まず、寄付の法的構成に関する学説の検討の前に、寄付の概念について検討がなされていた。
そこでは、概ね、寄付には、寄付者、募集者、受益者が存在し、寄付は寄付者が受益者のため
に一定に目的にしたがって、無償でまたはその他の物を供与し、もしくは、供与の約束をする ことであり、募集者と受益者が一致する場合、募集者と受益者が別個に存在して、募集者がも っぱら、寄付という事業を管理、運営する地位を持つ場合であると理解されていた。そして、
寄付の法的構成については、後者の場合について対象を絞り検討がなされていた。初期の学説 では、ドイツ法の影響を受けて、贈与説、負担付贈与説、寄託説、委任説、第三者のためにす る契約説、組合説、法人説等の学説が提唱されており、いずれの学説も不適切であるとして、
所有権は完全に募集者に移転するも、これと同時に、募集者は、その財産を一定の目的以外に は使用または処分しない義務を負担するという信託行為、信用行為説が有力とされていた。そ の後、大正12年判決がこれを踏襲して、寄付の場合、寄付者から募集者に信託的に譲渡される という信託的譲渡説が通説として位置付けられることとなった。例えば、内田貴教授は、「寄付」
は贈与である場合が多く、宗教団体への寄付は宗教団体が受贈者となる贈与契約であるとする が、大震災の被災者に対する義援金をNHKに設けられた事務局に寄付する場合、事務局は受贈 者ではなく、歳末助け合い運動の寄付も、赤い羽根を渡してくれた人やその事務局に寄付をし ているわけではないという。そして、それらの主体は、寄付者の目的にかなった形で、お金を 使わなければならないから、信託的な財産の譲渡であって、相手方は受託者としての義務を負 うと説明している(289)。
そして、近年では、さらに進んで、信託法の適用を認める見解がいくつかあり、委任による 規律も試みられていた。特に、信託法の適用を認める見解(290)では、信託法による規律のメリッ トとして、寄付者の寄付目的を達成することを確実にすることが可能であると説明され、信託 法理の活用によって、募集者には、強い忠実義務、分別管理義務、信託財産の独立性の保持義 務等が生じ、その結果、受益者に諸利益が確実に帰属するという。また、これにより、募集者 による横領、不法な処分等の行為は防止され、単なる民法上の負担付贈与契約の場合よりも被 災者(受益者)保護のために役立つとされていた。これに対して、最近では、中田裕康教授は、
募集者に目的に従って寄付金等を使用する義務を負わせ、それに反した場合には、解除を認め るということだけであれば、あえて信託とまでいう必要もないとする(291)。しかしながら、中田 裕康教授は、寄付において重要なのは、寄付を受けた者が差押えを受けたり、倒産したりした 場合における寄付金等の処遇であるとし、その場合に信託法の適用が問題になるとする(292)。 その他、委任による規律を試みる見解も、贈与の場合、受贈者は贈与者に対して直接的な義 務は追わないが、委任と構成すれば、受任者の義務を募集者に観念することができ(善管注意義
(289)内田・前掲注(135)170頁。
(290)その他、加藤・前掲注(22)172頁、潮見・前掲注(5)39頁、山本・前掲注(10)331頁。
(291)中田・前掲注(1)264頁。
(292)中田教授は、金銭の所有権は占有者にあるという考え方との関係で、信託法上の信託の成否
が問題になるとする(中田・前掲注(1)264頁)。
務、報告義務等)、この義務の存在を媒介して、委任者である寄付者は募集者を一定程度の監視 を行えるとしており、寄付者の権利、募集者の義務の強化を図るものであった。