されるプロセスの流れは「発生2」と同じだ が、変化到達の事象の場合、変項のzは変化後の状態を表し、場所の項ではないという点 で異なる。変化事象の出来する場として、場所に見立てられた所有者(x)が焦点化され、
他動詞文の主語になる。
たとえば、初心者の山田さんがスキーをしていて、転んで足の骨を折った場合、ここに はまず変化の事象として「山田さん(x)の骨(y)が折れた」という把握の仕方がある。
また、それとは別に因果関係がベースに読み込まれ「山田さんが転んだことが、山田さん
(x)の骨(y)を折った...
」という事態の把握の仕方がある。これが(154)-3)下段の語
彙概念構造である。全体として.....
「折る」の語彙概念構造をベースにして、プロファイルさ れた下位事象が所有者の出来構造化(「山田さん....
(. x.
).
において....
、山田さん(x)の骨(y) を折るというEvが発生する」という把握)と場所の焦点化(「山田さん(x)は、山田さ ん(x)の骨(y)を折るというEvの発生を所有する」という把握)を経て「折る」の所 有主体の他動詞文(「山田さん(x)は骨(y)を折る」)が生成されるのである。
(154)変化到達型(T型)
(=非意図的な再帰の他動詞文)
1)統語構造 2)項構造 3)語彙概念構造
1) 原因 主語 目的語 「原因 、xがyを〈変化〉」 原因表示は義務的
2) ( < x < y >> )
3) [ xi BECOME [ xi BE [ WITH-[ Ev BE AT-xi ]]]] 〈変化Evの所有〉
場所の焦点化
[ BECOME [ Ev BE AT- x ]] Ev =[ y of x BECOME [ y of x BE AT- z]]
所有者の出来構造化
[ event ] CAUSE [ y of x BECOME [ y of x BE AT- z]] 〈変化〉
原因イベント 下位事象のみがプロファイルされる
「状態変化」の場合はベースにあった原因イベントの統語上への表示が強く求められる
(3.3.6(137)を参照)。文脈において明示または暗示しなければ、所有主体の他動詞文と
しての解釈が確実にならないため、通常は「山田さんスキーで転んで、骨を折った」と表 現される。つまり、「山田さんは骨を折った」だけでは、「折る」の通常の使役変化動詞の 解釈(「他人の骨を折る」または「意図的に自身の骨を折る」という解釈)が排除できない ため、原因イベントの統語上への表示が義務的になるというわけである。ただし、この義 務的にというものにも段階性が認められ、自分自身が原因にかかわっている場合は、語用 論的に再帰の解釈が優先され、原因の表示がなくても解釈に混乱を引き起こさない場合が 多い。一方、原因に自分自身がかかわっていない場合は、原因の表示が文字通り義務的に なると考えられる。これについては次節の構文分析の「状態変化主体の他動詞文」(天野
1987b)のところ(4.1.4)で詳しく論じる。
なお、変化到達型はここで取り上げたT型になるのが普通で、S型はやや特殊なタイプ である。これは「有対自動詞の両用動詞化」とかかわるタイプで、理論の枠組みの 3.4.4 と構文の分析4.2.2で取り上げる。最後に、変化到達型に分類される動詞を(155)に挙げ ておく。(※変化到達S型については、3.4.4と4.2.2で取り上げる)
(155)変化到達型の他動詞
変化到達T型:「(骨を)折る」「(指を)切る」「(家を)焼く」
「(肉刺を)つぶす」など
■変化過程型
次に「変化過程」の事象から生成されるプロセスを見てみる。「変化過程」は限界性を持 たない事象に対応している。変化到達が語彙概念構造でBECOMEという意味述語で表示 されたのに対して、変化過程はMOVEという意味述語で表示される(3.1.1を参照)。場 所の焦点化および所有者の出来構造化などの生成プロセスをもつことは共通している。な お、変化過程の事象には「位置変化」と「状態変化」があるが、どちらも限界性をもたな い点で共通しているため意味述語はMOVEを用いる。細かくみれば「位置変化過程S型
/T型」と「状態変化過程S型/T型」の合計4つの型があることになるが、実際にはメ タファーの問題もからみ、位置変化と状態変化の2つがはっきりと区別されるわけではな い。さらにこの型に分類される動詞は数が少ないこともあり、位置変化と状態変化は区別 せずに「変化過程S型」と「変化過程T型」の生成プロセスを示す。
■変化過程S型
(156)では、例えば「雨が降り続いて川の水位が上昇する」という事象の場合、これ はまず「川(x)の水(y)が増す」という変化事象として捉えられる。この事象を「川.
(. x.
). において
....
水(y)が増すというイベントが発生した」と捉えるのが「所有者の出来構造化」
である。そして場所の焦点化によって川を主語にした「川(x)が水(y)を増す」という 所有主体の他動詞文が生成されるのである。S型の所有他動詞は、動詞の形態に関する規
定(3.3.5(134a))に示したように、固有の形態か自動詞と同じ形態をもつ。変化過程型
ではそれに該当する動詞は「増す」だけのようである。
(156)変化過程S型
1) 主語 目的語 「xがyを〈変化〉」
2) ( < x < y >> )
3)[ xi BECOME [ xi BE [ WITH-[ Ev BE AT-xi ]]]] 〈変化Evの所有〉
場所の焦点化
[ BECOME [ Ev BE AT- x ]] Ev = [ y of x MOVE (TO- z)]
所有者の出来構造化 [ y of x MOVE (TO- z)]97 〈変化〉
■変化過程T型
(157)では、例えば「山田さんの額が切れて出血した」という事象の場合、ここには まず変化の事象として「山田さん(x)の額から血(y)が流れた」という事態の把握の仕 方がある。これとは別に因果関係がベースに読み込まれ「額が切れたことが、山田さん(x)
の額から血(y)が流れることを引き起こした」、つまり「額が切れたことが、山田さんの 額から血を流した
...」という事態の把握の仕方がある。これが(157)-3)下段の語彙概念 構造である。全体として.....
「流す」の語彙概念構造をベースにして、プロファイルされた下 位事象が所有者の出来構造化(「山.
田さん...
(. x.
).
において....
、山田さんの額から血(y)を流 すというEvが発生する」という把握)と場所の焦点化(「山田さん(x)は、山田さんの 額から血(y)を流すというEvの発生を所有する」という把握)を経て「流す」の所有主 体の他動詞文(「山田さんは額から血を流した」)が生成されるのである。
この変化過程T 型に属する所有他動詞については、上に挙げた「(血を)流す」のよう に人について「全体(x)と部分(y)」の関係にあるものは数が少ないが、非情物が主語 になり「主体(x)と側面(y)」の関係にあるものは比較的数が多い。前者は発生型と共 通する部分があり、主語名詞は発生物の「起点」として捉えられる。また、後者は杉岡(2002) が示した「自発変化他動詞構文」の「~める」という形態をもつ動詞に該当する。いずれ にしてもこの変化過程T型に属する所有他動詞は、基本的に下に示したようにT型の生成 プロセスをもつのだが、他のT型と多少異なる面がある。本論文ではS型とT型を基本 とした上で、後の議論で変種としてST型というのを設定する。(これについては4.1.1の
「含む」の分析および4.1.3の「自発変化他動詞構文」の分析を参照)
(157)変化過程T型
1) 原因 主語 目的語 「(原因 、)xがyを〈変化〉」 原因表示は任意
2) ( < x < y >> )
3) [ xi BECOME [ xi BE [ WITH-[ Ev BE AT-xi ]]]] 〈変化Evの所有〉
場所の焦点化
[ BECOME [ Ev BE AT- x ]] Ev =[ y of x MOVE (TO- z)] 所有者の出来構造化
[ event ] CAUSE [ y of x MOVE (TO- z)] 〈変化〉
原因イベント 下位事象のみがプロファイルされる
最後に、変化過程型に分類される動詞を(158)に挙げておく。
(158)変化過程型の他動詞
a. 変化過程S型:「(水位が)増す」
b. 変化過程T型98:
1)有情の主語と目的語が「全体と部分」の関係になっているもの
※発生型と共通点がある
「(血・汗・涙を)流す」「(涙・愚痴を)こぼす」
2)非情物の主語と目的語が「主体と側面」の関係になっているもの
※「自発変化他動詞構文」の「~める」動詞など
「(スピードを)速める」「(勢い)を強める」など 「(相場が値を)上げる」