第二章 ドイツ法
四 BGB 施行後
与されるにすぎないので、形式要件は、贈与者に重大な費用負担があること、贈与の目的が妨 げられる等の批判があり、否決されている(362)。
このような議論を受けて、委員会においては、負担付贈与は、「負担付贈与の場合、贈与者は 贈与の履行後に負担の実行を請求することができ、負担が第三者の利益のためになされた場合 は、412条〜416条の規定に従う」とし、そして「負担の実行が公益のためになされる場合、贈 与者の死亡後、所轄官庁が負担の実行を請求できる。各州において規則がない場合、ラント法 の規定に従う」と決議された。その後、EⅠ-VorlZust437条、EⅠ-ZustRedKom437 条にて 若干の修正を受けて(363)、第二草案472 条として提出されたのちにBGB525 条として条文化さ れた(364)。
約であり、また、無償性について合意のある債権契約と位置付けられ(366)、物の無償移転を規律 し正当化するものと理解されている(367)。そして、贈与の概念については、基本書やコンメンタ ールにおいて以下のように解説されている。
Manselは、贈与は、贈与者の財産から受贈者への財産的利得を伴う無償の出捐であると理解
されるとする(368)。
Föster(369)は、贈与は、財物を終局的に移転する方法であるとし、いずれの者が、他者を利得
させる出捐は、その出捐が無償で行われることに両当事者が同意する場合にのみ贈与となると する。したがって、財産譲渡は、反対給付がなく行われ、例えば、売買、請負、雇用契約の場 合と異なり、法的に定義された贈与は、関係する当事者の義務に焦点を当てるのではなく、片 務契約として取り扱われるという。そして、贈与者だけが何かを受贈者に出捐することを約束 するのであり、この義務は実際の出捐によって実現され、法律において二種の贈与を区別して いるという(現実贈与と贈与約束)。
Looschelders(370)は、贈与は、いずれの者が自己の財産から他人を利得させることによる出捐
を扱うものであるとし、贈与の決定的な要因は、受贈者の財産増加、利得であり、それにより 贈与者の自己の財産が減少しなければならないことであるとする。
Medicus/Lorenz(371)は、BGB516条については、贈与者が何をしなければいけないかについて は言及した条文ではなく、単に出捐が贈与となる条件を示しているにすぎないとし、これを現 実贈与であると説明する。それに対してBGB518条は方式を要する贈与約束であると理解され るという。さらに Medicus/Lorenz(372)は、ほとんどの贈与は、贈与約束をせずに行われる一方 で、経済的に重要な贈与は、しばしば、公証人により記録され、行われるとする。例えば、贈 与者が財産を与える場合、それは通常、両親から子供へ、または孫へと移転を進めようとする ことを意図しているものが多いとされ、そのような場合における財産の移転には、しばしば、
受贈者に制限や負担を課すことが多いという。これらの贈与において、変更等が生じた場合を 記録するために公証人による贈与約束は定期的に有用であるとする。
その他、Hirsch(373)は、贈与は双務契約ではなく、片務契約であるとする。なぜなら、贈与者 のみが出捐の義務を負い、受贈者には何ら義務がないからであるとし、このようなことから、
(366)Münchener Kommentar/Koch,7.Aufl.,a.a.O.(Fn.365),§516 Rn.1ff. Plandt
Kommentar/Weidenkaff,76.Aufl.,a.a.O.(Fn.365),§516 Rn.1ff.
(367)Pruskowski,a.a.O.(Fn.296),S.116.
(368)Jauernig Kommentar/Heinz-Peter Mansel,BGB,16.Aufl.2015,§516 Rn.1ff.
(369)Christian Föster,Schuldrecht Besonderer Teil,2012,S.83.
(370)Dirk Looschelders,Schuldrecht Besonderer Teil,2013,S.110f.
(371)Dieter Medicus/Stephan Lorenz,SchuldrechtⅡBesonderer Teil,2010,S.136f.
(372)Medicus/Lorenz,a.a.O.(Fn.371),S.137.
(373)Christoph Hirsch,Schuldrecht Besonderer Teil,2018,S.131f.
贈与は、無償契約と位置付けられるという。
2 贈与の要件
① 贈与者の出捐と受贈者の利得
BGB516 条における贈与者の出捐と受贈者の利得については、出捐は、贈与者の財産から行
われなければならず、現在の財産状態が減少することで、相手方が利得することであると理解 されている(374)。一般的に、財産増加があるか否かは、経済的な観点、現実の価値によって判断 されるという。贈与者の出捐と受贈者の利得については、基本書、コンメンタールにおいて以 下のように解説されている。
Föster は、贈与において、客観的に出捐から生じるのは、受贈者が、何らかの形で財産が増
加するという利得と、贈与者の財産が減少することであるという(375)。Medicus/Lorenz(376)も、
贈与は、贈与者の財産から出捐が行われ、これにより受贈者が利得することであるとする。し たがって、贈与には、贈与者の財産を減少させ、それに応じて受贈者の財産を増加させる出捐 が必要であるとし、贈与の対象は、財産の利得に過ぎないという。
Larenz(377)は、BGB516条については、贈与は、ある者の財産により他者が利得することであ
り、出捐が無償で行われることに両当事者が合意する場合であるとする。この出捐は、他人に 財産的利得を与えることを目的とする行為であり、そのような出捐は、贈与者の財産から、す なわち財産の実体から生じる出捐が、贈与とみなされるとする。したがって、従業員が、収入 を減らして、勤務上の利益やあらゆる種類の時間、労力の支出は、除外されるという。
Kochは、贈与者の出捐と受贈者の利得について以下のように詳細に述べている(378)。 贈与者の財産の喪失から、受贈者に利得が生じなければならないとし、これは、贈与の前後 において、経済的観点によって決定される利得の客観的な増加と理解されるべきであり、主観 的な利得の意思は必要ないので、贈与者は利己的な動機のために行動することもできるとする。
例えば、贈与者自身の利得を最終的に図るという目的があっても良いという。
さらに、Kochは、受贈者は出捐によって実質的に利得していなければならないとして、受贈 者の財産が形式的にのみ増加していても不十分であるという。贈与における利得は、受贈者が 出捐から利得を受けることに個人的な関心を持っている場合にのみ想定されるものであるとす る。例えば、信託において、受託者が自己の名で権利を行使することを認めておらず、彼自身
(374)Hans Brox/Wolf-Dietrich Walker,Besonders
Schuldrecht,2013,S.145f.Pruskowski,a.a.O.(Fn.296),S.116ff.
(375)Föster,a.a.O.(Fn.369),S.83.
(376)Medicus/Lorenz,a.a.O.(Fn.371),S.137f.
(377)Karl Larenz,Lehrbuch des Schuldrechts,1986,S.196f.
(378)Münchener Kommentar/Koch,7.Aufl.,a.a.O.(Fn.365),§516 Rn.11ff.
が自己の利益のために一時的な使用を許可されていない信託管理の場合の移転においては特に 利得が欠けていると説明している。そして、これは特に、出捐の受取人が出捐の対象物を自ら 使用せず、第三者に転送するための中間者として受け取る場合も含まれるとし、そのような非 営利の管理、とりわけ、ある者が特定の慈善目的や理想的な目的のために使用されなければな らない金銭の出捐が寄付や、募金として受け取れられた場合にもこれは該当すると述べている。
このように、給付受領者が単に中間者として出捐を誰かに渡す場合等は、委任としての分類や 信託行為による取引が問題となるという。この点につき、Mansel(379)も、出捐は財産的な利得の 提供であると理解されており、出捐の対象は、受贈者の財産が増加することであるとし、また、
この出捐は、贈与者の現に存在する財産の減少であると理解する。そして、受贈者の利得につ いては、受贈者が単に中間者であり、信託行為または慈善目的で募金する等の寄付において、
出捐の受領者は自ら使用するわけではなく、受け取ったものを返還あるいは移転する必要があ る場合等は、それは利得ではないとし、Kochと同様に理解している。
ただし、Koch は募金が法人の設立のために作成され、例えば、財団目的(定款)に従って使用 される場合、別であるとする。この場合、法的目的を促進するという実質的な利得は、出捐の 受取人にとって利得であると指摘している。その他、本人にとっての利益に役立つか少なくと も一時的な使用の形で一時的な利得を持っている場合、例えば、認定された慈善団体、権利能 力がある財団への寄付は、出捐が法的目的(定款)のために明示的にまたは暗示的に意図されてい る場合、負担付贈与としてみなすことができるとする。この点についてもManselはKochと同 様に指摘している。加えて、Larenz(380)もKoch、Manselと同様に指摘する。Larenzは、出捐 は、他者を利得させるものでなければならず、つまり、他者の財産を増加させる必要があると する。そこでいう財産は経済的な意味で理解されるべきであり、したがって、Aは Bの債務を 免除あるいは承継すること等の債務の削減も利得となる可能性があるという。しかし、信託行 為による譲渡等は、これは単に別の権利を強化するものであり、新しい財産価値を与えること を目的としていないから利得ではないとする。また、信託財産は、経済的に法的には少なくと も最終的にも受託者の財産に向けられるものではないと説明している。
その他、Pruskowski(381)は、単純な受贈者の財産増加だけではなく、受贈者の負債を減らす事 等で財産増加とすることもできるとし、債権の免除、債務の権利放棄または弁済は、財産状態 の改善をもたらす可能性があるという。しかし、贈与における給付は、財産の利益へ向けられ るという前提があり、贈与者は自己の財産から他人を利得させなければならず、受贈者の利得 は、贈与者の被った損失の反対側に位置付けられるものでなければならないとする。さらに、
(379)Jauernig Kommentar/Mansel,16.Aufl.,a.a.O.(Fn.368),§516 Rn.7.
(380)Larenz,a.a.O.(Fn.377),S.198.
(381)Pruskowski,a.a.O.(Fn.296),S.116f.
Pruskowski(382)は、第一委員会では、他者に出捐することは、贈与者の財産を減少することによ り相手方が利得することであると決定していたとし、贈与者の財産減少のみを贈与の要件にお いて扱うのは不適切であり、それによって他方が利得することも必要であるのだという。それ ゆえ、二つの要素が互いに隣り合って要件として立てられ、贈与者側での給付行為により財産 的損失をもたらし、受贈者側がそれにより財産利得がもたらされるという因果関係が存在する という。
② 財産移転の無償性に関する合意
BGB516 条における、無償性の意味は、反対給付がないことであり、贈与の成立には、無償
性についての合意を要する(383)。贈与における無償性に関する合意については、基本書、コンメ ンタールにおいて以下のようの述べられている。
Larenz(384)は、出捐は、無償で相互に合意することがなければならないとし、出捐者が、報酬
を受け取るわけではなく、出捐者の意思と受贈者の意思の両方が認識可能でなければならない とする。債務の履行による対価の支払い、または反対給付を目的とすることもないという。そ して、前述の受贈者の利得は客観的要素であるが、贈与における無償性の合意は、贈与の要件 において主観的要素となるとし、合意は、当事者の意思表示により行われ、これは法的拘束力 ある意思に依拠するものであるとする。その他、無償の出捐に関する合意は、物の譲渡、ある いは権利の移転が伴うならば、手交贈与と現実贈与の場合、無償の出捐と合意が同時になされ るとする。
Looschelders は、当事者は、出捐が無償であることに合意する必要があるとする。決定的な
のは当事者の主観的意思が必要であり、客観的に反対給付がないという事実だけでは十分では ないとする(385)。Brox/Walkerは、出捐が無償でなされることに合意すること。出捐に反対給付 がない場合、無償性の合意があるとして、それに対し給付と反対給付が対価関係にある場合は、
有償であり、贈与ではないとする(386)。
このように、BGB516 条には、贈与者の財産減少と受贈者の利得という客観的な構成要件と、
この財産移転の無償性に関する当事者の合意という主観的構成要件が存在しており、後者の合
(382)Pruskowski,a.a.O.(Fn.296),S.116f.
(383)Münchener Kommentar/Koch,7.Aufl.,a.a.O.(Fn.365),§516 Rn.14ff. Plandt
Kommentar/Weidenkaff,76.Aufl.,a.a.O.(Fn.365),§516 Rn.8ff. Jauernig Kommentar/Mansel, 16.Aufl.,a.a.O.(Fn.368),§516 Rn.8ff. Föster,a.a.O.(Fn.369),S.84f.
Medicus/Lorenz,a,a,O,(Fn.371),S.138f.
(384)Larenz,a.a.O.(Fn.377),S.196f.
(385)Looschelders,a.a.O.(Fn.370),S.111.
(386)Brox/Walker,a.a.O.(Fn.374),S.146f.