第二章 ドイツ法
三 帝国司法庁準備委員会、第二委員会、第二草案
第一委員会の審議を経て、理由書とともに公表された第一草案は、様々な批判にさらされた。
そして、その後、審議が継続され、帝国司法庁準備委員会による第一草案の審議、第二委員会 による同草案の審議を経て、BGBが成立する。以下では、帝国司法庁準備委員会による審議、
第二委員会による審議をみていくこととしたい。
(332)Mugdan,a.a.O.(Fn.328),S.159.澤井・前掲注(328)516-517頁参照。
(333)Mugdan,a.a.O.(Fn.328),S.166.澤井・前掲注(328)536-537頁参照。
(334)Mugdan,a.a.O.(Fn.328),S.167.澤井・前掲注(328)539-541頁参照。
(335)Mugdan,a.a.O.(Fn.328),S.167.澤井・前掲注(328)539-541頁参照。
(336)Mugdan,a.a.O.(Fn.328),S.166.澤井・前掲注(328)537頁参照。
(337)Mugdan,a.a.O.(Fn.328),S.166.澤井・前掲注(328)537-538頁参照。
(338)Mugdan,a.a.O.(Fn.328),S.167.澤井・前掲注(328)538-539頁参照。
(一) 帝国司法庁準備委員会における審議 1 贈与
第一草案443条に関しては、審議において、Struckmann、Plank、Jacubezkyから修正案が 提出された。各提案は以下のとおりであった。
Struckmannは、贈与は、無償で贈与者から相手方へなされる出捐による契約であるとする。
そして、ここでいう出捐の定義は、他人の財産を増加させることであると提案している(339)。
Plank は、贈与は、受贈者を利得させる目的でなされ、受贈者が贈与者の財産の出捐により利
得を受ける場合、贈与とみなされると提案している(340)。Jacubezkyは、贈与には、契約が必要 であり、そこでは、財産が贈与者から相手方へ出捐がなされ、それにより利得を受けるという 合意があると提案している(341)。
これらの提案をもとに、第一草案 437 条の贈与の定義を維持しつつ、文言を変更する旨を決 議し、準備委員会決議草案 437 条は「贈与には、ある者がその負担で他人の財産を増加させ、
両当事者がその増加が無償でなされる点で合意することが必要である」とした(342)。贈与は、こ こでは、贈与は贈与者が無償で財産を出捐することによって相手方が利得をするという無償の 出捐契約であり、「利得させる意図」の文言は条文から消えている(343)。
2 負担付贈与
第一草案448条に関しては、審議において、主にStruckmannから以下の提案がなされて いる。
Struckmann は、負担付贈与の場合、贈与者は贈与の履行後に、負担の請求を行うことがで
き、負担が第三者の利益のためになされた場合、第三者は第三者のためにする契約(412〜416 条)により負担の実行を請求することができると提案する(344)。これについては、Plankも、第三 者のためにする契約の規定を適用することに賛成している(345)。
(339)Jakobs/Schubert,a.a.O.(Fn.293),S.345.
(340)Jakobs/Schubert,a.a.O.(Fn.293),S.346.
(341)Jakobs/Schubert.a.a.O.(Fn.293),S.346.
(342)Jakobs/Schubert,a.a.O.(Fn.293),S.346.
(343)準備員会決議草案437条において、「利得させる意図」が文言上から排除された理由は不明
である。これについて通説では、贈与の要件は、後述するように財産権移転の無償性に関する 当事者の合意という主観的要件と、財産減少と利得(出捐)という客観的要件で構成されるが、主 観的要件において利得させる意図が要求されるか否かは、実際には、無償性の意思は大概利得 という結果に向けられ、この結果が目的とされているのだから、利得させる意図は事実上存在 するものの、それは法律上の要件、メルクマールにはならないと説明されている(Arnold Liebisch,Das Wesen der unentgeltlichen Zuwendungen unter Lebenden im bürgerlichen Recht und im Reichssteuerrecht,1927,S.57f.小島・前掲注(12)90-91頁参照)。
(344)Jakobs/Schubert,a.a.O.(Fn.293),S.395.
(345)Jakobs/Schubert,a.a.O.(Fn.293),S.395.
その後、審議において、負担付贈与における「負担」が公共の利益の実現のためになされる 場合についても言及されており、贈与者の死後、所轄官庁が、公共の利益のための負担の実行 を請求することができると委員会から提案されている。この際、裁判管轄は、州法の規則につ いて定めがなければ、ラント法の定めに従うとする(346)。
第一草案448条に対するStruckmannの提案については、異議を唱える者はおらず、そのま ま決議され、また、委員会において審議された負担付贈与における負担が公共の利益の実現の ためになされる場合についても、条文案として提出された。すなわち、負担付贈与は準備委員 会決議草案448条において、「負担付贈与がなされた場合、贈与者は贈与の履行後に、負担の実 行を請求することができる。負担が第三者の利益のためになされた場合、第三者のためにする 契約による規定である412条〜416条の適用を受ける」とされ、「負担の実行が公益のためにな される場合、贈与者の死亡後、所轄官庁が負担の実行を請求できる。各州において規則がない 場合、ラント法の規定に従う」と決議された(347)。
(二) 第二委員会における審議 1 贈与
第二委員会においては、準備委員会決議草案 437 条を基礎に審議が進められた。これに対し て、提案を行っていたのは、Wike、Dittmarである。両提案は以下のとおりであった。
Wikeは、贈与は、いずれかの者によって義務付けられることなしに、贈与者の費用で他者に 対する経済的な出捐であり、その出捐が無償でなされることについて双方の当事者が合意する 契約であると提案している(348)。Dittmarは、贈与の方法について言及しており、不動産の贈与 契約については、物権譲渡契約を要し、並びに登記簿に贈与物の登記を要するとし、動産の贈 与契約については、贈与物である物の現実の引渡しが必要であると述べていた(349)。
その後、第二委員会の審議では、本条文案により、贈与の本質や定義を、表現できるかどう かが議論されている。そこでは、贈与の契約性、いかなるものを贈与とみるか(贈与の要件)、受 贈者の利得等について議論されている。
まず、贈与の契約性について、委員会の多数意見は、贈与は受贈者を利得させる無償の出捐 であり、それについて双方が合意するというものであった(350)。これは草案の見解と共通の考え に基づくものであり、委員会においては、誰も贈与を意思に反しては行われてはならないとい
(346)Jakobs/Schubert,a.a.O.(Fn.293),S.396.
(347)Jakobs/Schubert,a.a.O.(Fn.293),S.396.
(348)Jakobs/Schubert,a.a.O.(Fn.293),S.347.
(349)Jakobs/Schubert,a.a.O.(Fn.293),S.347.
(350)Mugdan,a.a.O.(Fn.328),S.737.
うことを根拠に贈与の契約性を認めている(351)。Pruskowski は、この点につき贈与において採 用された概念は、特に贈与の契約性を示し、広い意味での好意(Liberaltiräten)、気前の良さで は不十分であるから、実際に贈与者と受贈者との間に財産移転があることを明確にすることを 意図していたと指摘している(352)。
次に、いかなるものを贈与と考えるべきか、についてであるが、これについて委員会では、
生活の中では、一般に他人への好意によるあらゆる無私の行動が、贈与と評価されるであろう ことから、非物質的な性質の好意(Liberaltiräten)に贈与概念を拡大すべきかが論じられていた
(353)。これに対して、多数意見は、そのような出捐に贈与法の特別規定を適用する必要があるか
明 ら か で は な く 、 特 に 婚 姻 財 産 法 、 後 見 法 、 相 続 法 の 領 域 に 非 物 質 的 な 性 質 の 好 意 (Liberaltiräten)による贈与概念が拡大することによって実務的な不都合が生じると指摘してい る(354)。
そして、多数意見は、法技術的意味では、実際に贈与者と受贈者との間で財産移転が行われ る場合に、贈与は承認されるべきであり、贈与の本質は、客観的な物的譲渡行為(その内容は移 転の対象によって決定される)と、主観的な、当事者の合意(この財産移転が無償で、利得させる 目的で、従って贈与としてなされる)」という客観的なものと主観的なものの二つの構成要素が 必要であるとする(355)。ただ、これらの客観的要素と主観的要素は時間的に一致することもある し、ばらばらに行われることがあるという(356)。
最後に、受贈者の利得についても議論されている。委員会において、贈与は、無償の出捐に より相手方を利得させるものであると理解されていたが、受贈者の利得については、贈与者の 財産減少によって受贈者が経済的な利益を受けるということで見解が一致していた。例えば、
多くの人の協力によって達成される慈善目的のためになされる寄付は(例えば、記念碑の設立等)、 贈与とみなされないと指摘されている。委員会では、確かに、慈善目的でなされる寄付は、贈 与にみえそうであるが、慈善のために資金を調達する場合において、寄付者は組合や協会等に 贈与をしたいわけではなく、実際に寄付した金銭で(慈善)事業に参加することを望むのであり、
本来、それは匿名の組合員として行われるのであるという。
このような議論を受けて、委員会において贈与は「贈与が生じるためには、いずれの者が、
自己の費用で他者の財産を増加する必要があり、両当事者がその増加について無償で行われる
(351)Mugdan,a.a.O.(Fn.328),S.737.
(352)Pruskowski,a.a.O.(Fn.296),S.41.
(353)Mugdan,a.a.O.(Fn.328),S.735f.小島・前掲注(12)141頁参照。
(354)Mugdan,a.a.O.(Fn.328),S.736f.小島・前掲注(12)141頁参照。
(355)Mugdan,a.a.O.(Fn.328),S.738.小島・前掲注(12)140頁参照。
(356)Mugdan,a.a.O.(Fn.328),S.738.小島・前掲注(12)140頁参照。それゆえに、贈与には、現実
贈与と贈与約束の二つの方法が存在するものと思われる。
ことに合意することである」と決議され、その後、EⅠ-VorlZust437条、EⅠ-ZustRedKom437 条において若干の修正を受け、第二草案 463条(357)として提出されたのちにBGB516 条として 条文化される。
2 負担付贈与
第二委員会では、準備委員会決議草案 448 条を基礎に審議が進められた。まず、草案に対し ては、Struckmannから以下の提案がなされている。
Struckmann は、負担付贈与の場合、贈与者は贈与の履行後に負担の履行を請求することが
でき、負担が第三者の利益のためになされた場合は、412条〜416条の規定に従うとする。そし て、負担の実行が公益のためになされる場合、贈与者の死亡後、所轄官庁が負担の実行を請求 できる。各州において規則がない場合、ラント法の規定に従うと提案している(358)。これについ ては、準備委員会決議草案448条と同様の条文案であるが、特に異議はみられていない。
次に、委員会で中心的に議論されたのは、負担付贈与における受贈者についてである。負担 付贈与において、贈与者がなした出捐の受領者が、常に受贈者としてみなされるかどうか、贈 与者の出捐を受贈者が受けるものの、出捐の価値が第三者の利益のためになり、実際、第三者 が利得を受けるような場合、そこでの受贈者は、贈与における本来の受贈者となるか否かが問 題であるとされていた(359)。これに対して、委員会では、例えば、出捐者が、第三者の利得を意 図し、そのために、ある者に(第三者のために)財産を無償で移転する場合、そこでの負担は贈与 における負担ではなく、負担付贈与における受贈者でもないとして、その場合の出捐の受取人 を、単に中間者、仲介人としての立場を認めるべきであるとする(360)。
その他、Mandryは、贈与の形式でなされる信託財団に関し、「贈与が贈与物またはその価値 の収益を特定の目的のために利用するという条件のもとでなされた場合、当該条件は法定のあ るいは公証による形式を要する」と提案する(361)。これは、信託財団の場合、条件付きの贈与で 一定の継続的な目的のために財物、贈与物を受領するという実態があり、利益を受ける第三者 が明確であるため、その設定には、形式要件を課するという趣旨であった。おそらく財団法人 における寄付行為と同一に扱うような考えのもとで、形式要件を提案したものと思われる。
しかし、信託財団の場合、法人の設立が問題ではなく、既存の法人に単に財物、贈与物が贈
(357)第二草案463条「贈与とは、自己の財産から相手方に利益になるような出捐で、当該出捐が
無償でなされることにつき、双方の当事者が同意しているものをいう。」。BGB516条も同様で ある。
(358)Jakobs/Schubert,a.a.O.(Fn.293),S.396.なお、その後の審議においてラント法に関する文言
が削除されている(Mugdan,a.a.O.(Fn.328),S.753.)。
(359)Mugdan,a.a.O.(Fn.328),S.753.
(360)Mugdan,a.a.O.(Fn.328),S.753.
(361)Mugdan,a.a.O.(Fn.328),S.754.
与されるにすぎないので、形式要件は、贈与者に重大な費用負担があること、贈与の目的が妨 げられる等の批判があり、否決されている(362)。
このような議論を受けて、委員会においては、負担付贈与は、「負担付贈与の場合、贈与者は 贈与の履行後に負担の実行を請求することができ、負担が第三者の利益のためになされた場合 は、412条〜416条の規定に従う」とし、そして「負担の実行が公益のためになされる場合、贈 与者の死亡後、所轄官庁が負担の実行を請求できる。各州において規則がない場合、ラント法 の規定に従う」と決議された。その後、EⅠ-VorlZust437条、EⅠ-ZustRedKom437 条にて 若干の修正を受けて(363)、第二草案472 条として提出されたのちにBGB525 条として条文化さ れた(364)。